56話 ネクロvs.ドゥーエ
あれから2カ月が経過している。
ノールとアイラの両親もこの間に会った。
2人の再会は俺達が見ていたら恥ずかしいと言われたので、遠くに行っていた。
『隠蔽』使ってもばれるから使うなよ!、と念押しされ成すすべなく撤退した。
などと言うわけはなく抵抗したが、アイビスに行かないであげて、と言われ渋々引き下がった。
連れて帰った特権があまりないような気がする。
その後両親からは感謝の言葉を貰い、これからも二人の事を頼まれ自分たちの村へ帰って行ってしまった。
さっぱりした別れだったが、お二人とも目が腫れていたので相当泣いたんだろう。
ノールとアイラも同様だ。その事について触れると怒られるのは目に見えているのでやっていない。
6部族代表の話し合いはすでに決着していて、学校はすでに出来上がって運転している。
6部族から3名ずつ派遣されている。当初は30名程度を想定していたが、マリシアがやっぱり多い、と言ったので少なくして貰った。
入学してきた18名はアイラ様と同じく過ごせる名誉をいただけると大層喜んでいた。
15歳未満という条件が無ければもっと大きい競争率になっていたそうだ。
アイラの人気は俺の想像をはるかに超えている。
学校はネコの集落の近くにある。
ネコたちはこれを機にこの場所に定住するみたいだ。
……アイラ居るからね。
学校自体はあの話からすぐに決まった。
ネコの集落にアイラが居ると分かり、他の5人の代表は飛んできた。
全員ネコと同じような反応を繰り返し、全員ウンザリしていた。
6部族が集合したことで、アイラ様の賛成もある学校案件は即刻可決され、その日の内から作られ始めた。
かなり時間がかかるかと思ったが、獣人と言う獣人が建設に参加し2週間程度で頑丈な木造1階建ての校舎ができた。
基本はトイレ、台所、風呂、大部屋が一つしかない。
大部屋で全員一緒に寝て親睦を深めている。
マリシアの『覚醒』の信頼関係という条件をクリアするために、かなり使える部屋だった。
校舎の前の木はかなり伐り倒して、グラウンド状にして活動しやすいようにした。
学校と言ったが別に勉強なんかしちゃいない。
最初、獣人たちが入学した時にマリシアが演説し始めた。
曰く、
「やぁ、諸君!私の名前はマリシアだ。以後よろしく!
さて、君たちはアイラちゃんが誘拐されてどう思っただろうか?
自分が居たらアイラちゃんを守れた?
否!断じて否!
君たちは弱すぎる!故にむざむざと誘拐させるような真似を犯した。
君たちは強くならねばならん。
私が強くしてやる。『覚醒』させてやる。
各自全力を持って自身を鍛えろ!
どうすればアイラちゃんを救えるのか必死で考えるんだ!
他人に教えてもらった答えは意味がない。自分で見つけ出せ!
自分には何が向いていて、何が不向きなのか。
そして若人よ!邁進せよ!君たちの未来は光り輝いてる!!」
などと、意味不明な供述をしていたが獣人たちは最初からそのつもりだったようで、クラウンが『洗脳』した魔物達と訓練を積んでいる。
そして今日。また一人、人類の至宝が誕生した。
彼の名はグリー。熊の獣人だ。力持ちだが荒事は嫌いで、性格はおどおどしているが、自分の作った料理をアイラに食べて貰いたかったらしい。健気すぎる。良い子だ。
今日までは彼が俺達の腹を満たしていた。
そして、今日までの研鑽が彼を『覚醒』させた。
アイラに食べてほしいという絶対的意志と、1か月以上毎日3食30人前も作った根性、『覚醒』による能力発現のハードルの低下で『調理』が発現した。
この事に全員が今までに無い歓喜の声を上げた。
『調理』持ちの作る料理なんて、人生で何度も食べられる物ではない。
事実、俺も18年生きて1回しか食べたことが無い。超高級料理だ。
生ごみがフルコースになるとまで言われている。
スキルレベルはまだ1だったが、今までとは格が違う味に全員が絶句しおかわりを巡る戦争が勃発するほどだった。
校長はマリシアだったのに今日からグリーには誰も頭が上がらないだろう。
「ぐへへへへ、今日の晩飯何かな?」
こんな事を口にするのも仕方がないだろう。美味い。
食料などは代表たちが支給している。もはや俺達はヒモである。理想の生活ですね。
武術系統のスキルを発現するやつらも出てきて、ここは騎士団なのかと疑うような戦力になってきている。
さらに『覚醒』には良い点がある。
レベルがかなり上がりやすい。マリシアが近くに居るだけで強くなっていく。
こいついったいなんなんだ。
名前:ネクロ
歳 :18
性別:男
レベル:23↑(3)
スキル:スナッチLv4
強化Lv14↑(3)
火炎魔法Lv22↑(3)
剣術Lv26↑(3)
解析Lv20↑(2)
体術Lv22↑(3)
生命力Lv7
索敵Lv14↑(1)
隠密Lv14↑(2)
毒耐性Lv10
剛腕Lv13↑(2)
付与魔法Lv15↑(3)
誘導Lv6↑(5)
隠蔽Lv25
名前:ノール
歳:13
性別:男
レベル:19↑(4)
スキル:双剣術Lv23↑(5)
名前:アイラ
歳:13
性別:女
レベル:17↑(3)
スキル:弓の加護Lv21↑(4)
名前:アイビス
歳:11
性別:女
レベル:20↑(1)
スキル:暗殺術Lv30↑(2)
名前:シズク
歳:10
性別:女
レベル:8↑(1)
スキル:未来視Lv15↑(1)
狐火Lv10↑(1)
名前:マリシア
歳:18
性別:女
レベル:10
スキル:覚醒Lv15↑(2)
名前:クラウン
歳:14
性別:男
レベル:23↑(1)
スキル:洗脳Lv11↑(3)
名前:ゾイグ
歳:28
性別:男
レベル:21↑(1)
スキル:鉄拳Lv13↑(3)
となっている。
マリシアの存在はそれだけ大きい。
そして今日まで『照魔鏡』の動きはなかったが、シズクの予知に反応があった。
いつもは「今日のご飯はカレーっす!」みたいに全く使えなかったが、今日は違う。
校舎の大部屋にみんな集まって、会議が始まった。
いつもは寝ている場所だが、生徒たちも集まって円を組んで座っている。
最初はシズクが話し始めた。
「明日ここに一人人間が来るッス」
そのことにマリシアが反応を示す。
「一人だけ?もっといないの?」
「一人だけっす」
マリシアは顔をうつむかせ何かを考えている。
ゾイグさんが場の空気を読み解説してくれた。
「『照魔鏡』はいつも大人数で来ていた。こんな事は初めてである」
なるほど。
「だったら、本当にただの人間じゃないのか?」
一人で来るならどこかから迷い込んだ可能性は否定できないはずだ。
だが、シズクはそれを否定する。
「いや、絶対に『照魔鏡』っす」
「……なんで分かる?」
「ネク兄ぃが戦ってたッす!」
この糞狐。
顔を怒気で漲らせ、シズクを睨む。
「あひぃ、ご、ごめんなさいっす。次は気を付けるッス」
「まぁいい。スキルは持っていたか?」
「分かんないっす!」
「あっそ」
「……冷たいっす」
そうは言うがあまり気にしている様子はない。
いつもこんな感じで接しているから慣れてしまったんだろう。
マリシアが話を聞いて、明日の対策を施す。
いつもは楽しそうに生徒達と遊んだりしているが、今日は20人以上を率いるリーダーの顔だ。
「じゃあ、ネクロがそいつを倒せ。他は援護だ」
と、あらかた決めたようだったがすぐに意見を変えた。
「待て。明日はそいつを殺す。ネクロはそれでいいか?」
「……ゾイグさん。手伝ってくれ」
「承知」
一瞬の内だったがある程度覚悟を決め、ゾイグさんだけに協力を求めた事に他の奴らは納得いかず反発している。
俺もやる!みたいな事を全員がほざき始めた。
周りに睨み人を殺すことの覚悟を問いただす。
一応は年長者の無言の威圧に場が静かになった。
「魔物を殺すんじゃない。人を殺すんだ。その意味をちゃんと考えろ」
それでもアイラ様に徒名す奴は敵だ!、と意見は変わらない。
ノール、アイラ、アイビスを見ても勝手に何言ってるんだという目で見てくる。
まぁ、最初からやらせるつもりはない。
これが大勢来たらこの意気込みを使って、圧殺していたが今回は一人だけ。
しかも、
「悪いな。シズクの未来は俺が戦っている。やるのは俺だ。手を出せるのは俺だけという事だ。
お前らは自分の身を守れ」
過程はともかくシズクが視た結果だけは絶対だと、この二カ月で全員理解している。
その事を分かっているからこそ、俺の言葉にはかなりの説得力が発生する。
まぁ、今回の予知はそこまで確定的なものじゃない。
「……それでも、予知した未来は俺が戦っているだけだ。
もしかしたら俺以外の誰かが殺すかもしれない。覚悟だけしておけ」
マリシアも頷き各自明日の準備をすることになった。
もう少しで辺りも暗くなるので、訓練も中止だ。
全員がグリーを見て晩飯を期待し、その手伝いをした。
今宵もおかわり争奪戦が勃発する。
ただしアイラだけはグリーがおかわりを確保している。
ここでグリーに文句を言うと、おかわりを貰う権利すら無くなるので誰も文句は言わない。
というより言ったら死ねる。
一口でも多く食べたい。超食べたい。
明日殺し合いが始まるような雰囲気ではなかった。
すでに日は登っており、ほとんど真上にある。
シズクの予知ではかなり明るい段階できたとの事で、グラウンドもどきでその時を待っている。
全員完全武装をしており、本気であることが窺える。
生徒たちはこの2カ月で全員『スキル持ち』になっている。
生半可な戦力ではこの牙城を打ち壊すことは敵わない。
そこにたった一人で現れる人間。普通に考えればただの馬鹿。アホ。ミジンコだ。
しかし絶対に来る。
何かある。スキルの把握。視えた瞬間『解析』を使う。
そして森の奥深くから一人の人間が姿を現した。
『解析』!!
名前:ドゥーエ
歳:30
性別:男
レベル:28
スキル:操作魔法Lv33
強い!!
レベルだけは過去最強レベルだ。アイビスより上だと!?
「あっれ~?なんで待ち構えてるみたいになっちゃってんの~?」
軽薄そうな顔面から軽薄な言葉が発せられる。
髪は汚い金髪、かなりのクセがある。細身で魔法を全面的に信頼してあまり鍛えている様子が無い。
身長は180を超えてるか。
マリシアが相手に確認をとる。
一応彼女も戦闘準備だけはしている。だが、彼女が戦うという事は全面的な敗北を意味している。
「あなたは『照魔鏡』か?」
「ん~……。まぁ言っちゃっていいのか?そこまで指示貰ってねーな」
頭をボリボリ掻きながらそれでも油断なくこちらを観察している。
場馴れしている。
「ん、まいっか。そうだよん、お嬢ちゃん。『照魔鏡』のおでましさ!」
「そうか。死ね」
合図が入り魔法を行使する。
『火炎魔法』×『誘導』!!
即座に30本以上展開し、30m前の敵に向けて射撃を開始する。
『誘導』を併用し簡単には避けられないはずだ。
炎の波のように襲い掛かる矢をあの男は一歩も動かずその場で見つめている。
このまま終わりかと思ったが、『操作魔法』の力を見る事になった。
「……なんだと」
ドゥーエの手前で全ての矢が静止し、有無を言わさず掻き消されてしまった。
「あは、『火炎魔法』持ってるんだ君。『ウーノ』に持って行ってあげようかな?」
「何言ってやがる」
「こっちの話さ。……次はこっちの番だ」
そういうとドゥーエの手前の地面が持ち上がり、大きな岩塊が高速で飛来してくる。
「お前ら下がれ!ゾイグさん!!」
後ろに居る20人に指示を出し、ゾイグさんを頼る。
俺の後ろから駆け出し、鉄を超える強度の拳を岩に叩きつける。
「応!!」
拳一つで岩が砕け、破片が地面に落ちる。
ドゥーエもパンチ一発で岩が破壊された事に驚いて、追撃をかけてこない。
これは一つの事実を示しているか?
「一度操作を妨害されると再度操作できない?」
……まてまて。違うだろ。
大事なのは『操作魔法』の効果範囲だ。
なぜあいつは俺達を操作して殺さない?
答えはできない。あいつの効果範囲に入っていないからだ。
「自分の周りしか操作できないな」
前にいるドゥーエは困ったような顔をして手を額に着けている。
「あちゃ~、もうばれちゃった。困るな~」
だがあいつは余裕を崩さない。
魔法を使う時は前衛が必須になるが、あいつは必要ないわけだ。
「接近戦をしたら死ぬな」
「そういうこと~」
だから俺しか戦っていなかったわけだ。
アイラが居るが矢を操作されると困る。
魔法を使える俺だけが、あいつを攻略できる訳だ。
数で押せば行けるだろうが、犠牲は確実だ。
……欲しいが、確実に殺すことが先決だ。
確認する事がある。実証されればこの手で行く……!
『火炎魔法』!
3個の火球を出しドゥーエの上・右・左から時間差をつけて順次飛ばしていく。
ドゥーエは火球を目視し操作で完璧に防いでいる。
その様子を見てゾイグさんが対応できる手が無いと焦っているのが分かる。
大丈夫だぜ、ゾイグさん。
決して無敵のスキルは存在しないんだ。
「どうする、ネクロ。何か手はあるか?」
「1分時間を稼いでください。それで殺します」
「合点承知!」
喋り方に苦笑しながら『付与魔法』をゾイグさんにかける。
ゾイグさんの全身に付与魔法の力がかかり、いつも以上の筋力を発揮する。
前に居るドゥーエは俺が2つ目の魔法を使った事に心底驚いているみたいだ。
「少年、君は連れて行くぜ」
「お前はさっさと死ね」
『火炎魔法』!!
自分の背後に炎の矢を飛ばさずに、少しだけ余裕を持たせて出せるだけ出す。
もはや俺の後ろは炎の壁があるように見えるはずだ。
「やらせねぇよ!!」
ドゥーエが俺の魔法を阻止するため木や岩をどんどん飛ばして妨害してくる。
だがこっちにはゾイグさんがいる。
俺は最後の手に向けて着々と準備するだけだ。
「させぬ!!!」
あらゆる意味で強化されたゾイグさんが懸命に俺を守っている。
2本の腕だけでは守りきれず、体を張って止めてくれている。
心の中で感謝を述べ、『付与魔法』が切れる前に勝負に出る。
途中でノールも参戦してきて、『斬首の短剣』で斬りまくっている。
勝手な真似しやがって。
だが、これがダメなら撤退だ。暗殺する。
『火炎魔法』発射!!
100本以上展開した炎の矢を息を尽かせず連射していく。
さすがに魔法のすべてを防御に回し、矢を防ぎきっている。
完全に意識はあっちに向いている。
『火炎魔法』は俺と相性がいい。俺はまだ魔法を使う余裕がある。
『火炎魔法』×『付与魔法』×『隠蔽』!!!
発生させた火球を悟られないように、地中に向けてゆっくり発射する。
熱に重点を置いて強化した爆弾は、俺の後ろで地面を溶かしながら土の中を移動していく。
この間もファイヤ・アローを撃つのを辞めない。
数人の生徒達も援護射撃をし始め、さらに余裕を無くしている。
しかもかなり完成度の高い攻撃ばかりだ。
しかし、ファイヤ・アローも撃ち尽くし攻撃がなくなったことを確認しドゥーエが高笑いを上げる。
「あははははは!!俺の勝ちだな!お前たちの攻撃は効かないんだよ!!」
死ね、クソ人間。
爆発しろ!!!!
ドゥーエの真下まで爆弾が移動した事を確認し、俺の手持ちの中で最強の攻撃が歓喜の産声を上げる。
真上のみに爆発の方向性を限定され、灼熱の炎と熱された地面がドゥーエを襲う。
爆発の衝撃と熱風が辺り一帯を覆い、全員に被害が出てしまう。
ドゥーエは宙を舞っているが、熱を強化し地面で爆発したせいでドゥーエは五体満足でまだ生きていた。
それでもマグマの如き温度の炎に襲われ、肌は爛れ髪は無くなり全身が燃え盛っている。
「ああああああぁぁっぁっぁぁぁっぁあああぁああ!!!!」
生きたまま身を焼かれ苦悶と言っていいのだろか、悲壮を通り越した声が校舎に轟いている。
いつの間にかマリシアが隣に来ていて、肩に手を置かれた。
「良くやった。殺すのは私がやる。リーダーとしてのけじめだと私は思う」
ドゥーエに目をやれば自分を覆う火を消そうと、地面に体をこすり付けているがまったく効果を上げていない。
放っておいてもいずれ死ぬが、リーダーの命令だ。
「……そうか。お前が言うならそうしよう」
「すまんな。やはり私がやった方がいいと思うんだ。……キーン・エッジを」
わかった、と言いかけた所でドゥーエから声が上がった。
視えない誰かに手を伸ばし、懇願している。
「ぼ、ぼす……ま、まだ……まけてない……りふ……じんだ、……こん、なの……むこうだ」
その声を最後に体が塵の様に崩れている。
「……どういう事だ?」
疑問を余所に体が完全に塵となってしまい、燃え盛っていた炎が塵をも焼き尽くしてしまった。




