光り輝く主人公
★光り輝く主人公
《前半》
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瓦礫に倒れ込む山の女神に巫女式神は近寄る。
「春木……」
傷口から血を流した山の女神は何とか立ち上がろうとして、倒れた。赤い血になっているのに気づき、巫女式神はハッとする。
「私の神性が薄れてきている-今しかないわ。あれが縫い付けられている間に……あれは次元や生命など地球上のあらゆるものを傷つけ、破壊できる。自由になったら勝ち目がない。」
巫女式神は縫い付けられた天津甕星を見遣り、焦燥する。
「あたしじゃ戦えないよ」
ボロボロになった女神が手のひらの上に神鏡を召喚した。
「これは神々が干渉していた時代のものだから、私の力を充分に吸い込んでいる。カオスから秩序が覗いたら、これで照らして。」
「それは…。」
「ルールを映し出す鏡。こんな風に使うのはあれだけれどね。これなら蔓延するカオスを退けられ、ルールをリセットできる。」と。
「リセットしたら、あんたのルールもなくなってしまうんじゃ…。」
「そうさ。でもまたやっていけばいい。何度もリセットしても、やり直せばいいんだ。今はそれしかない。さあ。」
「…あ、あたしがそれを?
」
「あなたならできる。一番上だと思うくらいに、高い所へ掲げるんだ。宇宙をうつしだせ。希望を信じろ、太陽を思い出せ。絶対に光は現れる……。」
苦しげに女神は横臥した。
「ま、待ってくれよ!あたしが、そんな大役-」
「私たちはもう終わってるんだ。変わりたくてもね。なら誰がやる?お前しかいないだろ?」
「…あたしはただの式神なのに」
「いいや、お前は何にだって成れるさ。そんじょそこらの魔にも神威ある偉大な神になれさえする。未知数な生き物だからだ。それをこの最高神が望んでいるんだ。」
「……!うん、やるよ!やってやるよ!」
「その意気だ!ドカンと一発かましてやれ!」
女神がどすんと巫女式神に鏡をおしつける。「う、うん!」
鏡を手に飛び立った。
冷静と鬼はカオスの中、何かを感じ取る。「山の女神の神性が弱まっている。」
冷静がいい、鬼は眉をひそめた。「この時空はいつまで持つ?」
「精々半日持つか持たないか、かねえ?もう天津甕星の無茶ぶりについていけねえのさ。」
「はははっクソッタレだな。」
「ここまで来ても死ぬのが怖いのかい。」
「当たり前だろ。アンタとはロクな時間を過ごせなかったな、クソだ。」
天の犬はふっと吹き出す。「ホントだな。」
「………………最後の晩餐だ。食っていいぞ。」
鬼が言うと、冷静は大きな月を見上げる。「小さな月だ。間食にもならねえ。」
「そういうなよ。我々には重大なものなのだから。」
「ふふ、さよならか。もう会えるとは思えんがな。」
「ああ、短い間だったけど。」
鬼は巫女式神の片割れを解放し、天の犬として放つ。
巨大な犬は遠吠えをすると、宙にとびあがる。空気を蹴り、天の犬は大口を開け月を飲み込むと元の世界へ戻っていった。規則のある「ゆらぎ」が顔をのぞかせる。
?
「偽物の月が消えた?……あれは!」
鏡を持ち上昇していた巫女式神が空を見上げ、差し込んだ薄光を望む。
「カオスが晴れたっ!」
羽をさらに羽ばたかせ、空を昇る。光へ向かい、巫女式神は逆光の中点になった。
「はあはあ……」空気が薄くなり息が上がる。巫女式神は鏡を掲げた。
「クソっ!こんな光じゃ足りねえっ!」
そう叫んだ途端、神鏡がずしりと重くなる。あまりの重さにバランスを崩し、落下した。ビュウビュウと風鳴りが聴覚を支配し巫女式神は目をギュッと瞑る。
「終わりかよお!」
あまりにも重たい鏡を離しそうになった瞬間、墜落する巫女式神を何かが受け止める。大きな金翅鳥が羽を広げ、光を放っていた。
「!」目を丸くしてフワフワのお腹に脱力する、金翅鳥の眩さが暗闇を裂く。「た、助かった。」
その瞬間ネーハの姿になり、お姫様抱っこされていた。
「君を見つけられてよかったよ。」
「ありがとう…もう、無理だ…あんたがやっておくれ…」鏡を手渡そうとする巫女式神に叱咤をとばす。
「へこたれるなっ!-希望を抱き続けるんだ、巫女式神。」
「希望ってこの状況で抱けるかよっ!」
「希望を抱かなければこの神鏡は輝かない。怖いかもしれないが、今は無視しろ。」
「無視って、無茶言うなよ…怖ぇよ」涙を拭きながら、巫女式神は食い下がる。
「大丈夫だ。巫女式神、君はまだやり残したことがあるんじゃないか?」
ネーハは力説する。「童子式神に会うんだろう。」
「うん…。」
「希望を捨てるな。童子式神に会うまでは」
「会えるかな。」
「会えるさ-きっと」その言葉に巫女式神は胸を打たれる。かつて鬼にいった言葉だったからだ。
「今は、良きことも悪しことも何もかも忘れて希望にすがれ!いけ!巫女式神っ!」
羽を広げ、巫女式神を抱え上昇する。
「よく言うよ、お前さんが-」
ネーハを踏み台にしバサッと翼を広げ、巫女式神はもう一度飛びたつ。
「待ってろ!童子式神っ!」
ネーハは羽ばたくのをやめて落下する。
-ああ、全知全能の神はこれを…課すために私を護法童子にしたのか……加護がなくなれば-無明が、待っている。
-それも、受け入れるしかない。
ネーハは光り輝く巫女式神の背を眺め、下に落ちていった。
巫女式神は女神から託された鏡を手に上空に旅立つ
。鏡が軽くなり心做しか光を放っているように思えた。
巫女式神の体が輝き、目の色が黄緑色に変わる。何者(神使)になり、上位の力を手に入れる。
「あたしは……!決めたぞ!何者なのか!こっちの勝ちだ!こっちの勝ちだぞ!」
「童子式神っ!」
ゆらぎから太陽が覗き、巫女式神は鏡を掲げた。光が炸裂する。
場面は変わり、有屋鳥子と山の女神が泥に浮いた瓦礫の上に立っている。
「先輩、いいのですか。あなたのルールは無くなるんですよ。」
光が降り注ぐ中、二人は話す。支えられた山の女神はそれを仰ぎ、ポツリという。
「ああ、いいんだ。もう私の役割は果たされた。そうこの星も言ってる。」
「…私には分かりません。いや、理解したくない。」
肩に寄りかかり(?)、有屋鳥子は瞼を伏せた。山の女神は光りをしかと見て、瞳に巫女式神を写す。
「使わしめになったんだね。」
ゆらぎから太陽が覗き、巫女式神は鏡を掲げた。鏡がピシピシと悲鳴をあげ、砕け散った。同時に砕け散った破片が空に巻き上げられ、大きな鏡(?)に変じる。上層と繋がり、太陽の光が町に降り注ぐ。視界が光に包まれ、巫女式神は童子式神を見つけ手を伸ばした。
? -今、声が聞こえたような。…いいや、幻聴か。なんにもない。ここには、なにも。可能性や未来すらなくなってしまったみたいだ。
暗闇が五感を包み込み、視界があるのかと目を瞬かせ手のひらを見る。童子式神は行き倒れていた。
-満身創痍だ。……体も動かない。
-………。
童子式神は顔をクシャッとさせ、伏せながらギュッと手をにぎりしめる。
「死ぬ…のは嫌だ。」
「まだ……」手を付きながら体を起こす、震えながらも立ち上がろうと躍起になった。
「まだ終わってたまるかっ!」
パシッと、暗闇にヒビが入る。
童子式神も虚無の中で自分にまだ力があることを確信する。主が残してくれた?力だった。
「まだおめーには山ほど言いたいことがある!」
虚無から虚無へと次元をこえ、外へ近づく。徐々に光の点が大きくなり、バッと開けた。先に巫女式神が居た。※コマを使って次元を超えているのを表現する。
「巫女式神っ!」
手を掲げる巫女式神と出会い、お互い手を伸ばし触れ合う。※コマの外で手が触れ合う。
手を握り、触れ合った2人はお互い見つめ合う。童子式神はいう。
「あっしは巫女でもない、天津甕星でもない。童子式神だ。」
「決まったんだな、何者か。」
「ええ、神格は得られませんでしたが…不思議と嫌ではないです。童子式神になれて良かった。」
「あたしも、だ。」
二人は笑い合う。
「-あっしから全てを持っていけ。感情も夢も、何もかも!」
「ああ!持っていくよっ!あんたの夢、叶えてみせる!」
「それでいい!ああ…!おめぇは神威ある偉大な希望の星だ!」
光が2人を中心に瞬き、全ての世界線の帰路をちぎる。巫女式神の瞳から涙を流れ、不思議がる。
「…さようなら、巫女式神。」
「おい!」
手が離れてしまい、光の世界が遠のく。
《後半》
? 《辰美が剣で穿ち、巫女式神がさっちんを焼き尽くす(照らす)?》
《※辰美が町の巫女となり神の力(手の描写)を借りて、剣を振り下ろした。》
巫女式神は落下しながらも涙を流す。水滴が空を舞い、髪がほどける。
どさりと草原に落下した巫女式神は、傷だらけになりながらも突っ伏した。
「いてえ……」
鳥のさえずりを聴きながら、巫女式神はそのまま寝そべっていた。
テリトリーが光で狭まっていき、カオスが弾ける。泥まみれだった世界が自然の風景に戻り、草原が出現する。文明が壊れ、月日がたった越久夜町が現れ太陽の光が雲から差し込んだ。
「ぐ、くそ…!どこまでも貶してくれるじゃねえかよ!」
槍に繋ぎ止められた天津甕星が、グラリと立ち上がる。巫女式神は「まだ、形を保ってんのか!!?」
「おい、何見てやがる。アホウドリ、この槍をぬけ。」
「…あの、威光でも焼けきらなかったなんて。」
力が入らず呻く。「な、んも変わらなかったのかよ」
「さあ、俺を受け入れろ。ハッピーエンドにしたいんだろう?神威ある偉大な星の使わしめに-憑巫になれ!」
「嫌だっ!」
巫女式神は耳を塞ぐ。
「はは……笑えるぜ。この期に及んで笑えるとはなァ!お前も拒絶するのかっ!」
槍をぬこうとした天津甕星の体に亀裂が走っていき、自らが消滅するのを悟る。
「あ、」
亀裂から巫女の腕が伸び、天津甕星を抱きしめた。
「!」
-わたしはあなたを拒絶しない。…わたしたちはわたしたちのままで、一緒に終わりましょう。
「神世の巫女?!」
巫女式神が驚く。
「一緒に終わる」
「ええ、もう、お互い…この苦しみから解放されましょう。」
天津甕星は光り輝く空を眺め、目がやがて空洞になる。
「おめえは、この俺を、自らを辱めたヤツを受け止めるのか。ハハ!愚鈍なオンナだ!」
「あなたを鎮める。神々の声や光、穢れを受け止める。それが、巫女としての役目だから。」
「全くもって馬鹿なヤツ……」
灰になる天津甕星を抱きとめた巫女。
「てっきり、あのガキが受け止めるのかと思っていたが…そうか、そうなのか。一杯食わされるもんだな--」腕の中で、天津甕星は塵になり散っていった。
寝転がりながらもこちらを見る巫女式神をみやる。
「あんたが童子式神の」
遠のくカオスの中で巫女式神は、巫女が悲しそうな笑みを浮かべるのを垣間見、何故かと不思議がる。「なぜ笑えるんだ?負けたんだぞ!終わるのが怖くないのかよ?!」
巫女は光の中に溶け消え、巫女式神は残される。何も無い白い空間、わけも分からぬまま空から太陽が眩く照らしてくる。
瓦礫の山に上り、立ち尽くし、居なくなった巫女たちの場所を眺めていた。しん、と静まり返った空気に巫女式神は素直に喜べなかった。
※服装が巫女と朝服を合わせた物、髪型が童子式神の分霊時代風になり、髪飾りが追加されている。
? 奈落の底に落ちた童子式神。髪飾りは割れ、髪がはだける。
-終わった…。割れた髪飾りは無印になり、パラパラと灰になって崩れていく。
「本当の終わりを迎えたんスね。」 静かに呟いて童子式神は立ち上がり、崩れ果てた異界のしめ縄の墓場を眺める。
しめ縄の向こうに幼い頃の主がいた。出会った頃の少年が佇んでこちらを待っている。
-ここは魂の終着点。
主に歩み寄り、二人は向かい合う。「あなたも終わるんですね。」
「ああ。俺たちは終わりだ。来るのが遅かったな。」
「………ええ」
「分かっているとは思うが、ここは終着点、死の世界。行き止まりさ」
「もう先はないのですね。名残り惜しいです。」
「……。お前が"俺"を食べてくれたから、ここにいれる。憧れの残骸としての"主"なんだ。」
「あっしももう何かの残骸なんすか」
「そうかもしれないな」
「…結局願いを叶えられませんでした。あなたの魂を食べたのに」
「願いなどそう叶うもんじゃない。自分で言うのもなんだがね。…前世の自分もあの日を願って何度も繰り返していたのかもしれない。でも…このザマだお互いムリだったんだ。」
「おやめください!あっしらの全てを否定するおつもりですか!」
「そろそろ消えてしまうんだ。何もかも。」
「…」
「巫女の無念も希望も今は自分が持っている、このままでは全部、消えてしまう。巫女やオレという人間がいたことを覚えていてほしい」
「どういうことスカ?一緒に終わるのではないのですか?」
「お前に託したいんだ。残骸でも持っていれば役に立つ。あっちで生きてくれ。」
童子式神は首を横に振る。
「いいえ。あっしは…これまで貰ってばかりで何もくれてやれなかった。幾人の魂を食べてきました。主さま、生きて欲しいのはあなたです。確かに巫女の思いも、天津甕星の願望も、わたくしの願いも…なかったことにしたくはない。あなたに輪廻を巡って欲しいのです。」
「わがままだな。だが地球はそれを許してはくれないだろう。オレはもう、巡れないんだ。」
「…わたくしも、そうなのではないでしょうか……。」
手を差し出され、童子式神は顔を上げる。「なら、終わるしかない。残念だが、それでもいい。」
《原案:自らは死んだが、童子式神の中の憧れの残骸としての主だと。童子式神は結局は願いを叶えられなかったと謝罪する。主は願いなどそう簡単に叶うものでは無いと慰める。さっちん(巫女)の無念も希望も今は主が持っている、このまま全部、消えてしまう。巫女や主という人間がいたことを覚えていてほしい、と。童子式神はこれまで貰ってばかりで何もくれてやれなかった、自分はもう諦めるから残ったこの魂をあげよう、と言い、主に魂を捧げた。主は驚いてなにか言いたげにじっと童子式神を見つめた。》
場面が変わり、晴れ渡った空の下、長閑な自然界は復活した。人や建物は居なくなってしまったが有屋鳥子や山の女神、鬼などは辛うじてのこっていた。
全てが終わったのだと、その場にいた者が思う。鬼は嬉しそうに巫女式神へ駆け寄り、労う。
「お前は町を救った「英雄」になったんだ。神にも等しい、なんと素晴らしいのだろう。ああ!時空は耐え抜いた!」
「ええ、あなたのおかげでこの時空は途切れずにすんだわ。ありがとう。」
山の女神が傷をおいながらも、こちらに寄ってくる。
「あなたこそが最高神にふさわしい。」有屋鳥子も絶賛する。
「あたしは……神にはならない」
巫女式神は複雑な顔持ちで言う。
「やめろ!」
その場にいた鬼以外の神々が静かに応えを待った。すうっ吐息を吐くと、
「あたしはあんたの使い……あたしは--」
「そんじょそこらの使わしめだ!」
巫女式神は鬼の神使になることを宣言する。
「なれたんだな…何者かに」ネーハが晴れ晴れとした顔持ちで言う。
「勝者はあなただ、巫女式神…いや」
「使わしめよ」
「くそ……どうして!?!認めないぞ!」
鬼はジャッジに信じられず取り乱し、女神に宥められる。
「あなたは上がいないとダメな人なのね。」
山の女神が鬼を憐れむように見る。
「私は神を製造するつもりでお前を生み出したっ!神になるということこそが!お前の存在理由なんだ!!なぜ!越久夜町を救う偉業を成し遂げた、お前が-」
「鏡があったから、たまたま光が覗いたから-あたしはカオスを退散することができた。あたしの力じゃないし、あたしのおかげだと賞賛されるべきじゃないんだ。最高神になるような存在じゃあないんだ……」
「確かに神鏡のおかげかもしれない、希望を持ち続けられたのは誰?あなたしかいないわ。」
山の女神が鬼を黙らせて、ニコリと笑う。
「私はあなたが使わしめでも、否定しない。世界を救った者だけが、今、選択肢を握っているのだものね。」
「卑怯な言い草だな。」
「あら?そうかしら?」ケロッとした態度の山の女神に、巫女式神はムッとする。
「先輩の言う通りね。今現在、あなたしか、あなたの道を曲げられる者はいないのよ。」
鬼はそんな会話を聴きながら、
「アイツと同じだ……私はこのムラを良くしようと………女神よ」
絶望的な顔をして鬼は唸る。
「あなたはこれでいいのか?いずれあなたは消えてしまうのに」
「消えないわ。消えるんじゃない、この星と一つになるだけ。」
山の女神はサラりと言い放つ。
「あなたがこのまま滅ぶのなら、私も巫女の様になるかもな!」
山の女神に吐き捨てるも、女神は無言で歩み寄る。
「その言葉、しかと聞いたわ。」
鬼は意図が読めず、眉を顰める。「どういう意味だ?」
「あなたに、最高神になる意思があるということを。」
「……ふん」口をゆがめ、笑う。
「勝手に言っていればいいさ。」
それを冷徹に一瞥すると、山の女神は背を向け歩き出す。
「神々を集めて、一から越久夜町を再生させましょう。」
「はい。」
有屋鳥子が後に続き、堪らずネーハが敬礼をした。
「巫女式神…私は無明にもどる。役目は終わった。…ありがとう。」
そういうとクスリと笑い、「君に幸あれ。」
ネーハが去っていくのを前に
「これでいいのかな、あんたはどう思う?童子式神。」巫女式神はただポツリとつぶやいた。




