第113話 横暴と救済
最初はキュレースト王国で反乱を起こした貴族の軍隊か何かだと思っていたのだが、相手がキュレースト王国の正規軍だと聞いたゼブルは意外に思いながら暗い顔をするボルトスを見つめる。
「どういうことだ。なぜ女王の弟であるアンタや王女のシャイアが女王と敵対しているんだ?」
更に詳しい話を聞こうとゼブルはボルトスに尋ねる。
ボルトスにゆっくりと顔を上げ、気持ちを落ち着かせるように深く息を吐いてから口を動かした。
「全ての発端は一年前にあります。……一年前、我が国では二名の貴族が反乱を起こし、それが原因で内戦が起きていました」
「……今の言い方、一年前に起きた内戦は今回の内戦とは別だと言っているように聞こえるが?」
「そのとおりです。一年前に起きた内戦は既に終戦しております」
一年前の内戦は終わっており、新たにキュレースト王国で内戦が起きていると知ったゼブルは何か理由があると予想する。同時に短期間で二度も内戦が起きているキュレースト王国は大きな問題を抱えていると直感した。
「詳しく聞かせてもらおうか」
「ハイ……」
ボルトスはゼブルに現状を理解してもらうため、全ての原因がある一年前の出来事から語り始めた。
一年前、キュレースト王国の東部にある王都ロヴィリアナやその周辺の都市、町では貧困が問題となっていた。
王都では高級住宅区に住む貴族たちは不自由なく暮らしているが、通常の住宅区で暮らす平民たちは金銭や食料を手に入れるのが難しいほど過酷な生活を送っていた。
周辺の小都市や町でも同じことが起きており、管理者である都市長などは快適に暮らしている一方で市民たちは食糧や仕事に関する問題などを抱えており、それが原因で犯罪なども多発していたのだ。
貧困問題に直面した二人貴族、シーガ子爵とボビン男爵は女王であるマジェンナに貧困問題を解決してもらうよう嘆願した。ところがマジェンナは「今のままでも問題無い。国民よりも裕福な暮らしをすることが王族の務めであり、キュレーストのあるべき姿だ」と、国や王族の威厳を第一に考え、貧困問題を改善しようとしなかった。
改善を拒否する一方でマジェンナ自身は贅沢三昧な暮らしを送り、他の王族や自身を支持する上級貴族たちにも同じような生活をさせていた。これにより、貧困の改善を嘆願したシーガ子爵とボビン男爵はマジェンナを見限り、苦しむ国民を救おうと反乱を起こし、内戦が勃発した。
シーガ子爵とボビン男爵は自身の私兵や自分たちに賛同する国民たちを集めて軍を組織し、マジェンナと王国軍に正面から戦いを挑んだ。
しかし、王国軍との戦力差は歴然でまともに戦うことはできず、シーガ子爵とボビン男爵の軍は内戦が始まってからたったの四ヶ月で敗北。シーガ子爵とボビン男爵は反乱に関わった多くの国民たちと共に捕らえられた。
マジェンナは首謀者であるシーガ子爵とボビン男爵を大罪人として、公衆の面前で処刑することを決めた。他の王族たちも同意したが、その中でシャイアだけはマジェンナに二人に情けを掛けるよう進言したのだ。
反乱を起こしたとは言え、シーガ子爵とボビン男爵の動機を考えれば情状酌量の余地もあるため、シャイアは処刑はせずとも国外追放とするべきだと説得した。
だが、マジェンナは「反逆者に情けを掛けては王族の誇りに傷が付く。再び反乱を起こす者を出さないためにも処刑する」とシャイアの説得に耳を貸さなかった。
他の王族たちもマジェンナに賛同し、結局シーガ子爵とボビン男爵は処刑されてしまう。
シャイアは国民のために戦ったシーガ子爵とボビン男爵を救えなかったことに対して罪悪感を感じていた。そんな時に驚くべき情報を耳にする。反乱を起こしたシーガ子爵とボビン男爵の家族も全員処刑されたというは情報が飛び込んできたのだ。
驚いたシャイアは急いでマジェンナの下へ向かい、なぜ家族まで処刑したいのか尋ねた。
理解できずに問いかけるシャイアに対し、反逆者の家族も同罪だとマジェンナは語り、その言葉にシャイアは衝撃を受ける。
反乱に直接加担したわけでもない家族まで容赦なく処刑する母親にシャイアは愕然とし、それと同時にマジェンナを慕う気持ちが完全に消え去った。
シーガ子爵とボビン男爵、その家族を処刑した後もマジェンナは貧困問題を改善しようとせず、以前と変わらぬ生活を送り続けた。
キュレースト王国の貴族の中には、国民たちを貧困から救いたいと考える者たちもいたが、シーガ子爵とボビン男爵が処刑されたことで恐怖を植え付けられた、誰一人マジェンナに嘆願することはできなかった。
貧困の酷さにシャイアは心を痛め、王族でありながら何もできない自分に情けなさを感じた。このままでは何も変わらないと考えたシャイアは公爵であり、叔父であるボルトスの下を訪ね、マジェンナに貧困問題を改善するよう説得してほしいと頼んだ。
他の貴族では無理でも、血を分けた弟の頼みなら母も聞いてくれるかもしれないとシャイアは考えていた。
シャイアに懇願されたボルトスは王都ロヴィリアナへ向かい、女王であり、実の姉であるマジェンナに国民たちの暮らしを良くするよう説得する。しかし、マジェンナは弟であるボルトスの頼みすらもまともに聞かず、一方的に話を終わらせた。
話を終わらせた後、マジェンナはボルトスに「次に貧困の話題を出したら容赦はしない」と警告し、ボルトスを強引に王城から追い返した。
血を分けた家族、そして娘の話をまともに聞かないマジェンナにボルトスとシャイアは幻滅し、言葉ではどうすることもできないと判断した。二人は話し合い、シーガ子爵とボビン男爵のように力で解決するしかないと考え、マジェンナに宣戦布告をする。
シーガ子爵とボビン男爵が処刑されてから僅か一ヶ月後のことだった。
それからボルトスとシャイアは西部でマジェンナの意思や統治に不満を持つ貴族やその私兵部隊を集めて解放軍を組織し、今日までの七ヶ月間、キュレースト王国を変えるために王国中部で何度も王国軍と戦ってきたのだ。
長い説明が終わるとボルトスは軽く俯きながら黙り込む。王都でのマジェンナとのやり取りを思い出し、マジェンナが自分やシャイアをもはや家族と思っていないのではと心を痛めていた。
暗くなるボルトスの隣では、シャイアは同じように俯いている。ただ、シャイアは暗い顔はしておらず、目を閉じながら肩を震わせていた。
「……この七ヶ月の間、私たちは必死に戦い続けました。苦しむ民たちのために自国の兵士たちと戦うことで、私たちは民を守りたいという意思を伝えようとしました。そうすることで、母上や兄上たちの目を覚まさせることができると思ったからです」
母親と戦うことに対する辛さと悲しさ、説得できなかった悔しさを感じているのか、シャイアは僅かに震えた声を出しながら心境を語る。
「しかし、今日まで戦い続けても話し合おうという親書などは一度も届いていません。それどころか、西部に進軍する王国軍の勢いは増すばかりです。……母上は、本気で私や叔父上に牙を剥こうとしているのだと、分かったのです」
ゼブルは辛さを訴えるかのように話すシャイアを無言で見つめる。隣で座るティリアはシャイアに同情しているのか、気の毒そうな顔をしていた。
「もう、母を説得することも、話し合いで改心させることもできないと私たちは考え、王国軍に勝利するしか道は無いと判断しました」
顔を上げたシャイアは真剣な表情を浮かべながらゼブルを見て、深く頭を下げた。
「魔王陛下。どうか、我が国のため、民たちを救うために力をお貸しください!」
シャイアが救援を要請する姿を見たボルトスも続けて頭を下げ、後ろで待機していた騎士たちも一斉に頭を下げる。
改めて救援要請をするボルトスを見たゼブルは数秒黙り込んだ後、視線を動かして左右に座るティリアとテオフォルスを見た。
「ティリア、テオフォルス、お前たちはどう思っている?」
自身の考えを口にする前に、ゼブルは補佐官であるティリアと魔将軍一の頭脳を持つテオフォルスの意見を聞こうとする。
この時のゼブルは二人の意見を聞くことで、この後どのような言動をすれば良いかヒントを得られるかもしれないと考えていた。
「私は要請を受けるべきだと思います」
「それは魔王国に利益があると考えたからか? それとも同情からか?」
「……両方です」
正直に自分の意思を伝えるティリアを見たゼブルは「ほぉ」と呟く。
少し前のティリアなら反応を窺い、ゼブルが気に入りそうなことしか言わなかったが、今は同情から助けたいとティリアの性格なら言いそうな意見を正直に言った。
思っていることをハッキリと言えるティリアを見て、ゼブルは出会ったころと比べて成長したと感じるのだった。
「テオフォルス、お前はどうだ?」
ティリアの意見を聞いたゼブルは続けてテオフォルスに問いかけた。
現地人であるティリアと違い、魔将軍のテオフォルスなら間違いなく同情や優しさから救援を出そうとは言わないとゼブルは確信しながらテオフォルスを見る。
「私も要請は受けるべきだと思っています。キュレースト王国にはセプティロン王国では手に入れられない特産品などが多く存在します。ここで彼らに手を貸しておけば、彼らと貿易をすることになる際に取引しやすくなるかと」
あくまでもファブール魔王国の利益のために手を貸した方がいいと、小声で語るテオフォルスを見ながらゼブルは黙り込んだ。
ティリアとテオフォルスの意見を聞いたゼブルは、キュレースト王国に手を差し伸べた方がいいのではと考える。
ここで恩を売っておけばファブール魔王国の利益だけでなく、勇者候補の捜索や二百年前の魔王や勇者の情報を調べる際に動きやすくなるかもしれない。何より、ゼブル自身もキュレースト王国に興味があった。
「あの……魔王陛下?」
黙り込むゼブルを見たボルトスは軽くまばたきをしながら呟く。ゼブルの反応から救援要請を断られるのではと、この時のボルトスは内心不安を感じていた。
ボルトスが不安を感じる中、ゼブルはキュレースト王国の要請を受ける方向で考え込んでいる。
普通に要請を受けると言うのは簡単だが、それではキュレースト王国側が得をするだけなので、勿論何かしらの条件は付けるつもりでいた。
ただ、ゼブルには要請を受けることや、条件を付けること以上に気になる点があり、視線をゆっくりとボルトスに向ける。
「……一つ質問がある。正直に答えろ」
「な、何でしょう?」
どんな質問なのか、ボルトスは緊張しながら聞き返す。
ゼブルはボルトスやシャイアが見つめる中、目を薄っすらと黄色く光らせる。
「アンタたちは、どうして魔王国に救援を要請しに来たんだ?」
突然意味深な質問をするゼブルにボルトスとシャイア、隣のティリアは意外そうな反応を見せる。そんな中、テオフォルスだけはゼブルの質問の意味を察したのか、黙ってゼブルに視線を向けていた。
「知ってのとおり、俺は魔王を名乗っている。魔王がこの世界の人間にとって警戒すべき存在なのはアンタたちも分かっているはずだ」
「え、ええ」
「だったら、なぜ俺が統治する国に来たんだ。救援なら魔王じゃなく、人間が統治する国に要請するべきなんじゃないか?」
質問されたボルトスとシャイアは、ゼブルが何を聞こうとしているのか気付いて目を見開く。
大陸で暮らす人々にとって魔王は邪悪で忌み嫌われる存在。普通なら進んで魔王に関わろうとしたり、魔王が関係する場所へ行こうとしないはずだ。にもかかわらず、ボルトスたちは他の国へ要請せず、魔王が支配する国へやって来て、ゼブルに直接救援を要請した。
ファブール魔王国よりも優先して救援要請をする国があるはずなのに、なぜ魔王がいる国に要請を出したのかゼブルは疑問を抱き、ボルトスたちに尋ねたのだ。
「魔王国に要請を出した理由、ですか……それは、魔王陛下が強大な力を持ち、計り知れない軍事力を……」
「公爵、俺は正直に答えろといったはずだ」
低めの声で語り掛けるゼブルにボルトスは思わず口を閉じ、緊迫した表情を浮かべる。
ボルトスの目には自分の言葉でゼブルが僅かに気分を悪くしたように見えていた。
「俺は相手の真意を見抜くことに関しては自信がある。相手の表情、仕草を見れば本当のことを言っているのかどうか分かる」
隠しても無駄だから真実を話せ、遠回しにそう語るゼブルを見てボルトスは微量の汗を流した。
結論から言うと、ゼブルが言ったことは嘘だ。全知全能の神眼を使えば、見た存在の情報を全て見抜くことができるが、魔法や技術を使わずに相手が真実を言っているかどうかを見抜くのは難しい。
普通なら殆どの者はゼブルの言葉は冗談だと考えるだろう。だが、ボルトスたちはゼブルが本当に自分たちの真意を見抜くことができると思っていた。
「……申し訳ありません。正直にお話しします」
ゼブルには嘘は通用したいと考えたボルトスは観念した様子で呟く。
真実を話そうとするボルトスを見たゼブルは、心の中で自分の嘘が通用したことに安堵した。
周囲の視線が集まる中、ボルトスは再び暗い表情を浮かべてゼブルを見つめる。
シャイアや騎士たちはこれからボルトスが何を話すのか知っているため、不安と焦りが一つになったような顔をしていた。
「実は、当初の私たちは魔王国に救援を要請する意思は無かったのです」
「ほぉ?」
ボルトスの言葉を聞いたゼブルは腕を組みながら呟く。ゼブルはボルトスが予想していた言葉を口にしたため、要請する気が無かったと聞かされても怒りや驚きなどは一切感じていなかった。
ティリアはファブール魔王国に来るつもりは無かったと聞いて意外そうな顔をしている。
テオフォルスは要請する意思が無かったというボルトスの言葉をゼブルに対する無礼と感じ、僅かに目を鋭くしていたが、冷静さを保ってボルトスの話に耳を傾けていた。
「先ほどお話ししたとおり、私たち解放軍はキュレースト王国西部に拠点を置いております。戦況から、私たちは短時間で救援部隊を連れて帰るため、最初に王国の西側にある“マトルア共和国”に要請を出すことにしました」
ゼブルの機嫌を損ねるわけにはいかないと考えるボルトスは、言葉を選びながら丁寧に一から説明していく。
マトルア共和国は大陸に存在する国の中でゾルドラス帝国、イルテ聖王国に次ぐ第三位の大国だ。大陸の南西に領土を持ち、人間だけでなく様々な亜人が共に暮らしている。
国民たちはそれぞれの能力を活かして生活しているため、商業や生産などで他国よりも優れていると言われているのだ。
共和国なので国王はおらず、大統領と人間や亜人たちの代表で構成されている元老院が存在し、彼らによる話し合いで政治や財政などを決定する。
様々な種族が共存していることから、軍も人間と亜人で構成されている。そのため、様々な戦況に対応することができ、周辺国家からは共和国軍は優れた戦力として高く評価されているのだ。
「共和国に救援を要請するため、私たちは王国と共和国の国境へ向かいました。……ですが、我々は救援を要請するどころか、入国することもできずに国境で門前払いされてしまいました」
「なぜだ?」
マトルア共和国に入ることすら許されなかったことを不思議に思い、ゼブルはボルトスに尋ねる。するとボルトスは複雑そうな表情を浮かべた。
「数年前、我が国は共和国と貿易に関する会談を行ったのですが、その時に女王が共和国に一方的な契約を交わそうとし、更にそれを拒んだ相手に侮辱的な発言をしました。その時に共和国の怒りを買い、以降我が国の民は共和国への入国を禁止されたのです」
「成る程な」
門前払いされた理由を知ってゼブルは納得する。それと同時に入国を拒まれるほど不仲な国に救援を要請しようとしたボルトスたちの大胆さに内心驚いていた。
「共和国の協力を得られなかった私たちは続けてセプティロン王国へ向かい、南西に領地を持つイグリンド伯に救援を要請しました」
キュレースト王国の位置と西部から行ける国を考えれば、マルクス共和国の次にセプティロン王国へ向かうのは自然なことだ。ゼブルたちはボルトスたちの行動は妥当だと感じながら話を聞く。
「南西の都市、ガザンに到着した私たちはすぐにイグリンド伯に会い、救援の要請をしました。ですが、軍を派遣するには国王であるフォルテドル陛下の許可を得る必要があり、許可を得るためにも陛下に謁見しなくてはならないと言われました」
説明するボルトスの表情は再び暗くなり、それを見たゼブルはまた何か都合の悪いことが起きたかと予想する。
「謁見の準備やフォルテドル陛下のご都合などを考えると、謁見にするには一週間以上かかるとイグリンド伯は言いました。現在、解放軍は王国軍の進軍を何とか食い止めている状態です。このまま時間が経てば王国軍の進軍を阻止できなくなり、西部は瞬く間に制圧されてしまいます」
「戦況を考えると、一週間以上も足止めされるわけにはいかないと言うことか」
「ハイ……」
救援を得る前に解放軍が敗北してしまっては何の意味も無い。何もせずに一週間以上待たされると言うのは、ボルトスたちからしてみれば救援を受けられないのと同じだった。
そもそも謁見したとしても、セプティロン王国から救援を得られない可能性だってある。ボルトスたち使節団は救援を得られるか分からない状況で、ただ時間だけを無駄にするという状況に立たされていた。
「私たちは少しでも早くフォルテドル陛下と謁見させてほしいと頼みましたが、イグリンド伯からは難しいと言われ、私たちは途方に暮れていました。……そんな時、イグリンド伯からファブール魔王国ならすぐに救援を派遣してくれるかもしれないと聞かされたのです」
「成る程、勧められてこの国へ来たというわけか」
ゼブルはファブール魔王国を訪れるまでの経緯を理解するとボルトスの顔を見つめる。
「それで? アンタは勧められた際、迷わずに魔王国に要請しようと思ったのか?」
「……正直に申しますと、迷いました」
俯いて答えるボルトスにシャイアは思わず目を見開く。救援を頼む立場でありながら、頼むことを躊躇っていたと話すのは失礼な発言と言える。
ボルトスの発言でゼブルが機嫌を損ね、救援要請を断られたら解放軍は危機的状況に立たされてしまう。いや、それだけならまだマシと言えるだろう。
ゼブルの怒りを買えば、自分たちは無事にファブール魔王国から出られなくなる可能性だってあるため、シャイアのボルトスを見ながら微量の汗を流す。
「魔王陛下が仰いましたように、魔王と言う存在はこの世界の者たちにとっては恐るべき存在です。その魔王を名乗る陛下の国に助けを求めるのは、人としてあるまじき行動なのではと、私はイグリンド伯から話を聞いた時に考えておりました」
再びゼブルに対して失礼な発言をするボルトスに、シャイアは更に焦りを露わにする。
これ以上失礼な発言をすれば、自分たちは生きてファブール魔王国から出られなくなるのでは、シャイアはそんな不安や恐怖を感じながら握っている手を小さく震わせた。
「だが、最終的にアンタたちは俺に助けを求めることにした」
「ハイ。助力を得られるか分からないのに長時間セプティロン王国で待つよりは、例え魔王だとしても助力を得られる可能性が高い魔王国に要請するべきだと判断しました」
思っていたことを正直に語ったボルトスをゼブルは無言で見つめる。
ボルトスの発言で応接室の空気は一気に張り詰め、室内にいる全員が黙り込む。
(やっぱり、魔王を恐れる人たちはゼブル様や魔王国に真っ先に助けを求めようとは考えないのね。……それにしても、此処にいるのがテオフォルス様でよかった。セミラミス様だったら間違いなくインサリア公爵に殴りかかっていたはず……)
ティリアは他国の人間がゼブルを頼ろうとしないことに納得し、同時に会談に参加していたのが冷静で気が長い性格のテオフォルスで良かったと小さく苦笑いを浮かべるのだった。
「……アンタたちの意思は分かった。そして、今で救援要請の返事も決まった」
静まり返った部屋の中にゼブルの声が響き、一同は一斉にゼブルに視線を向ける。その中でもボルトスたち使節団はゼブルが機嫌を損ね、救援要請を断るのではと緊迫した表情を浮かべていた。
「アンタたちに力を貸そう。俺自身もキュレーストへ向かい、内戦に協力する」
「……えっ?」
ゼブルの言葉にシャイアは思わず声を漏らす。
てっきり断られるかと思っていたため、予想外の返事にシャイアだけでなく、ボルトスや騎士たちも目を見開いて驚いている。しかも魔王であるゼブルが自分たちに同行すると言ったため、全員が小さな衝撃を受けていた。
「へ、陛下、お力をお貸しいただけるのですか?」
「そう言ったが?」
「し、しかし私たちは……」
最初はファブール魔王国に要請する意思などまったく無かったのに、後になって考えを変えて助力を求めるという、ある意味で失礼な行動を取った。
にもかかわらず、ゼブルが救援要請を受けたため、ボルトスは理由が分からず少し混乱していた。
「俺がアンタたちに力を貸す理由が分からないようだな?」
「え、ええ……」
ボルトスが頷くと、ゼブルはゆっくりと椅子にもたれかかる。
「魔王国へ救援を要請した理由を聞いた時、俺はアンタに正直に答えろと言っただろう? アンタは俺の言うとおり、恐れられている魔王に救援を要請する気は無く、早急に救援を得るには魔王国に要請するしか方法が無かったからと言った」
「は、ハイ」
「アンタは俺の要求どおり、魔王国に来た理由を正直に話した。だから力を貸そうと考えたんだ。もし、アンタたちが俺の機嫌を取るために最初から要請するつもりでいた、魔王である俺のことを警戒していないなどと嘘を言ったら叩き出していた」
魔王である自分を恐れながらも、正直に本心を語ったから力を貸すと言うゼブルを見て、ボルトスは目を見開く。
目の前にいる魔王は自分たちが信用できる存在か、下心があって接して来ているかどうかを確かめるため、あえて本心を語らせたのだと、ボルトスはゼブルの言葉を聞いて彼の狙いに気付いた。
「俺はな、魔王だからと恐れて本心を隠したり、機嫌を取るためにおべんちゃらを言うような姑息な奴らが嫌いなんだ。逆に魔王である俺を恐れながらも嘘をついたりせず、正直に本心を語ってくれる奴らには興味がある」
ゼブルは力を貸す理由を話しながら自分が好む人間について語っていく。
ボルトスたちは、まるで人間のように自身のことを語り出すゼブルを見て拍子抜けしたような顔をしていた。
「アンタたちは言われたとおり正直に質問に答えた。発言次第で俺が機嫌を損ねるかもしれないと理解した上でだ。俺はそんなアンタたちが気に入って力を貸そうと言っているんだ」
「魔王陛下……ありがとうございます」
立ち上がったボルトスは深く頭を下げて感謝し、シャイアも少し遅れた立ち上がると同じように頭を下げる。
「ただ、力を貸す分、見返りはしっかりと出してもらうぞ」
「勿論です」
協力する側が協力を求める側に謝礼を求めるのは当然の権利であるため、謝礼について語り始めるゼブルに対し、ボルトスは嫌そうな反応などは一切見せなかった。
「それで、陛下は見返りとして何を望まれておられるのでしょうか?」
「ああ、それはな……」
キュレースト王国に求める謝礼についてゼブルは一つずつ話し始める。
内容は貿易をする際にファブール魔王国が納得する内容で取引する。キュレースト王国にある二百年前の魔王と勇者の情報を公開するというものだった。
キュレースト王国側にとっては大したことのない内容ばかりだったため、ボルトスはゼブルの求めるものを全て受け入れ、内戦が終結した後に改めて謝礼に関する会談を行うことを約束した。
謝礼の話が済むと、ゼブルたちは続けて今後の予定について話し合う。色々確認する点などはあったが、滞りなく話は進んでいき、三十分ほどで話は終わった。
「……以上の内容で問題無いな?」
「ハイ」
「では、予定どおり明日の早朝、トリュポスの北門からキュレースト王国へ向けて出立する。それまでに準備を済ませおけ?」
「承知しました」
ボルトスは軽く頭を下げながら返事をし、シャイアも真剣な顔でゼブルを見ている。
何度か緊迫した状況にはなったが、ファブール魔王国の助力を得られたため、ボルトスたちにとっては喜ばしい結果と言える。
しかし、まだ助力を得られただけで内戦に勝利したわけではない。本当の意味で喜ぶのは戦いが終わってからだと、ボルトスたちは心の中で自分に言い聞かせるのだった。
「話は済んだし、俺たちはこれで失礼させてもらうぞ」
「ハイ。……改めまして、我々の救援をお受けいただき、誠にありがとうございます」
ボルトスの感謝の言葉を聞いたゼブルは立ち上がり、気にするなと言うように軽く手を振ってボルトスたちに背を向け、応接室の出入口の方へ歩いて行く。
ティリアとテオフォルスもゼブルに続いて立ち上がり、ティリアは微笑んで、テオフォルスは軽く一礼をしてからゼブルの後を追った。
ゼブルはボルトスたちの方を振り返ることなく扉を開けると、ティリア、テオフォルスと共に退室する。
レテノールはボルトスたち使節団と今後のことを話し合うため、そのまま応接室に残った。
ボルトスとシャイアはゼブルたちが部屋を出る際に立ち上がり、ゼブルたちに向かってもう一度深く頭を下げた。
静かな廊下に出たゼブルたちはエントランスを目指して歩いて行く。キュレースト王国へ救援に向かうことが決まり、ゼブルたちには色々とやらなくてはならないことができた。
「会談で話したとおり、俺はキュレーストへ向かう。俺と共に救援に向かう戦力の編成をする。魔王城へ戻ったらすぐに魔将軍全員を謁見の間へ集まろ」
『ハッ!』
ゼブルの指示にティリアとテオフォルスは声を揃えて返事をした。




