60話 ノールvs.トレ
俺の10m前を歩いているおっさんはかなりゴツイ。
ゾイグのおっさんといい勝負をしている。
俺より40cm以上はでかいし、まさに筋骨隆々って感じ?
でもゾイグおっさんの方があれだな。マッチョだ。ゾイグのおっさんはやべぇよ。
この前パンチ一発で岩砕いてたもん。あんなんで殴られたら死ぬわ。前に手を触ったけど、手なの?って感じだった。固いとかそういうレベルじゃなくて、もはや金属。肉はどこ行った?
カッチンコッチン。なのに滑らかに動くんだからスキルって不思議。あの硬さであの動きをする物質がおっさん以外に存在すんのか?
世界の不思議の一つだ、絶対そうだ。あの硬さとしなやかさの剣めっちゃ欲しい。
今のに文句ないけど、左はスキルついてねーからな。右に比べるとやっぱ落ちる。
落ちるどころじゃないか。別もんだ。元が同じだなんて信じらんねー。
……あれ?なんでこんな事考えてんだ?
敵いるじゃん。もう止まってこっち向いてるわ。気づかんかった。
「おっさん、悪かった。ボーっとしてた」
「余裕だな、小僧。ムカつくぜ」
おっさんが剣を抜いたと同時に、俺も双剣を抜刀する。
右が『斬首』、左は普通のやつ。長いのと、短いの。
「俺はトレだ。お前を殺す……じゃない。ウーノに持っていくぜ」
全身鎧というわけではないが、要所要所を金属で覆った鎧をトレは装着している。
結構重そうだ。俺無理なんだよ、金属。昔着たら、着てるより着られてるって言われて恥ずかしい思いをした。
なんで俺こんなちっせーんだよ。意味わからん。似合わねーたらねーよ。ホントやめて。
別に?諦めてる訳じゃねーよ?俺まだ13歳だし。まだ伸びるし!
「……ノール。イラついたからトレを殺す」
「酷-な、ノール。そんなんで殺すなよ」
ははっと笑いながら喋っているが、俺にとってはこれは結構重要な問題なんだよ。
まだ150cmだぞ?小学生でもある奴はある。ふざけんなよ、マジで。こんな格差社会なんてぶっ壊してやる。
「大事な事だ」
「何の話だよ?」
「……身長」
「……悪かったな」
バツの悪そうな顔をして謝りやがった。
「謝んな!!」
こんなもんが戦いの火蓋を切って落としてしまった。
俺の突撃にトレは待ち構えの姿勢をとる。
体が大きく地面に根ざしているかのようだ。狙うは金属鎧でカバーできていない箇所。
関節や籠手がカバーできていない範囲。行ければ背中もありだ。
だが、俺の狙いは最初にトレの剣劇を捌かない事には始まらない。
あいつの剣の方が長く、腕も長い。
開幕はトレの先制攻撃から始まる。
「ふん!」
向かって左から斜め振り下ろされる剣がノールの頭部を襲う。
俺の左の短剣で受け止めた時に驚かされる。
「なっ!?」
力強ぇ!!
獣人でしかも狼の俺とどっこいの腕力をもってやがる。
力だけならゾイグのおっさんよりある。
左だけでは受け止めきれないと即座に判断を下し、右の短剣でも打ち上げる。
均衡がこちらに傾き、止まってしまった体を再度動かす。
トレの左側に移動して剣から遠ざかり、双剣で脇腹に斬りかかる。
防御の薄い場所を狙われたトレは、ガントレットを着けた左腕を犠牲に防御に成功する。
斬れてはいないが左腕は鉄を打たれた衝撃に襲われ、トレの顔が苦痛にゆがむ。
やられっぱなしではなく、剣を腕の力だけでノールに突く。
剣を振り切ったノールの首元をトレの剣が襲ってくるが、ノールは剣を振った勢いを殺さずそのまま地面を転がり回避する。
トレはその隙を突きグリーヴを履いた脚で、鉄の蹴りを繰り出した。
ノールは腹に食らいつく蹴りを双剣で完璧に防いでも、勢いだけは殺せずそのまま吹っ飛ばされた。
飛ばされながらきちんと着地を行い、さらに1歩距離をとる。
腕を襲う衝撃に歯噛みしながら眼前のトレを睨む。
『双剣術』に付いてきて、曲がりなりにも一撃を加える技量。
「『剣術』を持ってるな?」
「そういうお前もな。2刀流は珍しいけどな」
やや笑顔と言った風体を保っている。
自分の実力に自信が無ければ、殺し合いの最中には出せない雰囲気を出している。
まぁ、『剣術』も『双剣術』見た目は変わらないから分かんないよな。
だけどあのおっさんこれだけじゃないだろ。
背負ってる手斧の意味が無くなる。
「ノール、お前は強い。出し惜しみすれば死ぬのは俺だ」
トレは背中から飛び出す手斧の柄を掴んで、左手で試し振りをしている。
剣と斧を使い何事かを確認して、こちらを向いた。
「『斧術』だ。注意しな」
「……なるほどな」
『剣術』と『斧術』で2刀流をしている。
手斧は短く、剣は長い。奇しくも俺と同じような構成になっている。
斧で防御、剣で攻撃だ。
とは言え斧の攻撃は無視できない。
踏み込みすぎればまた斧で腹を切り裂かれる。
トレの筋力を考慮すれば不用意に行くわけにはいかない。
「両手で握ってていいぜ?」
「手数で負けてるからな、斧も使わせて貰おう」
落ち着け。俺が不利になっている訳じゃない。
むしろ獣人である分だけ俺が勝っている。動きで翻弄しろ。
「行くぜ」
「来な」
交わす言葉は少なく、2回目の攻防を開始された。
ノールはまた突進して同じ事を繰り返すかに見えたが、トレの攻撃範囲に入る直前ノールは進行方向を真横に変更。
一瞬だがトレの視界からノールが消えた。
トレは消えた方向に視線を移動させたところで、目の前の獣人を侮っていたことに気付いた。
移動方向を変えたはずのノールはすでに目の前におり、剣を水平方向に振っている。
あまりの速度に後悔する間もなく即座の行動が求められ、左に持つ斧を辛うじて引き上げて刃の腹で受ける。
「ぐっ!」
ノールは攻撃が失敗した事には驚かず、スピードを殺さずトレの前を通り過ぎる。
即座に反転して、脚力が爆発、一瞬で距離を詰めてトレに同じ攻撃を繰り出す。
もはや一迅の風。一本の直線上をノールが疾駆し刃を走らせる。攻撃が防がれようと関係ない。
数度同じ攻撃をし続けてもトレも辛うじて防ぎ続け、一度もまともな有効だが出なかったが、トレが遂に対応した。
「小僧!!」
トレはノールの攻撃範囲に入る前に剣を一閃しノールを迎撃した。
同じ攻撃を繰り返し、わざと慣れさせた。
ノールはほくそ笑む。
予期していた攻撃に対して用意した対策を出す。
右真横から顔面に迫る剣を紙一重で躱し、正面にトレの体ががら空きの状態で残った。
両腕を引き、鎧を付けた腹に全力で2刀で突きを放とうとした瞬間、失敗した事を悟った。
予想が足りなかった。失敗した。俺の馬鹿。
トレの振りぬいた剣に斧も付いてきた。両腕振ってやがった。
再度顔面に死の脅威が迫る。
思考が加速する。もはや時は止まっている。
もう俺の腕は伸びようとしている。防御が間に合わない。
しかし俺の攻撃は奴に致命的なダメージを与えられない。鎧が。くそ。
対して俺は……。死ぬ?
「死ねるか!!」
考える前に体が動く。元々考える方じゃなかったんだ。そういうのはボスがやれ。
俺勝手に、本能のままに動く。
突きを出すのではなく、そのまま体当たりをして斧の魔の手から逃れる。
突進した勢いで技後硬直しているトレを押し倒そうとするが、トレも馬鹿力で抵抗を見せる。
しかし体格差はあったが脚からすくい上げるようにタックルをかます事で、トレは背中を強打した。
「ぐお!?」
「らああ!」
地面に組み付く。次の手。攻撃。殴る?
剣を離すのか?違うだろ!俺の才能は剣にしかないはずだ!
「死ね!」
即座に左の短剣を逆手に持ち替え、トレの顔面に振り下ろす。
トレは焦りこれでもかと首を動かして、頬を浅く切り裂くだけで済んだ。
「クソ!」
右も逆手に持ち替えた時に、トレも反撃を行う。
上体の筋肉の力に任せて起き上がり、頭突きをノールに喰らわせる。
「がは!」
ノールは視界がぶれ束の間痛みに支配され、トレの動きに反応できなかった。
ノールはトレの手斧の石突で胸を本気で突かれ、痛みによって痛みから解放された。直後自分の置かれる状況を理解して、大きく後方に跳躍して危機を脱出する。
自分のいた場所に剣が通過し、生き延びたことを視覚的に実感した。
「……くっそ」
痛む顔に手を当てて確認すると、鼻からは血が出ていた。斧で突かれた胸は痛む。
皮鎧があって少しはダメージを抑えているが、トレの金属には及ばない。
それよりも嵌めようとして同じ攻撃を繰り返したのに、逆に嵌められる結果になった。
防御用と考えられる小さな斧のスイングスピードが予想よりかなり早い。
『斧術』もあるが軽量化してるいい武器だ。小さい分軽いという事もあるか。
それに何であんなに力が強いんだ?
さすがに『強化』と『剛腕』のあるボスには勝てないけど、それでもこのレベルの人間だったら同等以上ではないかと思っていたのに。
事実、ゾイグのおっさんとの腕相撲は良い所まで行った。負けたけど。
「……やはり強い」
地面に座っていたトレは、地面に手を当てて起き上がった。
切り裂かれた頬に手を当てれば、恐ろしい痛みが走ってくる。顔面を切り裂かれるのはやはり特別のようだ。
トレも今までの戦いでノールを追いこんでいるように見えるが、さっきの攻防で即死した可能性もあった。突き刺さっていたのが地面ではなく、自身の顔だったら……。
トレもノールと同様に危機的状況を脱したことに変わらない。
「次は俺からだ」
今まで先手を許したトレが先に仕掛ける。
もう2,3歩の距離しかない。ノールは剣を構え対応する。
奴の長剣の攻撃を避ける事に集中する。
下がりながら体を巧みに動かして斬られない。剣での攻撃は冷静に見れば自分でも次はこうするという物が見える。
トレも俺の『双剣術』を半ば予想に近い対応ができる事に気付いているはずだ。
この戦いで優位に立っているのはトレになっている。
『斧術』が次にどう来るのか俺はあまりわからない。
斧をどう対処するか。
これに限る。
思考を展開していてもトレの剣での攻撃はやまないが、明らかに斧の攻撃が少ない、というより無い。
避けながら考えているが、このままではいつまで経っても終わらない。
どうする?踏み込むべきか?
考えてる時点でダメか?さっきは考えないように戦うと決めたのに、もうできていない。
意外と難しい。一人というのが大きいな。いつもならやっぱりボスが何とかしてたわ。
アイラもアイビスもいない。
援護が無いってのはこういうものなのか。
いつも勝手にやっていたんだ。そういうの言ってくれればいいのに。
こうなってから言っても遅いんだけど。
もう、無理。訳分かんない。勝手にやろ。いつも通りだって。
勝手にやって勝手に援護をされていつの間にか戦いが終わる。
そんなもんじゃなかったっけ?
踏み込む。
「おお!!」
攻撃の間隙に付け込み刃をトレの顔に滑り込ませる。
『斬首』は一撃必殺の攻撃を秘めているが、防御用の斧に阻まれる。
振り下ろされる斧に『斬首』は打ち落とされるが、反動を使い進みながらノールは体を回転させて左の短剣が斧を持つ二の腕を浅く斬る。
動きの鮮やかさにトレの反応が一瞬鈍り、ようやく有効打が生まれた。
しかし当たる直前にトレはバックステップして、直撃を避けた。
さりとて、攻撃の主導権がトレからノールに移り、ノールの猛攻が始った。
右振り下ろし、手首を返して斬り上げる。もてあます左を使わずにはいられない。
さらに踏み込み敵の斧の範囲にすら入るが、ノールの左にもトレが入ったことを意味した。
「おおおおお!!」
「ぐお!??」
あまりの連撃にトレがたじろいで、鎧に攻撃が入り始めた。
だが鎧は貫けない。硬い。
その事に安堵したトレはワザと攻撃を防が無い事をする。
腹や腕で攻撃が阻まれる。
防御方法が増えてしまい、ノールの攻撃が通る気配がない。
そしてトレは予想外の行動をする。
いや、予想できたはずだった。またかよ。熱くなった。
浅くではあるが斬られた左腕だけでは斧を操れず、剣を捨てて両手持ちになって振り回す。
攻撃力の高い斧に加え、あまり予測の立たない『斧術』。
攻撃が拮抗し始めた。
「クソ!」
「ハッ!」
両手持ちの斧の威力は凄まじく、攻撃点が爆発したかのような火花を散らす。
暗くなりつつある森の中が明滅する。
受け止めではその内剣が折れる。
というよりも、何で攻撃してないんだよ!やれ!
引き付けた攻撃を左の短剣で受け流し、反撃を開始しようとしてもすぐさま斧が引き返してきて隙が無い。
『双剣術』と『剣術』『斧術』が拮抗している。
「ああ、もう!」
斧を払いのけトレが追いつけない速度で距離をとる。
剣をトレに付きつけて声高に叫んだ。
「『斧術』の方がレベル高いな!?」
「はっはぁ!気づいたかノール!『剣術』は予測できるぜ!?どうするよ?」
『剣術』で予測、『斧術』で迎撃。
「……ああ、相性悪ぃ」
ガックシと首が垂れ下がってしまう。
現状『双剣術』でも『剣術』で予想されて、『斧術』の技術で対応されている。
俺もトレの攻撃を防げてはいるけど、いつ倒せるかが分からない。
……やるか。防がれたら負ける。意味するのは死。デカい賭けだ。
援護さえあれば……。
トレに向き直り質問をする。
「なぁ、武器に意志ってあると思うか?」
「……あぁ?何言ってんだ?」
ボスとの共闘を思い出す。調子の良い時。援護がありいつもの自分より強くなる昂揚感。
『斬首』の手触りが伝わってくる。
「斬りたいと思えば武器は答えてくれるのか?」
「さっきから何を言って―――!??」
その時ノールの『斬首の短剣』が淡く輝きだす。
ボスのキーン・エッジ。何でも斬れる。1分間無敵の剣。
より強くなる、『斬首』。いつも強い『斬首』。
「……何やった!?」
お前は『斬れ味』を完璧に再現できる。この前ボスを守っているときに気付いた。
ボスはそこまで強くないと言っていたが、そんなはずはない。
スキル持ちの魔石と『付与魔法』を使った剣だぞ?
中途半端な性能の方が疑わしいんじゃないの?
「想像しただけだ」
キーン・エッジのかかったお前。何でも斬れるお前。
本来の力を。
『双剣術』の絶対の力を引き出せ。
お前が何でも斬れば俺を止めれる奴なんて居ない。最強の組み合わせ。剣術系最強を誇る。無敵。
お前を使ってあいつを斬る。それだけ。本当にそれだけ。純粋な斬れ味を。
あの時は岩を斬った。次は鉄を。あの鎧を穿つ。突き抜き、貫け。
「行くぜ」
静かに呟き剣を構える。
体を沈め、下半身に力を溜めこむ。そして、解放。
「おお!!」
「おらぁああ!!」
トレは何が起きているかは分からないが、ここで終わらせるべきだと本能的の感じ取っていた。
今までで最高速度で突撃してくるノールに横一閃の過去最高の一撃を繰り出す。
両者の時間が圧縮され、音は無く、世界の明度は一つ落ちる。
ノールの左に振りぬいた『斬首』とトレの斧がぶつかり合う。
さっきまではここで両者の武器は弾かれ、次の攻撃に繋がっていたがそうはならなかった。
ノールの剣は斧の刃を切り裂き、斧の刀身が半分になる。
あまりの事態に驚愕して動きが止まるトレの斧の柄を狙い、手首を返して斧を攻撃、破壊。
使用不能に追い込んだ。
「あ……」
幕切れはあっけない物だった。
剣を捨て斧に持ち替えたトレには最早武器と呼べるものは鎧しかなかった。
しかし『斬れ味』を完璧に再現した『斬首の短剣』はそれすらも貫く。
鎧は本来の役目を放棄せざるを得ない攻撃にさらされ、『斬首』の刃はトレの胸骨を粉砕し心臓に達した。
情けは掛けず『斬首』を引き抜きながら、ノールは左の短剣で首を斬り飛ばした。
途端にトレの体は塵となり、地面に積もる。
血は吹き出さず、あるのはごみの様な屑だけ。灰色の塵の山。
「……馬鹿なんだからよく分かんねーよ」
『斬首』の光が消えて、ノールは地面に座り込んだ。
力の代償はでかかった。
即効疲れるし、長続きしない。
一人しか居ないのに使うもんじゃねーよ。
アイラでも連れてきて援護させればよかった。
……矢無いんだったな。使えないな。手に入らなかったんだからしょうがないけどさ。
シズクは……ダメだな。邪魔。『狐火』でも駄目。あれ弱い。
ゾイグのおっさんが大丈夫だったらなぁ……。もっと楽だった。
あぁ、結構迷惑かけてたかも俺。一人だとめんどいなぁ。
どんだけサポートされてたんだろ。
めんどかったんだろーな。前で勝手に暴れて後ろから援護する。
考えただけでメンドーだ。いつもやらせてたのか。
空を見上げて、どこかで戦う仲間たちを思う。
「……はぁ、結構頼ってたんだなぁ……」




