46話
オーガの自殺という結果に周囲は困惑に満ちているが、どこか安堵している雰囲気が漂っている。
下手すれば死んでいた状況だったので、安心するのは生物として当然の反応と言えるだろう。
「……終わったな」
『天通眼』を最後にしていたので、もう周りにオーガはいない。
『火炎魔法』で森も燃やしてしまったので、避難が遅れると焼死という嫌な死に方をしてしまう。
「支部長!早く避難しましょう!」
生き残った義勇兵達にも聞こえるように進言する。
「そうだな。お前たち行くぞ!!」
方針が決まれば生き残りたちはさっさと移動して、戦場を後にした。
ポイントに置いておいた馬車に乗り込み、街へ帰還する。
同乗した義勇兵達に次々に礼を言われた。
曰く、「助かった」、「ありがとう」、「お前のおかげだ」、「お前が居なければ死んでいた」とか、身の丈に合わないことばかりだ。
嬉しいが、魔力を完全に使い果たして喋る余裕がない。
適当に頷いている間に、瞼が落ちた。
今回の戦いは騎士84名、義勇兵32名の計116名で挑んだ。
しかし、『天通眼』持ちの出現により討伐難度が急上昇。
とてもではないが、116名の戦力では太刀打ちできない。
先の戦いで『弓の加護』のアイラが300の矢で、300のゴブリンを殲滅していた事からもこれは予測できる。
あの『天通眼』にはそれだけの可能性があった。
故に騎士79名死亡、義勇兵4名死亡の計83名の死亡は遥かに少ない被害と言える。
『天通眼』を破ったネクロの名が広がるのは必然的である。
戦闘の考察をするならば、ネクロ一人では絶対に勝てない戦いであった。
『天通眼』との戦いに『付与魔法』は必須であり、使うのに1秒程度のタメが必要になる。
それを補い、共に戦う仲間3名がいてようやく同等。
『双剣術』『弓の加護』『暗殺術』の性能も無視できない。
さらにネクロ自身の『剣術』『体術』『強化』『剛腕』『生命力』も見逃せない。
あまりのスキルの数に『天通眼』の読み逃しが多発した。
死亡した83名の英雄達には一つ二つのスキルしか持ち合わせず、多様性を出すことができずに、『天通眼』が読み逃しを起こす事がなかった。
『天通眼』はネクロと相性が悪かった。天敵ともいえる。
最後に『スナッチ』。
『天通眼』はこれも読み逃し、左腕を切断せざるを得ない状況に追い込まれた。
止めに『火炎魔法』と『付与魔法』の併用による高威力の広範囲攻撃。
『天通眼』は『スナッチ』の前に完全に敗北した。
3日後、俺達は斡旋所の支部長の部屋にいた。
他の部屋とは違い調度品がそろい、一応は権力者であることが窺える造りである。
ノールはその辺をウロチョロし、俺、アイラ、アイビスはソファーに座り支部長と相対している。
「え、え~とぉ……」
今までの話は、今回は良くやってくれたとかそんな感じだった。
で、だ。
「なぜ『剣術』以外を隠していた?」
という感じになってしまった。
良く考えなくても大人数の前で、ほぼ全てのスキルを披露してしまった。
「それは~、あれじゃないですか?ばれたら困る?的な?」
「言えと言ったはずだ」
「で、でも~、『剣術』は言ったじゃないですかぁ。全部言えなんて言ってないしぃ」
なぜか語尾が伸びる。
「揚げ足を取るな」
「し、支部長だって、知られたら困る事ってあるでしょ?それですよぉ」
「阿呆が。義勇兵なる時に情報開示に同意しているはずだ。
貴様に拒否権など最初から存在していない。」
なんかあったような気がする。そんなこと。やべ。
「で、でも~……」
「……バリーを呼ぶか」
「だ、誰っすか?」
嫌な感じがする。
「奴は『断罪』持ちだからな」
オワタ。何でそんな奴が居るんだよぉ。
「『断罪』を前に今と同じ態度がとれるか?」
「あばばばばば」
『断罪』は対象の罪に応じて、肉体的なダメージを与える訳の分からんレアスキルだ。
『断罪』持ちは『警邏隊』に所属しやすい。
ていうかやばいよ。
情報開示していないのも罪だけど、俺人を殺しちゃってる。
どんなダメージになるか分かったもんじゃない。死ぬんじゃない?
「お、お兄ちゃん……」
「ネクロ……」
変な声を出した俺に対し、憐みの目を向けられる。
ちょっとは助けてよぉ。
「ちょっと行ってくる。待ってろ」
そう言って立ち上がってしまう。
「ちょ、ちょっと待って!!」
「なんだ?」
「……は、話しますから。『断罪』だけは勘弁してください」
「最初からそうしろ」
どっかり座って聞く体勢に入っている。
「あんまり他言しないでくださいよ。」
「……内容による」
いいよ、くらい言って。
「……俺は『スナッチ』っていうスキルを持ってるんすよ。」
「知らん。なんだそれは?」
「発動条件を満たすと確率的に相手のスキルを奪うことができます」
真顔で言って真面目に言ってることを伝える。
「日に15回程度使えます。今までも何回か使って、スキルを奪ってきました。」
もうやけくそだ。
「……だから言いたくなかったんだ」
『スナッチ』の説明をしたら、完全に黙り込んでしまった。
「……何個持ってる?」
少し考え込んで数える。
「『スナッチ』を含めて11個だ」
「そんなにあるのか……!」
誰もが一つくらいなのに、俺はその11倍だ。普通に考えても異常だ。
「人からは奪ったのか?」
「………………奪った」
かなり悩んだが、今さらだと思い白状した。
「……そうか」
長い間部屋を沈黙が包んでいたが、支部長は立ち上がり袋を持ち出した。
「今回の報酬だ。良くやってくれた。礼を言う。」
「……なんも聞かないのか?」
「そのスキルが無ければ全員死んでいたのも事実だ。
スキルの事は黙っておいてやる。命の恩人の頼み位は聞く人情はあるつもりだ。」
「あり―――」
お礼を言おうとしたが、
「「ありがとうございます!」」
隣の二人の方が反応が早かった。
家具を弄っていたノールも反応する。
「おっちゃん、良い奴だな!」
「……うるさい。さっさと金を持ってどこにでも行け」
そっぽ向いてしまったが、顔は緩んでいるのが見えた。
威厳ある顔が台無しだ。
「そうか。ありがとう。それじゃあ行くよ」
お礼を言って部屋を出る。
3人もお礼を言い、笑顔で宿に戻った。
宿に戻って全員一斉にベットに倒れ込む。
少し前の宣言通りに、アイラの尻尾をモフモフしながら寝た。
突然視界が揺れて、あっという間に寝てしまった。
不思議な事もあるものだ。
5,6時間ほど寝てもまだ昼位だったので、今後のことを話す。
「報酬と今までの稼ぎで100万ユグ以上集まっている。
節約しながら使えば、2年程度は何もしなくてもいいレベルだ。
明日には東に移動して、獣人の多い地域に入ろう。」
「おっ、ようやくか」
「……はい」
「……ええ」
ちょっとノール君。ようやくとか言わないで。
やらなくてもいい事ばっかりやってたけど。
「1か月程度でその地域に入れるらしい。
途中一回中継地点で休憩と討伐依頼位受けてから、お前らを送る。」
「おっけー」
「……」
「……」
アイラとアイビスの反応が薄い。
「二人ともどうした?調子でも悪いのか?」
「……いえ、そういうわけでは」
「……違うわよ」
「そうか?ならいいが。
……お金を渡すから各自昼飯と旅で欲しいものを買っておけ」
「やった!何買おっかな」
「……わかりました」
「……分かったわ」
ノールが勢いよく立ち上がって、あっという間に外に出て走り去ってしまう。
あいつなら一人でも大丈夫か。
「二人はどうする?俺と行くか?」
「……一人で行きます」
「……私もそうするわ」
本当に大丈夫か?
「……そうか。無理するなよ」
ドアから出て廊下に出る。
横目に二人を見ると着替えようと、服に手を伸ばしている。
これ以上みていると気絶する羽目になるので、さっさと外に出て飯と買い物を済ませた。
いつの間にか着替えていて、気づいたら外でご飯を食べていた。
想像以上にさっきのお兄ちゃんの言葉に揺さぶられている。
「……もうすぐ離れ離れになるの?」
自分自身この感情が分からない。
助けてもらった時はすごい感謝したし、好きになっていたかもしれない。
褒めてもらえば嬉しいし、お兄ちゃんが喜んで貰える事をしたい。
これは好きなのかと思った。でも、今は何か違う気がする。
寂しい。とても寂しい。
ノールが兄か弟かは知らないけど、お兄ちゃんは絶対にお兄ちゃんだ。
安心する。
頼れる存在ができた。ノールが頼りないって訳じゃない。
ノールだって頼りになる。
私が『弓の加護』を持っているから、私に関わる人は何かと機嫌を取ろうと必死だった。
お兄ちゃんはそんな事しないし、むしろ変な事を積極的にしてくる。
特別視しないし、変に突き離したりもしない。
良く考えればそんな事をするのは、家族以外に居なかった。
「……さびしい」
自覚すればどんどん思考が固まっていく。
「……うう」
トボトボと通りを歩いていく背中はとても辛く、寂しいものに見えた。
アイラも出ていったことを確認して、着替えたままの服装でベットに倒れ込んだ。
「……なんなのよ、これ……」
自分が今どうなっているのか分からない。
こんなことは初めてだ。
親に会うことに緊張しているの?
それだって、まだどこに居るかすら分かっていない。
胸がモヤモヤする。
枕に顔を埋めて、脚をバタバタさせる。
「うう~~~~~~」
仰向けになって天井を向く。
1泊5,000ユグに見合った立派な天井だ。
「……絶対、お兄ちゃんのせいよ。そうに決まってるわ」
いつまでもここに居るわけにはいかない。
お腹もすいた。お金も貰ったし、何か食べなきゃ。
宿を出て通りを見る。
皆忙しそうに働き、汗水たらしている。
ふと今は周りに誰もいないことに気付いてしまった。
「……もう!」
理不尽な怒りを地面にぶつけて、おいしそうな匂いのする方向を目指す。




