59話 アイビスvs.クワットロ
前を行くガリガリの人物の速度はかなり早い。
それに加え森の中を走っているというのに、バランスが崩れるような様子も見せていない。
あの体のどこにそんな力があるのか甚だ疑問だ。
分かりやすい装備として、腰にバグナウを吊っている。体が上下するたびにガシャガシャ五月蠅い、と言うの事は無い。まったく音が無い。体の使い方にかなり長けている。
バグナウは特徴的な武器で、獣の爪を模した手にはめるタイプの武器だ。
3本の爪が40cm程伸びている。
近接戦闘タイプ。あの身のこなしで今までやってきたわけか。
恐らくだが他に武器を持っていない。着ている物は肌に張り付いていて、他の物を持っているようには見えない。服装のせいでガリガリ具合がより一層強調されていて言っては悪いが、気持ち悪い。
バクナウ一辺倒の戦闘。一応は暗器に分類されているはずだが、他には持っていないのか?
あれが得意?スキルの関係であれが最も能力を発揮する可能性は?
……わかんない。情報ない。お兄ちゃん、スキル位話してから行ってくれない?面倒な作業が増えた。
すると今まで直進しかしなかったが、前を行く人物は跳躍し空中で体を反転させて木に足を付けた。
木を足場として踏み切り、立体的に上から降ってくる。
いつの間にか手にはすでにバグナウが装着されていて、一撃で命を奪いに来ている。
何の拍子もなく戦闘が始まった。
私は背負っていた2本のククリ刀を抜刀しながら、敵の攻撃を正面からぶつかる。
金属特有の衝突音が響き位置が入れ替わるが、ここで止まるような二人ではなかった。
無言で後ろを振り向きそのまま駆ける。
まずは右のククリ横薙ぎにしたが、バグナウで止められ反撃を撃ってくる。
顔面を抉る攻撃を首の動きだけで避け、空いた左のククリが最短距離で敵に突き進む。
しかし、敵は体を逸らしながら下がるのではなく、さらに一歩を踏み込んでくる。
これは予想外。1歩くらい引いても良いと思う。
バグナウの殺傷範囲に私は強制的に介入を受けた。
何もしないままいるはずはなく、振るうククリと抉るバグナウは互いにぶつかり合い、火花を散らす。
両者の動きはあらかじめ決められたように見え、二人の動きは演武めいている。
次の攻撃に繋げるのではなく、数手先を読んでの攻防。
手に持つ武器だけでなく脚を使い、近づいてくる敵を弾こうとしても相手も体術を使い一歩も引かない。
狭い範囲を動き回り、跳び、駆けまわる。
互いの打ち合いが数十合に達した所でどちらからでもなく距離をとった。
間隔をあけ二人の視線がぶつかり合う。
「……やるな、嬢」
「あなたこそ、どこからそんな力が?」
今まで打ち合っていたが、細腕からは考えられない膂力が発揮されている。
見た目と反し現実が追いつかない。
接点がないというか、いまいち掴みきれない。
今まで脱力していた相手が腰を落とし構え始めた。
「……名を名乗ろう。……クワットロだ」
しゃがれた声で名乗りを上げ、バグナウを構える。
隙らしい隙はない。私を年下だと侮らない意気に尊敬の念すら覚える。
「アイビスよ。短い間だけどよろしく」
私もククリ構え油断はしない。
クワットロは強い。短い間ではあったが私の動きに対応できている。
「……ぬかしよる」
私の挑発とも取れる発言に、若干眉が上がった。
口元は隠れて見えないが、口角が上がったことはなんとなく分かる。
楽しんでいるな。
空気が張り詰め容易に動ける雰囲気ではない。
鎌は無い。邪魔になると思ったので持ってきていない。今日はククリだ。手持ちの武器で倒す。
「参る」
クワットロは突撃してくるかと思えば、木の上に跳びあがり姿を消してしまった。
姿が消えた訳ではないが、森の木々に紛れ姿を見失ってしう。
意表を突かれ追う事が出来なかった。
「……やられた」
さらに言えばかなり気配が消えている。
ネコの感性を持ってもかなり薄らいでいた。
「……『隠密』?」
さらに言えば『体術』も持っている可能性がある。
違うか?『暗器術』?
ただ言えるのは『隠密』は持っている。
技術無くしてここまで気配は消せない。
この場に留まっているのは危険か……。
敵の策略に嵌っているのを自覚し、その場を離れた。
木々をすり抜け、狙いを絞らせない。
直線的に動けば遠距離攻撃の的だ。
途端、首筋に電撃の様な予感が走り、振り向きざまにククリを振るった。
ククリに何かが当たり地面に落下する。見れば予想通りナイフが飛んできている。
他に武器は無いと予想していたが、外れたか。予想は予想だから外れてもしょうがない。
それ以上に、今まで死と隣合わせの生活を送り続けてきた努力の結晶と言っていいのか、殺気をありありと感じる事ができる。
ネクロの『隠蔽』を破ったのと同じく、そこまでクワットロは『隠密』を使いこなせていない。
後天的スキルじゃない。『譲渡』されている。
肌に合わないスキルを持っても最大限使いきれていない。
いい例が近くに居て混乱する事が無いのは助かる。
一本だけ迎撃しても終わる訳もないから、また森の中を変則的に移動する。
たびたび放射される殺気を感知して、飛んでくるナイフを避けるか打ち落とすかしていると、クワットロの気配に動きがあった。
「……来たわね!」
後ろから高速で迫るクワットロ気配に気づかないふりをして、引き付ける。
音のない移動が私に迫り、私の体にバグナウが接触する瞬間体を沈めてカウンター気味にククリを振り下ろす。
「グッ!」
クワットロは攻撃が空振りに終わった事に驚愕しつつも、残るバグナウの爪で受け止たが、完全に足が止まっている。
受け止められはしたが、動き続ける私の体は残る1本のククリでクワットロの脚を狙い、ククリを振ったが空振り。
クワットロはククリが当たる前に跳躍して、木の上に逃げる。
即座に近くの枝に飛び移って、気配を消した。
それを見届け、私は今度こそ追撃をかけた。
クワットロの乗った木に即座に飛び移り、移動する背後をとる。気配そのものは消えているが、姿形までは『隠密』では消す事はできない。視界の中心にいるクワットロを見逃さないように、樹上を高速で移動していく。
クワットロは私が追ってきたことに気付き、どうするか一瞬迷ったのを私は見逃さなかった。
左腕にいつも仕込んでいる小型弓をクワットロに向けて発射する。
連発可能な弓は魔力を使い駆動する。魔石を使うためかなり高額な武器だ。
10本装填してあるうちの2本を発射。
凝縮された時間の中で矢が辿る軌跡を補足して完全にクワットロを捉えていることを確信する。
対するクワットロは中途半端な体勢のまま空中で私の方を向き、矢の軌道を予測して打ち落とした。
しかし相手は力の入らない無理な体勢。
逃げる体勢のクワットロに対し、勢いにの乗って私は敵に向かい2本のククリを振り上げている。
ノールに教わった基本を思い出し、最後の1歩を踏み出す。あれ適当だった。まぁ、『双剣術』持ってるし練習には事欠かなかった。師匠ね。
爆発的に加速された体は遂にクワットロに追いついた。
全力で振れ!!!(ノール談)
「ハア!!!」
ククリがクワットロの体を捉えたが、バグナウを十字にして防ぎきり甲高い音が響き渡る。
だが攻撃した場所は空中。打ち下ろされたクワットロは強烈に地面に叩きつけられた。
落下の衝撃で土が巻き上がりその中からクワットロが飛び出してきた。
「ガハッ!」
背中を強烈な勢いで打ち付けたようで、姿を見せると血の混じった咳のようなものをした。
この戦闘初めてのダメージはクワットロが受ける事になった。
しかしクワットロも完璧とはいかないが、受け身をとりすぐに立ち上がれるみたいだ。
私は追撃をかけずに、木の上で立ち止まりクワットロを見下ろす形となる。
木の幹に手を当てて静かに敵を観察する。
「……あれでもダメなんて」
木の上から落下するだけでも痛いのに、その上武器で叩きつけられた勢いを加味したら相当な物になるのでは?
言いながら木から飛び降り、仕切り直す。
それでもダメージ的には私が頭一つ抜けた。
「……まだ終わらんぞ」
クワットロは苦しそうに言い終わると直線的に走ってきた。
バグナウを突き出し、ククリを出すと爪の間に入り受け止める。
クワットロは手首を捻りつつ挟まったククリを外側に押し出し、もう一方のバグナウを振り下ろす。
防御の成否で3本の爪の蹂躙を受ける。まだ自由に動かせるククリを使い防御しようとした瞬間、バグナウの軌道が微調整されてまた爪の間にククリが挟まる。
クワットロの目が細まり、狙いが上手く行ったという表情をして、ククリが追い出され両の手からククリを叩き落された。
「え!?」
武器を失い混乱する私に対し、クワットロはククリが無くなった私に対してさらに近づく。
現在、素手。ピンチ。
「セイッ!」
振り下ろし気味の攻撃をサイドステップで移動し、右手に装着しているブレスレットに手をかざす。
クワットロが方向転換をして、もう一度バグナウを横薙ぎにする。
ヒットする前にワイヤーを引出し、攻撃を受け止めてバグナウに糸を絡める。
「ぬ!?」
引いても押しても動かない自分の腕を開放するため、もう一方のバグナウが私を狙う。
慌てていたのか、狙いが単純だった。
拘束しているバグナウを引いてクワットロの体勢が崩れ、攻撃が不発に終わる。前につんのめっているクワットロのバグナウを2つともワイヤーで絡め取る。
ワイヤー捌きは傍から見れば驚嘆に値し、拍手喝采ものだっただろう。
拘束したバグナウを奪うため引き戻すと明らかに抵抗が無い。
不可解に思ったら、クワットロはすでにバグナウを捨てて、素手になっていた。
2つ着けたワイヤーブレスレットの内一つを外して、奪ったバグナウを放棄した。
良い判断だと心の中で賞賛して、繰り出される膝を両の手で受け止める。
「ぐぅ!」
力強い膝蹴りが手を痺れさせる。
クワットロは自由になっている両手で、私の服を掴み柔術の如き動きで私を投げ飛ばした。
硬い地面に打ち付けられ、口から呻きが出る。
クワットロは掴んだ服を離さず、地面に横たわる私に対し軽快な動きでマウント取った。
私の首に手がかりクワットロの右腕が振り上げられ、あわや顔面に拳が撃ち込まれる直前に、口の中に仕込んである吹き矢を撃つ。
「フッ!!」
矢は避けられるが一瞬拘束が緩まったのを見逃さず、『暗殺術』をフル稼働させる。
前身は『体術』だ。
「舐めるな!!」
拘束された腕は使えないが、体重がかかっていない下半身を振り上げる。
右足の関節をクワットロの首に掛けて、そのまま頸動脈を押しつぶす。
「ああああ!!!」
「グウウぅぅ……」
このまま脳に血を送らせないようにして、失神を狙ったがクワットロも抵抗をする。
クワットロが強引に立ち上がろうとして、この後の展開を予想すれば組み付いている訳にはいかず、クワットロを解放して距離をとった。
が、このままではダメだと一気に距離を詰める。
右正拳を首を押さえて膝立ちになっているクワットロに突き込む。
クワットロは左腕で受け止め、立ち上がった瞬間に私の左足で横っ腹に蹴りを叩き込む。
「ごほっ」
未だ立て直す事を許されないクワットロにさらなる追撃をかける。
次々『体術』で技を繰り出すが、何発かもらった後クワットロも反撃してくる。
顔面に拳を受け腹に蹴りを食らうが、それ以上の攻撃を繰り出し差し引きで私が優位になっていく。
侮ってはいなかったが、小娘に対し完璧に翻弄されている事に頭に血が上り、単純な突きをクワットロが出してしまう。
すぐさま体をずらし空振りに終わらせ、目の前を通った左腕を捕る。
……『暗殺術』。
目の彩度が落ち機械的に人体を破壊すべく、効率的に全身が動く。
関節を極め強引に曲がらない方向へ力を入れて、へし折った。
「あがあぁ!!」
捕ったままの腕を持ちながらクワットロの背後に回り込み、次は肩の関節を極める。
足を払い肩を押しクワットロは顔面を地面に打ち付けた。
クワットロの左腕を極めながら倒れた体を見下ろし、何も持っていないはずの右腕を引き上げる。
袖からクナイが現れ躊躇なく左肩に深々と突き刺した。
これで完全に肩とひじを破壊した。左腕はもう使えない。
それを無感動で見つめている自分がいる。いや、違う。無感動を装っている。
自分の中で完全にスイッチが入ってしまった。
これは皆に見せられない。私は嫌われたくない。
でも、しょうがないんだ。これは私の才能。使わずにはいられない。
私だって最初誘拐されて訓練の日々はつらかった。
でもある日劇的に変わった。
私には『暗殺術』の才能があった。嫌いな事はできない。成長しない。
完璧に目覚めていた。圧倒的な才能。普通に暮らしていては発現しない。
唯一男爵にはスキルを『譲渡』してもらった事だけは感謝している。
『暗殺術』は『武器術』『体術』『隠密』の複合スキル。
いつも通りやってた事をやるだけ。
皆に会う前に戻るだけ。ただそれだけ。これが終わればいつもの私。
そうだ。押し殺していただけ。やれと言われれば私はいつでもやる。
そのための才能ではなかったのか?
殺すための、技術。才能。スキル。
今は?
目の前には血まみれの人間。私の命を狙う。
私は?
殺す?
なんで心臓刺さなかったんだ?首は?
いや、分かっているはずだ。可愛い子ぶって何をしている。
虫も殺せないような乙女なんかじゃない。
しょうがないじゃないか。あの3人に会った日々は幸せすぎた。
本性を垣間見せれば離れて行ってしまうかも。嫌だ。それだけは絶対。無理だ。
ばれない様に。
嫌われる要素なんてない。今まで通り楽しくやればいいんだ。黙っていよう。
大丈夫だ。やれ。いいぞ。今なら誰もいない。
兄さんは助けに来ると言ったが、シズクの未来は1対1。
絶対に一人だ
楽しい! 楽しい!! 楽しい!!! 楽しい!!!!
命のやり取り。久しぶり!やっぱり殺さなくちゃ!
最高だ。肉を貫いた瞬間の手ごたえ。呻き。苦悶の表情。
こいつらノールやアイラを誘拐したんだよ!死んで当然だよね?
死んじゃえ!
『暗殺術』の中に含まれる『隠密』で気配を消し、木々に紛れた。
飛び込んだ木からさらに移動して、クワットロを見やすい位置で陣取る。
体を沈め標的を見つめながら、静かに笑った。
「ふふ、ふふふ、殺すわ」
手持ち武器。
矢8本
ナイフ1本
仕込みブレード2本
ワイヤー残り10m
投擲用ナイフ4本
ブレードは使えないかも。意味ないわ。
矢とナイフで嬲りましょう。そうしましょう。『暗殺術』があれば何でもできるわ。
地に倒れていたクワットロもアイビスがいなくなっている事に気づき不審に思う。
ここで殺さなかった意味。
そして、
「なぜあんなに強いんだ!!!」
寡黙であることが予想されたクワットロが大声で叫び始めた。
「私は3つもスキルがあるのになぜ何も通用しない!!『武器術』も『体術』も『隠密』も通じない!!
お前は何なんだぁ!!」
葉陰に紛れている私だってあいつの言葉に少し驚いている。
勝手に喋った挙句バラし始めた。
「なぁんだ。あなた暗殺者だったのね。でも未熟よぉ……」
『暗殺術』を発現できていない。才能と言う点ではアイビスが圧倒していた。
「まぁいいわ。始めましょ」
目標は全部を成功させる事。
ん~~……一気にやろうかしら?どうしよう……。
抵抗されると面倒よね。避けられても面白くないわ。
あいつ、完全に私を見失って見当違いの方向を見てる。
矢ね。8本。全部撃ちましょうか。
「それじゃ始め」
そこには11歳少女の声音しかなかったが、言葉は破壊のみを求めていた。
左腕の弓を照準し、まだ変な場所を見ている骸骨野郎に向けて発射する。
クワットロは背中を向けて無防備な背中に8本の矢が襲い掛かった。
誘導された訳でもないのに、狙い誤らず完璧に背中に突き立ている。
「ああぁっぁ」
突き刺さる度に体が揺れ、アイビスに歓喜の念が湧き上がる。
我慢できなくなり木から飛び降りそうになるが、我慢。股から何か溢れてきそうだ。まずい。興奮しすぎだ。自重しろ。それは無理だ。
クワットロを見れば矢が飛んだ方から離れようと、フラフラになりながら1歩1歩私から遠ざかっていく。
投擲用ナイフを1本掴んで木々を移動していく。
射程距離に入った瞬間、ナイフを投擲。右肩に着弾。血が溢れる。
ああぁあぁぁ!!良い!!
「ぐっ、ああ、も……やめ」
やめてよ、そんな声出さないで。
気持ちいい。体が快感で支配されてる。
今投げたのが1本だけ?
残り3本。一気に投げたら?
……ああ、もうダメ。我慢できない。
さらに移動しながら全ての投擲用ナイフを引き抜いて、木から姿を現すと同時にクワットロの背中から投げ込んだ。
時間差をつけて投げ、クワットロの体が3回揺れる。
まずい。鼻血出そう。ムズムズする。
クワットロが私の気配に気づいて振り向く。途端に手を合わせて慈悲を請い始めた。
最高の殺害対象を見つけて勝手に顔が笑ってしまう。
「だ~め」
クラウンが見たら卒倒するような笑顔を向けながら、腰のナイフを抜いて走りながらクワットロの腹に突き刺す。
肉を破り、刀身のすべてが腹に埋まって、内臓をかき回す感触が伝わってくる。
そんな事をすればクワットロは絶叫以外する事は無い。
「あがああぁぁぁぁあ!!!!」
口元を覆っていた布が赤く染まり、腹からも大量の血が流れ出ている。
可愛いわ。その表情。もっと見せて?
「どう?どう?どんな気分なの?教えて?」
腹に刺さったままのナイフをグリグリと動かし、そこからどんどん血が溢れ出す。
顔は笑顔が張り付いているが、行動は残虐この上ない。
アイビスの腕にも血が懸っているが、そんな事は露ほども気にしていない。
その事がアイビスの油断だったのか。
クワットロは残る一本の腕と足に全てを賭け、アイビスの背後をとり腕で首を絞める事に成功した。
「ああああっぁぁ!!死ねえええぇっぇえ!!」
恥も外聞もなく11歳少女に正真正銘、全身全霊をかけた絞め技を繰り出す。
アイビスは驚愕しているが、獲物がまだ生きている事の方がうれしかった。
「あが、……あ、、いいば」
息は苦しいが歓喜の声を上げたい。日の目を見た武器に感謝を。
肘に仕込んだブレードがアイビスの服を突き破り、クワットロの腹に肘打ちをかまし、2か所穴が開いた。ブレードは腹を貫通してクワットロの背中に突き出ている。
アイビスの突然の攻撃に予想を外され、一拍おいた後クワットロの痛覚が悲鳴を上げた。
「いいいいいあああぁぁぁぁ!!」
アイビスは絞め技から勝手に解放され、後ずさるクワットロを見つめる。
首を絞められた余韻など全く見せず、至極平静に見えた。
右手に装着していたワイヤーの詰まったブレスレットから強靭な糸が引き伸ばされる。
「ふっふふ~ん」
鼻歌を歌う悪魔の化身から1mmでも遠ざかろうとして、クワットロは腹を押さえながら逃げ始めた。
「んもう!」
プリプリ怒ると、あっという間に追いつき、クワットロを押し倒して首にワイヤーを巻きつける。
解けないことを確認して、木の上に立つため跳躍した。
倒れるクワットロと目があい、勝手に口がにやついてしまう。
クワットロはアイビスの行動を見て、自分の最後を予期し命乞いを始める。
跪き、目には涙、鼻からも体液が流れ出し、腹からは腸がはみ出る。
座り込み慈悲を請う姿はもはや、今すぐに死んだ方が楽である事がありありと分かる。
それでも悲しきかな。生物は生きる物なのだ。
「だ、だのむ。み゛の、がじで、、ぐ――――!??」
アイビスは微笑み、枝をワイヤーの支点にして木から飛び降りた。
ワイヤーと接触する枝が摩擦で高音を発し、滑車のように落ちるアイビスに対して、クワットロがワイヤーで吊り上る。
「かっ…………あぁつ……ひゅ…………」
脚は地面に付かず首で体が持ち上がる。
クワットロは首にかかるワイヤーを解こうと懸命に指をかけているが、肉に食い込む糸に触れるわけもない。
脚はジタバタして届くはずのない地面を渇望している。
顔は赤から青に変化し、顔中に脂汗がにじんでいる。
アイビスの頬は紅潮し、身を捩じらせる。
「良い!その顔良いわ!もっと苦しんで!」
キャッキャッ言いながらワイヤーを揺すってさらにクワットロの首に食い込ませていく。
体が揺れるたびにクワットロは苦悶の声を上げるが、アイビスにとって燃料にしか成りえない。
アイビスはワイヤーが肉に沈んでいく感触に絶頂寸前の表情を見せ始める。
どう見ても死にかけているので、一旦解放してやる事にした。
ワイヤーから体重をかける事を辞めて、木の上にまた登る。
反動でクワットロは地面に落下して叩きつけられた。
「あがぁ……も、もう……殺してくれ」
遂に命乞いを諦め、自身の命を放棄した。
それ程までに追い詰められている。首を絞められ、背中には8本の矢が刺さり、さらにナイフも刺さる。
しかも、腹には3回刃物で刺されていて、内臓もはみ出ている。
何もしなくてもその内、出血多量で死ぬだろう。むしろ今生きている事に驚きの状態だ。
「い・や!」
拒否。
木から飛び降りてまた首を絞める。
ワイヤーを揺すり、苦悶の表情を見せるクワットロに大興奮。
「きゃーきゃーきゃー!!サイコー!!楽しいーーー!!」
しかし次は何しようかと考えていたら、徐々に体の動きが小さくなり、最後には完全に抵抗が止み死んでしまった。
あまりにもあっけない幕切れに少女からブーイングの声が噴出する。
「……なによ、もう終わり!?お兄ちゃんはもっと抵抗してくれたのに……!!」
ワイヤーから手を離して回収する。
死んだクワットロは塵となり、風で吹き飛ばされてしまった。
「訳分かんない!」
興味が失せここにやって来る人を待つことにする。
結局兄さんは間に合わなかったわね。
ここに着いたら残念そうな顔をするかな?
それよりもこの事は秘密。
誰にもばれちゃダメ。
苦戦するとスイッチが入っちゃうわ。
お兄ちゃんの時ももう少しで殺ッちゃうとこだったもの。危ない。
吹き飛ばされゆく塵を一瞥して戦いを思い出す。
「気持ち良かったわ、ありがと」




