55話
アイビスが泣き止み両親から離れたことで落ち着きを取り戻したようだ。
緊張から解放され俺達の覗き見に気付き、いきなり俺たちのいる方向を向いた。
「ヤベッ!」
全員茂みにしゃがみ視界から消えるようにしている。
ノールが焦りながら小声で文句を言っている。
「ボスの『隠蔽』マジでダメだな!」
アイビスとの距離は30mは離れていたのに、『隠蔽』を使っても気付かれてしまった。
「ど、どうするんすか?アイビス姉ぇ絶対怒ってるッすよ!?」
「俺のせいじゃねーよ!アイビスが凄いだけだって!」
「誰が凄いって?」
後ろから声がかかり、唖然としてしまう。
30mの距離をどうやって詰めたんですか?
茂みから体を上げ愛しのアイビス様にお声をかける事にする。
「うへへへへ、そりゃもちろんアイビスさんの事ですよ」
「……覗くくらいなら最初から居ればいいじゃない」
「お兄ちゃんね、『付与魔法』使ってまで盗み聞きしようとしてたんだよ」
俺の隣から爆弾発言を軽く投下する。
さっき魔法をかけないのを軽く根に持ってるな。アイビスに俺を攻撃させるつもりか。
慌てて抵抗するためこちらも援護射撃を行う。
「違うから!ノールとアイラも魔法かけろってうるさかったから!」
「ちょっ!何言ってんの!?」
「お兄ちゃん!?違うから!アイビスちゃん!」
完全に自分たちにもブーメランとなってしまい、慌てて二人はアイビスに許しを請う。
「……別に怒ってないわ。行きましょ」
体を返し両親の元へと向かう。
ノール、アイラ、マリシア、ゾイグが続々と付いていく。
シズクは俺の隣に来てうしし、と笑っている。
「珍しいっす。いつもならネク兄ぃ気絶してるッすよ」
「余計な事は言わんでいい」
「アデッ」
頭に軽くチョップを入れて、アイビスの方へ向かった。
アイビスの両親に会うと二人から死ぬほどお礼を言われた。
クラウンは俺に頭を下げるのは嫌そうだったが、親に飯抜かれたいのか?、と言われれば本当に嫌そうに感謝を述べた。
この人数でもいいから家に泊まって欲しいとの事で、お言葉に甘えそうさせてもらう事にした。
「クソ兄貴の親とは思えないほど出来た人たちだったな」
今は広い客間をあてがわれている。
定住しないらしいが、ここは結構気に入ってるらしく割としっかりした家を建てたらしい。
客間は8人が入っても割とゆとりがある。
これは群れ全体の決定で、ネコ代表が決めたことだ。
「クソ、なんでコイツに頭下げたんだ」
「まぁまぁ、クラウン落ち着いてよ。ネクロがアイビスちゃんを連れて来たのは事実なんだし~」
「そうだな。少しくらい礼を言っても罰は当たらん」
マリシアとゾイグさんがなだめてクラウンを何とか抑えている。
クラウンは不満そうな顔をしているが、アイビスの事には代えられない。
「……まぁな」
今アイビスの両親はネコ代表を呼びに行っている。
アイビスが見つかったのはもちろんだが、誘拐されていたノールとアイラが保護された事を報告しに行った。
少し経てば代表がこの客間を訪れるはずだ。
代表が来る前に話す。
「ノール、アイラ、アイビス短い間だったが世話になった。
お前たちとはそう遠くないうちに分かれる事になる」
「「「えっ?」」」
3人は困惑の声を上げ、狼狽している。
「で、でもさ、俺達の村で暮らすって」
「……そうだったな。だけどマリシアやゾイグさんと『照魔鏡』の活動妨害をする事になったからな」
「だったら私達も……!」
「わ、私だって……!」
4人で会話していたが、マリシアが割り込んできた。
あまり雰囲気が良くなかったから助かるが、何言う気だコイツ。
「まぁまぁまぁ。私にいい考えがあるのだぜ!」
「……マリシア、何をする気だ?」
「焦らないでよ、ゾイグさん。私が提案する―――――」
その時勢いよく客間の扉が開かれ、一人のおっさん猫が飛び込んできた。
「アイラ様!アイラ様!いらっしゃいますか!?」
うざい。
「……ここですよ、ネコ」
アイラの雰囲気が一変して、威厳に満ち溢れたものになる。
「ああ、ああ、ああ!!よくぞご無事で!このネコ、もう一度見える日をどれほど待ち望んでいたか……!!」
アイラの前で跪き、両手を合わせまるで神と相対しているかのようだ。
目からは滂沱の涙を流し、本当に嬉しい事だけは分かる。
「……少しは静かにしなさい。皆が驚いています」
「申し訳ありません!気を付けます」
扉からアイビスの両親も入室して口を開く。
「ネコさん、そこの青年が家のアイビスとアイラ様を連れて来たお方です」
ネコと呼ばれているネコ代表がこちらに駆け寄って、俺の両手をとる。
顔と顔の距離が近すぎる。あんたおっさんだろ?そんな趣味はない。
「あなたがアイラ様をお連れしてくださったのですか!?」
「あ、ああ」
「ありがとうございます!なんとお礼を言えばいいのか……」
その瞬間、俺の後ろに居るマリシアからニヒッと声が聞こえた。
何企んでやがる。
「やぁやぁやぁ、ネコさん。私はマリシア。以後よろしく」
俺を押しのけネコと握手を交わす。
顔は笑顔だが、さっきの声が何かしようとしているのを示している。
握手された猫は誰かわからず困惑している。
「おっと、自己紹介が簡潔すぎましたね。私もそこのネクロ君と協力してアイラちゃんを連れてきたんだ。なかなかハードな旅だったよ」
「おぉ!あなたもですか!まだ若いと見えるのに、なんと立派な事だ!」
こいつ適当な事言いやがる。
「お礼だったら私達は欲しい物があるんです。聞いていただけますか?」
「何でも言ってください。できるだけ叶えましょう!」
ここで顔がいっそう笑顔になり、上手く行ったと嬉しそうな顔をしている。
いや、俺は後ろに居るから視えないんだけど、絶対そんな顔をしている筈だ。
短い間だが接してきてなんとなく性格は分かってるつもりだ。
「学校がね、欲しいんですよ」
「学校、ですか?」
「ええ、今回のアイラちゃんが誘拐された事にあなた達は大変胸を痛めたはずだ」
「それはもう!」
「でしょ?そこで、ここにいる人間、獣人は全員『スキル持ち』だ。
今後そんな事が起きないように、獣人を鍛えたいと思ってたんです」
「ですがそれが何になるのでしょう?」
「ふふっ、それは私の秘密に触れてしまう事になります。
しかし忘れないで欲しいのは、これはすでにアイラちゃんも賛成しているという事です」
「なんと!?真ですか、アイラ様?」
「……!ええ、もちろんです」
突然話を振られたアイラだったが、マリシアが何か目くばせをして何とか返答した。
つーか、そんな話してたの?俺知らない。
「引いては学校となる建物と15歳未満の獣人を30人程度集めてほしいんだ」
「……しかし幾らアイラ様の助言があるとはいえ、私だけでは判断できません。
他の部族代表とも協議したいのですが……」
「それはもちろん。しかし、アイラちゃんの言葉を無視できるとはあまり私は思いませんね」
「それについては私も同感です」
ネコはアイラに向き直り、一礼してからまた訪れるという事を言い残し退出した。
ネコもアイビスの両親も出て行って誰もしゃべらなかったが、ゾイグさんが先陣を開いた。
「マリシア、さっきのは何だ?聞いていないぞ」
「うん、言ってないからね!さっき思いついたばかりだよ!」
屈託のない笑顔で言ってのける。
聞いたゾイグさんは完全に呆れた様子だ。
「ノール君、アイラちゃん、アイビスちゃんはネクロと離れるのが嫌だったみたいだからね。
拠点を構えてネクロを拘束したんだ」
クソが、さっきまでお別れムードだったんだぞ。恥ずかしすぎるわ。
マリシアは雰囲気を変えここからが本番だとばかりに口を開く。
「それ以外にも理由はある。クラウンを手放すのは惜しい。
アイビスちゃんが居ればクラウンは付いてくるし、ネクロが居ればアイビスちゃんは付いてくる」
「だ、だれが……!」
マリシアは腕でアイビスを制止し、考えを説明する。
「まだある。これは私の『覚醒』を最大限活用できる環境が欲しかった。
この1年で開花した才能はたった2つだ。少なすぎる」
たった1年前から活動をしていたのか。
「あとは『照魔鏡』を釣る。学校に多くの獣人が集まればあいつらが寄ってくるかもしれない。
そうでなくても情報屋から仕入れれば妨害に向かうし、学校は拠点になる。
今までは宿暮らしでお金が厳しかったんだ」
「割と色々考えてるんだな」
適当な事を言ってるだけだと思ってた。
素直に感心した。
「これでも君たちのリーダーだからね」
今まで大人しかったシズクから笑い声が上がる。
口に手を当て上下に体を揺らし楽しそうにしている。
「うしししししし」
「どうかしたのかな?シズクちゃん?」
マリシアが不思議そうに質問する。
シズクは座っていた椅子から飛び降り、嬉しそうにこっちに向かってくる。
「いやー、視えた通りだったんで当たって良かったなって。
『未来視』は絶対っす!……あれ?ネク兄ぃ?顔が―――――イタタタタ!!!」
「この糞狐が。視えた事は全部言えって言ったはずだが?」
シズクの顔面を鷲掴みにしてもちあげた。
握力も少し入れている。罰だ。
「い、い、い、言っていい事とダメな事に分かれてるッす!
こ、これは言ったら未来が変わるかもしれなかったっす!」
「そうい事は早く言え」
シズクを掴みあげる右手を話し、痛みから解放させる。
床にへたり込んで若干涙目になっている。
「……悪かったよ」
「これでも女の子っすよ?」
「だから悪かったって」
今までの扱いが悪すぎたかもしれない。
サイズが手ごろでやりやすいのが問題だな。
気を取り直してマリシアが尋ねる。
「シズクちゃんは未来を視て付いてきたなら、私たちの手伝いをしてくれるのかな?」
シズクは笑顔に小気味よく返事をした。
明るく元気だ。
「いいっすよ!」
マリシアもパッと表情を明るくして喜んでいる。
『未来視』は大きいだろう。
「じゃ、シズクちゃんは決まりね」
次はノールだ。
「ノール君はどうする?」
いつもはおちゃらけているが、今回ばかりは真面目に考えている。
「……アイラを危険な目に会わせる訳にはいかない」
「じゃあ……」
マリシアは残念そうな顔をするが、ノールの話はまだ終わってないみたいだ。
「でもアイラがやるなら話は変わる。アイラの方が強いけど万が一があったら目覚めが悪い」
「そっか。じゃあ、アイラちゃんはどうかな?ノール君の話を抜きで。君の正直な言葉が聞きたい」
マリシアはアイラを追い詰めるような顔をして見ているわけではない。
あくまでも自由意志。本人の意思を尊重している。そんなことが分かる表情だ。
「……やります」
「おっけー。ノール君もよろしくね」
「りょーかい」
ノールも了承し疲れたとばかりに座ったまま寝てしまっている。
はえーな。
「じゃあ、最後はアイビスちゃんだ。どうする?無理はしなくて大丈夫だよ。
そこのアホ兄貴は無視してくれ」
アイビスの隣に居るクラウンは食って掛かるが、アイビスはそんな事を気にしていない。
シスコンは大分アイビスに慣れたみたいで、いつもベッタリだ。通報するぞ。
「わ……わたしは……」
「うん」
マリシアは辛抱強く待つ。
隣のクラウンはオロオロして落ち着きがない。
落ち着けクソ兄貴。
目線がアイビスと合い、一瞬だが見つめ合う形になった。
すぐに逸らされたが、顔を下に向け少し黙っていると重い口が開いた。
「やるわ」
「ありがと!嬉しいよ。クラウンも来るよね?」
「たりめーだろ!アイビス放っていけねーよ」
マリシアは本当に嬉しそうに顔を綻ばしている。
「ゾイグさん、ゾイグさん!たくさん仲間が増えたね。ここまで長かったよ」
「ああ、そうだな。とは言え1年だがな」
「1年もだよ。学校もできそうだし、『覚醒』もフル稼働だね!」
それだよ。『覚醒』。いいなぁ。
「ホントずるい能力だ」
「ネクロこそ変なの持ってるみたいだね?教えてよ」
めっちゃ断り辛いな。
ま、仲間だし。別にいいけど。
「俺は『スナッチ』を持ってる」
「なんじゃそりゃ?」
当然の反応をありがとう。
本当に不思議そうな顔をしてくれるから、説明し甲斐がある。
簡単だけど。
「スキルを奪えるんだ。酷いもんだろ?」
「そりゃ酷いね!笑っちゃうよ!」
本当に爆笑してしまい、一人で笑い転げている。
マリシアを無視して、ゾイグが質問してきた。
「ということは複数スキルを持っているのか?」
「ああ、今は14個持ってる」
「14!凄いな……。『天』持ちを倒したとしても疑問は無いのだろうか?」
「あれは運が良かったんだ。それに向かっていく騎士がどんどん殺された。
勝ったとは言っても酷い戦果だ。」
「……そうであるか。良ければ今度その話をしてくれ」
「ああ、いいですよ」
その日は客間で皆で雑魚寝する事になった。
クソシスコンがアイビスの横を陣取ろうとしていたので、妨害していたらいつの間に2人ともワイヤーで拘束されていた。




