第105話 現状確認
カイルたちは突然の声に驚きながらも身構えて声が聞こえた方を向く。そこには入口前のエントランスで別れたバアルたちの姿があった。
「バアル、無事だったのね?」
ファリスはバアルたちの姿を見ると、思わず笑みを浮かべて声を掛ける。
右側の廊下を進んだはずのバアルたちが目の前にいることには驚いたが、無事だったことと合流できたことにファリスやカイルたちは安心して緊張を解く。
「ああ、途中でモンスターと遭遇したが何とか倒せた」
「そう……まぁ、アンタたちなら問題なく倒せるでしょうね」
マンティコアの一件でファリスはバアルたちが強者であることを知っているため、もし自分たちが戦った未知のモンスターと同じ個体と遭遇しても、バアルたちがやられること無いと確信していた。
バアルたちはカイルたちの前までやって来ると、左の廊下を選んだ者たちが全員揃っているのを確認する。
竜帝の霊鎧を使うカイルとクレシアがいるのだから、ビーストヒューマンたちと遭遇しても負けるわけないと分かっていたため、バアルは安心したような反応は見せなかった。
「ところで、どうして此処にいるのよ? 確か右側の廊下の先を調べに行ったはずでしょう?」
別の廊下を選んだのになぜ自分たちがいる左側の廊下にいるのか、理由が分からないファリスは不思議そうにしながら尋ねる。
カイルやクレシアたちも同じことを考えており、どういうことだと言いたそうな顔でバアルを見ていた。
「どうやら、俺たちが選んだ右側の廊下とアンタたちがいる左側の廊下は一番奥で繋がってるみたいなんだ。一番奥まで行ったら曲がり角があって、そのまま進んだらここに出たんだよ」
「成る程ねぇ……考えてみれば、これだけ大きな建物なんだから、廊下の奥が行き止まりになってるなんてあり得ないわ」
進んだ先が袋小路では広い建物の中を移動する際に手間が掛かってしまう。移動しやすくするため、廊下の奥がもう片方の廊下と繋がっていてもおかしくないとファリスは納得する。
二つの廊下が繋がっていることから、病院内の調査はしやすくなるとカイルたちは考え、同時に上の階も一階と同じような構造になっているかもしれないと予想した。
「……あの、神闘のメンバーは一緒ではないのですか?」
グオンはアルフォルトたちの姿が無いことに気付いて尋ねる。
リーテとエファリアはグオンの問いに反応し、僅かに表情を曇らせて目を逸らす。
二人の反応を見たカイルたちはアルフォルトたちに何か遭ったと悟る。
「アルフォルトたちは死んだ」
「えっ、死んだ!?」
バアルの言葉にグオンは思わず聞き返し、カイルたちも目を見開いて驚く。何か遭ったとは思っていたが、まさか全滅したとは思わなかったので全員が軽い衝撃を受けた。
驚くカイルたちを見たバアルは別れた後に何が遭ったのかをを一から説明し始めた。途中まで行動を共にし、分かれ道で別行動を取ったことや悲鳴が聞こえ、駆けつけた時にはモンスターに襲われた全員が死亡したことなど、一つずつ全てを偽りなく話す。
バアルが説明している間、エファリアは何もできなかった自分を情けなく思っているのか、目を閉じながら軽く俯いて黙っていた。
やがて説明が終わり、バアルは黙って話を聞いていたカイルたちを見つめる。
カイルたちが先程までとは違い、暗い顔をしながら黙り込んでいた。
「……まさかアルフォルトたちが死ぬとはな。気に入らない男たちだったが、もうこの世にいないと思うと気の毒な気持ちになる」
僅かに低い声を出しながら、クレシアは思ったことを素直に口にする。周りにいるカイルたちもクレシアを見ながら複雑そうな顔をしていた。
クレシアたちも性格に問題のあったアルフォルトたちを良く思っていなかったが、エファリアと同じで神闘が全滅したことに対して心を痛めているようだ。
ただ一人、ネフィリアだけはアルフォルトたちが死んだと聞いても何も感じていないのか、興味の無さそうな顔で自身の髪を捻じっている。
「それで、アルフォルトたちはどうしたんだ?」
状況とバアルたちの様子から、アルフォルトたちの遺体は別の場所にあると予想するクレシアはバアルに尋ねた。
「遺体は安全な場所に置いてある」
「安全な場所?」
モンスターが徘徊する場所に安全な場所などあるのか、そう疑問を抱くクレシアは小首を傾げながら聞き返す。
「此処に来る途中、他の部屋とは雰囲気の違う部屋を見つけた。そこにはビーストヒューマンのようなモンスターたちは入って来ない」
「モンスターたちが入って来ない? それってホントなの?」
信じ難い話を聞いたファリスは目を軽く見開いた。
「本当よ。モンスターは部屋に一歩も入って来なかったわ」
バアルの代わりにエファリアが問いに答えると、ファリスやカイルたちは一斉にエファリアに視線を向ける。
「それじゃあ、アンタは実際にモンスターがその部屋に入らないのを見たってこと?」
「ええ、私も最初は信じられなかったけど、バアルがビーストヒューマンを誘導して部屋に入ってくるか確かめたの。そしたら、部屋の入口前で立ち止まって、その後はこっちに興味が無くなったかのように何処かへ行ってしまったわ」
安全なことを信じてもらうため、エファリアは丁寧に部屋のことを説明する。
エファリアが言うモンスターが入って来ない部屋というのは、ダンジョンを造る際に必ず設置することになっている安全エリアのことだ。
病院はそれなりに広いダンジョンとなったため、バアルはダンジョンを造る時に三ヵ所の安全エリアを作ることにし、その一つを一階の一番奥に設置した。
ただ、エファリアはバアルたちと違って、安全エリアの存在やその部屋が本当に安全であることを知らない。今後、問題無く安全エリアを使用するためにも、エファリアに安全エリアのことを理解し、モンスターが侵入してこないことを分かってもらう必要があった。
エファリアにモンスターが侵入してこないことを信じてもらうため、バアルはさり気なく安全エリアがモンスターの入らない部屋であることをエファリアに伝えた。
その後にわざわざ病院内を徘徊するビーストヒューマンを見つけ出し、エファリアの前で安全エリアに入って来ない光景を見せ、安全な場所だと信じさせたのだ。
「モンスターが侵入してこない部屋を見つけた後、俺たちはアルフォルトたちの遺体をその部屋に移動させた。モンスターが入って来なければ、遺体を傷つけられることはないからな」
「では、今アルフォルトたちの遺体はその安全な部屋に置かれているのだな?」
「ああ、ちゃんと遺体が傷まないよう“停刻の聖布”で包んでな」
遺体の状態を聞かされたクレシアはどこか安心したかのような反応を見せて静かに息を吐く。
バアルの言った停刻の聖布とは、包み込んだ物の時間の進みを止めるマジックアイテムだ。
EKTでは腐らせたくない物や物の時間を固定させた状態で運ぶ際などに使われており、異世界でも肉や生魚と言った腐敗の早い食材を良い状態のまま運ぶ時に使われている。
更に遺体の腐敗を防ぐ時などにも使われており、今回バアルたちもアルフォルトたちの遺体の状態を維持するために使用した。
「えっ? 君たち、停刻の聖布を持ってるの?」
「ああ」
目を丸くしながら聞いてくるカイルを見て、バアルは不思議そうな顔で頷く。
停刻の聖布はマジックアイテムである上に高価な物なため、Aランク冒険者でも持っている者は少なく、カイルたちも持っていない。
高価なマジックアイテムを神闘のメンバー分持っていると知ったカイルたちは軽い衝撃を受け、ゴスペルはどれほどの資金を持っているのだろうと想像する。
因みにアルフォルトたちに使われた停刻の聖布はバアルがEKTの世界で手に入れた物だ。異世界と違い、EKTの世界では停刻の聖布は魔王迎賓館などで安く購入することができるため、バアルは大量に所持している。
「と、とりあえず、そのモンスターが入って来ない部屋とやらに行こうぜ? この後どうするかはそこで決めればいい」
停刻の聖布の話を聞いて驚いていたエバンスはまたいつモンスターと遭遇するか分からない状況から、安心して休める場所へ向かうことを提案する。
「……そう、だな。情報交換やアルフォルトたちの遺体の確認もしなくてはいけないからな」
クレシアもエバンスの話を聞き、いつまでもこの場にいるわけにはいかないと判断し、バアルたちが見つけた安全な部屋へ向かうことにした。
「バアル、すまないがそのモンスターが侵入してこない部屋まで案内してくれ」
「分かった。……ところで、さっきカイルたちと何か話してたようだが、そっちはいいのか?」
バアルの言葉にクレシアは思わず目を見開き、カイルやファリスも反応して視線をバアルに向ける。
「さっきのあたしたちの話、聞いてたの?」
「……ああ。カイルが『僕も本心を言うよ』って言っていたところからな」
聞いていたのは話の最後の辺りだと知り、ファリスは安心したような反応を見せる。
先程クレシアと話していたのは冒険者やギルドとは関係ない個人的な内容なため、ファリスとしては親しい関係であるバアルたちにも聞かれたくはなかった。
バアルは話を聞いていなかったような態度を取っていたが、耳のいいバアルにはカイルたちが何を話していたのか聞こえていた。
しかし、カイルたちにとって無関係な者に聞かれたくない話題だと予想し、最後の方だけ聞いたと嘘をついたのだ。
「何か大切なことを話そうとしていたようだが、今話すなら俺たちは席を外すぞ?」
「大丈夫よ。すぐ話さなきゃいけないことでもないしね」
急いで話すべきことではないと語るファリスを見て、バアルは「そうか」と言いたそうな顔で小さく頷く。
「ふぁ、ファリス、話を途中で終わらせちゃっていいの?」
若干強引にはクレシアとの話を終わらせたファリスを見て、カイルは小声で尋ねる。
カイルとしては、自分の本心をクレシアに話したいと思っていたため、話を終わらせたことに小さな抵抗を感じていた。
「いいのよ。今は調査依頼の最中で、モンスターが徘徊している場所にいるのよ? 直接依頼に関係のない話は全部終わってから。いいわね?」
「う、うん……」
真剣な顔で答えるファリスに迫力を感じたのか、カイルはこれ以上言うべきではないと判断した。
クレシアはファリスの言葉を聞き、プレッジに戻るかどうかの話を先送りにされて少し残念そうな顔をする。できることなら、早くカイルとファリスの気持ちを確かめたいと思っており、どこか寂しそうな目でファリスを見ていた。
「それじゃあ、その安全な部屋へ案内するからついて来てくれ」
バアルはクレシアたちに背を向け、安全エリアに向かうために来た道を戻っていく。
ファリスは歩き出すバアルたちを見ると、クレシアに背を向けながらゆっくりと歩き出す。すると、二三歩歩いたところでファリスがゆっくりと立ち止まった。
「クレシア、さっきの話の続きはヴァリンに戻ってからよ。今はこの病院の調査に集中しなさい?」
「……ああ、分かった」
個人的な話よりも、今は冒険者としてやるべきことをやらなくてはならない。クレシアはそう考えながら気持ちを切り替え、病院の調査に集中することにした。
「ただ、これだけは言っておくわ。……条件次第では、戻ってあげてもいいわよ」
ファリスはそう言うと、振り返ることなくバアルたちの後をついて行く。
カイルはファリスの言葉に意外そうな顔をしており、クレシアも目を見開いて驚いたような顔をしている。
先ほどのファリスの発言からプレッジへ戻る意思はあると分かり、クレシアは再び三人で夢を叶えることができるかもしれないと知って嬉しさが込み上がってきていた。
カイルは背を向けたまま語ったファリスを見て、素直じゃないなと感じて小さく笑みを浮かべる。
クレシアとファリスの会話を聞いていたエバンスはまた以前のように戻れるかもしれないと知り、何処か嬉しそうな顔をしている。
グオンも本心ではカイルやファリスと共に活動していたいと思っていたため、昔のように戻れるのならそれがいいと思いながら離れていくファリスを見ていた。
ネフィリアだけは、自分の望まない方向に話が進んでいることを不満に思っている。心の底では和解が上手くいかず、カイルとファリスをプレッジに戻さないままでいてほしいと願っていた。
様々な思いを抱きながら、カイルたちはバアルたちの後をついて行き、モンスターが侵入してこない部屋へ向かうのだった。
――――――
しばらく歩き、バアルたちはモンスターが侵入できない部屋に到着する。
部屋は少し狭いが廊下やこれまで調べた部屋と比べると綺麗で、部屋の隅には棚や休むためのベッドが幾つか置いてある。
部屋に入った瞬間、カイルたちは今までと違う雰囲気に安心感を覚えたのか、緊張が解けたような反応を見せた。
「成る程、この部屋は何か特別な力が守られているような感じがするな。これならモンスターたちが侵入できなくても不思議ではない」
バアルの言ったことが大袈裟でないと知ったクレシアは納得する。
カイルたちも此処なら少しぐらい気を抜いても大丈夫だと感じながら部屋の奥に向かって歩いて行く。
「それで、アルフォルトたちの遺体は?」
「あそこだ」
遺体の場所を聞かれたバアルは部屋の奥を指差す。
一番奥には練色の大きな布で包まれた長い物が五つ横に並んで床に置かれてあり、布を見たクレシアはそれが停刻の聖布で包まれたアルフォルトたちの遺体だと知った。
一応、遺体の状態を確認しておこうとクレシアはカイルたちと一緒に遺体の一つに近づく。クレシアは片膝を付くと停刻の聖布を少しだけめくり、中で目を閉じているアルフォルトの遺体を目にした。
遺体を見たクレシアたちは改めて表情を曇らせた。嫌っていたとはいえ、死んでしまったのを見るとやはり気持ちが滅入ってしまう。
クレシアはめくっていた聖布を丁寧に戻し、心の中でアルフォルトが安らかに眠ってくれることを祈った。
遺体の確認を終えたクレシアは立ち上がってバアルたちの方を向く。その顔からは先程までの曇った表情は消えており、冒険者らしい鋭い表情に変わっている。
「……お前たちに方で何か有力な情報は得られたか?」
アルフォルトたちの死を確認してからすぐに気持ちを切り替えたクレシアを見て、バアルは流石は勇者候補だと感心し、周囲に気付かれないくらい小さく笑う。
「右側の廊下を調べた時、この病院に関することが書かれた書類を見つけた」
「書類? それは今、手元にあるのか?」
「ああ、コイツだ」
バアルは懐に手を入れ、見つけた書類と解読の透鏡を差し出す。
書類と片眼鏡を受け取ったクレシアは早速書かれてある内容を確認しようとするが、見たことの無い文字で書かれてあったため、内容が理解できない。
クレシアの後ろから書類を覗き見るカイルたちも見慣れない文字を見て目を丸くしたり、驚いたりしている。
「そのままじゃ読めねぇよ。一緒に渡した解読の透鏡を使って見るんだ」
バアルの助言を聞いたクレシアは書類から片眼鏡へ視線を向ける。
片眼鏡であることから、レンズを覗きながら書類を見ればいいと予想するクレシアは解読の透鏡と呼ばれた片眼鏡を右目に近づけた。するとレンズ越しに映る書類の文字が見慣れた文字へと変わり、文章が読めるようになったことにクレシアは驚く。
「これは読めない文字を知っている文字に変えるマジックアイテムなのか?」
「ああ、解読の透鏡と呼ばれている物で病院の中で見つけたんだ」
未知の文字が書かれた書類と同時に、文字が読めるようになるマジックアイテムが見つかったことで、クレシアは自分たちに都合が良すぎるのではと感じていた。
まるで誰かに仕組まれているような状況に思えたが、流石にそれは考えすぎだとクレシアはあまり気にせず、書類の内容を確認する。
カイルたちは書類に何と書かれているのか気になっていたが、今はクレシアが読んでいるため、終わってから順番に確かめることにした。
「……まさか、こんな秘密があったとは……」
書類を読み終えたクレシアは目を僅かに鋭くしながら、解読の透鏡を目から離す。
不機嫌そうな様子のクレシアをバアルは無言で見つめる。既に書類に書かれてある内容を理解しているため、クレシアが何に機嫌を悪くしているかも分かっていた。
「クレシア、書類には何て書いてあったの?」
「読んでみろ……」
クレシアは表情を変えずに持っている書類と解読の透鏡をカイルに手渡す。
カイルはクレシアがやったように解読の透鏡を通して書類を黙読する。
ファリスもカイルの隣でレンズ越しに書類の内容を確認し、徐々に驚きの表情を浮かべていった。
「……これって、ホントなの? だとしたら相当イカれた話よ?」
書類の内容に驚愕するファリスはバアルたちの方を見て尋ねる。
カイルも信じられないような顔をしながら書類と解読の透鏡を持つ手を下ろした。
「ちょっと、何て書いてあるの? 私たちにも見せなさいよ」
「う、うん……」
カイルは少し動揺しながらもネフィリアに書類と解読の透鏡を渡した。
受け取ったネフィリアはすぐに書類の内容を確認する。エバンスとグオンは内容が気になっているのか、ネフィリアの隣から半ば強引に解読の透鏡を覗き込む。
自分が確かめているのに強引に覗いてくる二人にネフィリアは鬱陶しそうな顔をするのだった。
「この病院が二百年前の魔王が造った物で、先程戦った人型のモンスターたちは魔王が世界征服のためにこの世界の人間や亜人をモンスターに作り変えた存在だったとは……」
「二百年前の魔王は残忍な性格だったって聞いたけど、まさかこんなことまでする奴とは思わなかったわ」
自身の野望のために人々を平気で傷つける二百年前の魔王をクレシアとファリスは恐ろしく思い、それと同時に怒りを感じる。
書類を呼んでいたエバンスたちもクレシアやファリスと同じ思いなのか目を鋭くしたり、驚いたような表情を浮かべていた。
「もし、この病院に人間や亜人をモンスターに作り変える技術やそれに関する情報が残っていたとしたら、全て処分した方がいいわ。魔王のような冷酷な人の手に渡って悪用されれば、大変なことになってしまうもの」
「そうだな。ギルドマスターは情報を見つけたら持ち帰るよう言っていたが、人間をモンスターに変える情報は持ち帰る必要は無い」
技術や情報は残しておくべきではないと語るエファリアにバアルは賛同する。
クレシアたちも恐ろしい情報を手に入れても、ろくなことになならないと分かっているのか、二人の考えに反対することはなかった。
「それで、この後はどうする? もう少し一階を調べてみるか?」
エバンスは今後の予定はどうするか、バアルたちを見ながら尋ねる。
神闘が全滅したとはいえ、まだ一時間経っていないので調査を続けることはできる。このまま調査を続けるか、それとも一度病院を出て野営地に戻るか、エバンスは各チームのリーダーであるバアルたちの意見を聞くことにした。
「……制限時間までまだ三十分近くあるし、ここまで順調に調査できているんだ。時間ギリギリまで探索しよう。もし病院を出て、再び入った時に調査し難い状態になっていたら厄介だからな」
効率よく調査ができているため、その流れを止めないためにもクレシアは病院の調査を続けるべきだと提案する。
クレシアの話を聞いたエバンスも、再び病院に入った後に上手く調査できなくなってしまったら、後々面倒なことになると思っていたため、調査を続けることに納得していた。
ネフィリアは効率の良さなどは関係なく、クレシアの提案に賛成するつもりでいたため、笑みを浮かべながらクレシアを見ている。グオンも調査を続けても問題無いと考えており、不満などは一切見せなかった。
「ファリス、どうする?」
カイルがファリスに声を掛けると、ファリスは真面目な顔をしながら口を開いた。
「あたしもこのまま調査を続けるべきだと思ってるわ。アルフォルトたちの遺体は停刻の聖布で保護されてるし、この部屋ならモンスターたちが侵入してくることは無いから心配ないわ。それにクレシアの言うとおり、一度外に出て病院が調査し難い状態になったりしたら、たまんないからね」
今回はクレシアの意見に賛成のファリスを見て、カイルは悩むような顔をするが、しばらくするとファリスを見ながら小さく頷く。
自分よりも冒険者としての知識が豊富なファリスやクレシアが調査を続けるべきだと判断したのなら、カイルはそれに従った方がいいと考えたようだ。
「バアル、あたしたちはこのまま調査を続けるべきだと考えてるけど、アンタたちはどう思ってるの?」
「俺たちも同じ意見だ。今のところ、病院を出なければならないほど大きな問題は起きていない。なら、このまま調査を続けるべきだろう」
冒険者が依頼中に命を落とすことは珍しいことではないし、他のチームと共に依頼を受けている状態でまだ調査できる冒険者が大勢いるのだから、調査を中止する必要も無い。
バアルは現状から病院を出る必要は無いと考えていたため、クレシアたちに同じ意見であることを伝える。
何よりもここでクレシアたちを病院から出してしまったら計画が狂ってしまうため、病院から出ることを提案する気は無かった。
「決まりだな。……で、この後はどうする? もう少し一階を調べるか?」
この後どのように調査するか、クレシアは周りにいる者たちの意見を聞こうとする。
カイルたちは難しい顔をしたり、俯いたりしながら考える。
「……左側の廊下や部屋は全部調べたのか?」
バアルが一階の左側の調査がどこまで進んでいるか尋ねる。
右側の廊下やそこから行ける部屋は全て調べ終えているため、バアルは左側の調査状況を確かめてからどうするか決めるつもりでいた。
「左の廊下から行ける場所は全て調べた。ただ、重要なアイテムや財宝、書類とかは一切見つからなかったがな」
書類を見つけたバアルたちと違い、一切有力な情報を得られたなったことに対し、クレシアは申し訳なさそうな顔で答える。
「そうか……右側の廊下から行ける場所も全部調べた。もう一階で調べる場所は無いってことか」
「と言うことは……」
「ああ。病院の構造やどんなモンスターが出るかも分かったわけだし、上の階を調べよう」
上の階に上がると言うバアルの言葉に一同は一斉に反応する。
一階は調べ尽くしたため、これ以上調査しても意味は無いと考えているのか、誰一人上に上がると言う提案に反対しなかった。
二階や三階は一階以上に有力な情報や財宝がある可能性が高いため、クレシアたちは病院に関する情報は得られるのか、珍しいアイテムは手に入るのかなどを考えている。
エファリアとカイルはビーストヒューマンたち以上に強力なモンスターが棲みついているのではと予想し、少し緊張しているような顔をしていた。
バアルはクレシアたちが上の階に行くことに反対しないのを見て、問題無くクレシアたちを上に誘導できると感じていた。
「全員、上に上がることに賛成のようだな。……それじゃあ、上の階をどうやって調べるか決めよう。一階を調べた時のように全員で二階を調べるか、それとも二手に分かれて二階と三階を調べるか」
「そうだな……一階を調べて構造やモンスターの情報は大体分かった。これなら、各チームが別の階を調査しても大丈夫だろう」
「それじゃあ……」
クレシアの考えを察したバアルが呟くと、クレシアはバアルの方を見ながら小さく頷く。
「効率よく調査するために二組に分かれ、二階と三階を調べることにしよう」
予想どおりの提案をしてきたクレシアを見て、バアルは再び周囲が気付かないくらい小さく笑う。病院に入ってから計画どおりに事が運んでいるのでバアルは気分を良くしていた。
カイルたちもクレシアと同じように問題無く調査できると考えているのか、分かれて各階を調べることに反対しなかった。
「いいぜ、俺もそうするつもりでいたからな」
バアルが分かれて調査することに賛成だと知り、クレシアは揉めることなく調査を始められると安堵する。
「それで、どのチームがどの階へ行く?」
どのように戦力を分けるか、バアルたちは各階の状態やモンスターの数などを予想しながら、調査するチームを決めていった。




