41話
「なんで匂いが分からなかったんだ?」
最初の疑問に立ち戻ると、アイラが疑問に答えた。
「こんなに近くにいたのに、あのスライムからは臭いが微塵もしませんでした。
本当に無臭だから私たちの鼻でもわからなかったんだと思います。」
報告を聞いていると、再度スライムの反応があった。
「理由は分かった。あまり効率は良くはなかったが今日はこのままいく。
明日からは6層に入り、たくさん稼ごう。
向こうに反応があったから狩りに行くぞ。」
「「「了解」」」
ここからは計30匹程度のスライムと4層までに移動して遭遇した魔物を10匹程度倒した。
だいたい15,000ユグくらいの稼ぎになるはずだ。
魔石の値段は200+50×(迷宮の階層-1)で計算可能だ。よって、5層のスライムの魔石は400ユグで買い取ってもらえる。30個あるからだいたい12,000ユグと残り10個で3,000ユグの計15,000というところだ。
予想通りの値段で買い取ってもらい、宿に帰った。
荷物や武器を置いて食堂に行くと、すでに俺たちの席に所狭しと料理が並んでいた。
予想以上の量と質に絶句していると、ノールが喜色満面といった様子で尋ねる。
「これ全部食っていいの?」
「……ああ、残さず食えよ」
「やりぃ!」
さっさと席について先に食べ始める。アイラとアイビスもその姿を見て、負けじと食べ始めた。
その光景をぼんやり眺めていると、どんどん残りがなくなっていく。
「おい、俺の分も食うな!」
慌てて席について並べられた料理を確保し、口の中に掻き込んでいく。
美味い。4人で5,000ユグも払った甲斐がある。
10,000ユグあれば1か月は暮らせるんだ。これくらいでなきゃ困る。
良く考えなくてもメチャクチャ高いな。ボったくられてんじゃねーの?
そんなことを考えながらも、勢いよく料理を口の中に運んではおいしそうに食べて、食欲を完全に満たした。
翌朝、ノールの剣ができるまで残り9日。
ご飯を食べて迷宮へ赴く。
5層は敵の匂いがしないから発見しづらいので、6層に入る。
6層へと至る階段を下りながら、3人に説明する。
「6層には『フロートシャーク』というサメの魔物がいるそうだ。レベルは基本的に14。水もないのに空中を浮いて移動しているらしい。気性が荒く攻撃力は高い。近接戦闘は気を付けるように。」
「浮いてんの!?早く見てー」
お気楽だな。
「一番危ないのはお前だぞ。正面に立つのはノールが一番多いんだからな。」
「分かってるって。でも、この敵で活躍するのはアイラとボスだろ?」
「まぁな。基本は矢と魔法で先制攻撃する。盾役はノールとアイビスだ。」
喋りながら階段を下りると、早速行く手に魔物がいた。
地面から1m程度浮いていて、体は全長2mもある。
存在の異様さも相まって、夢でも見ているかのような光景だ。
「なんだありゃ」
話には聞いていても魚が浮いているというのは、根本的な常識を覆され目の前の現実を否定しようとしている。
「……アイラ」
「了解」
アイラは正確無比にサメの目に矢をぶち込み、矢が脳に達したらしく物言わぬ肉塊に成り下がっていた。
「目が横についてるから、アイラの敵じゃないわね」
「正面についてないからな。気づかれる可能性も高いが、『弓の加護』なら一方的に狙撃できそうだ。」
立体視できないから矢との距離が分からないはずだ。
矢の速度と距離の関係で避けるのは難しいだろう。
「そうみたいですね。私向きの魔物です。ここを狩場にしてもいいんじゃないですか?」
ノールが父さんに貰ったナイフで魔石を取り出していると、こちらに戻って文句を言っている。
「やっぱこうなった。これじゃ俺戦えないじゃん」
「ノールが居ると居ないとでは安心感が違うだろ。
それにアイラの矢も100%当たるわけじゃない。忘れたのか?」
「そうだけどさ。ま、『スキル持ち』が出たら俺が行くぜ。」
「分かった。アイビスと協力してやれよ。」
基本的に遠くから目を狙撃して倒していたが、こちらに気付き回避したサメが出てついにノールの出番となった。
回避したとはいえスキルは持っていない。予想していたことだ。
ノールを先頭にアイビスも走り出す。
俺はアイラの護衛です。重要な役割です。こ、怖いとかそんなんじゃないんだからね!
ノールはサメと接触する前に、剣を交差させて正面から受け止める。
獣人の膂力は人間のはるか上を行っている。体の大きさに差があってもサメを力で拮抗している。
「うぐぐぐぐぐ」
あのバカ、きつかったのかよ。ならやるな。
ノールの左からアイビスが鎌を構えながら抜け出し、横腹に振り切る。
しかし、刃は予想より埋まらず途中で止まっている。
「硬いわね」
サメ肌のせいか。サメ肌には2種類あって泳ぐためと防御のためとの構造に分かれている。
あいつは防御特化になっていて、アイビスの攻撃を傷を負いながらも防いだということか。
「ノール、アイビス」
「「了解!」」
2人に声をかけて、『火炎魔法』を使うことを知らせる。
少し集中して魔力を充填・圧縮させる。
『火炎魔法』!
発動と同時に二人は勢いよくサメから離れ、爆発範囲外に逃げ込む。
サメは大きく口を開けていたため、圧縮された炎は口の中で爆発し、辺りに血をぶちまける結果となってしまった。
基本戦術が確立され順調に狩りを行い、迷宮を脱出する。
およそ6時間で90匹ほどのサメを乱獲した。6層なので魔石は1個で450ユグ、だいだい4万ユグの稼ぎだ。
一人当たり1万ユグ。
今日一日で普通の人が生きる1か月分を稼いでしまった。
「ずいぶんと効率が良くなったな。申し訳ないくらいだ。」
部屋で寛ぎながらポツリと呟いた。
「たくさん稼ぎましたね。目標金額も余裕だね。」
「ああ、この分なら2,3日あれば10万ユグなんてあっという間だ。」
アイラが俺の独り言を拾って相手をしてくれた。天使だ。
ノールなんてベットに寝転んでごろごろしている。
「もっと下まで行ってたくさん稼ぐ?お兄ちゃん」
下に行くほど魔石の買取価格は上がる。実力から考えてももう少し下に行ってもいい。
「いや、止めておこう。次の階層は7層で、基本15レベルになる。
ノールが13でアイラは11だ。これ以上は安全とは言えない。
現状でも少し行き過ぎている可能性もある。」
「そうですか。それなら仕方ありません。」
納得しているが、少し表情が暗い。
「私のレベルがもう少し高かったらよかったんですけど。」
アイラのレベルは現在この中で一番低い。
少し負い目を感じていたのか。
「そんなことはない。レベルなんてちょっとした基準だ。
100%近い安全を考えれば、これ以上は危険というだけだ。
俺たちの最終目標は帰ることだ。資金稼ぎは通過点に過ぎない。」
「……そうですね。目的を見失っていたかもしれません。」
一つ頷くと、俺に顔を向けてパッと明るい顔をする。
「ありがと、お兄ちゃん」
アイラたんの笑顔は天使なのである。
神様が加護を与えちゃうのも分かっちゃうよ。
6日後、ノールの剣ができるまであと2日。
アイラのレベルが上がり、本人の強い希望もあり7層に入ることにした。
俺アイラに甘くない?大丈夫?
アイラのステータスの変化はこうなっている。
名前:アイラ
歳:13
性別:女
レベル:12↑(1)
スキル:弓の加護Lv16
スキルのレベルが上がりにくいのはしょうがない。人生をかけてあげるものだ。今でも十分高い。
しかし、訓練ではなく実戦でスキルを使ってるから、普通よりは遥かに上がりやすいだろう。
前を歩くアイラは気合に満ち満ちている。
尻尾をぶんぶん振り回し、鼻息も荒い。
「……アイラ?」
「なんですか、お兄ちゃん!」
「いや、やる気が有り余ってるなと思って」
「今日の私は昨日の私より強いんですよ!?いつも以上に活躍します!」
そう言って前をずんずん突き進む。いったい何が彼女を駆り立てているんだ。
その時裾をノールに引っ張られ、耳を貸すように言われる。
「アイラはレベルが上がると、いつもああなるんだ。気にしなくてもいいよ。
今日はやることないかもね。」
「そこまで言うのか?」
「あのアイラはヤバいよ。自分がどうなったか知りたくてしょうがないんだってさ。
いつもは後ろからサポートするけど、確実にそんなこと無視で撃ちまくるね。賭けてもいいよ、ボス。」
アイビスも横から会話に参入して、びっくりしている。
「アイラもそんなことあるのね。見かけによらないわ。」
「ホントだな」
白髪の美少女は最強なのだ。忘れてはいけない。
最強さんは突如として走りだし、すでに2本の矢を番えている。
「ヤベ、向こうに敵いるよ、ボス。ありゃ突っ込むわ。」
「なに!?早くアイラを追うぞ!」
アイラは曲がり角を左に曲がり、立射の状態に移行している。
「おい、アイ――」
パァン!と普段とは異なる音が弓から鳴り、本気で撃っていることが否が応にも伝わってくる。
それだけでは飽き足らず、指の間全てに矢を挟み込み、放つ。
視界に入らない場所で魔物が倒れる音がして、アイラが勝利したことが分かる。
アイラは尻尾を忙しなく動かし、興奮している。次の敵を捜し臭いをかぐため鼻の動きが活発化している。
これはいけないと、俺はアイラの慎ましい胸を両の手で包み込む。
「??」
アイラは自分の胸を凝視し、何が起こっているのか分からず固まっている。
モミモミ
小っちゃいけど柔らかいもんだな。
ついに脳が現状を把握し、耳まで真っ赤にした後、甲高い声が迷宮内に響き渡った。
「きゃあああああああ!!」
「何やってんのよ、このロリコンがあああ!!」
アイラはしゃがみ込んで俺の魔の手から解放を望み、アイビスは『暗殺術』フル活用の跳び蹴りを顔面に打ち据えた。
地面を数回バウンドして、壁に激突したところでようやく止まってくれた。
「……ぐふぉ」
特に意味のない音が口から漏れてしまう。鼻血と口からの出血で顔の周りが大変なことになっている。
やばい、違う止め方すればよかった。痛い、痛すぎる。
アイビスが近づきながら、大声を上げて確認をとる。
「この変態ロリコン野郎が!!出るとこでるか!?」
違う、待って。違うから。
「……ち……ち」
「乳だと!?一回死ぬか!」
違う、違うってば。そんなことが言いたいんじゃない。何やってんだ俺。
「……ち……ち」
アイビスは顔を真っ赤にして、最後通牒を突きつけた。
「いっぺん死ね!」
脳天に踵が振り下ろされ、地面に顔面を打ち据えた後意識を手放した。




