48話
ゴリラ呼ばわりされたことは気にせず皆と話す。
「……割に合ってないよな、これ」
「クワトロコング」の強さに対して、報酬が少なすぎる。
『スキル無し』に対して追い込まれ、本気を出す羽目になった。
『天眼通』とは比べるまでもないが、かなり強い魔物だ。
3人も同様の意見を抱いていたようで、帰る事になった。
報酬は400ユグ。
「……はぁ」
そりゃため息も出るよ。
森をもうすぐ出るところで、突然ノールが向きを変え抜刀した。
「どうした?」
「……『スキル持ち』が全速力でこっちに来てる」
「何で分かる?」
「直感」
会話をしているのに、こちらを見ようとする素振りもない。
「戦闘準備だ」
「「「了解」」」
アイラは後ろに下がり、俺とアイビスも武器を取り出す。
「……ん?突然止まった?」
ノールが困惑の声を上げる。
「いや、ゆっくりだけど来てるな。ボス、もうすぐ見えるぜ」
「そうか。時間があるならこっちが有利だ。アイラ、『付与魔法』を使う。」
「わかりました」
隣にアイラが近寄り、いつでも『付与魔法』が使える体勢にする。
少しするとさっきより一回り大きいゴリラが出てきた。
「……なんであんな馬鹿デカい岩を持ち上げてる?」
ゴリラは4本の腕で自分の身の丈より一回り小さいくらいの岩を持って現れた。
『解析』!
名前:クワトロコング
レベル:24
スキル:誘導Lv1
「まさか!?」
やる前に全員に魔法を!
『付与魔法』!!
かけたのがフィジカル・アップではなく、ブースト・レッグであることに全員疑問に思っている。
「全力で回避しろ!」
発言と同時に巨大な岩を俺たちに向けて投げつけてくる。
「離れろ!!」
ようやく全員敵の意図を理解し、回避に移る。
速い!
軌道は完全に俺に向いている。
標的は俺か!
奴から見て横移動になるように全力で走り続けるが、岩が俺を追い続けている。
「やはりか!!」
だが、誘導が少し甘い。レベル1だからそこまでの精度がない。
「うおおおっぉおお!」
当たる直前に進路を変更して回避に成功する。
岩は旋回せずそのまま直進して木に当たり、ようやく止まった。
「全員隠れているな!?」
木の陰に隠れて確認をとる。
「おう!」
「はい!」
「ええ!」
今ゴリラは手ごろな石を拾って、投擲している。
しかし、『誘導Lv1』では木に密着している俺たちをピンポイントで狙撃できていない。
ここの場所は岩が多くあり、石も苔に覆われているが残弾が尽きることはない。
「……あいつの方が有利か」
さっき無理にでも突進するべきだった。
完全に遠距離戦に持ち込まれた。
接近戦にしないとやり辛い。アイラがいるが、もしあの石に当たったら痛いではすむまい。
そんな役をやらせる訳にはいかない。
……痛いか。……痛くなければいいんだよな。
………………………………あっ!
「いいこと思いついた……!」
結構痛みを伴う可能性もあるが、現状打破になる可能性も高い。
俺一人に投擲を集中する事になれば、他が活きる。
「俺が突進する!その隙に近づくなりして攻撃しろ!」
「ボス!頑張って!」
そこは「了解!」じゃないの!?
行きたくないよね!そりゃ頑張ってほしいよね!
「お兄ちゃん、頑張って!」
「さっさと行きなさい!」
なんなんだよおおおお
「ちょっとは止めてよ!」
「「「……」」」
「無視ですか!そうですか!行ってきます!」
『付与魔法』!
いつもより分厚い光が体を覆う。
かぁ~、結構魔力使った。
でも1分はかなり防御力が上がっている。……はずだ!
顔の前で手を交差して顔面だけには直撃しないように走る。
ゴリラがウホウホ石を投げてくる。
手に腹にゴスゴス当たってくる。しかし、かなり耐えられている。
これならいける。
『索敵』で後ろを確認すると、ノールとアイビスが向かって来ている。
勝ったな。
完全に油断した。
石の一つが股間に直撃して、男にしかわからない痛みに襲われた。
「あんぎゃああああぁぁっぁあぁ!!」
マジック・アーマー!!!
仕事しろ!!
股間を押さえつけ地面に転がりのた打ち回る。
「ボスーーーー!!」
「何やってるのよ」
ノールは俺を心配し、アイビスは冷ややかな目を向けるだけでゴリラに向かっていった。
「だ、大丈夫かよ!?完璧に当たってたぞ!?」
俺を引き摺って木陰に連れて行く。
「の、ノール。頼む。仇をとってくれ。」
倒れたまま体を震わせ、ノールに届くはずのない手を伸ばす。
ここだけ異様な空間が出来上がる。
「分かった!」
そう言って俺の視界から消えるが、即刻戻ってきた。
「どうしたんだ?」
「アイビスが右腕1本切り落としてたんだけど、距離取られて近づけなくなった」
マジかよ……。俺の犠牲が。痛みが。
「……絶対許さん。……奪ってやる」
「そうだ!奴には最大級の屈辱を与えてやるんだ、ボス!」
ノールも同意して、俺の内側から沸々と怒りが湧き起こる。
股間だけはダメだろ。金的だけはよぉ!!
『生命力』で痛みが徐々に引いていく。
持ちうる全ての力を発揮して奴を殺す。
剣は使わない。殴り殺してやる。
時間感覚では永遠のようだったが、ようやく魔法が使えるレベルまで回復した。
立ち上がって、怒りに震えながら最大出力を展開する。
『付与魔法』!
「ブッ殺してやる」
『隠密』を使って気配を隠し、真上に跳躍して木の枝に着地する。
「あそこか」
前方30m程度の位置に腕を一本無くしたゴリラがアイビスのいる方向を睨んでいる。
『体術』『隠密』を駆使しながら、木から木へを移動していく。
音もなく木の葉が揺れる隙はない。
これが怒り、執念のなせる技なのか。
股間を攻撃された怒り。あの痛みを味わうなんて。
もう18歳だぞ。何年ぶりにやられたと思ってるんだ。
奴の股間を潰してやる……!!
ゴリラから見えない位置に木の上から静かに着地する。
ゴリラの背後をとっている。
「ウボー」
ゴリラの息がやや荒い。
アイビスに対する怒りと痛みで興奮している。
足下の植物は赤く染まり、出血の状態を示している。
放置してもそのうち死ぬ可能性もある。
しかしそれは許さない。
誰も手を出すなよ―――!
光り輝く脚の力を全開にして、ゴリラに向かって疾駆する。
『隠密』を使って近づくが残り5mの所で気づかれてしまった。
「ウバァ!」
繰り出される左拳を右にステップして躱すが、残ったもう1本の左腕で裏拳をかましてくる。
敢えて避けず『剛腕』の力を上乗せして、両腕で受け止める。
ゴリラの腕を左腕で抱えたまま、伸びきったゴリラの肘に右拳をお見舞いして関節を破壊した。
「ウガッ!」
怯んだ所で右足を軸にして、左足をゴリラの左膝に向けて振り下ろす。
『強化』した左足は膝を完璧に捉え、威力の逃げ場がない衝撃は左膝を破壊した。
「ウバァァ!!」
左膝に力が入らなくなり、膝小僧にゴリラが土をつける。
意識が行っていない残る左腕に関節を極めつつ組み付く。
自分の頭は地面を向き、脚は奴の腕に絡みついて腕を固定する。
ゴリラの腕を本来曲がらない方向に全力で引き、完全に左肘も破壊する。
「ウガアアアッァァ!!」
頭から地面に落ち、後転しながら飛び上がり着地する。
アイビスが右腕1本を切り落とし、俺が左肘2か所と左膝を破壊。
残るは右腕1本と右膝のみ。
ゴリラから1m離れた場所から、膝をつくゴリラを見下ろす。
「マジふざけんなよ。やっていい事と悪いことがあるだろ。
お前オス?どっち?ねぇ?やっていい?やるよ?やるから。絶対やるから」
俺の目を見たら今は完全に狂人の目をしている筈だ。
俺の怒りは有頂天だ!!
1歩飛びのき助走距離を稼ぐ。
右足から飛び出し、左足を軸に全体重を乗せた右足がゴリラの股間を強襲する。
『強化』!!
「オラァァア!!」
俺の脚が奴の股に侵入して、恥骨を打ち抜く。
生物としての使命を放棄させ、種の保存を不可能な状態へと移行させた。
ゴリラの大きな体が2m上空まで到達して、落下する。
口から泡を吹き、目は開かれ絶望の表情で固まっている。
「これで終わりじゃねーぞ。あん?それ貰うからな……!」
気絶しているゴリラに跨り、開かれた目と目を合わせスキルを使う。
『スナッチ』!!
「ヒャッハー!!一回で終わりやがったぜ!この糞ゴリラ!」
たった1回。まだ今日は行けるぜ。フラグになるかも。
『火炎魔法』!
泡を吹き出す口に爆弾を放り込み、口内で爆発させて頭が消失する。
「おっしゃー!!やってやったぜ!」
大声で勝鬨を上げノールが近寄ってくる。
「やったぜ、ボス!男の敵を倒したんだ!」
ノールとがっしり抱き合い、喜びを分かち合う。
「「あはははははははは……!」」
ようやく落ち着き、意味不明なテンションが無くなる。
アイラとアイビスが困惑した顔で近づいて来る。
「……お兄ちゃん?ノール?」
「……どうしたのよ?」
「……いや、ちょっと男の敵をだな……」
訳の分からない言い訳をしていると同時に、全員に殺気が降りかかる。
「「「「―――――っ!??」」」」
殺意の塊が俺達に直撃する前に、全員が四方に散らばり降り立ったゴリラの攻撃を避ける事ができた。
「いきなりなんだ!?何時からいた!?」
疑問が出るがただのゴリラでは無い事に気付いた。
「……『セーイコング』?上位種じゃないか」
腕が6本ある。「クワトロコング」の上位種であることに間違いはない。
しかも、なんだあれは?
「……揺らいで見える。陽炎みたいだ」
ゴリラの体が実体を保っていないような感覚を覚える。
体がグニャグニャに見える。
『解析』!
名前:セーイコング
レベル:20
スキル:隠蔽Lv25
「……高い」
『隠蔽』のせいで直前まで気付かなかったか。
「『隠蔽』持ちだ。レベルが高い。気をつけろ」
そういった瞬間ゴリラは跳躍して、俺達から距離をとる。
そして、消えた。
「「「「なに!?」」」」
しまった。あまりにも『隠蔽』が高すぎて、認識できない。
距離が離れると感知もできない。
「ノール、アイラ匂いはどうだ?」
「ギリギリだ。居る事だけわかる」
「私もです」
2人の鼻でも駄目か……
「撤退する」
「「「了解」」」
4人一斉に走り始める。
木々を駆け抜け村へと帰還する。
騎士団を巻き込んで戦闘を試みようとするが、
また殺気が背後を突き、本能的に今いた場所を飛び退く。
「ぐっ!」
ゴリラはそこにいたが、また掻き消えてしまう。
「くそ!」
スピードも速い、背を向けていればそのうち殺られる。
しかし、本能とは言ったが『索敵』には引っかかった。
「止まれ」
全員その場で止まり振り返る。
「どうするの?あいつかなり見にくいわよ」
「『付与魔法』がある。万能だ」
見えないなら見えるようにしろ。
『付与魔法』!
全員の目に光が灯る。主に感覚器を鋭敏にする効果があるが、今回は目に限定してある。
「……いた」
それでもユラユラして見える。かなり不思議な感覚だ。
木の上からこちらを観察している。
完全なヒット&アウェイで削り取るつもりだったな。
「直視するなよ」
無言だが分かっているはずだ。
「俺が牽制する。アイラが打ち抜け」
集中して魔法を行使する。
『火炎魔法』×『誘導』!!
さっき糞ゴリラから奪った『誘導』を活用する。
大量の矢がゴリラに飛んでいく。
避けているのに自分に飛んでくる矢を目の当たりにして、対応に遅れている。
木から木へと飛びつき回避しているが、ついに当たり始めた。
一本当たり始めれば後は自動的に、追尾する矢が袋叩きにする。
全身火だるまになり、木から落下する。
しかし、攻撃は終わらない。
アイラの矢が落下中にも襲い掛かり、実体のある矢が体のいたるところに刺さっている。
空中でダンスでも踊っているかのような動きで攻撃され続け、地面に叩きつけられた。
初動の速かったノールとアイビスが地面を転がりまわるゴリラに襲い掛かる。
切り裂き、貫かれ、辺りに血を撒き散らしながらも、懸命に二人を追いやりどうにかこうにか立ち上がっている。
背を向け逃走しようとした所に、木々の合間を縫いアイラの矢がゴリラの膝を両方とも貫いた。
走っていた勢いのまま転び、顔面から地面に突っ込んだ。
「クワトロコングより簡単に終わったな」
『弓の加護』様様だ。『スナッチ』はあと14回。盗れる。
『付与魔法』
剣に付与して、四肢切断を行うため近づく。
八肢だけど。
近づく俺に気付き、膝立ちしながら拳を出すが斬り落とす。
「ガアァ!!」
「……イマイチ効率が悪い。危ないし……」
でも嬲り殺しだから、3人にはあまりやらせたくないなぁ……
んー………………。
『火炎魔法』×『付与魔法』!
刃の付いた白い炎の円盤が現れる。
ギザギザの刃が徐々に回転し始め、甲高い音を立てる。
それが7つ。
基本思想は超高温で焼き切る事だ。
しかし、スピードは遅く回転させるのにかなり集中しなくてはならないので、止め用だ。
後ろからこの魔法について疑問の声が上がっているが、魔法の使用中には言葉は話せない。
……行け。
ゆっくりとだが避ける事ができないゴリラに処刑の刃が迫る。
全ての手足に同時にファイヤ・ホイールが侵入して、林の中に絶叫が轟く。
命の喪失が間近の者の悲痛な叫び声だ。
「ぎゃあああああああぁぁぁぁあああぁあああっぁあぁああああ!!!!!!」
……最悪の気分だ。
ようやく焼き切り、ゴリラはぐったりとして動かない。
……悪かった。
接触して目を見る。
『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』『スナッチ』
……やばい。奪えないから使い続けてしまった。
とりあえず止めを刺して、その辺に座り込む。
合計18回。未知の領域だ――――!????
「ぐあああああぁっぁぁぁあ!!」
頭が!われる。
「ぐぐうううううあうあ」
鼻から血が。目からも!?
「フーッ!フーッ!フーッ!」
息が荒い。視界も狭くなってきた。世界が色褪せる。
「ボス!薬飲め!」
ノールが口にビンを突っ込んで、回復薬を飲ませる。
「ウック、……ごはっ!」
半分飲んだところで残り半分を吹き出してしまう。
「……大丈夫だ。すまない」
かなり見える光景が変わった。『生命力』と回復薬のおかげで命拾いした。
「だが、立てそうにない。手伝ってくれ。」
「わかった」
身長差でちょっと歩きにくいが、このままここで倒れているより全然マシだ。
アイラとアイビスは顔色を悪くして、後ろに立っている。
「心配するな。ちょっと無理しただけだ」
「……は、はい」
「……うん」
「早く行こうぜ。何かあったら困る」
「そうだな」
ゆっくりとした歩みで村に戻った。




