53話
「え?アイビスちゃんってお兄さんが居たの?」
「え、ええ。一応。……そういえば言ってなかったわね」
すでに日は落ちかけ周りは闇が支配しようとしている。
これ以上ここに居ても魔物に襲われる可能性があるだけだ。
だがな、
「おいいいい!!お兄ちゃん居るなんて聞いてないぞ!!」
「だから言ってなかったわねって今言ったわ」
リアルお兄ちゃんが居る事実に恐怖が身を侵食してくる。
馬鹿な。
……まて。大丈夫だろ?
別にお兄ちゃんが複数いたって不思議な事はない。
チャンスはまだ失われていない。むしろお兄ちゃんと呼ぶハードルが低くなったと考えるべきだ。
それよりあれだな。あいつ確実にシスコンだよ。
年齢14に対してレベルが22って高すぎだろ。俺より高い。
アイビス誘拐されて鍛えまくったな。
いつか俺がアイビスを救い出す!、みたいな奴だな。
だからアイビスが目の前に居る事が分かって泣いたんだ。絶対そうだ。
そんで俺にアイビスを洗脳するんじゃねーの?、っていわれてブチギレたんだな。
妹洗脳するわけねーだろ!!!、みたいな。
納得。ごめんね。
当たりも暗くなってきたからゾイグさん(顔が怖いのでさん付け)に村に行こうと助言しようとした時、ゾイグさんが再度話しかけてきた。
「……そこの青年はもしやネクロではないか?違っていたら御免」
「なんで分かるんだ?」
「お主はかなり有名だ。なんでも『天』持ちを倒したとかいうな。
20前後の青年と10代前半の獣人3人を連れていると。それで青年の名前がネクロらしい。どうだ?」
「……まぁ間違ってはいない」
「そうか。マリシアも君のように強い人が味方だったらとぼやいていた」
「マリシア?」
「あれ?私の話してるの?」
いつの間にかひょっこりゾイグが居る木の後ろから女性が一人現れた。
「ノール、気づかなかったのか?」
「別に。気づいてたよ。何もする気はなさそうだったし」
さいですか。
「……マリシア。待機だと言ってはずだ」
「ええ~、でも私だけ何もしないのはどうかと……」
「はぁ~~……」
「ちょっ、ゾイグさん酷いな~。心配してきたのに」
マリシアと言う女性はゾイグにちょっかいをかけて楽しんでいるようだ。
人間。身長は170㎝、女性にしては大きい。あっちも大きい。
黒髪で髪型はポニーテールだ。服装は緩いが一応武装はしている。左手に一振り剣を持っている。
「ありゃ?クラウンどうしちゃったの?」
ゆっくり近づいて、気絶して微動だにしない黒猫を機にかけている。
ごめん。嘘。めっちゃ突いてる。反応が無いのが面白いのかおもちゃにされている。
ケタケタ笑いながら鞘でクラウンの頭を小突くことを辞めない。
「妹が見つかって暴走したから気絶させただけだ」
「うっそ!アイビスちゃん見つかったの!?どこどこ?」
マリシアと呼ばれる女性はこちらをギョロリとみわたし、家の愛らしい黒猫に目を付けたようだ。
玩具を捨ててアイビスに近寄っていく。
「君がアイビスちゃんだね~。聞いてるよ。クラウンがそれはもう可愛いってうるさいんだから。
でも話に聞いてた通りだね。とっても可愛いよ」
マリシアはアイビスに近づいてこねくり回している。
アイビスは対応に困り、軽く涙目になっている。
「ちょっと!アイビスちゃんは私のなんですよ。気軽にモフモフできるのは私だけなんです」
割と意味不明は言動をしているのは、アイラだ。
最近はっちゃけてきている。
「あ、アイラ。別にあなたの物でも……」
「そっか~。ごめんね。知らなかったんだ。許してね」
「そこまで言うなら仕方ありませんね」
ムフーと息を吐きだし満足げに自分の戦果に酔っているようだ。
つーか、こいつのせいで話ができていない。
「おい、そろそろいいか」
「あっ、ごめんね。何か話してたんだよね。静かにするよ」
「もう暗い。一度村まで移動したいがどうだ?あんたらも夜目はそこまで効かないだろ?」
これ以上とどまっていると戦えるのがノール、アイラ、アイビスだけになる。
最悪『付与魔法』を使うが、ポンポン使う物でもない。
「だってさゾイグさん。どうする?」
「リーダーはお主だ」
「そうだった。じゃ、お言葉に甘えて行こうか。ゾイグさんはクラウンを担いでね」
ムキムキのゾイグさんは重量を感じさせない動きでクラウンを荷物を担ぐように運ぶ。
つーか、マリシアがリーダーなのか。
村に戻り全員の無事を確認した。マリシア、クラウン、ゾイグは協力者という事にしたら、すんなり寝る場所を用意してくれた。
もうちょっと疑う事をしないと。そこの猫魔物を送り込んだ張本人。
俺達に用意してもらった部屋に俺、ノール、アイラ、アイビス、シズク、マリシア、クラウン、ゾイグが集まる。
聞きたいことはまだあるような気がする。
すでに自己紹介も済ませ、話に入る。クラウンは気絶したままだ。
起きたらアイビスに泣きついて面倒な事になる。シスコン兄貴め。
「じゃあ君がネクロなんだ。強い人は歓迎するよ」
「マリシア、まだ仲間になると彼は言っていない」
「あれ?そうなの?ゾイグさんが説得したかと思ってたよ」
コホンと咳払いをしてマリシアは雰囲気を切り替える。
さっきまでは軽薄そうだったが、今はある程度真面目に見える。
「『照魔境』の事は聞いたかな?」
「少しな」
「あいつらはね15歳未満の獣人を攫っているの。何でか分かる?」
「……高く売れるから?」
「だいたいはそうかな。王国法で15歳未満の奴隷は禁止されている。これは15未満の奴隷の希少価値がかなり高いことを示している」
「……そうだな」
「貴族の中には変態も多い。獣人とやりたいけど未成熟なのがいい。そんなやつばかりさ。
でもそれは人間でもいいって思うでしょ?でも違う。何でか分かる?」
腕を組んで悩むがいい考えは思いつかない。
「……いや」
「ネクロは気づいてるか分からないけど、獣人の容姿は人間より遥かに良い。
できるなら可愛い娘とやりたいのが本音さ。でも人間はそうはいかない。
中には趣味に合わない娘だっている。でも獣人はそうはならない」
後ろを振り向きアイラとアイビスを見る。
確かに人間とは一線を画している。人間でこれだけの美人を見た覚えはない。
「なるほど」
「それでね私は『照魔鏡』の存在に気付いて、今はゾイグさんとクラウンでなんとか食い止めてるんだ」
「なんでそんな事ができるんだ?どこに『照魔鏡』が来るか分からないじゃないか」
「そこは優秀な情報屋が居るのさ。『調教』持ちで動物たちに情報を集めさせているらしい。
依頼をして情報を貰っているんだ」
「そりゃ便利だ」
窓の外を見るともう真っ暗になっている。
さっきまで命を張った戦いをしていたように思えない。
目線を戻しマリシアを見る。屈託のない笑顔を見せられどうしたもんかと嘆息してしまう。
「どうしてそれを俺達に言うんだ?」
「仲間が欲しいんだ。強いね。君たちに協力してほしいんだよ」
「……」
やはりこうなるか。
ノールは我関せずとばかりにベットをごろごろしている。
アイラとアイビスはどうしたもんかと悩んでいるのかな?
シズクはボーっとして話についてきていない。
「悪いが他を当たってくれ。俺はこいつらを親に送り届ける事にしているんだ」
「そうなの?じゃ、それが終わってから」
ニコニコして俺が拒否できる環境を作ることを許さない。
俺だって協力するのはやぶさかじゃない。
順番が違うだけだ。
「……それならいいだろう。やる事ないしな」
「やった!決まりね!」
「お前らも付いてくるか?」
「そうね。どうせクラウンがアイビスちゃんにくっ付いて離れないわ」
「……だろうな」
ベットに眠るシスコン兄貴を一瞥してアイビスにも目線をよこす。
近寄りたそうにモジモジしているが、恥ずかしいのか俺の後ろにアイラと一緒に居る。
「アイビス、あいつのそばに行かないのか?家族なんだろ?」
「で、でも……。気持ちの整理が……」
「アイビスちゃん、私からもお願い。クラウンね、本当に頑張ってたの。絶対妹を見つけるって。
あの子まだ14歳なのにレベル22よ?私と会う前はまだスキルもなかったのに。
それでも強くなって助けに行くって」
「……そうなの」
少し目を赤くしてクラウンのベットに近づき腰を下ろした。
座ったまま髪を撫で顔はうつむき、どんな表情をしているか分からない。
これ以上見ているのは無粋だ。
「あいつ、最近スキルを手に入れたのか?」
「そうよ、私のおかげよ!」
頭がおかしいのかこの女?
どうしてお前のおかげになるんだ。
「あっ!信じてないわね。でもどうやって証明すればいいかしら?」
「マリシア、彼は解析系のスキルを持ってる。見て貰え」
「便利な人ね。じゃあ、解析してみて」
なんだかなぁ
『解析』!
名前:マリシア
歳:18
性別:女
レベル:10
スキル:覚醒Lv13
「『覚醒』?」
「ふふっ、見えた?これでも自慢のスキルよ。私には恩恵がないけどね」
「どんな能力なんだ?」
「気になる~?」
顔をニヤニヤさせかなりイラつく声の高さだ。
勝手に顔がヒクついて、マリシアを怯えさせる結果となってしまった。
「ごめんごめん。教えるわよ。
「才能を開花させる才能」だそうよ。すごいでしょ?」
「おい、かなり凄くないか?」
アイラとアイビスもかなり驚いている。
ノールは完全無視。シズクは寝てしまった。シズク連れてきた意味なかったわ。
それより『覚醒』。「才能を開花させる才能」。
なんてスキルだ。
『スナッチ』なんて目じゃない。
こんな森の奥深くにいるのが不思議な人材だ。
『弓の加護』『天通眼』と比べたって、あまり遜色ないんじゃないか?
「勘違いしてるみたいだけど、誰でもできる訳じゃないわよ?
最低限の努力は必要になるし、私との信頼関係が必要不可欠になるわ。
それにすぐに発現するわけじゃない。
私が相手の性格を知って、本人の努力が必要よ」
「いやいやいや。それでもだ」
「まぁね!」
「なら、ゾイグさんの『鉄拳』もか?」
「ええ、そうよ!」
すげぇ。二人も才能を開花させている。
騎士学校に6年居て何も出なかった俺からしたら、かなり羨ましい。
なんて破格のスキルだ。性格も明るいし、勝手に周りに人が集まりそうな女性だ。
その内最強の部隊を作っていたって疑問はない。
その時、後ろから声が上がった。
「……アイビス?」
「あっ……」
クラウンが気絶からようやく復帰したようだ。
最高2日間気絶していた俺からすればだいぶ早い覚醒だ。
「あああ、良かった。本当にいる!アイビス~~」
近くに有ったアイビスの手を取り本当に居る事を確認している。
エスカレートして手を頬ずりし始めた。
おい。
「ちょ、ちょっと!」
手を引っ込めるとかなり残念そうな顔をしてしまう。
「あっ……」
アイビスは実の兄の悲しそうな顔を見て、小さな声を上げ少し同情をしてしまう。
だが、俺はそんな事しない。
「貴様ぁ!俺なんてちょっと何かしたら気絶させられるんだぞ!」
悲しそうな顔はどこへやら。あっという間に敵意剥き出しの表情を出す。
「てめぇ、まだ居たのか。さっさと消え失せろ」
「アイビス連れてきたのは俺だ。お前は跪いてネクロ様ありがとうございます!、と言うべき立場なんだよぉ!」
「んだとぉ!?ホントか、アイビス?」
「え、ええ」
「ホレ見ろ」
人が見たらかなり屈辱的になるような表情を意図的に作る。
俺が見てもかなりイラつくだろう。
「……てめぇ、さっきから調子に乗りすぎてんじゃねーのか?」
おもむろにベットから起き上がり、俺に近づいてくる。
「どっちが上か知りてーのか?今すぐ『洗脳』してやろうか?あ?」
「お前こそいいのか?ご自慢の『洗脳』奪ってやろうか?」
「何言ってやがる」
その言葉が火ぶたを切ることになってしまい、組み付いてワーギャー床を転げまわる。
「このシスコン兄貴が!お呼びじゃねーンだよ!親呼んで来い!」
「てめーも用が無いならさっさと帰れ!ご苦労さん!バイバイ!」
とどまる所を知らずいつまでも大人げない事を繰り広げていると、遂にアイビスの仲裁と言う名の踏みつけが俺の後頭部を襲った。
顔は見えないが確実に冷たい目をしている事だけは分かる。
「げぶっ!」
「……二人ともいい加減にしなさい」
「バッカじゃねーの!怒られてやんの!」
踏みつけられている状況で顔を強引にクラウンの元に向け、勝利者宣言を行う。
「……分かっていないな。俺が勝ったという事を」
「……なんだと?」
「なぜ二人居ながらアイビスは俺を踏みつけた?
それは、俺の方が接しやすいからだ!お前とはすでに積み上げてきたものが違うのだ。
つまり、今のお前は路傍の石ころ同然。価値ゼロ!俺の完全勝利だ!!」
「ば、馬鹿な……そんなはずは……」
こいつ馬鹿だ。
「お前はアイビスに蹴られてようやく俺と同等なんだよぉ!!」
「……何言ってるのよ」
俺の上から呆れた声が上がっている。
俺も意味が分からん。だが奴はそうではない。
クラウンにとってアイビスとの関係は何よりも大事。
意味不明な論でも価値ゼロと言われたら何かしら行動を起こす。
このクソシスコンめ。
「あ、アイビス!俺を蹴り飛ばしてくれ!」
「ハ、ハァ!?コイツの言ってること真に受けてるの?」
マジでバカだ。
「た、頼む!」
遂にアイビスに抱き着いてしまった。
終わったな、コイツ。
「きゃあああ!!」
密着状態からクラウンの腹に膝が打ち据えられ、一瞬体が宙に浮く。
アイビスはその場で跳躍して、空中で回し蹴りを実の兄に叩き込んでしまった。
華麗な二連撃だった。
「ごあ!」
「あ……」
クラウンは壁に激突し、ベットの上で動かなくなってしまった。
別に死んじゃいない。レベル22だ。死にゃせんよ。たぶんね!
「あーはっはっは!!馬鹿め!アイビスの蹴りを受けて意識を保ってられるわけねーだろ!
お前の妹お前より強いから!!」
馬鹿笑いしていたらアイビスがこっちに来た。
「ようやく分かったようだな。俺が本当の兄であるという事を!」
「馬鹿じゃないの?二人とも」
「あえ?」
顎に致命的な一撃を受け、失神してしまった。
2人仲良く並んで気絶しているはずだ。僕たち仲良し。




