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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第6章  信念の女王
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第111話  聖王国の守護者


 大陸東部には大陸最大と呼ばれるゾルドラス帝国に次ぐ大国、イルテ聖王国がある。

 三聖創神の一人である天神イルティアナを崇拝する聖王を頂点とし、神の加護を受けていると言われている聖王国軍により、国内は二百年前の魔王との戦いから現在まで平和を保っていた。

 聖王国軍はゾルドラス帝国の軍と比べると規模は小さいが、それでも帝国軍に負けない力を持っている。そんな聖王国軍の中でも精鋭と言われている“神光騎士団”は別格だった。

 神光騎士団は聖王直属の騎士団で、聖王国軍の中でも選抜された優秀な騎士や兵士、魔導士によって構成されている。

 団員たちの戦闘能力が高いのは勿論、優れた知識と行動力、決断力も持っており、聖王からの信頼も厚い。更に二百年前に魔王を倒した勇者やその仲間の子孫もいると言われ、強力な技術(スキル)や魔法なども修得している。これらのことから、神光騎士団は高い任務成功率を誇っている。

 優秀な者たちだけで構成されているため、規模は小さいと思われそうだが、その構成人数は二千人を超えており、聖王の居城がある“聖都ホリティア”や聖王国内にある複数の大都市に拠点を置いている。

 各場所に拠点があるため、聖王国内の何処で問題が起きてもすぐに対応することができる。神光騎士団の存在から、イルテ聖王国はゾルドラス帝国以上の軍事力を持っているという考えに誰もが納得していた。


――――――


 イルテ聖王国の中央付近に存在する聖都ホリティア。聖王の居城とイルティアナを信仰する大神殿があることから、聖王国内の都市でも最も高い防衛力を持つ。

 ホリティアは都市全体を囲む第一の城壁。商業地や住宅地、冒険者ギルドなどがある区と貴族などが住む高級住宅区を分ける第二の城壁。そして王城や大神殿などを囲む第三の城壁に守られており、これが高い防衛力を持つと言われている理由の一つだ。

 城壁だけでなく、神光騎士団の本部があることから敵国やモンスターが攻め込んできた際にはすぐに対処することもできる。聖都ホリティアは文字どおり鉄壁の都市だった。

 ホリティアの中央にある王城の近くには三階建ての大きな建物がある。そこはイルテ聖王の精鋭部隊、神光騎士団の本部だ。

 石造りの壁で囲まれている広い敷地内では神光騎士団に所属する騎士たちが訓練をしている。他にも遠くの的に向けて矢を射る弓兵や下級魔法を放つ魔導士や神官などもおり、皆熱心に訓練をしていた。

 本部である建物の三階の一室では、五人の男女が五角形の机を囲むように座っている。彼らは神光騎士団で各騎士団の団長を任されている者たちだ。

 騎士団長たちの内、一人は身長175cmほどで五十代前半、灰色の短髪で黄色い目をしており、金色の装飾が入った白いプレートアーマーとイルテ聖王国の紋章が入った白いマントを装備している。

 歳の割にはがっしりとした体格をしており目も鋭い。その姿から多くの戦場で生き延びた猛者の雰囲気を漂わせていた。

 二人目は赤い短髪で茶色の目をした三十代前半、身長170cm強の男で真面目そうな雰囲気を漂わせていた。金色の装飾が入った白いハーフアーマーを身に付け、紋章の入った赤いマントを装備している。

 三人目は身長165cmほど、二十代半ばくらいの女で青いポニーテールで黄色い目をしており、灰色の髪の男の右隣の席に座っている。彼女も赤い髪の男と同じように金色の装飾が入った白いハーフアーマーを身に付け、青いマントを装備している。

 四人目は四十代前半ぐらいの男で身長は170cm弱、肩に届くくらいの長さの緑色の髪と茶色い目をしており、青い髪の女の右隣の席に座っている。

 痩せ気味で気の抜けたような表情を浮かべるその男は金色の装飾が入った白いローブを着ており、聖王国の紋章が入った緑のマントを羽織っていた。

 そして、五人目はピンクの長髪に水色の目をしており、身長が160cm強の二十代前半の女で金色の装飾が入った白いシスター服を着ていた。

 首からは赤い宝石が付いた黄色い十字架のペンダントを下げており、ピンク色のマントを羽織っている。他の四人と比べて彼女は和やかな雰囲気を漂わせていた。


「皆、今回は遠い所からよく集まってくれた」


 灰色の髪の男は集まっている四人を見ながら低い声を出す。

 男の名はベルラガス・サルローダ。神光騎士団の総団長にして、ホリティアに拠点を置く神光騎士団第一騎士団の団長を務めている。

 騎士団長の中では最年長で、聖王に対して高い忠誠心を持つ。忠誠心だけでなく戦闘能力も高く、二百年前の魔王を倒した勇者と同等の力を持っていると言われているイルテ聖王国最強の男だ。


「今回皆に集まってもらったのは他でもない。大陸内に存在する各国、そして例の魔王国の情勢について話し合うためだ」


 赤い髪の男とピンクの髪の女は魔王国と言う言葉を聞いてベルラガスに注目する。そして二人が反応した直後、青い髪の女はベルラガスの方を見ながら立ち上がった。


「他国の者たちは二百年前の魔王が倒された時から、世の中は平和だと浮かれながら生きてきました。その結果、魔王に対する危機感が無くなり、新たに魔王を名乗る存在が現れても以前と変わらない生活を送っています。これは由々しき事態です」


 若干強めの口調で現状を語る青い髪の女をベルラガスは見つめ、他の三人も青い髪の女に視線を向けながら黙って話を聞いていた。

 青い髪の女はリオナ・ラナシアン。イルテ聖王国の西部にある大都市レリエに拠点を持つ第三騎士団の団長を務めており、優れた槍の使い手でもある。

 天神イルティアナだけでなく、二百年前に現れた魔王を討伐した勇者のことも崇拝しており、人々を悪から守るという意志が強い。逆に魔王やそれに味方をする存在を見逃してはならないという敵対的な考え方を持つ。


「このまま以前と変わらない生活を送れば、何時は大陸中の人間たちは魔王ゼブルが力で全てを支配しようとした時に抗うこともできず、簡単に奴に屈してしまいます」

「確かにその可能性は十分にあるな……」


 リオナの言っていることも一理あると考えるベルラガスは腕を組みながら納得する。


「今こそ人々に悪に立ち向かう意思を持たせるため、聖王国軍と我ら神光騎士団が動く時。全戦力で魔王国に総攻撃をかけるべきです!」


 力の入った声で語るリオナをベルラガスは無言で見つめ、赤い髪の男と緑の髪の男は呆れ顔、ピンクの髪の女は困った顔をする。

 いくら魔王がこの世界にとって危険な存在とは言え、いきなり全戦力で攻撃を仕掛けるのは愚かな行動と言える。

 しかも魔王ゼブルはファブール魔王国を建国している。魔王が納めているとは言え、他国に大部隊で進攻すればイルテ聖王国の立場も悪くなるかもしれない。

 二百年前に魔王の討伐に最も貢献した立場としては、他国から悪く見られるような行動は絶対に避けるべきだ。


「落ち着いてください、リオナ。感情的になって考えてはいけませんよ?」


 若干興奮しているリオナを見たピンクの髪の女は興奮する姉、もしくは妹を宥めるように落ち着かせる。

 ピンクの髪の女はマリーナ・アーシール。優れた神官職を修めており、ホリティアの東部にある都市、ガブリアに拠点を置く第五騎士団の団長を務めている。

 五人の騎士団長の中では最も温厚な性格で、同じ騎士団の仲間やガブリアの住民たちからも心優しい聖母のような存在として見られていた。

 神官としても優秀で、回復魔法は勿論、光属性の中級攻撃魔法を使うことができる。


「そう言うお前はよく落ち着いていられるな! 私たちは今、周囲から軽く見られているのが分からないのか!?」


 リオナは宥めるマリーナを見ると両手で強く机を叩きながら大きな声を出す。


「魔王国が建国されてから数ヶ月が経つと言うのに、我々は魔王国や魔王ゼブルに関する有力な情報を何一つ得られていない。二百年前に現れた魔王を討伐し、平和に最も貢献した国の軍が魔王の情報を得られずにいるなど、恥でしかないだろう!」


 興奮しながらも、リオナは聖王国軍や神光騎士団の立場を語る。

 マリーナやベルラガスたちはリオナが感情的になり、魔王国に攻撃を仕掛けようと考える理由を察したのか、黙って彼女の話を聞く。


「魔王から世界を守るべき存在でありながら、諜報活動しかできない軍や騎士団に国民や周辺国家が敬意を表すると思うか!?」

「気持ちは分かります。ですが今は現状をきちんと把握し、魔王国への対策や今後の方針を決めることの方が大切です。魔王国の情報が無いのに総攻撃をかけるなんて危険ですし、政治的にもリスクが大きすぎます」

「ああ、マリーナの言うとおりだ」


 会話を聞いていた赤い髪の男はゆっくりと立ち上がってマリーナに賛同する。彼も現状で魔王国に攻撃を仕掛けるのは得策ではないと考えているようだ。

 男の名はエドワード・スロスク。イルテ聖王国の北部の都市、メトロンで活動する第二騎士団の団長を任されており、任務では常に最前線に出て敵と戦っている。

 戦闘時に使う武器は大剣で、英雄級の実力に達しており、通常攻撃だけでなく攻撃技術(アタックスキル)による一撃も強力で中級モンスターを難なく倒せるだけの力を持つ。


「まずはこれまでに得た魔王国の情報を簡単に説明する。……手元にある書類を見てくれ」


 エドワードはそう言うと、立ったまま目の前にいある数枚の書類の中から一枚を手に取る。

 ベルラガスやマリーナ、緑の髪の男も自身の手元にある書類の中から、エドワードが手にした書類と同じものを手にした。

 リオナも不服そうにしながらも椅子に座り、書類に書かれてある内容を目にする。


「まず、魔王国の軍事力についてだが、正確な規模や構成はいまだに分かっていない。分かっているのは戦力の殆どがモンスター、そしてその大半が昆虫族モンスターだと言うことだ」

「おいおい、それは分かり切ってることだろう。分かっていることをいちいち話す必要は無いんじゃないか?」


 説明を聞いた緑の髪の男は呆れたような顔をしながら持っている書類をひらひらと動かす。既に頭に入っている情報を改めて聞かされても意味の無いことだと思っているようだ。

 緑の髪の男がセドルド・マドスト。イルテ聖王国南部にある大都市、ミーエルに拠点を置く第四騎士団の団長を任されている魔導士だ。

 神光騎士団の一員として戦う以外にも、ミーエルにある魔導研究所で戦闘用のマジックアイテムの開発も行っている。これまでに何種類も優れたマジックアイテムを完成させて国に貢献しているが、研究や開発のためなら非道な行動を取ることもあるため、一部の者からは避けられていた。

 エドワードは文句を言うセドルドを見ると僅かに目を細くし、持っている書類をもう片方の手で軽く叩く。


「再確認のために説明しているんだ。それに新しい情報も書かれてある。文句を言わずに黙って聞け」

「フン……」


 面倒くさそうな顔で鼻を鳴らしたセドルドは椅子にもたれかかり、持っている書類を目をやる。


「……説明を続ける。魔王国のモンスターの中には強力なモンスターも何種類かおり、その中には我々の知らない未知のモンスターも多くいる。……詳しくは分かってないが、未知のモンスターは二百年前に現れた魔王の配下以上の強さを持っている可能性があるとのことだ」

「魔王の配下以上だと?」


 ファブール魔王国のモンスターの強さを聞かされたリオナは目を見開く。

 実際に二百年前の魔王の配下を見たことは無いが、言い伝えでどれほどの強さなのかは大体分かるため、その配下以上の強さを持つと聞かされてリオナは軽い衝撃を受けていた。

 ベルラガスとセドルドはエドワードの説明を聞いて僅かに目を鋭くしており、マリーナは信じられないような反応を見えながらエドワードを見ている。


「未知のモンスターの中には数十人の兵士を一度に吹き飛ばすような攻撃をする種類がいるようなのだ。しかもそれが何体もいる」

「もし、それが本当ならかなり危険な存在になるな。……それで、どんなモンスターなのか分かったのか?」


 とんでもないモンスターがいると聞かされた後にもかかわらず、ベルラガスは冷静にエドワードに尋ねる。

 エドワードはベルラガスの方を向くと軽く首を横に振った。


「いいえ、生態や名前などはまだ確認できておりません。魔王国の中心都市であるトリュポスに潜入した諜報班が得た情報では、そのモンスターはセプティロン王国とダーバイア公国の戦争で一度投入されたそうですが、それ以降は姿を見せていないとのことです」

「ふむ……その未知のモンスターや別の情報を得るためにも、より多くの諜報員を魔王国に派遣した方がいいな」

「ハイ。あとは、魔王国が宣戦布告をしてきた時に備え、聖王国の防衛力も強化するべきかと……」

「防衛力の強化か……状況によっては、二百年前のように新たに勇者を召喚することになるかもしれんな」


 勇者を召喚するという言葉を耳にし、ベルラガス以外の全員が目を大きく見開く。

 二百年前、当時のイルテ聖王国の聖王と貴族は魔王を倒すために異世界から勇者を召喚することを決意し、聖王国にいる大勢の優秀な魔導士を集め、彼らの魔力を使って召喚魔法を発動させた。

 異世界から勇者を召喚できることから、召喚魔法には制限がある。一つは発動するための魔力が膨大であること。二つ目は一度発動すると百年の間、発動することができなくなると言うものだ。

 二百年前に勇者を召喚し、魔王を討伐してから新たな魔王が現れることは無かったため、何事も無く百年が経過して再び召喚魔法が使えるようになった。

 だが、それからも何事も無く時は流れ、更に百年経った現在まで召喚魔法が使われることは無かったが、今回魔王ゼブルが現れたことで二百年ぶりに召喚魔法を使うことになる可能性が出てきた。


「できるのなら、新たに勇者を召喚することなく、私たちだけの力で問題を解決したい。そのために、勇者がいなくても聖王国や大陸を守れるだけの力が必要だ」


 魔王ゼブルと戦うことになった際、勇者の力に頼らずに勝利したいと考えるベルラガスは書類を机の上に置くとセドルドの方を向く。


「セドルド、魔導ゴーレムの開発はどうなっている?」


 声を掛けられたセドルドはニヤリと笑い、持っている書類を机の上に投げ捨てるように置いた。


「既に動力源である魔導炉の開発は完了しています。あとは魔力の出力を調整し、魔導ゴーレム本体に組み込むだけです」


 子供が自分が描いた絵を友達や親に見せて自慢するかのように、セドルドは楽しそうに開発状況を語る。

 セドルドは現在、イルテ聖王国の防衛、そして聖王国軍の戦力を増強するために魔力で起動する人工のゴーレム、魔導ゴーレムの開発を進めていた。

 魔導ゴーレムの計画はファブール魔王が建国される以前から行われており、その計画を神光騎士団の第四騎士団長であり、優秀な魔導士であるセドルドが中心となって進められている。

 因みに魔導ゴーレムの技術や知識はイルテ聖王国が独占しているため、他の国では開発は行われていない。

 ベルラガスは魔導ゴーレム自体が間もなく完成すると聞くと俯き、しばらく考え込んだ後に顔を上げて再びセドルドを見た。


「……軍の戦力や都市の防衛などに配備するにはどのくらい時間がかかる?」

「性能の確認のために何度かモンスターと戦わせる必要があります。戦闘中の動きや強さを観察し、細かいところを調整し直す必要などもありますので、一ヶ月あれば」

「たった一ヶ月で可能なのか?」

「ええ、他の魔導士なら三ヶ月以上かかりますが、私の知識や技術であれば一ヶ月で全て完了しますよ。フフフフフッ」


 気味の悪い笑い方をするセドルドを見て、ベルラガス以外の三人は僅かに表情を歪ませた。

 セドルドはマジックアイテムや魔法関係の兵器などの開発に強い執着心を持ち、自分の才能や開発した物に強い自信と誇りを持っている。

 エドワードたちもセドルドの性格を知っているため、魔導ゴーレムについて楽しそうに語る姿を見て思わず引いてしまったのだ。


「配備できるようになれば、聖王国は更なる力を得られるでしょう。量産もすぐに完了します」

「分かった。配備可能になったらできるだけ早く大量に生産しろ。魔導ゴーレムがあれば、万が一魔王国と争うことになっても対抗できるようになる」

「フフフッ、言われなくても分かっていますよ」


 イルテ聖王国を魔王ゼブルやファブール魔王国から守るためにも、ベルラガスは少しでも早く魔導ゴーレムが完成することを祈った。


「他に魔王国に関することで何か得た情報はあるか?」


 魔導ゴーレムの話が終わると、ベルラガスは話題を戻してエドワードに声を掛けた。


「いいえ、魔王国に関する情報はこれで全てです」

「そうか。……では、先程話したとおり、より多くの情報を得られるよう新たに諜報員を派遣させるのだ」

「分かりました。軍の諜報部隊に伝えておきます」


 エドワードは真剣な表情で返事をすると、ベルラガスは「うむ」と軽く頷く。

 魔王ゼブルと敵対した時のためにも少しでも多くの情報を集めなくてはならない。ベルラガスは多少強引な方法を使ってでも、ファブール魔王国の情報を集めるつもりでいた。


「では次に、魔王国以外の国家の現状確認を行う」


 エドワードは持っている書類を机の上に置くと二枚目の書類を手に取る。

 ベルラガスたちも手元になる新しい書類を手に取り、そこに記されている内容を確認する。


「まずはセプティロン王国についてだが、あの国は隣国であるダーバイア公国との戦争で魔王ゼブルの力を借りて公国に勝利した。その結果、彼らは魔王国の建国を認め、そのまま魔王国の属国となった」

「フン、魔王の支配下に入るとは、奴らは人間の誇りを失ってしまったようだな」


 リオナはセプティロン王国の現状を知った途端に呆れ果てる。

 二百年前に大陸中の人間が魔王を討伐するために力を合わせて戦ったのに、新たに現れた魔王の下に付くなど、リオナからしてみれば愚行でしかなかった。


「自分の先祖が命を懸けて手に入れた平穏や秩序を自ら壊すような選択をすなんて、セプティロンの王族は魔族に魂を売った愚か者だ」

「リオナ、やめなさい。他国とは言え、王族に対してそのような言い方は無いと思いますよ」


 イルテ聖王国の騎士としてあるまじき発言をするリオナをマリーナは困った顔で注意する。

 聖王国軍の精鋭である神光騎士団の一員、それも騎士団長が他国の王を侮辱するような発言をすれば他の団員に悪影響が出たり、神光騎士団の評判が下がることに繋がる。

 マリーナとしては神光騎士団のため、そしてリオナ自身のためにも団員たちの手本と呼べるような存在でいてほしかった。

 リオナはマリーナを見ると軽く鼻を鳴らしてから書類に視線を戻す。

 反応を見たマリーナは自分の言葉があまりリオナに響かなかったと感じて軽く溜め息をついのだった。


「……続けるぞ? 魔王国の属国となった後の王国だが、政治や経済は以前と変えていない。ただ、魔王国と貿易を行い、互いに食料やマジックアイテムなどを買い取っているとのことだ」

「もしかして、王国は魔王国の物資を高値で買い取らされているのですか?」

「詳しくは分からんが、それなりの額のようだ。もっとも王国側は提示された額に納得しているようだがな」

「まぁ、属国であるからには多少高い額でも受け入れるしかないでしょうね」


 納得できない額で取引に応じていると予想するマリーナはセプティロン王国に同情するのだった。


「王国は属国となったが、魔王国のために他国に損害を与えるような行動を取ったりせず、以前と変わらない体制だと言うのが現状だ。ただ、状況によっては魔王国と共に他国を攻め滅ぼすような行動に出るかもしれない。念のために警戒しておいた方がいいだろう」

「そうだな。まぁ、奴らがそんな馬鹿な行動を取った時には、私が開発した魔導ゴーレムたちで一掃してやるさ」


 魔導ゴーレムで他国を圧倒する光景を想像して面白いのか、セドルドは書類を見つめながら笑う。

 リアナとマリーナは楽しそうにしているセドルドを見て内心呆れ果てていた。


「セプティロン王国に関しては以上だ。次にダーバイア公国の現状に説明する」


 ダーバイア公国の話題になると、ベルラガスたちは再び書類に視線に目をやり、ダーバイア公国のことが書かれてある文章を見る。


「公国は先程も話したとおり、魔王ゼブルたちの力を得た王国軍と激しい戦いを繰り広げた。その結果、公国軍は惨敗し、大きな損害を受けることとなった」

「確か公国は戦力を増強するために徴兵令を出し、多くの国民を最前線に送り込んだのだったな」


 ベルラガスはどこか不機嫌そうな顔をしながら確認する。

 効率よくセプティロン王国に侵攻するためとは言え、今まで軍の人間だけで戦ってきたダーバイア公国が国民を危険な戦場に駆り出したことにベルラガスは不満を感じていたようだ。


「ハイ。魔王ゼブルの力によって徴兵された者たちの殆どが戦死し、今でも大公や徴兵に賛成した貴族たちは国民たちから批判を受けています」

「国民だけでなく、徴兵令に反対した貴族たちも大公たちを非難しているのだろう? 現在は大公派と反対派の二手に分かれているとか」

「ええ、国民たちが大公たちを批判している分、反対派が勢いづいています。このままだと、いずれ大公は失脚するでしょう」


 戦争に勝つために国民を巻き込み、信用を失ってしまった大公をベルラガスたちは愚かに思うのだった。


「何事もなく大公が失脚すれば問題ありませんが、下手をすれば公国内で内戦が起きるかもしれませんね」

「内戦か……」


 マリーナの言葉を聞いたベルラガスは呟き、しばらく黙り込むと再びエドワードの方を向いた。


「エドワード、キュレースト王国は今どうなっている?」


 別の国のことを聞かれたエドワードは反応し、持っている書類の一番下に記されている文章に目をやる。そこにはキュレースト王国の現状について書かれたあった。


「……キュレーストは相変わらずです。大きな変化は見られません」

「そうか……未だに内戦中か」


 ベルラガスが低い声を出すと、エドワードや他の騎士団長たちはベルラガスに注目する。


「大きな変化がないと言うことは、両軍は互いに効率よく相手の領内に進攻できずにいると言うことか」

「このまま戦況に変化が無ければ、我々に救援を要請してくるかもしれません。……総団長、その場合はどうしますか?」


 リアナが尋ねると、ベルラガスは目を鋭くしながら口を開く。


「可能性は低いだろうが、万が一救援を要請してきた場合は拒否する。陛下もあの国の現状をご理解されている。決して要請をお受けにならないだろう」


 ベルラガスが自分だけでなく、聖王もキュレースト王国からの救援要請は拒むだろうと語る。

 リオナたちは同感なのか納得したような反応を見せた。


「今、あの国には問題しかない。聖王国が巻き込まれないよう、こちらから関わるようなことはするな?」

『ハイ』


 エドワードたちは真剣な表情を浮かべながら声を揃えて返事をする。

 キュレースト王国の話が終わると、ベルラガスたちは引き続き周辺国家の現状確認を行った。


――――――


 三日月が昇る夜空の下に広がるキュレースト王国の西部。大小様々な大きさの林がある広い平原の中に一つの都市があった。

 その都市は“ソノン”と呼ばれており、キュレースト王国の西部で最も大きな都市だ。

 都市に出入りするための門は東西南北に一つずつあり、複数の宿屋があることから旅人や冒険者が周辺の町や村へ向かう際の通過点として立ち寄ったりする。

 城壁も高く、軍の詰所や冒険者ギルドもあるため、モンスターや盗賊が襲撃して来てもすぐに対処することが可能だった。

 出入口である四つの門の上にある見張り場では紺色の長袖長ズボン姿で青いラインが入った銀色のハーフアーマー、銀色のモリオンヘルムを装備して槍を持つ兵士たちがおり、篝火を頼りに周囲を見張っている。どういうわけか、兵士たちは皆表情が鋭く、何かを警戒しているかのように見えた。

 ソノンの中央には大きな砦のような建物があり、その周りや都市内では大勢の兵士が松明を持ちながら巡回している。

 建物の近くには青いラインの入った銀色の鎧を装備した騎士たちの姿もおり、建物の周囲を見張っていた。


「現状では敵軍を押し戻すことは難しいと思われます」


 建物の二階にある一室には五人の人影があり、地図を広げた木製の机を囲んで立っていた。

 五人の内、一人は四十代半ばぐらいで濃い緑色の目を持ち、茶色の短髪でコールマン髭を生やした身長170cm強の男だ。濃い茶色の長袖長ズボン姿で青いラインの入った銀色の鎧を身に付けている。

 その隣には二十代前半ぐらいで身長が165cmほど、金色のミディアムヘアーで青い目をした美女が立っている。美女は紺色の長袖と同じ色のスカートを穿いた格好をしており、茶髪の男と同じ鎧を装備していた。

 茶髪の男と美女以外の三人は全員が三十代半ばくらいの騎士で地図を見下ろしながら難しい顔をしていた。


「我が軍は先日の戦闘で大きな被害が出ています。今の状態で攻撃を仕掛けてもまともに戦えず、逆に我々“解放軍”に被害が出るでしょう」

「やはりそうか……」


 地図を見る茶髪の男は額に手を当てながら表情を曇らせる。

 隣にいる美女や三人の騎士たちは男を見ながら同じように暗い顔をした。

 現在、キュレースト王国では内戦が起きており、男たちが所属している解放軍と敵対組織が激しい戦いを繰り広げている最中だった。


「叔父上、今のままでは戦況は変わらず、進攻することもできません。やはり、何とかしてこちらの戦力を増強するしかないのでは?」

「分かっている。だが、こちらには戦力を増強する方法が無いのだ」


 茶髪の男の言葉を聞いた美女は俯いて黙り込んだ。


「ボルトス様、シャイア様、やはりソノンや周辺の村などに徴兵令を出して戦力を増やすべきではないでしょうか?」


 騎士の一人が戦力を増強する方法を提案すると、ボルトスと呼ばれた茶髪の男とシャイアと呼ばれた美女は同時に騎士の方を向く。


「それはならん。私たちは国民たちのために戦っておるのだ。そんなことをしては何の意味も無い」

「そうだ。民たちを軍に加えずに勝利する、これだけは絶対に破ってはならない」

「……失礼いたしました」


 真剣な表情を浮かべながら語るボルトスとシャイアを見て、騎士は軽く頭を下げて謝罪する。他の騎士たちは仲間の提案が却下されたのを見て複雑そうな表情を浮かべていた。

 現状を打開する案が見つからず、ボルトスとシャイアは地図を見つめながら悩む。

 茶髪の男、ボルトス・ゲオ・インサリアはキュレースト王国の公爵にして、キュレースト王国を統治する女王、マジェンナ・ゲオ・インサリアの実の弟。王族と言うことからマジェンナから公爵の地位とキュレースト王国の西部を領地として与えられた。

 以前は今いるソノンの都市長を務めながら都市と西部の管理をしていたが、現在は内戦が起きているキュレースト王国で解放軍の司令官として活動している。

 ボルトスの隣にいるのは、シャイア・テル・インサリア。ボルトスの姪でキュレースト王国の第一王女だ。王女でありながら優れた剣の使い手であり、キュレースト王国軍の部隊長として活動していた。

 現在はある事情から軍を抜け、ボルトスの下で解放軍の兵士として活動している。


「しかし、このままではいつか敵を食い止めることができなくなり、徐々に追い詰められてしまいます」

「やはり、何とかして戦力を増強し、敵を迎え撃たなくては……」


 騎士たちの話を聞いたボルトスは目を閉じ、机に両手を付けながら良い方法が無いか考える。

 戦力を増強しようにも領内の国民たちを戦争に参加させることはできない。ボルトスは徴兵することなく解放軍の戦力を増強する手段を考える。

 しばらくすると、ボルトスは顔を上げ何かを決意したかのような表情を浮かべながらシャイアの方を向いた。


「……シャイア、明日の朝ソノルを発つ。お前も一緒に来てくれ」

「と、言うことは……」


 何かを察したシャイアは軽く目を見開きながらボルトスを見る。


「ああ……他国へ救援を要請する」


 ボルトスの答えを聞いたシャイアは「やっぱり」と言いたそうな反応を見せるのだった。


本日より、第六章の投稿を開始します。

最初に出てくるのは六章に関係のないイルテ聖王国の強者たちです。直接六章には関わりませんが、今後重要な存在で、今まで聖王国の内容が無かったので登場させました。

以前と同じように一定の間隔で投稿していきますので、よろしくお願いいたします。

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