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42話

 「あーあ、何やってんだよ」


 ノールは地面に倒れて微動だにしない自分のボスを眺めている。


 アイラとアイビスは肩を怒らせながら、先へと進んでいる。


 「……俺が担ぐのかよ」


 ノールの身長は約150cmでネクロは180cm近い高さがある。

 

 「やりづれぇ」


 必死こいて担ぎ、2人を追いかける。

 完全には背負えず、ネクロの足を引きずりながらの行軍となってしまった。



 ボスの気絶から少したって、あそこから移動もしている。

 アイラは気づいていない。

 これは俺だけの感覚だ。


 「『スキル持ち』がいる」


 鼻の奥を刺激する匂いだ。くさいとかじゃなく、びりびりしている。

 奴らと戦う時の感覚だ。一番前で戦ってる間にこの感覚に行きついた。


 「……確実にいる。……ボス!起きてくれ」


 背中にいる頼りないボスを揺するが、全く反応がない。

 マジで何やってんだよ、この人は。

 あんなことやったら普通に怒られるだろ。アイビス居るんだしタダじゃすまねーよ。


 「アイラ!アイビス!止まってくれ!」


 2人が機嫌の悪い顔をしながら振り返る。


 「「何!?」」


 「……」


 帰りたい。なんで俺がこんなことやってるんだよ。

 後ろ目にボスを憎らしげに見た後、切り出す。


 「この先に『スキル持ち』がいる。引き返そう。」


 「「なんで?」」


 「……何でって、危ないだろ。ボスもこんなんになってるし。」


 顔でボスを指し示す。未だ動きもしない我らがボスは鼻血だらだらだ。


 「「だれ?」」


 めっちゃ怒ってんじゃん。後で謝れよ、ボス。


 「そんなことより―――!」


 こっちに走ってきてる!気づかれた!?


 「アイラ!」


 「!!」

 

 ようやく気付いたようだ。アイビスも雰囲気を切り替えている。


 ボスを置いて短剣を抜き、二人の前に出る。


 「俺が出る。二人は援護だ。ボスを頼んだ。」


 「「ちょっと――!」」


 曲がり角から魔物が現れる。

 二足歩行をして、頭は牛。手には大型の斧。ミノタウロス?


 体がでかい。『スキル持ち』だ。

 『解析』ないから能力がわかんねぇ。


 「マジで何やってんだよ」

 

 悪態をついた後、ミノタウロスに向かって走り出す。

 

 「……最初は様子見だ」


 宣言通りにノールはミノタウロスの攻撃をすべて躱し、敵の実力の把握に徹する。

 しかし、ノールは様子見に大した意義を見いだせなかった。


 いったん距離を取り、考え込む。

 ミノタウロスも突然の行動に、今度は距離を詰めてこない。


 「??」

 

 確かに早いけど、技術がねぇ。『斧術』じゃないな。力任せに振っている感じだ。

 じゃあなんだ?どんなスキルを持ってる?


 ……わかんねぇ。

 もう発動してる?まだ使ってないのか?奥の手?

 俺が攻撃して隙を作らないと、アイラが攻撃できねぇ。

 考えてもわからん。行くしかないか!

 ミノタウロス目がけて疾走し、先に斧の攻撃範囲に入る。

 

 最初は脚だ。機動力を削ぐ。


 目の前に迫る斧を紙一重で避けて、肌が露わになっている左太腿を斬る。


 「バァウ!」

 「っよし!」


 そのまま駆け抜け、ミノタウロスの背後を取る。

 

 かなり深く入った。奴の脚から血が噴出している。

 これで俺が頭一つ有利だ。


 が、油断した。


 「ブラァ!!」

 「しまっ――!」


 足のけがを無視して、ミノタウロスは後ろを向いて大きく踏み込み、殺傷圏内にノールが入ってしまう。

 ノールを真っ二つにせんとばかりに、斧が腹に迫る。


 回避はできない!剣で防御しながら、受け流す!

 即座に判断し、実行に移す。



 しかし、油断した代償は大きい。



 添えた短剣を斧が食い込み、そのまま叩き折ってノールの腹を浅く犯す。


 「なっ!?」


 自分の腹を斧が通過したのを確認し、痛覚が爆発する。


 「ぐあああぁあぁああ!!」

 背後に吹っ飛ばされながら、血を撒き散らす。

 腹が爆発したような衝撃に襲われ、すぐには立てないダメージを負う。


 「「ノール!!」」


 後ろの二人は事態の深刻さにようやく気付いている。

 ネクロの援護及び作戦なしでの初の『スキル持ち』との遭遇。

 特に魔法がない。

 そして、詳細不明のスキル。


 「……やばい」

 予想以上に緊迫している状況を再確認し、焦りを見せるが、ミノタウロスは追撃をしてこない。

 

 しないのではなく、できないのか。思ったより脚の怪我が大きい。

 不幸中の幸いだ。


 「……でもこれじゃ『双剣術』が使えない。」


 『双剣術』は強力だが、剣が2本無いと使うことができない。

 手持ちの剣は防御の時に一本は全損、もう一本にはひびが入っている。


 血が止まらない腹を押さえながら、折れた剣を放棄しさらに後ろに下がる。

 ミノタウロスも追撃の意志がないのか、片足を引きずりながら、後ろに下がり姿を消してしまった。


 「……これで終わりだったらどんだけ楽か」

 

 ミノタウロスが遠ざかっているのを確認し、ボスに近寄る。

 ボスの懐をあさって、回復薬をふんだくる。

 これでかなり違うはずだ。少なくとも死の危険性はない。


 「ボス……起きてくれ」


 もはやさっきまでの悪態はない。

 アイラとアイビスも顔色が悪く、だんまりだ。


 

 思った以上にボスの役割は大きかった。

 あんたがいるだけで、俺たちは安心するんだ。


 俺たちはまだ子供だった。強いと言っても13歳と11歳。

 男の俺が傷ついただけで、二人は援護もせず固まっていた。

 普通の女の子たちだ。本来ならこんなことはしない。


 アイラとアイビスが近づいて今にも泣きそうな顔をしている。


 「……ノール」

 「……だ、大丈夫?」


 腹は真一文字に切り裂かれたが、少しは防御できて傷は浅く済んだ。

 時間勝負の回復薬もかなり早く服用したから、もう傷も塞がっている。


 「……ああ、大丈夫。もう痛くないよ。心配すんな。」


 「……でも」

 「……うう」


 気になる女の子に心配してもらえるのは嬉しいが、事態は切迫している。


 「あいつはもう一回来る。それまでにボスが起きれば俺たちの勝ちだ。

 ボスは無敵だからな。」


 「う、うん」

 「そ、そうよね」


 もうさっきまでのいざこざは忘れているような顔だ。

 さっさと起きてよ。今なら許してもらえるって。 






 「んが」


 目を覚ますと視界には灰色の天井、いや迷宮の天井が見える。

 なぜ天井を見ている。

 ……社会的に抹殺される寸前に、肉体的に抹殺されたんだった。


 体を起こし、周りを観察する。全員俺を見ないで周囲を警戒している?


 「なぁ」


 呼びかけると勢いよく全員振り返り、安堵と焦燥の表情が見える。


 「……ボス」

 「……お兄ちゃん」

 「……お兄ちゃん」


 アイビスたんはいつデレ期に突入した。

 突っ込んだらひどい目に合うのでスルーするのが正解だ。


 「ごめんなさい」


 素直に謝る。

 暴走を止めたかったとはいえ、やり方は酷かった。


 「次からは尻尾をモフモフする」


 「「「……」」」


 なに?その目。謝ったじゃん。許してよ。ダメ?

 『警邏隊』に突きだす?


 「な、なんだよ。土下座した方がいい?種類はどうする?

 スライディング?ジャンピング?」


 「「「……」」」


 見ればノールの腹が裂かれて、防具と服が血に染まっている。


 「ノール、それどうしたんだ?」


 さらに折れた剣も見せ、俺の不甲斐なさに呆れが出てくる。


 「『スキル持ち』が来たのか。……済まなかった。」


 座ったままだが、頭を下げる。


 「それで倒したのか?」


 ようやく目覚めてから初めて喋りだした。


 「いや、まだ倒してない。俺が脚を攻撃した後、腹に一撃くらった。

 その時にあっさり剣も折られたけど、ミノタウロスも怪我が酷くて撤退してった」


 「そうか。頑張ったな。」


 「まぁね。でも結局どんなスキルかは分かんなかった。」


 「しょうがない。解析系がなきゃ分からんからな」


 アイラとアイビスに目を向ける。


 「二人は大丈夫だったのか?」


 「ノールが守ってくれました」

 「……何もできなかったわ」


 「大丈夫ならそれでいい。迷宮でふざけた俺が悪かったんだ。無事でよかった。」


 2人は小さく首を縦に振る。


 「ボス、それで奴がゆっくりこっちに来てる。さっきまで警戒してたんだ。」


 「分かった。迎え撃つぞ。」


 「「「了解」」」




 作戦会議だ。


 「ボス、剣貸してくれない?このままじゃ『双剣術』使えない」


 俺は長剣と予備の短剣を手渡す。


 「それで行けるのか?」


 「無いより良いよ」


 当たり前か。


 「ボス、俺がやるぜ。アイラとアイビスはビビっちゃってるから。」


 「何言ってるのよ、ノール」

 「どういう意味かしら」


 「そのままだよ。さっきの戦闘で二人は全く援護できてなかった。

 一度も攻撃しなかったんだ。これでビビってないって言えんの?」


 「……うう」

 「……うぐ」


 言い返そうと何か言おうとするが、悔しそうな顔をして黙ってしまう。


 「とは言え、原因は俺だ。俺がやられなければ二人がそうなることもなかった。

 それにやられっぱなしは癪に障る。」


 「……喧嘩すんな。アイラとアイビスもちゃんと援護すればいい。

 主力はノールだ。『付与魔法』をかける。全力で行け。」


 「「「了解!」」」



 3分たちついにミノタウロスが姿を見せた。

 左太腿に血が付いてるが、違和感を感じさせない足取りをしている。

 もう治ったのか。生物と言っていいの?


 『解析』!


名前:ミノタウロス

レベル:15

スキル:斬れ味Lv14



 「来たああああああ!!」


 俺の突然の雄叫びに3人がビクッと体を弾ませる。


 「ど、どうしたんだよ」


 「ノールきゅん。何を言ってるんだね。『斬れ味』が来たんだよ。

 最強の組み合わせだ!なんというご都合主義!これでノールの剣は最強だ!」


 ノールは俺の言葉を無視し、ミノタウロスを憎らしげに睨む。


 「あの野郎、『斬れ味』持ちだったのか。だから俺の剣も斬れたのか。

 剣で防御しなきゃよかった。」


 なんか言ってるけど、今はあいつのことだぜ。


 「ぐふふふふ、行くぞ、やるぞ、殺っちゃうぞ」


 『スナッチ』なんて糞くらえ。今は魔石だ。



 『付与魔法』(キーン・エッジ)!!!


 「行きなさい!ノールさん!アイビスさん!」


 「おっしゃ!」

 「何よ、その口調!」


 先にノールが駆け出し、俺の剣で斧を受け止める。

 

 ミノタウロスは受け止められたことに驚愕した顔をしている。

 キーン・エッジが『斬れ味』と拮抗できている。

 アイビスはノールを飛び越え空中で一回転し、勢い殺さず鎌の先端を顔面に叩き込もうとする。

 ミノタウロスはノールを押し返し、間一髪で斧で受け止めるが、刃があまりに長いので肩に食い込んでいる。

 その隙を見逃さず、射線を確保していたアイラが3本の矢を腹に放つ。

 鎌と拮抗している状況で矢を避ける暇はなく、ミノタウロスの体が衝撃で揺れる。

 力が抜け斧を持つ力が緩み、食い込んでいた鎌が振り切られ、肩口から先を失う羽目になる。


 「ブオオオォォオオ!!」


 肩から噴水のごとく血が噴き出し、アイビスから離れようと必死に斧を振っている。


 「どっち向いてんだよ」


 ノールの宣言で2本の剣が美しい軌跡をたどり、ミノタウロスの体に赤い線を引いていく。


 ス○ーバース○ストリー○よろしく、2本の剣を振るい続ける。

 最後の一振りで残りの腕を斬り飛ばし、いったん距離をとる。


 「……残念だったな。あの時無理にでも俺達と戦えばこんなことにならなかったんだぜ?

 あんなふざけた人だけど、無駄にお人よしだ。俺達にとっては結構大事なんだ。悪く思うなよ。」


 ミノタウロスに言葉の意味は分からないが、チャンスとばかりに大口を開けて喰らおうする。


 ノールは冷静に見つめ、両の剣を構え、一閃する。


 「ハアッ!」


 すれ違いざまに二刀を振り、ミノタウロスの体を3等分する。

 ちょうどキーン・エッジの光も消えて、戦いの終わりを告げた。

 

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