傾国の災姫 31話
ベネディクトが真なる地皇のシジルを選び取ると、真なる炎帝のシジルは引っ込んだ。
「これならば、どうですか」
土の槍が一斉に突き上がる。
メディはヘビの触手を巧みに使い、俺を乗せて浮遊で回避した。
「ありがとう、メディ」
「キシャアアア!!」
ハゲとセレスも紙一重で躱す。下から突き上がる槍を、ハゲは前蹴りで崩した。飛び散った岩片の一つが、ベネディクトの頬を掠める。
「……これも、通用しませんか」
「あんたのそれ、ちとぬるいぜ」
ハゲが薄ら笑いを浮かべ、一歩で距離を詰めた。拳を振りかぶり、仕掛けようとする
だが、ベネディクトは真なる嵐王のシジルへ瞬時に切り替え、風圧でハゲを強引に引き剥がす。
追撃とばかりに、飛ばされたハゲへ真空刃が放たれた。それを、メディの麻痺の魔眼が空中で止める。
「邪魔です」
続けて、俺とメディめがけて第二波の真空刃が飛ぶ。直前に魔眼を発動したばかりで、クールタイムが残っている。止められない。
メディが身を挺して俺の前に出た。切り裂かれ、黒い靄となって召喚が解除される。
「メディ、来い」
すぐに呼び戻す。その召喚の隙を守るため、セレスがすかさず剣で猛攻を仕掛けた。
ベネディクトは地のシジルで即席の分厚い土壁を立ててガードし、そのまま壁ごとセレスへ弾き飛ばす。
セレスの竜が、それを尾の一打で叩き落とした。
(今まで戦ったすべての敵の技を使う それ故に対応力が高い… さすがに強いな……だが)
ベネディクトが、見たことのない模様のシジルを呼び出し、腕を勢いよく地に振り下ろす。
*ゴォ……!!*
自分の体重が何倍にもなったように、身体が重い。全員が、一斉に地に膝をついた。
(……体が、急に重くなった!?)
「不可視の攻撃ならば、その目玉の対策になりますかねぇ…… 貴方さえ先に倒してしまえば!」
(重力を操る力か?)
ベネディクトが接近してくる。予備のダガーを抜き、俺に振り下ろした。
「旦那!」
「キシャアア!!」
俺の後ろから出たばかりのメディが、石化の魔眼を発動した。
ベネディクトの足から膝にかけて、瞬時に石と化していく。
「な……!これは」
ベネディクトは焦ったのか、咄嗟に治癒の力を持つシジルを発動してしまう。
その瞬間、重力が解けた。動けるようになったハゲが、勢いをつけて一足飛びで距離を詰めると、奴の横腹に拳を叩き込んだ。
「うらぁ!!」
*ドゴォ!!*
「ぐふっ……!?」
勢いよく壁に叩きつけられたベネディクトは、自力で壁から身を剥がす
ゆっくりと口元の血を拭って言った。
「なるほど……それが切り札ですか。 ……ですが、残念でしたね」
治癒のシジルを再び発動し、笑みを浮かべる。
「これで……もう、回復しました。 お生憎と、消耗戦はこちらも得意なのですよ。 他の者と違い、シジルを発動しても自身にかかる負担はほぼありませんからねぇ。 これが、選ばれし者の中でも最強の――そう、神光のシジルの力の神髄ということです」
(ベネディクトがもつ、神光のシジルのからくりは…… 一見、弱点がないように思えるが……)
「だが、そのシジルは必ず一種類ずつしか発動できず、本来の使い手よりも出力が格段に落ちる。 保有できるシジルにも限りがあって、杖が壊れた今はその力を十分に発揮できない。 違うか?」
ベネディクトの顔から笑みが消え、真顔に戻った。
「そして、今、ひとつのシジルで対処できない攻撃を、同時に与えたらどうなるかな……?」
セレスたちに目配せをすると、相槌のような視線が返ってきた。
「ッチ……分かったところで、対処など不可能ですよ!」
奴が重力のシジルを発動する。その出鼻に、メディの麻痺の魔眼が被さった。
「うぐ……!?」
相手の動きを止めるだけのスキルだが、たったの数秒でも大きい。
この隙に、セレスの竜がよろめきながらも、前足でベネディクトを地面に叩き伏せて固定した。ハゲが、容赦なく頭部へ一撃をお見舞いする。
「グオオオオ!!」
*ドゴォ!!*
だが、黙って殴られているだけではない。ベネディクトは地のシジルに切り替え、竜とハゲを丸ごと土の槍で串刺しにした。
「……ッ!!」
「くそ……! ハゲ、すぐに戻ってこい!」
ハゲはすぐに呼び戻せる。だが、竜は……
竜はそのまま、瞳からゆっくりと光が失われていく。それでも、ベネディクトを押さえつけていた前足の爪だけは地面に深く食い込み、かろうじて奴の動きを封じ続けていた。
セレスは一筋の涙を流しながらも、自らの呪いとも言える力を解放していく。
力が彼女の剣に集中する
「絶対に、無駄には、しない……!!」
俺はメディに合図を送り、セレスの背後に配置した。
呼び戻したハゲが、さらに一足飛びで爪の拘束から抜け出そうとしていたベネディクトの背後へ回り、そのまま羽交い締めにした。
「いまですぜ! 嬢ちゃん、やっちまいな!!」
「何を……!!? 放せぇっ!!」
ベネディクトが地のシジルで即座にハゲを滅多刺しにし、召喚を解除させる。 拘束を振りほどくことに成功したが、そこに、さらにもう一人、彼を羽交い締めにする者がいた。
「いい加減、若い者を信じようじゃないか。 我々は、そろそろ退場するべきじゃないか? ……お互いに、な……」
ヴェルディア王、エドワード
地に伏していたはずの男が起き上がり、最期の力を振り絞り、奴の動きを押し止めたのだ。
「な……ゴミの分際でぇええッ!! くそ、シジル発動まであと二秒!! 放せ!ゴミムシぃ!!」
その間にも、セレスは、シジルにありったけの力を込めていた。
「お父さま、お母さま……みんな……!!」
真なる増幅のシジル。
真なる氷帝のシジル。
そして、彼女の第三の真なるシジル……母から受け継いだ、その名も『真なる鋼心のシジル』が、輝きを増す。
(これは……彼女が一度だけ見せてくれた、もう一つのシジルか…?)
土壇場で覚醒した身体強化が、真なる増幅のシジルによってさらに跳ね上がる。そして真なる氷帝のシジルは、増幅と鋼心によって……完成される!!
三つのシジルが同時に輝き、彼女の髪と瞳を金色に染め上げていく。
剣へと収束した極限の光が、一瞬の、不気味なほどの静寂を生んだ。
「女王の名において命じます。 ……わたくしと共に死になさい、ベネディクト」
――『真・ネビュラ・ケンタウルス』!!
すべてを白く染める極光の青い光線が放たれた。
余波だけで、周囲のありとあらゆるすべてを順序よく氷漬けにしていく。
ベネディクトはエドワードを振り払い、直撃の寸前で真なる森王のシジルを発動した。
周囲の植物すべてを引き寄せ、絡め、折り重ねて受け止めようとするが
セレスの放った攻撃はそのすべてを貫通すると、光線は城をぶち抜き、森を冬に染め上げていった。




