52話
すでに戦闘は終結して、周りには魔物が居ない。
無抵抗に殺されていった魔物の血で溢れかえっている。
アイラの報告で人間が侵入している。
臭いで把握したんだろう。
「人間だと?」
この村には俺しか人間はいなかったはずだ。
このタイミングでなぜ人間が出てくる?
「はい、かなりいます。20以上はいますね」
「20!?」
一人二人の話じゃない。なんだ、何が起きている?
「それより、他の狐達はどうなっている!?生きているのか?」
「……はい。大丈夫みたいです。むしろ……」
「何だ?」
「侵入してきた人間たちが皆殺しにされているみたいです」
「何!?」
何なんだ!?訳が分からない。
頭に手を当て考え込むが意味が分からない。
「……狐達は大丈夫なんだな?」
「はい」
なぜ襲われていない?
魔物にとってはどっちも標的のはずだ。
全部の魔物が人間の方が好みだった?旨いのか?
いや、待て。それ以前の話があるじゃないか。
「なぜこんな所に人間がいる?」
ここは東の獣人の多い地域の森の深い場所に位置している。
最初の開拓地からもかなりの距離を歩かなければならないし、明確な意志でもなければ発見は難しいはずだ。
では何だ?人間の目的。魔物の襲来。人間のみが狙われている状況。
……ダメだ。
ノールとアイラが集合して全員集まる。
顔はこれからどうするかの指示待ちだ。
何かしなければ。
と、その時。
「――――ッ!」
シズクの体が跳ね上がり一瞬硬直する。
未来が視えた動作だ。
「何が視えた?」
全員シズクを見守り、一言一句逃すまいと息をひそめる。
村は魔物の声と人間の断末魔が響いている。
「……北に誰か居るッス。ネク兄ぃが誰かと話してたッす」
「北?誰か?」
北は今しがた魔物が襲来してきた方向だ。
何か関係がある?有るに違いない。
「……よし。ノール、アイラ、アイビスは狐と合流して護衛しろ。
寄ってくる魔物は殲滅だ。全部殺したら北に来い。シズクは俺と一緒だ」
「「「「了解!」」」」
3人は即座に元来た道を戻り、合流するべく駆けていった。
「シズクは俺の背中にしがみつけ。落されるなよ」
「了解っす」
背中を向けると勢いよく飛び乗ってくる。
勢いが強すぎて前につんのめり倒れそうになる。
この野郎。
「うししししし」
後ろに居るシズクが突然笑い始め不気味に思う。
「……いきなりなんだ?」
「当ててるんすよ?」
最初は言ってる意味が分からなかったが、女の子の見栄なのか?
よく分からん事を言うやつだ。
「まな板が偉そうに言うな」
「ガーンッす」
またうしし、と笑いギュッとしがみついた。
「離すなよ」
「分かってるッすよ」
『強化』を使い薄暗い森の中を駆ける。
木々はそれなりにあるが走り回れないほどじゃない。
少し暗く視界は悪いが、後ろに狐もいるから何とかなる。
「おい、このまま真っ直ぐでいいのか?」
「居るッスよ」
前に注意を向けるといつの間にか二人組がいた。
一人は獣人。黒猫。アイビスと同じ。身長160㎝。武器は剣。
もう一人は人間。スキンヘッド。筋骨隆々。身長2m程度。武器なし。
「……アホ狐。二人いるぞ」
「だ、誰も一人とは言ってないっすよ!?」
確かに言ってなかったけど。
「そういうのは全部言え」
「すんませんっす」
俺の背中から飛び降り横に並ぶ。
彼我の距離は10m程度。戦いを始めようと思えば一瞬で開始できる距離だ。
何を言えばいいのか悩んでいたところで、相手が騒ぎ始めた。
「おいおいおい!?何で人間がこんな所に居るんだ!?アイツら何やってやがる!?」
黒猫が不満たらたらで叫び、隣に居る人間がなだめている。
「落ち着け、クラウン。勝手に喋るな」
「だけどよぉ!予定が狂ってるぜ!?」
「冷静になれ。隣に獣人が居るだろ」
「ああ!?だからなんだってんだ!?」
人間はため息をついてこっちに確認をとってきた。
完全に置いて行かれている。情報量が圧倒的に相手の方が上だ。
「お主、『照魔鏡』か?」
「「ショウマキョウ?」」
何を聞かれているのか全く分からない。
だが相手はそうは取らなかったみたいだ。
「おい、ゾイグ!こいつ絶対すっ呆けてるだけだ!騙されんなよ!」
「落ち着けと言っている。隣の獣人のお嬢さん。その人間は?」
シズクはビクッと体をはねて、驚いている。
スキンヘッドのムキムキのおっさんに話しかけられて驚いただけだ。
未来が見えたわけじゃない。
「あぅ、ね、ネク兄ぃッス」
おっかなびっくり質問に答える。
「ネク兄ぃ?お兄さんなのかい?」
「ち、違うッス。村を守るために来てもらったッス。呼びやすいからそう呼んでるだけっす」
「村を守る?」
完全に誘導尋問になっている。
口を挟んで止めるべきかも分からない。
ここで不用意に言葉を挟んで、悪い印象を抱かれても困る。
続行だ。
「き、今日魔物がたくさん来るのが視えたッス。だ、だからネク兄ぃに来てもらって守ってもらったっす」
「視えたとは?」
「ボ、ボクは未来が見えるッス」
「……そうか」
何か勝手に納得したようで、バツの悪い顔をしている。
「おい、何一人で満足してんだ。こっちにも説明しろ」
ゾイグと呼ばれた人間に喧嘩腰で質問を投げつける。
すると、クラウンと呼ばれた黒猫が反応を示した。
「何勝手に喋ってんだ。誰が許可した?」
「あぁ?」
空気が張り詰め、クラウンが剣を抜いたのを確認して、俺も予備の短剣を抜刀する。
『解析』!
名前:クラウン
歳:14
性別:男
レベル:22
スキル:洗脳Lv8
名前:ゾイグ
歳:28
性別:男
レベル:20
スキル:鉄拳Lv10
「『洗脳』に『鉄拳』か……」
「クソが、解析系かよ。即効ばれちまったじゃねーか。どうすんだよ、ゾイグ?」
「落ち着けと言っているだろ。誤解を与えたのは我らだ」
「ネク兄ぃ、戦ってる未来なんて見てないっすよ」
睨みあい一触即発の雰囲気だったが、同時に剣を収めた。
シズクとゾイグから安堵の息が漏れる。
その時後ろから足音が響いてきて、アイビスが姿を見せた。
前の二人に注意を払いつつアイビスに話しかける。
「アイビスだけか?二人はどうした?」
「後ろに居るわ。全速力を出したら私が一番早いだけよ」
「魔物は?」
「人間を全員殺したら勝手に逃げていったわ」
そうか、と言うところで黒猫のクラウンが口を挟んできた。
「……アイビス?」
「え?ええ、そうだけど」
様子がおかしい。明らかにさっきまでの高圧的な態度が消えうせ、怯えと期待が入り交ざった弱弱しいものになっている。
「……ほ、本当か?本当にアイビスなのか?」
体が小刻みに震え、目には涙が貯まり今にも流れ落ちそうだ。
10mの距離を1歩1歩詰めてくる。
これ以上は近づけるわけにはいかない。
「止まれ」
アイビスの前に立ち塞がり、接触をさせないようにする。
ゾイグも移動をしてクラウンの肩に手をかけている。
「なんだよ、邪魔すんな」
態度は戻ったが、声は震えている。
なんなんだ。
「お前、自分の能力を把握していないのか?誰が近づかせると思ってるんだ」
数秒何を言っているのか理解していない感じだったが、顔を真っ赤にして怒り始めた。
触ってはいけないものに触ったような怒りだ。
「俺が!!!アイビスを『洗脳』すると言いたいのか!!!!?ふざけるな!!!!」
あまりの怒りに気後れしてしまう。
怒りの一喝の後にはクラウンの激しい息遣いしか残っていない。
「落ち着け」
「これが落ち着いていられるか!!!最大級の侮辱だ!!」
何が奴をここまで怒らせているんだ。
涙を流し怒りに震え、今にも襲い掛かりそうになっている。
隣のゾイグは小さく謝罪するとクラウンの鳩尾を殴り、気絶させた。
「……何をやっている?」
「済まんな。許してやって欲しい。それほど君の一言はコイツを激昂させるに値したという事だ」
「どういう事だ?」
「……それよりも話さないか?そのために来たんだろう?」
「……そうだな」
同時にノールとアイラが到着して、会話する準備が整った。
「我々は今3人組で活動している。もう一人は戦闘能力が低いためここにはいない」
クラウンはそばの木に寝かされ放置されているような感じだ。
アイビスはクラウンを見て少し困惑と動揺をしている。
「それで?」
「目的は『照魔鏡』の活動を妨害することだ」
「そのショウマキョウっていうのはなんだ?」
「今ここで長く話せないが、簡単に言えば15歳未満の獣人を専門とした誘拐グループだ」
「……なるほど」
「そういうことだ。我々は『照魔鏡』の情報を掴み、クラウンの『洗脳』で魔物を送り込み人間を殺害するように命令した」
「なぜ狐達にそのことを言わなかった?」
「今日誰かが誘拐されます、と言って信じてもらえるか?」
「……それもそうだな」
あの人間たちは誘拐犯だった訳か。
人間の俺だけが狙われた理由にもなっている。
狐達に被害もないようだし、概ね信用しても大丈夫なはずだ。
「じゃあ、次はそいつだ。なぜあんなに怒っていた?それ以前も態度が急変していた」
「……そうだな」
少し考え込むと小さな声で話し始めた。
あっという間だ。
「あいつの名前はクラウン。そこに居る猫のお嬢さんの兄だ」
聞き逃さないようにしていたが、衝撃的な事実だ。
「……ウソ。クラウン兄さんなの?」
お兄ちゃん居たのかよ。




