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45話 『スナッチ』『双剣術』『弓の加護』『暗殺術』vs.『天通眼』

いつもの倍書きました。

45話をお楽しみください。

 裂帛の気合で斬りかかるが、当たり前のように躱され背後をとられる。


 「ッ!」

 

 オーガはすでに俺に向き直り、剣を振り上げている。

 一瞬死を覚悟するが、すぐにノールが斬りかかりオーガの剣で防御させる。


 「オラアアァ!」

 「ガァ!」


 『斬首の短剣+14』が相手の剣と接触しているが、武器破壊はできていない。

 やはりそこまでは無理か……。


 オーガがノールをレベル差をもって押し返し、体勢が崩れたノールを一刀のもとに切り伏せようとするが、突如剣の位置を変更して、背後から襲いかかっていたアイビスの鎌を受け止める。


 「化け物が!」


 アイビスは悪態をつき鎌を引いて矢継ぎ早に鎌を繰り出す。『暗殺術』素早い動きでまるで黒い球体が存在するような速さで鎌を縦横無尽に振りまわす。


 しかし、オーガはこの速度にも対応し、未来が見えているといわんような動きで、剣で防御もせず全て躱している。


 「アイビスちゃん!!」

 「!!」


 アイラの声を聴きフィジカル・アップの効果全開で横っ飛びして、アイビスの陰からオーガに向かってアイラの撃滅の矢が飛来する。

 突然矢が現れたように見えたはずだ。普通なら躱せない。


 しかし、剣を使い、移動し、同胞を盾として使い、全てを防いでいる。


 オーガの意識がアイラに向いていることに気づき、魔法に集中する。

 目の前に拳大の赤い球体が発生、射出する。


 『火炎魔法』(エクスプロージョン)!!


 隙をついたつもりで奴の近くに着弾させたが、着弾位置を知っていたかのような動きで爆発範囲外に逃げ込んでいる。


 全員の攻撃が途切れてしまい、束の間の静寂が訪れる。

 ここで1分が経ち、『付与魔法』の効果が一斉に切れる。


  4人の動きは周りの義勇兵達も目を見張るものがあったはずだが、オーガは完全に無傷でそれをすべて回避している。

 この時点で周りの義勇兵はオーガの強さに絶望にも似た感情を抱いていた。

 俺や他の3人も同様の思いを抱いているはずだ。

 まさか、全て避けられるとは思っていなかった。衝撃が一番大きいのはアイラだ。

 『弓の加護』による連続射撃が悉く回避され、防がれた。

 このことに、俺、ノール、アイビスの衝撃は計り知れない。

 なんだかんだ言って今まで『スキル持ち』に撃っても、絶対当てていたんだ。

 30本は撃って一本も当らないなんて経験上なかった。

 むしろ30本で30の命を奪うくらいだ。

 この事実だけでも戦意喪失して、逃げ出してもおかしくはなかった。

 しかし、


 「……素晴らしい」


 俺は恐怖も感じていたが、それ以上に『天通眼』に対する賞賛の感情も抱いていた。

 『剣術』『火炎魔法』『付与魔法』『双剣術』『弓の加護』『暗殺術』これだけのスキルを使っても、傷を与えられていない。ここまでやって生きていた『スキル持ち』は今までいなかった。

 それだけ強力なスキル。『天通眼』。未来が見えるスキル。


 「……欲しい」


 誰も近寄らないオーガに向かって俺は一歩を踏み出す。


 最近は色々あって奪っていない。今でも十分だと思っていたが、あれは……。


 「……俺の物だ」


 もう一歩。

 少し前に戻ったようだ。欲しい。あれが欲しい。

 渇望している。俺もあの境地に行きたい。


 歩を進めるが、自重して踏みとどまる。これ以上は奴を刺激してしまう。


 後ろは見ず、剣を構えながら3人に伝える。


 「ノール、アイラ、アイビス、お前たちは援護だ。今回は俺が主力だ。」


 3人とも驚愕を露わにしているが、数瞬逡巡した後、


 「「「了解!」」」

 

 信じてくれた。


 「やるぞ!」


 『付与魔法』(ブースト・レッグ)!!


 脚を中心に付与魔法の光が灯る。

 これで敏捷が大幅に上昇するのは、ノールとの訓練で確認済みだ。


 無言で気合を入れ、10m前のオーガに接近する。

 このスピードを出しても驚いている様子がない。

 予想通りなんだよな?未来が見えるのは確定だな。……よこせ!!


 まずは腹を狙って横に払う。

 ステップで回避されるが構わず追撃。

 『強化』を全開にして、最速に近い速度で心臓めがけて突きを放つ。

 

 「ガァ!」

 「チッ!」


 直撃する寸前でパリィされ、体勢を崩してしまう。

 オーガは剣を振り上げ頭を斬り砕こうとするが、振り下ろすのを寸前で止め、横に移動してアイラの矢を回避する。完璧な援護だ。

 アイラは絶え間なく撃ち続けるが、当たる様子が全くない。


 それで大丈夫だ。今はそれしかない。


 俺がオーガから離れたから、ノール、アイビスがオーガに接敵し、オーガと切り結んでいる。

 この隙を使わない手はなく、『隠密』で気配をできるだけ隠す。


 ノール、アイビスは互いに隙ができないように、ほぼ完璧と言える連携でなんとかオーガの一撃を食らわないことに成功していた。

 しかし、振るう攻撃は全く当たらず、いいとこ武器で防がれる程度だ。


 アイビスがオーガの脇から腕を切断する為に、鎌を大きく振り過ぎ、未来を見たオーガは最小限で回避。

 意趣返しとばかりに剣で大きく開いたアイビスの脇を狙い、下段から振りぬこうす。

 アイビスの顔に焦りが出るが、ノールが即座に割って入り、左の短剣でオーガの剣を打ち下ろし、右手の『斬首の短剣+14』で両目を狙い横に薙ぐ。

 

 しかし、この攻撃もオーガの予測の範囲内。あっという間に後ろに下がり攻撃は失敗に終わり、距離が生まれる。

 ノールとアイラも距離をとり、一旦小休止となる。

 

 「クソ!」

 「なんなのよ、あいつ!?」

 

 あまりの強さに汚い言葉を吐くが、それだけ余裕がない証拠だ。

 あの二人が傷をつけることすら叶わない。


 そこに、オーガの斜め後ろから、認識としては突如現れたであろう俺の攻撃をオーガは剣で完全に防いだ。

 後ろを全く見ず、完璧な防御。顔はノールとアイビスを向いたままだ。後ろに目でもついてんのかよ。


 渋面を作り一旦離れる。

 ノールとアイビスと合流、俺を中心に展開する形になった。

 ここで、脚にかかっていた『付与魔法』の恩恵が切れ、通常の状態に戻る。


 ノールとアイビスが理不尽な存在に対する不平不満を思わず吐き出す。


 「滅茶苦茶強ぇ……」

 「……なによ、あれ……」

 

 今は他の義勇兵が遠距離攻撃をして時間を稼いでいるが、長く続きそうにない。

 一発として当たっている攻撃がない。

 本当になんなんだ。

 だが、今以上の作戦を思いつかない。


 「方針は変えない。このまま続けるぞ」

 

 「「……了解!」」


 『付与魔法』(フィジカル・アップ)

 『付与魔法』(ブースト・アーム)

 『付与魔法』(ブースト・レッグ)


 俺、ノール、アイビスの順で『付与魔法』をかける。

 あのオーガ相手に『付与魔法』無しでは、幾らなんでも無謀すぎる。

 魔力を温存している場合ではない。


 義勇兵の援護もあえなく失敗に終わり、オーガがアイラに接近しようとしている。

 全身をくまなく強化するフィジカル・アップをかけてあるので、即座に駆け付け、アイラとオーガの間に割って入る。 

 『強化』も併用し、アイラの前に到達する前にオーガと接触する。

 オーガの横から斬るつもりではなく、突進するつもりで剣を合わせる。

 鍔迫り合いに持ち込み、全力を振り絞る。


 『強化』『剛腕』全開!!


 「うおおおぉぉ!」

 「ゴアァ!?」


 行けてる!?押し込んでる!

 チャンスだ!!


 「ノール!アイビス!」


 体勢を維持したまま、俺の意図を伝える。

 合図せずとも二人は左右からオーガを挟み込む形で、剣と鎌を真横に一閃した。

 

 「オラァ!!」

 「ハア!」


 『付与魔法』がかかった二人のスピードが功を奏し、オーガの腹に初めて傷がついた。

 直撃する寸前で、予知したのか全力で後方に跳んだ為、結果として直撃はできなかったが、腹から血が出ている。

 

 このまま仕切り直させる訳にはいかない。

 数少ないチャンスのはずだ。


 「アイラ!撃て!」

 

 こちらも声をかける前に、アイラが千載一遇のチャンスとばかりに、矢を連発している。


 「――――ッ!!」


 声にならない声を出し、背負った70本を撃ち尽くす勢いで射撃をする。

 オーガは高速で移動を開始し、矢を回避する。

 しかし、あまりの弾幕に足が止まる。


 「ガアアァアアァア!!」


 オーガは移動による回避を諦め、剣でたたき落としている。

 その場での回避と剣による防御だけで、未だ1本も矢が直撃していない。


 「……なんて奴だ」


 『弓の加護』の矢をあれだけ撃墜させている。どこまでの未来が見えている?

 

 しかし、あくまで同格のスキル。いつまでも防ぎきれはしなかったようだ。


 『弓の加護』の矢を受けていた剣が折れ、腹に2本刺さったところでアイラの最初のストックがなくなった。 矢は残り300本。まだ行ける。


 「グラァ!」


 オーガは苦悶の声を上げ、折れた剣を投げ捨てる。

 

 「チャンスだ!」


 『付与魔法』(フィジカル・アップ)!!


 俺だけにかけて、装備を失ったオーガへ駆け寄る。

 しかし、オーガは転がっていた死体から剣を2本拝借して、構え始めた。

 二刀流。『双剣術』でも再現する気か。ノールがあだになった。


 「クソが!!」


 接近を辞めるか迷ったが、構わず攻撃を始める。

 肩を狙って攻撃するが一方の剣で止められ、もう一本の剣で攻撃してくる。


 「ガァア!!」

 「ぐっ」

 

 『体術』を使いスウェーして、剣が薄皮一枚切りながら、顔面ギリギリを剣が通過して回避に成功した。


 次はオーガから攻撃してくる。

 『剣術』がないから単調な攻撃だと訝しく思ったが、『スキル持ち』の基本スペックと未来予知に近い能力のせいで、受け止められない攻撃が連発する。

 剣で防げず直撃を避けるのが精一杯となり、徐々に刀傷が増え始め、このままでは殺されると判断。

 

 「ぐっ!」


 向かってきた剣を『剣術』『剛腕』を使い、弾き返して何とか距離をとる。


 フィジカル・アップの強化で全力で距離をとるが、20m離れたところで『付与魔法』が打ち止めになる。

 回復薬を取り出し、服用する。『生命力』との相性が良く、傷口が塞がり始める。

 

 ここまでで良い情報を手に入れた。

 活路は前に出てこそ生まれる。

 

 「……強い。だが、読み逃しがあるな(・・・・・・・・)


 『強化』と『剛腕』で押し込んだとき、奴は明らかに驚いていた。

 事前に予知していたら、まず押し込まれるような事態にはならない。

 すべてを完璧に見えるわけじゃない。これが無敵ではない所以だな。


 「読み逃しを待つか、回避不能な一撃を出すかだな」


 喋っている間も、こちらに駆け付けた騎士がオーガに攻撃しているが、軽くあしらわれている。


 次をどうするか考えているときに、アイビスが提案をしてきた。


 「ネクロとノールは下がってて頂戴。私とアイラで次をやるわ」


 そう言って右手に着けた黒いブレスレットから太めのワイヤーを引き出し、鎌に結び始める。


 「どうする気だ?」


 「あんなのに近づくなんてできるだけ避けたいだけよ。即席の鞭を作っているだけ。

 アイラ!やるわよ!」


 「分かった!」

 

 後ろからアイラの作戦同意の言が上がる。


 近づいた騎士三名が斬殺され、オーガの周りに誰もいなくなった。


 それを見計らい、アイビスは鎌を投擲する。

 飛んでいく鎌に着いたワイヤーを掴み、手首を動かし蛇を思わせる動きで鎌がオーガに襲い掛かる。


 刃がオーガの腹に近づくが、オーガは跳躍して回避。

 アイラも矢を撃つが、空中でもお構いなしに矢を迎撃している。

 着地を狙いアイビスが全力でワイヤーを引き戻し、オーガの後ろから体を引き裂こうと魔の手が迫る。


 しかし、着地前に体を後ろに向け、剣を下段から振り上げ鎌を打ち上げる。


 「チッ!!」


 全開の舌打ちをしながら、鎌をオーガに向けて引き戻す。


 オーガは上半身を屈めるだけで鎌を回避。

 鎌が地面に刺さったので、アイビスは鎌を回収し、


 「終わったと思うな!!」


 マジ切れしながら再度投擲するが、今度は一発で撃ち落とされ攻撃が強制的に終了させられる。

 鎌を回収して、ワイヤーを解く。


 「は・ら・た・つ~~!!」

 

 攻撃が全部不発に終わり、地団太を踏んでいる。


 「落ち着け。時間稼ぎにはなった。おかげで傷も完全に塞がった。」


 「私は殺す気でやってたの!」


 行動は11歳なのに、言動が11歳ではない。


 「次だ。ノールもこっちに来い。」


 ノールとアイビスと合流し、次なる手段に出る。

 知られたくないが、これを読み逃せば終わる。


 『付与魔法』(キーン・エッジ)!!


 3人の武器に光が灯り、防御不可の武器が出来上がる。

 1分間無敵の剣だ。


 「行くぞ!」


 オーガはこちらを見て2本の剣を構えているが、唐突に下ろし始める。

 キーン・エッジの効果を予知したか。隠していた意味がなくなった。面倒なスキルだ。

 有利な点がなくなった。キーン・エッジはこれからも警戒される。


 アイラの援護が入り、矢を剣で弾くと同時に『強化』で加速!!


 「ガァア!?」


 読み逃したな!!加速するのは分からなかったか!?


 胸に刃を入れようとして、横薙ぎに剣を振る。

 オーガは1本の剣を犠牲覚悟で、剣を添えつつ体を地面に落としながら回避する。


 体勢が不利になり、向かってくるノールに剣を振るが、意味のないことだと思いだしたようだ。

 ノールの『斬首の短剣+14』とキーン・エッジの相乗効果で、剣を裂き、オーガの体を両断しようとするが、オーガは完全に体を地面につけ何とか回避している。


 アイビスは跳躍してオーガを地面に縫い付けようとし、オーガは振り下ろされる鎌を前転で回避したところで、不可避の速度で4本の矢が飛来する。

 間一髪のところで左腕を犠牲に顔を守り、オーガは絶叫を我慢して距離をとっている。


 「「「「よし!!」」」」


 まともな連携でかなりデカい効果が出た。

 これで左腕を封じた。

 オーガは剣を2本拾ってはいるが、左手は持っているだけという感じだ。


 今がチャンスとばかりに騎士も義勇兵も殺到しているが、それでもオーガの有利は消えていない。

 というより、何人死んでいる?いつの間にか周りに30人程度しかいない。

 ほぼ義勇兵だ。


 80名居た騎士がほぼ全滅している。

 一つのスキルでは奴に対応できていない。


 さらに5名が斬殺されたところで、戦場が一旦静寂に包まれる。


 30対1のはずだ。

 そのはずなのに……


 ほぼ全員及び腰になっている。

 無理もないが、あいつから逃げ切れるとも思えない。


 「……俺が行く。援護しろ」


 「「了解」」


 2人は返事をして、俺が突撃するのを待つ。



 『付与魔法』(レジスト・ハート)


 レジスト・ハートによって、全身が輝きオーガに向かって走る。

 これは『生命力』を強化している。1分間は致命的な怪我を負いにくくなった。


 奴の目の前まで移動して、剣を突く、突く、突く!


 「オラ!ラァ!ハァ!」

 「ッ!ッ!ッ!」


 突く場所を変えたり角度を変えたり、工夫はするが剣で弾かれ当たらない。

 

 「クソが!!」


 突き、薙ぎ、払い持ちうる全ての技術を総動員しても、未来が見えるオーガに全く当たらない。

 熱くなりすぎて致命的な一歩を踏み出してしまったことに、後から気づいた。

 奴の左腕が動いている。もう?


 さらに、視線が左腕に集中してしまい、右腕の注意が疎かになってしまった。


 「しまっ――――!!」


 援護も間に合わず、オーガは右の剣で俺を袈裟懸けに斬り、左の剣で腹を突き破った。


 「があああああぁぁっぁぁあ!!」


 オーガは剣を刺したまま俺を宙に掲げている。

 腹から大量の血が噴出して、俺の下に血溜まりができている。


 「ボス!」

 「お兄ちゃん!」

 「ネクロ!」


 3人が悲痛な声を上げ、俺の名を呼んでいる。

 

 「……だ、大丈、夫だ」

 「……ッ!」


 まだ生きている俺に対し、オーガは驚きの表情を見せる。

 ここまでやって生きている人間も少ないわな。


 ……熱くなって間合いに入りすぎた。

 だが、これは一つの望んでいた展開だ。

 『生命力』とレジスト・ハートがあるから、首か心臓をやらない限り、今は死なない自信がある。


 『剛腕』で突き破る剣を握る左腕を放さないように掴む。

 ……読み逃しているぞ。(・・・・・・・・)


 オーガの目を見てとっておきを使う。


 『スナッ――――!


 使おうとした瞬間オーガの目が見開かれ、右の剣で自分の左腕を切り落とし、俺から逃れようと必死に離れる。


 支えがなくなり、血の池に重力で引かれ落下する。

 痛みのおかげで力が入らず、四つん這いの態勢が限度だ。


 「……ばれ、たか」


 腹に刺さったままの剣を引き抜き、回復薬を飲む。

 腹の傷がみるみるうち塞がり、痛みも完全になくなった。

 ここで、レジスト・ハートの効果が切れ、回復の恩恵がなくなる。


 「危なかったな。もう少し切れるのが早かったら、面倒なことになってた……」

 「ガ!??」

 

 すっと立ち上がり、オーガは俺の腹を見て驚愕している。

 1分も経っていないのに、あの重傷が消えたんだ。しょうがない。


 奴の左腕はなくなり、断面から湯水のごとく血があふれ出している。

 放っといても、まだ死なない。『スキル持ち』には油断しない。


 失敗はしない。


 この状況になっても他の義勇兵はオーガに攻撃しようとしていない。

 さっきまでの攻防であのオーガに対する恐怖心を植え付けられて、戦意を喪失している。

 奴1匹に80名以上が殺されているんだ。

 むしろ今俺が相手できているのは奇跡に近い。


 しかし、オーガの動きは遅くなるはずだ。

 左腕はなくなり、痛みと出血で体力は低下する。

 回避も難しくなる。

 決着の時だ。


 「ノール!あれをやる。準備しろ!」


 「了解!」


 ノールは俺の横に来て、護衛の態勢をとる。

 使うのは魔法だ。深呼吸。

 複数の使用が本当の威力を発揮する例の一つだ。



 『火炎魔法』(エクスプロージョン)×『付与魔法』(ブースト・マジック)!!!


 俺の目の前に白い球体が発生する。

 直径15㎝程度。

 侮ることなかれ。


 

 行け!!



 いつものエクスプロージョンより遥かに速い速度で、オーガに迫る。


 オーガの顔から余裕の表情は一切消え、白い悪魔から離れようと必死に足を動かしている。


 「遅い」


 俺の呟きと同時にオーガの後方5mの地点に着弾。

 


 炸裂する。


 戦場に熱風が吹き荒れ、地面を巻き上げる。

 大地は陥没し、着弾箇所に生物が生き残る余裕など存在しない。

 光量・音量共に人間の限界を超え、五感の全てを塗りつぶす衝撃に襲われる。

 爆発の方向性は限定してあるから、着弾地点より後方の人間にはそこまで被害はない。


 30秒程度たち、ようやく視覚・聴覚が元に戻り始める。


 あの爆発に最も近かったのはあのオーガだ。

 5m程度離れていたが、気休めに過ぎない。


 やはり、回避不能の一撃は有効だった。

 ただ、もう魔法は使えない。今のでほぼ魔力を使い切った。

 いいとこあと一発だ。


 辺りには土煙と引火した事で、森が若干、いや、かなり燃えている。

 要は視界が悪い。

 オーガがどこに居るか分からない。


 「……はぁ、……はぁ。……『索敵』」 


 『索敵』の範囲ギリギリに全く動かない反応が一つある。

 これか……。


 剣を握りしめ、反応のあった個所に移動する。

 義勇兵達も連れられて、俺のあとに続いている。


 オーガは木に寄りかかって倒れていた。

 ただし、全身は焼け爛れ、左足がなくなり、剣が半ばで折れている。


 『火炎魔法』×『付与魔法』の威力を物語った惨状だ。

 だが、こんな状態になってもまだ生きている。

 これだから油断ならない。しかし、俺にとっては好都合だ。


 「貰うぞ……その才能を」


 『付与魔法』(キーン・エッジ)


 右腕右足を切断して安全に奪うために、最後の魔法を使った。


 一歩オーガに近づいたとき、奴の目が開き、俺を見る。


 右手に持っていた折れた剣を俺に向け、まだ反抗する意志を見せた。


 「まだやる気か?」


 勝者の余裕からそんな行動を無視して、さらに近づく。

 あと5mの位置だ。


 しかし、俺の予測は外れ反抗の意志でなかったことに気付く。

 いや、ある意味反抗だ。


 オーガは剣を逆手に持ち、自分の心臓を一突きにし、自殺を図った。


 「なに!?」


 その光景を見た全員が驚愕したのは確実だろう。

 

 「……自殺だと?」


 意味不明な行動をとったオーガだが、最後に俺を見て口角が上がった。


 「……サ゛、マ゛……ア゛、……ミ゛ロ゛」


 ざまあみろ。


 「……奪われた未来が見えたのか……」


 喋ったことにも驚きだが、奪わせないために自ら死を選んだのか。


 オーガの目から光が消え、握っていた剣から手が離れ、この世を去った。



 「見事だ」

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