傾国の災姫 30話
「ハゲ、メディ、出てこい。パーティ戦だ!」
闇色の魔法陣が二つ、足元に同時展開される。
黒い靄が吹き上がった先に、グラップラー仕様となったハゲと、単眼をぎょろりと開いたメディが並び現れた。
「旦那、敵はあの胡散臭い奴ですかい」
「キシャァ……」
ハゲは拳を一度突き合わせ、ガァン!と強い音を響かせた。
メディは俺の後ろに控え、常にどちらの視線でも敵を射抜けるよう位置を移動する。
「ふぅむ……なるほど。異形の力を従えるというわけですか」
ベネディクトは動じなかった。
「ある種、納得できました。この世ならざる異形が相手ならば、敗北する可能性が万に一つもないわけではないと」
周囲を周回するシジルたちを一瞥し、その中のひとつを指先で選ぶように触れる。
選ばれた一枚が、他のシジルを押しのけるように前方へ進み出て、彼の手に収まった。
(ん…あのシジル、見覚えがあるぞ…)
孤高に燃え上がる紋章
グレイドの、真なる炎帝のシジルと同じ形に思える。
(グレイドの死体から、回収していたというわけか……)
「では、灰にしましょうか」
ベネディクトが手をひと振りする。
大気が灼熱に膨れ、炎塊が前方へ押し出された。
(来る――!)
「グレイドの黒点砲がくるぞ! 備えろ!」
俺は反射的にグレイドの必殺技 黒点砲を想起し、身構えた。
直撃すれば灰燼に帰す、あの極大の波動。あれを狭い玉座の間で撃たれれば、全員跡形も残らない。
――だが。
迫ってくる極大の火球は、床石を舐めるように焦がしていく。
(火球……? 視界を埋め尽くすほどの、あの黒点砲じゃない)
火球は、確かに上位の炎攻撃には違いない。生身の人間なら一人残らず消し炭になる威力はある。
だが、グレイドが命を燃やして撃った極大砲撃と同じシジルとは到底思えない規模だ。
(同じ真なる炎帝のはずなのに、なぜ?)
火球がハゲとセレスの立つ位置へ迫っている。ハゲの拳で逸らすには威力が大きすぎ、セレス力をここで使い切るわけにはいかない。
ハゲに目配せすると、彼は笑って頷いた。
「退きな、嬢ちゃん」
ハゲが、セレスを突き飛ばすように押しのけた。
「ちょ、ちょっと!?」
「旦那ぁ、よろしく頼みまさぁ」
ハゲは笑いながら、自ら火球の前に身を投げ出した。
ゴォッ、という音と共に、ハゲの上半身が一瞬で炭化する。
「なぜ!!」
セレスが叫んだが、ハゲの表情は最後まで緩んだままだった。
灰になって、崩れ落ちる。
「……ほう。仲間を盾にしましたか 直接攻撃を受けないあたり、妙に小賢しいですね」
ベネディクトが、愉快そうに首をかしげる。
俺は答えず、ただ手をかざした。
「出てこい、ハゲ」
闇色の魔法陣 黒い靄が立ち上り…
「へへっ、へへへ…!」
傷ひとつないハゲが、拳を鳴らしながら立っていた。
ベネディクトの表情が、初めて固まった。
「な……馬鹿な。 殺したはずだ! 蘇った……だと……?」
「ハゲはアンデッドでね。痛みは感じないし、何度殺しても戻ってくる。……悪いが、あんたの炎はうちのパーティにとって、大した脅威にならないんだよ」
大した脅威にならない、と言い切ってやる。
ベネディクトの口元が、ほんのわずかに引き攣り、炎のシジルから手を離した。
「いいでしょう……腐っても真なる力を破りし者ということですね」
炎の紋章が、用を終えた従者のように彼の背後へ退き、再び周囲の軌道に戻っていく。
代わりに、別の一枚が前方へ出てきた。
(シジルを戻して…別のシジルを出す?…ひとつずつしか出してこないのか…?)
頭の片隅に、小さな違和感が引っかかる。




