第108話 魔導の悪魔
「まずは距離を取って攻撃し、奴がどんな戦術を使うか確かめる。ファリス、ネフィリア、頼むぞ」
「分かってるわ」
「任せて、クレシア。お姉さんが貴女を勝利へ導いてあげるわぁ♪」
クティノスを見つめながら返事をするファリスと満面の笑みを浮かべるネフィリアを見たクレシアは、構えを崩さずにクティノスの方を向く。
相手がどのような存在で、どんな戦い方をするか分からない以上、迂闊には近寄れない。クレシアは戦士職である自分や仲間たちが問題無く近づけるよう、戦いながらクティノスの情報を集め、弱点や有効な戦い方を見つけだすことにした。
「グオンは魔法で私たちを強化した後は後方で待機し、負傷者の治療を行ってくれ。エバンスはグオンの護衛を頼む」
「分かりました」
「ああ、任せろ」
指示を受けたグオンはロッドを両手で握りながら返事をし、エバンスもメイスとカイトシールドを構えてグオンの隣へ移動する。
「カイル、お前は奴の戦術や弱点が分かった後に私と一緒に接近して攻撃する。できるか?」
「う、うん。大丈夫」
まだ少し緊張した様子のカイルだが、クレシアを見ながら真剣な顔で頷く。今は竜帝の霊鎧が使えるため、カイルは多少に敵には負けない自信があった。
しかし、二百年前の魔王の配下であるクティノスは間違いなく、これまで戦ってきたモンスターたちより強いはずだ。下手をすれば竜帝の霊鎧を装備した状態でも返り討ちに遭うかもしれない。
カイルは騎士の人形を握り、決して自身の力を過信せず、相手が自分より強いかもしれないことを頭に入れて戦うことにした。
「……よし、行くぞ!」
クレシアは力の入った声を出すと、周りにいるエバンスたちは一斉に動き出す。
最初に動いたのは後方支援を任されたグオンだった。グオンは目を閉じると、ロッドの先端を前にいるファリスとネフィリアに向ける。
「物理防御強化! 魔法防御強化! 移動速度強化!」
魔法を発動させたグオンはファリスとネフィリアの防御力と移動速度を同時に強化した。
最初にファリスとネフィリアが遠距離攻撃を仕掛けるため、攻撃した直後にクティノスが二人に反撃して来る可能性は高い。
反撃された際に問題無く対応できるようグオンはファリスとネフィリアを優先的に強化したのだ。
下級魔法とは言え、複数の魔法を連続で、それも二人分を同時に発動したため、グオンは多くの魔力を消費した。だが、それでも後でクレシアたちを強化したり、回復魔法を使うだけの魔力は残っているので問題は無い。
ファリスとネフィリアは自分たちを強化されたのを確認すると、弓矢と杖を構えてクティノスに狙いを定めた。
「軽射撃!」
「電撃!」
青く光る矢と電撃がほぼ同時にクティノスに向かって放たれる。相手がどう動くか観察するため、二人は攻撃力ではなく速度の高い技術と魔法で攻撃した。
クティノスは飛んで来る矢と電撃を見ても迎撃態勢を取ろうとせず、余裕の笑みを浮かべていた。その姿はファリスとネフィリアの攻撃を脅威と感じていないように見える。
「岩壁」
姿勢を低くしたクティノスは右手を床に当てて魔法を発動させる。するとクティノスの前に縦横2mの四角い岩の壁がせり上がるように出現し、飛んできた矢と電撃を防いだ。
ファリスとネフィリアはクティノスが魔法を発動させたこと、そして出現した岩の壁が自分たちの攻撃を止めたことに驚いて目を丸くする。特にネフィリアは貫通力のある電撃で貫けない光景を見たため、ファリス以上に驚いていた。
岩壁はその名のとおり、岩の壁を出現させた敵の攻撃を伏せる魔法だ。中級三等魔法であるため、相手の攻撃が下級の魔法や技術なら例え貫通効果があるものでも防ぐことができる。
攻撃を見守っていたクレシアもファリスとネフィリアの攻撃が防がれたことには驚いている。
しかし、クティノスが魔法を使えるという有力な情報を得ることができたので、どう戦えばよいか作戦を練りやすくはなった。
「フフフ、随分遅い攻撃だな。まさかとは思うが、それがお前たちの本気か?」
岩壁の後ろから姿を見せたクティノスが笑いながら挑発すると、ファリスとネフィリアは目を鋭くしてクティノスを睨む。
「馬鹿言うんじゃないわよ。こっちはまだ全然本気じゃないわ」
「私の魔法を運良く防いだからって調子に乗るんじゃないわよ」
言い返したファリスは矢筒から新たに二本の矢を取ると、二本同時に弓につがえる。
ネフィリアも再び魔法を発動させるために再び杖の先端をクティノスに向けた。
「ネフィリア、あたしがアイツの注意を引くから、アンタは隙を突いて攻撃力のある魔法を叩き込みなさい」
「いちいち命令するんじゃないわよ。アンタに言われなくても、奴に強力な魔法を喰らわせてやるわ」
機嫌を悪くするネフィリアを見たファリスは、クティノスに側面に回り込むように右の方へ走り出す。
ネフィリアも今度こそ攻撃を命中させてやると、クティノスを睨みながら左へ移動した。
クティノスは正面から移動するファリスとネフィリアを見ながら再び笑い出し、今度はどのような攻撃を仕掛けて来るのか想像する。ただ、攻撃を想像するだけで反撃する体勢を取ったりはしなかった。
ファリスはクティノスの右側へ移動すると立ち止まり、弓を横に構えながら弦を強く引く。それと同時につがえている二本の矢を薄っすらと赤く光らせた。
「二連剛矢!」
攻撃技術を発動させたファリスは赤く光る二本の矢を同時にクティノスに向けて放つ。二本の矢は軽射撃で放った矢と比べると若干遅いが、それでも普通に放つ矢よりは速度があった。
二連剛矢は二本の矢を同時に放ち、相手に大きなダメージを与えることができる攻撃技術で、重射撃を同時に二回放つ技術と言ってもいい。
ただし、重射撃と違って、命中しても相手の体に衝撃を与えてダメージを与えることはできないため、一撃の威力はこっちが劣っている。
「フッ……衝撃波」
鼻で笑ったクティノスは左手をファリスの方へ向けて衝撃波を放ち、飛んできた二本の矢を大きく吹き飛ばす。
「なっ!?」
吹き飛ばされた矢を見たファリスは思わず驚愕する。
相手は殆ど動かず、一発の魔法で攻撃を簡単に防いだ。ファリスは目の前にいる悪魔は自分よりも遥かに強いのではと予想して微量の汗を流す。
クティノスはファリスの驚く顔が面白いのか、不敵な笑みを浮かべながらファリスを見つめた。
「本気で攻撃してこい。でないと全力を出す前に私に殺されてしまうぞ?」
「なら、お言葉に甘えさせてもらうわ!」
背後から聞こえてくる声に反応したクティノスは後ろを向く。そこには離れた位置から背中に杖を向けるネフィリアの姿があった。
「私の最高の攻撃を受けて消し飛びなさい! 火球!」
ネフィリアは杖の先端い火球を作り出し、背を向けているクティノスに向けて放つ。
習得している魔法の中でも最も攻撃力の高い火球が命中すれば、絶対に大きなダメージを与えることができるとネフィリアは確信していた。
後ろから迫って来る火球をクティノスは無言で見つめていた。だがすぐにネフィリアを馬鹿にするかのような笑みを浮かべ、右手を飛んでくる火球に向ける。
「火球」
クティノスも火球を発動し、右手から火球を放つ。
火球はネフィリアが放った火球とぶつかった瞬間に爆発し、室内に爆音を響かせた。
ネフィリアはクティノスが自分の使える最強の魔法と同じ魔法を発動したこと、そして自分の火球を相殺したことに衝撃を受けて愕然とする。
「な、何て奴だ。ネフィリアの火球を消し飛ばすなんて……」
「ネフィリアはヴァリンで活動する魔導士の冒険者の中でも上位の実力を持っています。そのネフィリアの魔法を相殺するなんて、少なくともあの悪魔はAランク冒険者と同等の力を持っていることになりますね」
予想以上にクティノスが強いことを知ってエバンスとグオンは緊迫した表情を浮かべる。もっともクティノスは二百年前の魔王の配下なので、Aランク冒険者と同等かそれ以上の実力を持っていても不思議ではない。
エバンスとグオンが驚く中、クレシアとカイルもクティノスの強さに驚きの表情を浮かべており、一人や二人で挑んでも勝つのは難しいと感じ取っていた。
「……カイル、私たちも動くぞ」
「えっ、いいの? 作戦を考えるためにもう少し様子を見た方がいいんじゃ……」
「奴は戦いが始まってから、魔法でこちらの攻撃を防いでいる。そして、魔法を放つ際に奴は殆ど動かない。恐らく、あのクティノスという悪魔は優れた観察力を持ち、常に敵から距離を取って魔法で攻撃するタイプだろう」
クレシアはファリスたちの戦いを見て得た情報から、クティノスがどのような戦い方をするのか推測する。そして、ここまでの戦いからクレシアは自分の推測が当たっていると確信していた。
カイルはクティノスが魔導士と同じ戦い方をすると聞いて少し不安そうな顔をする。
敵に近づいて攻撃する自分やクレシアにとって遠くから魔法で攻撃を仕掛けてくる敵は相性が悪く、苦戦する可能性は非常に高い。カイルは上手く距離を詰めることができるか心配していた。
クレシアはカイルの表情を見て、何を考えているのか察するとクティノスの方を見ながら口を動かす。
「そんなに不安になるな。こっちにも遠距離攻撃ができるファリスとネフィリアがいる。二人が奴の注意を引いている間に距離を詰めれば、問題無く戦えるはずだ」
「……そうだね」
自分は優秀な仲間たちと共に戦っているのだから絶対に勝てる。そう考えるカイルは少しだけ不安が消えたのか、自信が付いたような目でクレシアを見つめた。
クレシアはカイルの顔を見て、不安が消えたのを感じ取ると小さく笑みを浮かべる。だが、すぐに表情を鋭くし、腰に納めてあるもう一本の剣を抜く。
今までの戦いを見て、クレシアもクティノスがビーストヒューマンたちよりも格上だと判断し、本気で戦うことにしたようだ。
両手に剣を握るクレシアは後方にいるグオンの方を向く。
「グオン、私とカイルも動く。強化魔法を掛けてくれ」
「分かりました」
クレシアを見たグオンは様子を窺うのはやめて攻撃を仕掛けるのだと知り、ロッドを構えてクレシアとカイルに強化魔法をかけようとする。
「ファリス、ネフィリア! お前たちは後方に下がって援護してくれ」
既に情報は集まったので、これ以上ファリスとネフィリアにクティノスの相手をさせるべきではないとクレシアは判断し、二人に距離を取るよう指示を出す。
ファリスはクレシアとカイルが動くと知ると、邪魔にならないよう言われたとおり距離を取った。
「クレシアとカイルが奴を倒そうとしている?」
ネフィリアも現状から、クレシアとカイルがクティノスと戦おうとしていると察していた。だが、ネフィリアはファリスと違い、二人が戦うことに抵抗があるような表情を浮かべる。
マンティコアの一件で仲間からの信頼を失ったネフィリアは、今回の戦闘でクレシアが動く前にクティノスを倒して汚名を返上し、信頼を取り戻そうとしていた。だからクレシアとカイルが戦うのはネフィリアにとって都合の悪いことだったのだ。
汚名返上以外にも、愛するクレシアを得体のしれない悪魔と戦わせたくないという意思もあり、ネフィリアはクレシアが動く前にクティノスを倒したいと思っていた。
ファリスが距離を取る中、ネフィリアは後退せずに杖の先端をクティノスに向ける。クレシアとカイルが動く前にもう一度火球を撃ち込み、クティノスを跡形もなく吹き飛ばすつもりのようだ。
「ちょっと、何やってるのよ! 後退しろって言われたでしょう。さっさと離れなさいよ!」
「うるさいわね! アンタの指示は受けないわ」
クティノスを睨みながら言い返してくるネフィリアを見て、ファリスは思わず目を見開く。普段クレシアの言うとおりにしていたネフィリアがクレシアの指示に従わない状況に内心驚いていた。
クレシアたちも距離を取らずに攻撃を仕掛けようとするネフィリアを見て驚いており、何を考えているのだと困惑している。
「こんな雑魚、クレシアが動く必要なんて無いわ。私一人でぶっ倒してやるわよ!」
「ほほぉ、一人で私を倒すつもりでいるとは、その度胸は褒めてやろう」
クティノスは真正面から攻撃しようとするネフィリアを見て小さく笑みを浮かべていた。
しかし次の瞬間、クティノスの顔から笑みが消え、つまらない物を見るかのような冷たい表情へと変わる。
「だが、相手の実力を理解できず、雑魚呼ばわりするのは褒められんな。……自身の力を過信する傲慢な奴はこの場に必要無い」
ネフィリアに興味が無くなったクティノスは右手をゆっくりとネフィリアに向け、手の中に青白い電気を作り出す。
クティノスが電気を作り出した姿を見たネフィリアは魔法で攻撃してくると直感した。
「撃たせないわ! 火――」
「遅い! 雷鳥」
ネフィリアが火球を放つより先にクティノスは右手から大きな翼を広げた電気の鳥をネフィリアに向けて放つ。
電気の鳥はもの凄い速さで真っすぐ飛んで行き、ネフィリアの体を通過した。
「あああああぁっ!」
全身を電撃で焼かれる痛みと熱さにネフィリアは断末魔を上げる。あまりの激痛にネフィリアはどうして自分が先に攻撃を受けたのか、クティノスがどんな魔法を使ったのかなどを考える余裕も無かった。
雷鳥はその名のとおり、鳥の形をした電撃を敵に向けて放つ雷属性の中級三等魔法だ。中級であるため、当然攻撃力や速度は電撃よりも高い。
しかも敵に命中した後もそのまま敵の体を通過して飛んで行くため、後方にいる敵も攻撃できる。そのため、雷鳥を習得した魔導士は電撃よりこちらを使うと言われている。
しばらくすると電撃が治まり、黒焦げになって口や体から煙を上げるネフィリアがその場に倒れる。
持っていた杖も炭となって崩れ、眼鏡もレンズが割れた状態で床に落ちる。そして、ネフィリア本人も倒れた後に動くことは無かった。
「ネフィリアぁ!!」
一撃でネフィリアが殺された光景に衝撃を受けたクレシアは思わず名前を叫ぶ。
カイルたちもネフィリアがやられたことが信じられず、愕然としながら倒れるネフィリアを見つめている。
ネフィリアが殺されたのを見て、クレシアは俯きながら奥歯を噛み締める。プレッジのリーダーとして仲間を守らなければならない立場にありながら、目の前にいた仲間を救えなかったことにクレシアは強い罪悪感と無力感、そして悔しさを感じていた。
クレシアたちがネフィリアの死に衝撃を受ける中、クティノスは倒れたネフィリアを見ながら楽しそうな笑みを浮かべる。
「ハハハハッ、良い気分だ。自身を強者だと思い込み、尊大な態度を取っていた人間が死ぬ姿を見ると、とても晴れ晴れとする」
「……ッ!」
人の命を奪い、それを楽しむかのように語るクティノスの言葉に反応したクレシアは顔を上げ、鋭い目でクティノスを睨みつける。
「グオン! 早く強化魔法をかけるんだ!」
「えっ……あ、ハイ!」
グオンはクティノスを睨みながら怒鳴るように指示するクレシアに驚きながらも、言われたとおり強化魔法を発動させた。
「物理攻撃強化! 物理防御強化! 魔法防御強化!」
魔法によってクレシアとカイルの物理攻撃力、物理防御力、魔法防御力が強化される。
クティノスは魔法防御力を強化したネフィリアを一発の魔法で倒すほどの力を持っているため、魔法防御力を強化するのは無意味ではと思われる。だが、それでも強化魔法を掛けずに戦うよりはマシだった。
クレシアは自身が強化されたのを確認すると、再びクティノスを睨んで二本の剣を構え直した。
「く、クレシア……」
カイルは左隣で険しい顔をするクレシアを見ながら声を掛ける。
仲間が目の前で殺されたため、クレシアが感情的になるのはおかしなことではない。カイル自身も自分を侮辱し、嫌っていたとはいえ、嘗てのチームメイトだったネフィリアが死んだことに心を痛めていた。
しかし、今は戦闘中で冷静さを失えば更に状況が悪化してしまう。カイルは戦況を悪くしないためにも、冷静でいなくてはならないと自分に言い聞かせ、平常心を保とうとする。
それと同時に険しい顔のクレシアを見て、彼女が冷静さを失ってしまうのではとカイルは不安を感じていた。
「……大丈夫だ、カイル。後先考えずに突っ込むような真似はしない」
クレシアはクティノスの方を向いたまま、自分が冷静さを失っていないことを伝えた。だがその声は僅かに震えており、必死にネフィリアが死んだショックに耐えているのが分かる。
カイルはクレシアの声を聞き、戦闘中であること、そしてリーダーという責任のある立場であることから、悲しさや悔しさをを抑え込んで戦っているのだと気付き、心の中でクレシアに同情する。
これ以上犠牲者を出したり、クレシアを苦しませるわけにはいかない。カイルは自分に言い聞かせながら竜帝の霊鎧の人形を持つ手に力を入れた。
人形を握った直後、カイルの体は緑色の光に包まれて見えなくなり、光が消えるとそこには全身甲冑姿のカイルが立っていた。
「クレシア、僕が先に攻撃してアイツの注意を引くから、その隙に攻撃技術で攻撃して」
「分かった。……だが、無茶はするな? もし奴が魔法で攻撃して来たら自分の身を守ることを考えるんだ」
既にネフィリアを死なせてしまったため、これ以上仲間を死なせなくないクレシアはカイルに自分の命を優先するよう伝える。
クレシアにとってカイルはプレッジを追放してまで守りたいと思っていた存在なので、絶対に生き延びてほしいと思っていた。
「ありがとう。君も無理はせず、僕やファリスたちを頼ってね?」
「ああ」
忠告を聞き入れるクレシアを見たカイルは大丈夫だと感じ、クティノスの方を向くと右手で腰の剣を抜く。
竜帝の霊鎧を装備している今なら、クティノスと互角に戦えるはず、カイルはそう考えながら剣を強く握って戦闘態勢に入る。
「ほほぉ、面白い鎧を持っているな」
姿を変えたカイルを見て、クティノスは笑いながら興味のありそうな反応を見せる。
全身甲冑を装備したことで、ごく普通の少年が周りにいる他の者たちよりも強い力を得たとクティノスは感じ取っていた。
(……確かにこれは加減して戦える相手ではないな。奴と問題無く戦うためにも、まずは不必要な者たちを排除した方がよさそうだ)
クティノスはカイルを見つめながら心の中で呟くと、カイルとクレシアの後方にいるエバンスとグオンに視線を向ける。
直接自分に攻撃を仕掛けない存在なら放っておいても良いのだが、魔法で仲間を強化したり、回復されれば色々と面倒なことになり兼ねない。
加減せず戦うためにも、クティノスは面倒な敵を排除することにした。
「折角面白い戦いになりそうなのだ、不必要なものは消しておくことにしよう」
呟いたクティノスは床を強く蹴ると、クレシアとカイルの方に向かって勢いよく跳び、二人の間に移動した。
「う、嘘!?」
ファリスは視界に入っていたクティノスがもの凄い速さでクレシアとカイルの方へ移動したことに驚く。勿論、クレシアとカイルも遠くにいた敵が真横まで近づいて来たことに驚愕している。
クレシアたちはクティノスが魔法で戦うだけでなく、もの凄い速さで移動できる身体能力も持っていると知って衝撃を受けるのだった。
「コイツぅっ!」
驚いていたクレシアは両手の剣を振り上げ、目の前のクティノスに斬りかかろうとする。
カイルも近づいて来たことで、クティノスが至近距離で強力な魔法を放つのではと警戒し、魔法を使われる前に攻撃しようと剣を横に構えた。
クレシアはクティノスの右側、カイルは左側に立っており、左右からクティノスを挟んでいる状態にある。左右から同時に斬りかかれば、どちらかの攻撃は命中するのではと二人は予想していた。
「退いてもらおう……衝撃波」
クティノスが左右の手をクレシアとカイルに向け、同時に衝撃波を発動する。
衝撃波を受けたクレシアは大きく後ろに吹き飛ばされ、背中から床に叩きつけられると両手の剣を落とし、背中を擦りつけながら数m後ろに押される。
カイルはクレシアのように吹き飛ばされることは無かったが、足を床に擦り付けながら2mほど後ろに押された。
クレシアとカイルが離れると、クティノスは正面にいるエバンスとグオンに視線を向ける。
グオンはクティノスと目が合うと驚きの表情を浮かべながら後ろに下がる。護衛のエバンスはグオンの前に移動すると、グオンに背を向けながらクティノスに踏み込んでメイスを振り上げた。
「これ以上、俺の仲間は殺らせないぞぉ!」
「フッ、仲間を後ろにして私に向かってくるとは……何という愚行だ」
エバンスを小馬鹿にするように笑うクティノスは右手を正面に立つエバンスに向ける。
「雷鳥」
クティノスの右手から大きな電気の鳥が放たれて正面にいたエバンスに命中する。だが、電気の鳥はそれだけでは止まらず、エバンスの体を通過して後ろにいたグオンにも命中した。
『うあああああぁっ!』
エバンスとグオンはほぼ同時に電撃を受け、体を青白く光らせながら声を上げる。
電撃が治まるとネフィリアのように全身を焦がし、煙を上げながらその場に倒れ、目を開けたまま動かなくなった。
「ああぁっ!?」
仰向けになっていたクレシアはエバンスとグオンが倒れるのを見て声を漏らす。ネフィリアに続いてエバンスとグオンまで殺されてしまい、クレシアは倒れたまま驚愕の表情を浮かべた。
カイルとファリスも新たに犠牲が出てしまったことにショックを受けていた。カイルはフルフェイスの兜の下で辛そうに目を閉じ、ファリスは俯きながら悔しそうな顔をする。
「残るは、三人……」
エバンスとグオンを仕留めたクティノスは右手を下ろし、生き残っているクレシアたちの位置を確認しながら呟く。




