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44話

 翌日、一人100本の矢を背負い斡旋所へ向かった。

 斡旋所に大量に矢を用意してもらえばよかった。アイラ一人で終わってたかもしれないのに。

 

 「支部長、おはようございます」


 支部長は武装をして、入り口の前に突っ立ている。


 「もしかして、おっちゃんも行くの?」


 ノールが俺の疑問と同じ質問をした。

 強そうだから来てもらった方がいいけど。


 「ああ、これでも昔は迷宮に行っていた。『剣術』を持ってるから邪魔にはならん」


 見た目通りだから心配しなくても大丈夫です。

 あからさまにカタギじゃない。


 斡旋所の周りにはすでに30人くらいの義勇兵が集まっている。

 これがだいたい『スキル持ち』なら、かなり心強い。



 騎士団と義勇兵がどっちが強いかと問われれば、だいたい騎士団と答えるだろう。

 しかし、個人としてみれば、義勇兵の方が強いというのは珍しくない。

 義勇兵はほとんど『後天的スキル持ち』になるが、それは本人の適正にあったスキルを所持していることを意味している。『譲渡』してもらったスキルでは、最大限の効果を発揮できるとは限らない。

 また、俺のように『スナッチ』みたいな変なスキルを持ってる奴もいるはずだ。

 本人の適正と戦闘思想にあったスキルはそれだけで強くなりやすい。


 逆に言えば、俺はスキルを奪っても完全には使いこなせていない可能性もある。

 それでも複数スキルを持っているという点において、俺はどんな奴よりも優位に立っている。

 俺はあらゆる状況に対応しやすいという特性があると考えれば、まぁ納得もできる。

 

 それだけ『後天的スキル』は強い可能性がある、ということだ。


 それが30人。強い。



 支部長が声を張り上げ確認をとっている。


 「全員そろったな。こちらが用意した馬車に乗って西門に向かう。そこからは先頭を騎士団にしてポイントに向かう。

 それじゃあ、全員乗り込め。」


 3台用意された馬車の一つに乗って、武器・防具・矢を全て置く。

 他の義勇兵も同じようにしているから、間違っていないはずだ。



 西門に移動して、騎士団と合流。

 騎士団の代表から作戦概要を伝えられる。


 「基本は騎士団がオーガを発見し、殲滅を行う。

 討ち漏らしや逃走するオーガが居れば、義勇兵側が対応してほしい。

 騎士団のみで対応ができないと判断すれば、積極的に援護をお願いしたい。」


 騎士団80、義勇兵30の合計110程度の集団が、一斉に首肯する。

 今まで見てきた騎士と違って明らかに練度が異なっている。態度からも新人とは違う雰囲気を醸し出している。


 「予定は1日で狩りを行う。あまり長く行っても110人を維持するのは金がかかる。

 各個撃破を速やかに行い、より多くのオーガを殲滅してくれ。

 集団に遭遇しても焦らず対応し、各自個性を発揮しオーガを殲滅して欲しい。以上だ。」


 簡単な説明だったが、それくらいで十分だろう。

 義勇兵は基本後方支援のようだ。意気込みすぎたか?


 馬車に乗り込み移動に3日かかるとの事で、できるだけリラックスする。

 同じ馬車に乗り込んだ義勇兵に、大丈夫なのか?、みたいなからかいを受けたりしたが、『弓の加護』を聞いて、むしろ安心感を与えれたようだ。

 勝手に『解析』で実力を確認したが、やはりかなりのレベルだった。


 


 移動の3日が経過した。

 移動中にもオーガが現れたが、大した数ではなく『スキル持ち』も出現しなかった。 

 平常通りとのことで、オーガが斥候などを放って俺たちを把握しているとも思えない。

 これから作戦を開始し、森の中へ入る。


 森というだけありかなり木のせいで、射線が確保しづらい。

 矢は撃ちにくいが、400本を用意している。

 失敗を恐れずどんどん撃つようアイラには言ってある。



 森の中に入り、騎士団の作戦通り順次オーガを倒していく。

 騎士団の中に『索敵』と『広域』をもつ人がいるらしく、ノールとアイラ以上にオーガを効率的に発見している。

 俺も『広域』欲しいな。ダメスキルと思ってた『索敵』が輝いている。

 複数のスキルの使用で本当の力を発揮する例だな。

 俺も一つある。



 5時間ほど連続でオーガを倒しているが、義勇兵にあまり仕事はない。

 これで80万ユグ貰っていいのかと思った時に、騎士団代表から通達が来る。


 「この先にオーガの巣があるようだ。かなり大きい。数は不明だが、攻撃を行う。

 ここを殲滅すれば被害は格段に減る。義勇兵諸君も今回は働いてもらおう。」


 報告は終了し、10分後に襲撃をかけるとのことだった。

 3人と確認をとる。


 「突出する必要はない。基本は騎士団が倒す。」


 3人とも頷く。


 「ただし、アイラは誰かピンチになれば助けてやれ」


 「了解」


 「向かってくる敵は倒す。『スキル持ち』がいることが予想されるが、目立つ行動をして狙われる必要もない。『スキル持ち』が向かってくれば話は別だ。」


 「「「了解」」」


 絶対倒す。




 10分後、号令のもとにオーガの巣を襲撃する。

 先行部隊として騎士団が突撃し、その後義勇兵も突入する。


 そこかしこで戦闘音が上がり、オーガは混乱して抵抗するまもなく殺されている。

 だが、数が多い。その内体勢を立て直す。


 「行くぞ!!」


 目についたオーガから葬っていく。

 ノールの『斬首の短剣+14』も調子がよく、骨をものともせず両断しているようだ。

 アイビスも鎌でオーガを蹂躙している。

 アイラはまだ矢を撃たない。判断はアイラに任せている。撃つ状況じゃないということだ。



 『スキル持ち』は前線の騎士団で攻防を繰り広げている。

 やはり、数が多い。異常な数だ。

 絶対この巣の中でも圧倒的な強さを誇るオーガがいる。


 生存競争に勝ち残り、巣を巨大化、多くの『スキル持ち』を生み出すような原因を作れるようなオーガが。



 最悪の想定とは裏腹にそのようなオーガは出現せず、騎士団側に犠牲は出ながらも着実に『スキル持ち』を倒している。

 ここから、アイラも遠方から射撃を開始し、前線の騎士団を支える。


 俺、ノール、アイビスは騎士団の後方で討ち漏らしや逃走を図るオーガを倒していく。

 周りの義勇兵も同様の働きをしている。作戦に従っているだけなので、もっと積極的に行け、みたいな事はない。


 俺一人で10匹以上は倒したところで、前線の騎士たちに動きがあった。


 『スキル持ち』を順調に倒しその数も残り一桁程度まで減らしたのだが、一匹のオーガに騎士達が集中し始めている。

 集中して倒すのはいいが、逆に殺されている。とんでもない勢いで。

 首が、腕が、脚が時間の経過とともに、宙を舞う。 

 あの空間だけ血の華が咲き乱れている。


 出てきた。

 やはりいた。

 アイラの援護の矢を弾き、そのまま騎士を斬り倒しまくるオーガが現れた。


 「ガアアアァァアァアア!!」


 騎士を10人以上は殺して、生物が出せる限界だと言わんばかりの大声を上げ威嚇する。

 遠くにいる義勇兵たちですら、目の前のオーガから目線を逸らすほどの怒気をはらんだ声だ。

 一瞬だが身が竦んでしまった。

 目の前にいるオーガはその隙を見逃さないように攻撃してきたが、『スキル無し』に後れを取ることはなく、攻撃を受け流し心臓を串刺しにして、動かなくなった体を脚を使って剣から引き抜いた。

 

 ここからでも一瞬動けなくなってしまったのに、それでもよく訓練されている騎士たちは、怯まず臆さず果敢に挑んでいるが、死体の山が量産されているだけだ。

 成す術なく斬り殺されている。


 「……なんだあの強さは。本当にオーガなのか?」


 疑問を口にしながらも、溢れ出すような勢いのオーガの相手は忘れない。

 隙をついて肩口から袈裟懸けに切り倒し、止めに首に剣を突き刺す。

 1匹を殺せば近くにいるオーガをまた斬り殺す。やはりそこまで強くはない。


 『スキル無し』が今戦った奴なのに、あのオーガは何だ?

 ただの『スキル持ち』と言っていいのか?規格外にもほどがある。


 義勇兵たちはあのオーガを見ながらも、周囲にいる雑魚オーガを殲滅していく。


 前線の騎士たちは今は敵わないと見て、他の『スキル持ち』を先に始末するべく、規格外のオーガを放置し全力で倒していく。


 しかし、オーガが黙って放置されるわけもなく、自分から離れていく騎士を追いかける。

 追いつかれた騎士は抵抗するが、赤子の手をひねるように簡単に殺していく。

 『スキル持ち』の騎士がオーガに易々と屠られていく。


 他のすべての「スキル持ち』オーガを倒すまでに、80名はいた騎士達は30人程度まで数を減らしていた。ほぼ全てがあのオーガによるものである。



 「……ありえない」


 新人などではない。ある程度の経験を持っている騎士が来たはずだ。

 騎士が複数死んだと聞いて、レベルの低い騎士が来ているはずがない。

 一人二人ならしょうがない。あっちだって生死が懸っている戦いだ。命のやり取りの上に発生する仕方のない犠牲と言っていい。

 しかし、あいつだけで40人はこの短時間で殺されている。

 どんなスキルがあればそんな事ができるんだ!?


 ハッとして、すぐさま『解析』を始める。


 『解析』!!


名前:オーガ

レベル:31

スキル:天通眼Lv21



 解析の結果は到底信じられるような結果ではなかった。

 何回も『解析』をやり直しても結果が変わらない。

 呆然として戦場に立ち尽くしてしまう。周りのオーガはもう少ないから、こんな事をしても大丈夫。


 何をするべきだ?もう失敗しないとか言う次元の話じゃない。

 すでに失敗している。この作戦自体がもうダメだ。たった100人しかいない。逃げるべきだ。

 そうに違いない。

 絶対そうだ。

 それでもできるだけ人命は助けなきゃ。助けれる分くらいは助けたい。


 「……報告しなくちゃ」


 そう呟くと支部長に向かって全速力で走り出した。

 脳内ではすでに敗色ムードでテンションが落ちている。

 これじゃダメだ。これでは何かあった時に対応できない。

 無理にでも気持ちを上げろ。大声を出せ!

 

 「支部長!!」


 「なんだ!?」


 支部長もあのオーガを見て余裕がなくなっている。

 報告したら何かが変わるわけじゃない。俺が安心したいだけだ。


 「あいつ!『天』持ちだ!『天通眼』って名前だ。しかもレベルは21!早く撤退するべきだ!!」


 「なんだと!!?」


 歴戦を思わせる支部長ですら、俺が『解析』を持っているのを知らないのに、俺の情報を信用し驚愕に満ちた表情をしている。

 それだけあのオーガの強さに俺の説が強い説得力があるということだ。


 オーガのレベルは31。かなり高い。これはしょうがない。よくいる。そんなことは些末な問題だ。


 

 『天』


 この字が入るスキルも持つ人は『天持ち』と呼称される。


 この世には、『神』『天』『聖』『加護』の字が入った完全上位互換のスキルが存在する。

 アイラの『弓の加護』もその一つだ。『弓術』の完全上位互換のスキルに当たる。

 他の呼称になると、『神弓』『天弓』『聖弓』などと呼ばれる。

 字に特に違いはなく、名前だけが異なると言われている。

 

 結論は強い。限りなく無敵に近い。


 あのオーガはアイラと同格の存在だ。

 遠距離で無敵を誇るアイラに対し、奴は接近戦で無類の強さを見せている。


 しかし、アイラでは勝ち目は薄い。レベルが奴の方が上だ。

 さっき矢も弾かれていた。



 「……やばい。……かなりやばい」


 呟くだけで、何も考えが浮かばない。

 とにかく全員集めて逃げないと。


 「ノール!アイラ!アイビス!戻ってこい!」


 俺の命令を聞いて即座に俺の元に集まる。良かった。


 「逃げるぞ。今すぐだ。準備しろ。」


 慌ててそう言う。一刻も早く移動を。


 「ボス?」

 「お兄ちゃん?」

 「ネクロ?」


 だめだ。事態を正確に把握していない。

 説明を。


 「あのオーガは―――!??」


 情報を与えて逃走しようとした瞬間、不可避の戦闘に引き込まれることになる。

 全てを賭けた死闘が始まる。


 「グラアアアァアッァァア!!」


 周りの騎士を斬り飛ばしながら俺達、いや、アイラに近づいてくる。

 あいつの目線がアイラを射抜いている。

 

 「まさか……」


 アイラが最も危ないと気づいているのか?

 奴との距離は200mもない。

 やらなくてはならない。


 護らなくては。


 別に『天持ち』は無敵じゃない。無敵に近いだけだ。勝てないわけじゃない。

 対応できる。今までのスキルで。『スナッチ』で。すべてを使えば……。


 やらなければ死が待っているだけだ。抵抗しろ。殺せ。生きるために。


 やるしかない――――!


 「やるぞ!!」


 「「「了解!!」」」


 全員はっきりと戦闘の意志を示す。



 残り150m



 「奴は『天持ち』だ。スキルは『天通眼』。おそらくだが、未来が見えてる。」


 全員絶句している。

 

 「攻撃を絶え間なく行い、奴の処理を上回る。いいな!?」


 3人はハッとして意識が戦場に戻る。


 「「「了解!!」」」



 残り100m



 「アイラは後方から全力で撃ちまくれ!ノールとアイビスは俺と奴を直接たたく!」


 「「「了解!!」」」



 残り50m



 「行くぞ!!」


 『付与魔法』(フィジカル・アップ)!! 


 全員に普段とは比べるまでもない光が全身を覆う。

 全力の『付与魔法』だ。


 「アイラ!」


 「了解!」


 俺の掛け声で後ろに下がる。



 残り20m



 やるしかない。倒す。俺には『スナッチ』がある。

 弱体化させる。奪ってやる。



 残り10m


 

 意識が引き伸ばされていく。

 




 残り0m



 「殺す!!」

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