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43話

 もう倒しちゃったの?早くない?

 ちょっとは『斬れ味』奪おうかな、とか考えてたんだけど。

 何も言ってない俺が悪いか。

 最低限の目標は達成している。


 それにしても何もやってない。これは酷い。

 『火炎魔法』も使ってねーよ。あの子達強すぎない?パワーバランスどうなってんの?


 「「「イェーイ!」」」


 じゃねーよ。

 3人はミノタウロスだった残骸の周りで、喜びを分かち合っている。


 なんて光景だ。両腕が転がり、体は三分割された場所で少年少女が喜んでいる図。



 ……どうでもいいや。



 3人に近づき揉み手をしながら、激励を送る。


 「皆さんお疲れ様っす。流石っす。」


 「やったな、ボス」

 「勝ったよ、お兄ちゃん」

 「当然よ」


 スルーすか。


 「魔石を回収して帰るか。もうここに居る必要もない。」


 「「「はーい」」」


 何もしていないので、魔石くらいは回収して迷宮を後にした。



 

 斡旋所で換金を終えて、帰ろうとしたときに受付嬢に声をかけられた。


 「ネクロさん、ちょっとお時間良いですか?」


 え?俺の時代がついに来たのか?


 「支部長がお呼びです」

 

 それだけを伝えると業務に戻っていく。

 そうですか。そうですよね。


 「皆行こうか」


 なんで支部長に呼び出されたの。何かやったっけ?ガラスなんて割ってねーよ。

 奥にあった支部長室の前まで行き、ノックをする。

 奥から男の返事があった。


 「入れ」


 中に入ると片目が切り傷でなくなっている、白髪のおっさんがいた。

 おっさんは怖い奴ばっかだ。


 「何の用ですか?」


 「まずは座れ」


 そう言われ大きなソファーに4人で座った。

 ソファーは革張りで、とても柔らかく高級品だと分かる造りだ。


 「それで話は何ですか?」


 「お前ら7層まで行ったみたいだな」


 「はい」


 「ある程度の実力が分かれば、斡旋所から呼び出されるというのは聞いているな?」


 そう言えばそんなことも言われた気がする。


 「一応は」


 「斡旋所では7層がその基準になっている。これは口外するなよ。」


 「分かりました」


 「7層まで入れる奴はだいたい『スキル持ち』だ。

 斡旋所はそれを管理して、非常時には効率的に運用したい。」


 なるほど、なるほど。


 「言え」


 残る片目で俺を睨んでくる。 

 何でそんなに威圧的なんだよぉ。


 「け、『剣術』です」


 『スナッチ』のことは言わない。


 「そっちの餓鬼もだ」


 「『双剣術』だぜ」


 「『弓の加護』です」


 「『暗殺術』よ」


 「……」


 顔の怖いおっさんは表情を変えず、黙ってしまった。

 俺を睨み立ち上がる。


 「おい、ネクロだったか?お前だけ来い」


 もう!何で!?嫌だ


 「俺だけっすか?」


 「お前だけだ」


 この世の終わりのような顔をして、支部長のあとに続き部屋の外に出る。

 隣の部屋に入室して、支部長が困惑気味に口を開く。


 「あの3人が言ってるのは本当か?」


 「本当っすよ。あいつらマジ最強ですから。」


 最初と口調が変わってしまっている。ビビんないように頑張ったのに。


 「……そうか」


 支部長の顔は少し悲しげになっている。

 特にアイビスの『暗殺術』はあの中でも、相当異質に感じたはずだ。

 それでそんな声を出してくれるなら、信用に足るような人だと思う。


 「なんであんな奴らと行動している?」


 「あいつら誘拐されてたんすよ。それで俺が保護して故郷に送り届けている途中っす。」


 「……ハァー……」


 嫌な顔をしながらため息をつく。


 「……まぁいい。まだ話もある。戻るぞ」


 「うっす」


 3人のいる部屋に戻り、席に着く。


 「悪かったな。少し兄ちゃん借りて」


 「別にいいぜ」

 「いえ」

 「どうでもいいわ」


 アイビスたんデレ期終了のお知らせです。

 儚い夢だった。

 

 「この近くにオーガが多発する場所がある事を知ってるか?」


 全員苦い思い出を思い出しながら頷く。


 「この前騎士を含んだ10人以上が死んだと報告があってな。

 騎士団から合同での討伐要請があった。」


 「それがどうしたんですか?」


 「斡旋所からも何人か出すんだが、半端な実力では死ぬ可能性が高い。

 だから、7層以上を突破しているパーティーに声をかけいてる。」


 そういうことか。


 「お前たちにも依頼したいが、どうする?」


 部屋に沈黙が下りる。この前の失敗を思い出し、切り出せないでいる。


 やるのか?

 また失敗するかも。下手したら死が待っている。

 俺たちに得があるのか?

 目的が違うだろ。こいつらを帰す。それが目的だったはずだ。



 しかし、俺の考えとは異なり、3人は前向きな回答を出す。


 「やるか!」

 「やります」

 「やるわ」


 「なっ!?」


 3人はハッキリと笑顔で答えている。

 何でそんな顔ができるんだ。どうなるか分からないんだぞ。

 絶対『スキル持ち』がいる。あそこの出現率は異常だった。

 圧倒的な奴がいる。

 そいつのせいであそこまでの勢力になっているんだ。


 支部長が困惑しながら聞き返す。


 「依頼しといてなんだが、いいのか?餓鬼ども。」


 「「「次は失敗しない」」」


 「ん?なんのことだ?」


 不思議に思っているが、俺には分かる。

 チャンスだと捉えてるのか。

 ……そんな考えはなかった。

 チャンスか。失敗を取り返す。

 ここに来るまでに話したことだった。


 次は失敗しない。


 そうだったな。反省したんだった。

 対策もしてある。ノールの剣に『斬れ味』が付く。

 あいつはもっと強くなる。

 『双剣術』が本来の力を発揮する。

 そのために金も魔石も回収した。


 支部長が俺にも視線を向けて問う。


 「お前はいいのか?」


 そう言って3人を一瞥する。

 

 ノール、アイラ、アイビスの事を考えろと。

 どうする。やるか?

 3人はやる気だ。俺は?


 ……分かんない。

 得はない。ほとんど損しかない。

 巣の魔石は何も用途がない。『スキル持ち』を倒しても高く売れず、武器にも付与できない。


 どうせ損得で考える人間なんだ。俺は。

 得があればやる。ビジネスライクだ。


 「……報酬は?大事だろ?」


 「そうだな。当然だ。一人10万ユグだ。」


 「少ない。それくらいなら一週間あれば稼げる。」


 「調子に乗るな」


 「『弓の加護』は必要ないのか?」


 「……」

 「……」


 睨みあう。ここで引いたら意味がない。

 やるならできるだけ好条件でやる。


 「こっちは曲がりなりにも命を懸けている。

 もっと言えばこいつらは11歳と13歳だ。本来なら戦う必要もない。」


 「……」


 「金がないなら騎士団から引き出せ。『加護』が要らないなら勝手にやってくれ。」


 「……チッ!分かった。20万ユグ出す。これでいいだろ」


 「交渉成立だ」

 

 支部長がため息をついて俺を見る。

 表情は苦々しい。


 「ネクロ、なぜ断らなかった。正直言えばこいつらの身の上を聞いたら、やって欲しくなかった。」


 「おっさん、見かけによらず優しいな。」


 「死にたいようだな」

 

 凄まじい目力で睨んでくる。

 調子こいた。


 「すんませんっした。調子こきました」


 全力の平謝りで許しを懇願する。


 「まぁいい。お前の言う通り『弓の加護』は是が非でも欲しい。嬢ちゃん頼んだぞ。」


 「はい、任せてください。」


 明るく微笑み天使の笑顔を振りまく。

 

 「3日後の朝、ここに来い。そのまま出発する。今日は済まなかったな。帰っていいぞ。」


 「それじゃ、3日後に」


 「おっちゃん、またな!」

 「お邪魔しました」

 「失礼しました」


 斡旋所を後にして宿へ向かう。

 武器防具を置いて、暇を持て余す。


 「超暇になったな」


 ミノタウロスも1体しか倒さず出てきたから、ちょうどお昼くらいの時間だ。


 「飯食いにいこーぜ、ボス」


 迷宮では保存食しか食べていない。朝晩に比べると圧倒的に質が落ちる。

 

 「そうするか。アイラとアイビスもそれでいいか?」


 「大丈夫です」

 「いいわよ」


 俺とノールはさっさと外に出るが、二人は部屋から動かない。


 「どうしたんだ?行くぞ」


 2人は荷物を漁りながら、こちらを見ないで話を続ける。


 「お母様に買っていただいた服があるので、そっちに着替えていきます。」


 「ん、そうか。早くな」


 部屋を出て扉を閉める。




 いつか褒めた服を着て二人が出てくる。


 「良く似合ってるぞ。行こうか」




 適当な店に入って昼飯を食べる。

 人は多いがピークは過ぎたようなので、席はまばらになっている。


 「明日から3日間どうしよっか?」


 ピリッと辛い鶏肉を飲み込んで言う。


 「迷宮行かねーの?」


 「お前の剣ねーだろが」


 「そうだったわ」


 そう言って俺の食べてた鶏肉を全部口の中に放り込む。

 ふざけんな。


 「剣が2日後、討伐が3日後。暇だ。」


 「お兄ちゃん、なにやるの?」


 「アイラは何がしたい?」


 困ったような顔をして、下を向きながら考えている。


 「アイビスはどうだ?」


 「……何してようかしら」


 「……各自自由にするか。お金を渡すから好きなようにしてくれ。迷宮には行くなよ。」


 「じゃあ、アイビスちゃんと買い物してきます。」

 「それでいいわ」


 結構仲がいいよな、この二人。


 「ボスー、俺・超・暇」


 「……俺と訓練でもするか?」


 「そうするー」 


 その後は解散して自由に過ごした。休みなく迷宮に行ってたから久しぶりの休暇だ。


 

 翌日は予定通りに、アイラとアイビスお金を渡して街に繰り出していった。

 ノールは張り切って街の外に出て、俺と訓練をした。


 討伐依頼の戦力増強だ。やっておいて損はない。魔法は発想で決まる。



 さらに翌日、ノールの剣が完成する日。

 昨日、アイラとアイビスは楽しんだようで、おそろいの髪留めやブレスレットなどを買って、身に着けていた。

 双子より兄妹してるよ。

 どっちが兄か姉か知らないけど。


 

 朝飯を食べてジェイクさんの武器屋に向かう。


 「すいません!ジェイクさん居ますか?」


 奥からのっそのっそとデカいおっさんが登場する。


 「馬鹿野郎、朝早すぎんだろ。持ってくるから待ってろ」


 2,3分たって鞘に納まった短剣を持ってくる。

 ノールが鞘から抜くと美しい銀の刃が現れる。


 刀身はまっすぐで長い方は70㎝、短い方は50㎝くらいだろうか。

 前まで持っていた短剣とはすでに雰囲気が違う。


 ノールは剣を眺めにへらと笑い、嬉しそうな顔をしている。


 「おっちゃん!良い剣だな!ありがとう」


 「大切に使えよ、折るんじゃねーぞ」


 ちょっと言葉に詰まってしまったようだが、意気込みはよく返答する。


 「大丈夫!次は失敗しねーよ」


 ノールはジェイクさんから離れて、剣を軽く振っている。

 尻尾もぶんぶん振って楽しそうだ。


 「ジェイクさん、剣のついでにノールの防具もありませんか? 

 この前切り裂かれて、ダメになっちゃたんですよ」


 「じゃあ、そこにある皮鎧しかねーぞ。

 あいつ体小さいから、合う防具が少ない。ダメなら一から作るんだな。」


 「いえ、あれで大丈夫です。いくらですか?」


 「売れねーからな。2万でいいぞ。合計12万ユグ。」


 「分かりました。ありがとうございました。」


 12万ユグを支払い礼を言う。俺の分も作ってもらえばよかった。


 「それじゃあ、お世話になりました。」


 「おっちゃん、ありがと!」

 「……」

 「……」


 アイラとアイビスは喋りはしないが、頭を下げて礼を言う。


 「ああ、また何かあったら来い」


 店を後にして、宿に戻る。

 今から魔石を使って、スキル付の武器を作る。

 でも、『付与魔法』を使うだけだ。


 ベットの上に長い方の短剣と『斬れ味』の魔石を置く。


 3人は興味津々といった体で、剣と魔石を見つめる。

 ……やりますか。



 『付与魔法』エンチャント・ウェポン



 魔法の発動と同時に、剣と魔石が発光してどうなっているのか確認できない。

 次第に光が収まり、魔石が無くなっているのが分かる。

 剣に変化した様子はなく、色も形も変わりはない。


 『解析』!


名前:斬首の短剣+14

特徴:斬れ味に優れている


 物々しい名前だな。+14は『斬れ味Lv14』だからだろう。良いのができた。


 短剣をノールに渡し名前を告げる。


 「『斬首の短剣+14』だそうだ。」


 嬉しそうに受け取り、目をキラキラさせる。


 「カッケー名前だな。アイビスの鎌に負けてねーな」


 「あまり過信するなよ。あくまで再現してるだけだ。『斬れ味』持ちには勝てないぞ」


 「そうなの?でも強いでしょ?」


 「そりゃそうだけど」


 アイラとアイビスも物珍しそうに、短剣に触っている。



 これで準備は整った。現状これ以上の装備はない。

 これで明日からオーガを殺す。


 次は失敗しない。

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