第109話 巨壁を打ち砕く竜騎士
仲間たちを殺されてしまった現状にクレシアは言葉を失う。だが、すぐに表情が鋭くなり、仲間を守れなかった自分、そして仲間を手に掛けたクティノスに対する怒りが込み上がってきた。
ゆっくりと立ち上がったクレシアは落ちている二本の剣を両手で拾うと、自身の左右の斜め上に黄色い光を作り出し、それを左右の手で持っている剣と同じ形状の黄色い光の剣に変える。
クティノスを全力で倒すため、クレシアは固有技術である英霊の刀剣を発動させたのだ。
「ほほぉ? 光の剣を作り出すとは、それがお前の使う固有技術というやつか……」
初めて見る技術にクティノスは興味のありそうな表情を浮かべる。
先程までただの人間の冒険者だと思っていたクティノスだったが、固有技術を見たことでクレシアが先程殺めた冒険者たちとは格が違うと感じ取ったようだ。
クティノスが面白い物を見つけたように小さく笑っていると、クレシアは左手に持つ剣の切っ先をクティノスに向けながら鋭い目で睨みつけた。
「クティノス、私はお前を許さない。エバンスたちの仇を討つため、そして大陸に住む人々を守るためにも此処でお前を打ち倒す!」
「フフフフッ、できるのか? 私の魔法で簡単に吹き飛ばされるようなお前に私を討つことができるとは思えないがな」
「できるかどうか、それを今から分からせてやる!」
クレシアは両腕を横に伸ばしながらクティノスに向かって走り出す。同時に宙に浮いている光の剣も走るクレシアに合わせてクティノスの方へ飛んで行く。
「クレシア!」
一人でクティノスに突っ込んでいくクレシアを見たカイルは思わず名前を叫ぶ。
エバンスたちが殺されたことでクレシアは感情的になっているとカイルは気付き、このままではクレシアもエバンスたちと同じように殺されてしまうと直感する。クレシアを援護するため、カイルもクティノスに向かって走り出した。
ファリスも一人でクティノスに向かっているクレシアを見て、無茶な戦い方をしていると驚きの表情を浮かべている。
固有技術を発動したとは言え、魔法を使う敵に剣士のクレシアが一人で、それも正面から向かっていくのは自殺行為だ。
ファリスもカイルと同じようにクレシアを援護しようと考え、矢筒から新しい矢を抜くと矢が届く距離まで近づくため、クティノスの方へ走る。
カイルとファリスが援護するために走る中、クレシアはクティノスに向かって走り続けていた。
剣が届く距離まで近づければ、持っている二本の剣と英霊の刀剣で作り出した二本の光の剣で同時に攻撃することができる。四本の剣で攻撃すればクティノスに決定的なダメージを与えることができるとクレシアは確信していたため、少しでも早く攻撃できるよう、走る速度を落とすことなく距離を詰めていく。
「仲間の援護も無しに魔法を使う私に向かってくるとは……どうやら体力だけの愚か者のようだな」
鼻を鳴らすクティノスは右手を走って来るクレシアに向けて魔法で迎撃しようとする。
クレシアの様子を見て、仲間を殺されたことで冷静さを失っているとクティノスは認識し、自分の魔法は間違いなく当たると考えていた。
右手の中に火球を作り出したクティノスはクレシアに火球を放とうとした。その時、右の方から一本の矢がクティノスに向かって飛んでくる。
矢に気付いたクティノスは右手を矢に向けて火球を放つ。火球は矢とぶつかると空中で爆発し、室内に爆音を響かせた。
クティノスは矢が飛んで来た方角を確認すると、離れた所から弓を構えて自分を睨むファリスの姿があった。
距離を取って矢を放ったファリスを見たクティノスは全員が冷静さを失ったわけではないと知り、まだ戦いを楽しめると不敵な笑みを浮かべる。
クティノスがファリスに視線を向けていると、クレシアがクティノスの目の前まで近づいて来た。
ファリスが矢を放ったことでクティノスの意識が外れ、迎撃されること無く近づくことができたため、クレシアは援護してくれたファリスに感謝する。
同時に自分が仲間を殺されて熱くなっていたことを自覚し、落ち着きを取り戻すと勝つためにも冷静にならなくてはと、心の中で自分に言い聞かせるのだった。
「くらえっ! 双斬撃!」
クレシアは両手の剣を薄っすらと赤く光らせ、二本の剣で同時にクティノスに袈裟切りを放つ。
クティノスは迫って来る剣を見ると、慌てることなく後ろに跳んでクレシアの攻撃を回避した。
攻撃をかわされたことにクレシアは驚いて目を見開く。だが、すぐに気持ちを落ち着かせ、宙に浮いている二本の光の剣を動かし、距離を取ったクティノスに向けて飛ばす。後ろに跳んでいる状態なら光の剣は確実にクティノスの体を貫くとクレシアは考えていた。
飛んでくる光の剣を見たクティノスは驚いたりすることなく、小さく笑みを浮かべる。宙に浮いていることから、光の剣はクレシアが触れなくても自動的に敵を攻撃する分かっていたようだ。
「衝撃波」
左手を飛んでくる光の剣に向けたクティノスは衝撃波を放ち、飛んでくる二本の光の剣を弾くように飛ばす。更に衝撃波は光の剣の後ろにいたクレシアにも届き、大きく後方に吹き飛ばした。
飛ばされたクレシアは光の剣が飛ばされたことに驚きながら、背中から強く床に叩きつけられる。
今回は剣を強く握っていたため、手から離れることはなかった。そして飛ばされた光の剣も自動的にクレシアの下に戻り、倒れているクレシアの頭上に浮いている。
「並のモンスターなら今の攻撃で倒せていただろうが、私には通用しない。私はそこら辺の雑魚モンスターよりも遥かに力が上なのだからな」
遠くで倒れるクレシアを見つめるクティノスは誇らしげに語った。
クティノスは“ソーサラーデビル”と呼ばれる中級の悪魔族モンスターで、その名のとおり魔法での戦いを得意としている。
通常の魔法を使うモンスターと比べると魔法攻撃力が高く、下級魔法でも高い威力を発揮するため、EKTでは同レベルの魔王にとってかなり面倒なモンスターと言われていた。
レベルは43から46で二百年前に現れた魔王と打ち倒した勇者の仲間と同等の強さを持つ個体だ。
クレシアたちの前にいるのはゼブルに病院のボスモンスターとして召喚された存在で、レベルは46とソーサラーデビルの最高レベルとなっている。クティノスと言う名前があるのも戦う相手に二百年前に現れた魔王の配下だと思わされるためだ。
勿論、二百年前に現れた魔王のこともゼブルから聞かされているため、クレシアたちが二百年前の魔王の配下だと勘違いしても話を会わせることができた。
「しかし、固有技術が使えるからもう少し楽しませてくれると思ったが、この程度では楽しむことはできんな。……さっさと終わらせることにしよう」
クティノスは倒れているクレシアに止めを刺そうと右手をクレシアに向け、手の中に電気を発生させる。
クレシアはクティノスの手の中に電気が作られたのを見て、エバンスたちを殺した時に使った魔法を撃ってくると悟った。
「仲間の下へ逝け。……雷鳥」
魔法が発動した瞬間、クティノスの手から青白い大きな電気の鳥が放たれる。
クレシアは急いで回避しようとするが、仰向けなので避けられる状態ではない。体勢を直す余裕も無い状況にクレシアは目を大きく見開き、近づいてくる電気の鳥を見つめる。
だが次の瞬間、仰向け状態のクレシアが消え、電気の鳥はクレシアが倒れていた場所に当たり、轟音を立てながら周囲に青白い光を放つ。
クレシアが消えたのを見たクティノスは意外そうな表情を浮かべて周囲を見回す。すると、クレシアが倒れていた場所から左に少し離れた所に翡翠色の全身甲冑を装備した騎士がクレシアを抱きかかえて立っているのが目に入った。しかも騎士の背中には光の竜翼が付いている。
雷鳥が当たる直前、カイルが竜帝の霊鎧の飛行能力を使って素早くクレシアに近づき、彼女を助けたのだ。
「ほぉ? 雷鳥から小娘を助けたか。大した移動速度だ」
重い全身甲冑を身に付けていながら、雷鳥を避けたことにクティノスは意外そうに呟く。
しかし、その顔には面白い敵が現れたと感じたのか不敵な笑みが浮かんでいた。
「クレシア、大丈夫?」
「あ、ああ、ありがとう」
抱きかかえるカイルを見上げながらクレシアは礼を言う。この時のクレシアはカイルが自分を助けてくれたことに感謝すると同時に、抱きかかえられていることに恥ずかしさを感じて少し頬を赤く染めていた。
クレシアが無事なことを確認すると、カイルは光の竜翼を広げて軽く浮かび上がり、低空飛行で遠くにいるファリスの下へ移動した。
「二人とも、大丈夫?」
「うん、何とかね。クレシアも無事だよ」
ファリスは合流したカイルとクレシアを見て、二人が重傷を負っていないことを確かめるとクティノスに視線を戻して弓矢を構える。
カイルも抱きかかえているクレシアをゆっくり下ろし、腰に納めてある剣を抜いた。
「アイツは僕が相手をするから、ファリスはこのまま援護して」
「分かったわ」
「……クレシアはしばらく休んで体力を回復させて」
クレシアはカイルの言葉に反応し、軽く目を見開きながらカイルに視線を向ける。
「ま、待て、カイル。アイツは手強い。ここは二人で一緒に戦った方がいい」
「感情に流されて、一人で突っ込んだアンタがそれを言うの?」
目を細くしながら尋ねるファリスを見て、クレシアは言い返すことができずに黙り込む。
仲間が目の前で殺されれば誰だって頭に来る。だから、エバンスたちが殺された時にクレシアが怒りを感じるのはおかしなことではない。
だが、戦場に立つ以上は平常心を失わず、冷静に物事を判断できる状態でいないと命取りになる。冒険者としてモンスターと戦う立場であることを考えると、クレシアが感情的になったのは間違いだと言えるだろう。
ただ、カイルとファリスも嘗てのチームメイトが殺されたことで悔しさや悲しさ、クティノスに対して怒りを感じている。それでも冷静さを失ってはいけないことを理解しているため、感情を押さえ込んで冷静さを保っていたのだ。
あるいはプレッジを追放されたことから、エバンスたちに対する思いが少し薄れ、クレシアのように感情的にならなかったのかもしれない。
「クレシア、君は何度もアイツの魔法を受けてかなり体力が減ってるはずだ。僕がアイツの相手をするから、その間に君は体を休めて」
「だ、だが……」
「いいから、アンタは大人しくしてなさい」
ファリスが少し力の入った声を出すと、クレシアはファリスの方を向きながら考え込む。
確かにクレシアは二度も衝撃波を受けており、大きな傷は負っていないが疲れは溜まっている。今の状態では十分に戦うことはできない。
しかも英霊の刀剣の効力も切れて光の剣も消滅している。再び英霊の刀剣が使えるようになるには時間が必要だった。
「……分かった。少しの間だけ、アイツの相手を頼む」
納得したクレシアを見たカイルはフルフェイスの兜の下で微笑み、ファリスの方を向いて「クレシアをお願い」と目で伝える。
カイルが何を考えているのか察したファリスは無言で頷く。
ファリスの反応を見たカイルは安心して戦えると判断し、クティノスの方へゆっくりと歩いて行く。
「話は聞かせてもらったが、本当にお前一人で私と戦うつもりか?」
カイルたちの会話を聞いていたクティノスは腕を組みながら近づいてくるカイルに尋ねる。
声を掛けられたカイルはクティノスの4mほど手前で立ち止まり、不敵な笑みを浮かべるクティノスを見つめた。
「お前たちが束になっても勝てる可能性は低いのに、たった一人で勝てるはずがないだろう。悪いことは言わん、向こうの小娘どもにも戦ってもらえ」
「クレシアは疲れているし、ファリスはクレシアの守らないといけない。二人が戦えない以上、僕が一人で戦う」
「……話を聞いていたのか? お前が一人で挑んでも私には勝てないと言っているのだ」
勝ち目が無いのに単身で挑もうとするカイルをクティノスは僅かに目を鋭くして睨む。
数分前に仲間が戦死した光景を見たにもかかわらず、勝機があると考えているカイルにクティノスは気分を悪くしていた。
「そんなのやってみないと分からないよ。……それに、この鎧を着ている僕は簡単には負けない」
「……いいだろう。ならば、お前のその自信を叩き潰し、己の愚かさと弱さを思い知らせてやる」
クティノスは右手をカイルに向け、勢いよく火球を放つ。
向かってくる火球を見たカイルは咄嗟に顔の間で両腕を交差させて防御態勢を取る。その直後、火球はカイルの腕に当たって爆発した。
爆炎に呑まれたカイルを見たクレシアとファリスは驚きの表情を浮かべる。
一方でクティノスは偉そうな態度を取っておきながら、呆気なく吹き飛んだカイルを見て小さく鼻で笑った。
「だから、小娘どもと共に戦えばいいと言ったのだ。格好をつけて挑んだ結果、無様な最期を迎えることになった。本当に愚かな小僧だった」
カイルを蔑んだクティノスは残っているクレシアとファリスを片付けようと、彼女たちに視線を向けた。そんな時、爆発地点の煙が薄くなり、煙の中から剣を握ったまま腕を交差させたカイルが姿を現す。
「何っ?」
カイルにまだ生きていることを知ったクティノスは驚きの反応を見せる。
火球の直撃を受けたのに、吹き飛ぶどころか体勢を崩してすらいなかったため、驚くのは当然だ。しかも全身甲冑も無傷だったため、予想外の状況にクティノスは雷に打たれたような衝撃を受けていた。
クレシアとファリスも火球を受けたのに普通に立っているカイルを見て驚いている。しかし、それ以上にカイルがクティノスの魔法を受けて無事だったことに安心していた。
火球を受けても傷一つ付いていない全身甲冑を見たクレシアとファリスは竜帝の霊鎧が物理攻撃だけでなく、魔法攻撃に対しても高い防御力を持っていると知り、改めてとんでもないマジックアイテムだと知るのだった。
「驚いたな。私の火球を受けても生きているとは……どうやら、その全身甲冑はそれなりに優れた防具らしいな」
「そうみたいだね。僕自身も無傷では済まないと思ってたけど、軽い衝撃が伝わっただけだったから驚いてるよ」
衝撃が伝わっただけだったと聞き、クティノスは自身の魔法が弱いと言われた気がして眉間にしわを寄せる。魔法を扱う者としてのプライドを傷つけられたクティノスはカイルに対して苛立ちを更に強くした。
「一度耐えたからと言って調子に乗らないことだ。どんなに高い防御力を持つ防具でも、何度も魔法を受けていればいつかは破壊される。それを教えてやろう!」
両手をカイルに向けるクティノスは連続で二発の火球を放つ。火球は二つともカイルに命中して爆発し、室内に爆音を響かせる。
二発の火球が直撃したことでクティノスは全身甲冑を破壊できただろうと笑みを浮かべる。だが煙が消えた時、そこには先程と同じように腕を交差させるカイルの姿があった。
「なっ! 火球を三発受けても無傷だと!?」
信じ難い光景を目の当たりにしたクティノスは驚愕する。そこには先程まで見せていた余裕と人間を見下す表情は見られなかった。
カイルはクティノスが驚く姿を見ると両腕を下ろし、光の竜翼を広げてクティノスに向かって飛んで行く。
「クッ! 衝撃波!」
迫って来るカイルを見たクティノスは咄嗟に衝撃波を放ってカイルを吹き飛ばそうとする。
しかし、カイルはクティノスが魔法を発動した瞬間に右へ移動し、見えない衝撃波を避けた。
回避に成功すると魔法を使わせる隙を与えないため、カイルは飛行速度を上げて一気にクティノスに近づき、剣で袈裟切りを放つ。
目の前まで近づいたカイルを見て、魔法の迎撃は間に合わないと判断したクティノスは咄嗟に後ろへ跳んで剣を避けようとした。
だが、反応が遅れたため、避け切れずに切っ先部分で胴体を切られた。
「ぐおおぉっ!」
体に走る痛みにクティノスは思わず声を上げ、足が床に付くと右手で傷を押させる。
クティノスは微量の汗を掻きながら体の傷と右手に付着している自分の血を見た。見下していた人間に傷つけられたことに驚きを隠せないクティノスは歯を噛み締めながら小さく肩を震わせる。
この震えは決してカイルに対する恐怖から来ているのではない。優れた悪魔である自分を傷つけたことに対する怒りと悔しさから来ている震えだ。
クティノスは顔を上げ、剣を握りながら自分を見ているカイルを睨みつけた。
「貴様、よくもこの私にこれほどの屈辱を……」
「屈辱? 僕の仲間たちを手に掛けたお前にそんなことを言う資格は無いと思うけど?」
「くぅぅ、調子に乗りおって……私をコケにしたことを後悔させてやるわ!」
右手に付いた血を払い落としたクティノスは指をパチンと鳴らす。その直後、カイルの前に二つの紫色の靄のような物が出現し、そこから茶髪のビーストヒューマンが一体ずつ現れた。
いきなり目の前に現れた二体のビーストヒューマンにカイルは驚きの反応を見せる。クティノスが魔法で攻撃するだけでなく、モンスターを呼び出すこともできるとは予想もしていなかったようだ。
「ま、まさか、モンスターを召喚できるなんて……」
「お前はソイツらと遊んでいろ」
クティノスはカイルにビーストヒューマンたちの相手をさせると、床を強く蹴ってクレシアとファリスの方へ跳んで行く。
移動するクティノスを見たカイルは二人を襲おうとしていると知り、慌ててクレシアとファリスの下へ向かおうとする。だが、二体のビーストヒューマンが立ち塞がっているため、二人を助けに行くことができないかった。
カイルがビーストヒューマンに足止めされている間にクティノスはクレシアとファリスの数m前まで近づいて二人に視線を向ける。
クレシアとファリスは標的をカイルから自分たちに変えたクティノスを睨み、身構えながら警戒した。
「あの小僧を殺るのは後だ。まず、奴の仲間であるお前たちを始末し、あの小僧を絶望させてから甚振ってやることにしよう」
「そんなことはさせないわ!」
ファリスは弓につがえている矢を青く光らせると、クティノスに向けて軽射撃を放った。
正面から飛んで来る矢を見たクティノスは小さく笑い、上半身を左に反らして矢をかわす。
軽射撃を避けたクティノスは余裕の態度を取りながらファリスの方を向く。だが、ファリスの方を向いた瞬間、両手に剣を握るクレシアが走って目の前まで近づいて来ている姿が目に入った。
「人間を甘く見るな? お前が思っているほど、私たちは弱い生き物じゃない!」
まだ疲れが残っているはずなのに、クレシアはファリスを守るために二本の剣でクティノスに斬りかかろうとする。
クティノスはクレシアを見ると鼻を鳴らしながら右手をクレシアに向けた。
「学習能力のない奴だな」
そう言ってクティノスはクレシアに向けて衝撃波を放ち、後方へ吹き飛ばした。
クレシアは背中を床に擦り付けながらファリスの真横まで押し戻され、表情を歪めながら上半身を起こしてクティノスを睨む。
「まずは遠距離攻撃ができる方から始末するとしよう」
接近戦を仕掛けてくるクレシアより、遠くから弓矢で攻撃してくるファリスの方が面倒だと判断したクティノスは右手をファリスに向けて火球を勢いよく放つ。
迫って来る火球を見たファリスは回避しようとするが火球が予想以上に速く、反応が遅れてしまったため回避が間に合わない。
「ファリスっ!」
絶体絶命のファリスを見たクレシアは急いで立ち上がり、勢いよくファリスに体当たりして火球の正面から移動させる。その直後、火球はクレシアの腰に当たって爆発した。
「ああああああぁっ!!」
下半身を爆発に巻き込まれたクレシアは激痛に悲鳴を上げ、床に叩きつけられるように倒れる。
「クレシア!?」
「!!?」
自分を庇って重傷を負ったクレシアを見たファリスは声を上げ、カイルもクレシアが倒れた光景を目にして驚愕する。
ファリスが慌てて駆け寄り、クレシアの前で膝をつく。
クレシアの下半身からは薄っすらと煙が上がっており、爆発によって足の一部が失われている。皮膚もあちこちが爆炎で焦げたり、爛れたりしており、とても酷い状態だった。
「ふぁ、ファリス……大丈夫か?」
「クレシア! アンタ、どうしてあたしを……」
「大切な幼馴染だからに、決まってるだろう」
重傷を負っているにもかかわらず、クレシアは心配させまいと必死に笑顔を作って答える。
ファリスは無理をしているクレシアの顔を見て胸が締め付けられるような気持になった。
「フン、仲間を庇ったりするからそんな中途半端な傷を負うことになったのだ。おかげで普通に火球を受けた時以上に長く苦痛を味わうことになったのだぞ」
「クッ! アンタ……」
重傷を負わせた本人が他人事のように語るのに腹を立てるファリスはキッとクティノスを睨みつける。
クティノスは険しい顔で自分を見るファリスを見ると、笑いながら右手をファリスに向けた。
「心配するな。お前は楽に殺してやろう」
今度こそファリスを仕留めようと、クティノスは手の中に火球を作り出して放とうとする。
ファリスは弓矢で迎え撃とうとするが、既に火球を作られ、狙いを定められているので撃たれる前に射抜くこともできない。
どうすれば状況を打開できるが、ファリスは汗を流しながら必死に考えた。
「……うあああああぁ!!」
カイルの叫ぶ声が聞こえ、クティノスは体勢を変えずに後ろを向く。そこには剣とメイスを握りながら自分を見つめるカイル姿があった。
「よくも、よくもクレシアを!」
フルフェイスの兜で顔は見えないが、低めの声と口調からカイルが激怒していることはその場にいる全員が理解していた。
カイルは剣とメイスを握りながらクティノスに対する怒りを露わにする。そんなカイルに二体のビーストヒューマンが声を上げながら同時に正面から跳びかかった。
「どけぇ!」
激昂するカイルは勢いよく剣とメイスを外側に向かって振り、目の前のビーストヒューマンたちの腹部を攻撃する。
剣はビーストヒューマンの体を腹部から両断し、メイスはもう一体の腹部にめり込むと、水音を立てながら腹部を粉砕した。
腹部を両断、粉砕されたビーストヒューマンたちは即死し、死体は鈍い音を立てながら床に落ちる。
ビーストヒューマンたちを片付けたカイルは光の竜翼を広げると勢いよくクティノスに向かって飛んで行く。
一瞬でビーストヒューマンを倒したカイルにクティノスは目を見開いて驚く。だが、クティノス以上に驚いていたのはファリスだった。
普段物静かで、プレッジを追放された時も大人しく言うとおりにしていたカイルが激しく怒っている姿を見て、ファリスは今まで感じたことの無い衝撃を受けている。
目の前にいるカイルは明らかに先程までと違い、全力で敵を倒すことだけを考える戦士となっているとファリスは感じていた。
「チッ! またしても目障りなことを……いい加減にくたばれ! 雷鳥!」
カイルの方を向いたクティノスは手の中の火球を消し、代わりに青白い電気を発生させて電気の雷鳥をカイルに向けて放つ。
今までカイルの仲間たちを一撃で葬った雷鳥なら、火球のように耐えることはできないはずだとクティノスは考え、カイルに向かって飛んで行く電気の鳥を見つめる。
飛んで来た電気の鳥を見たカイルは回避行動を取ろうとする。しかし、電気の鳥は火球よりも速かったため、回避することができずにまともに電気の鳥を受けてしまう。
電気の鳥が体を通過する瞬間、全身に痺れと痛みが走り、カイルは奥歯を強く噛み締める。ただ、竜帝の霊鎧を装備しているおかげか、絶命したり意識を失うほどの痺れや痛みは感じなかった。
痺れや痛みが弱いことから、十分耐えられると感じたカイルは飛行速度を落とすことなくクティノスに向かって飛んで行き、一気に距離を縮めた。
「ば、馬鹿な! 私の雷鳥の直撃を受けて生きているだと!?」
火球だけでなく、雷鳥も通用しないのを見てクティノス完全に余裕を失い、驚愕しながらカイルを見つめる。
やがて、カイルはクティノスの目の前まで近づき、フルフェイスの兜の目を黄色く光らせた。
カイルを見て寒気を感じたクティノスは咄嗟に右手をカイルに向ける。
「クソォ、衝撃ウェ――」
「させるかぁ!」
クティノスが距離を作るために衝撃波を発動しようとした瞬間、カイルは左手に持つメイスを左から横に振って前に出ているクティノスの右手を殴打する。
右手はメイスの頭に触れた瞬間、水風船が弾けるように吹き飛んだ。
「ぐわああああぁっ!!」
右手から走る激痛にクティノスは声を上げながら怯む。クティノスはこの時初めて人間に対して恐れを感じていた。
「これで、最後だぁーーっ!」
カイルは怯んでいるクティノスに向けて右手に持つ剣を勢いよく振り下ろし、クティノスの頭部を真っ二つにした。
切られたクティノスは断末魔を上げ、上半身を左右に軽く揺らしながらよろめく。
「ば……馬鹿なぁ……この私が、人間如きに……敗北する……などぉ……」
顔や右手の傷から血を流しながらクティノスは天井を見上げ、自分が敗北したことが信じられない発言をする。
カイルやファリスは致命傷を負いながらも生きているクティノスを見て、魔王の配下の悪魔だから頭部を両断されてもすぐには死なない生命力を持っているのかと感じていた。
やがて、よろめいていたクティノスは天井を見上げたまま立ち止まり、力が抜けたように両手を下ろした。
「申し訳、ありません……魔王……様ぁ……」
主に謝罪したクティノスは体を黒い靄に変えて静かに消滅した。
完全に消滅すると部屋の出入口である二枚扉の方から鍵が開く音が聞こえた。




