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36話

 「『空撃』?」


 思わず独り言をつぶやく。

 初めて聞くスキルだ。空を撃つ。


 「なんなの?それ。」


 アイビスがすぐに聞き返す。


 「わからない。未知のスキルだ。誰かわかるか?」


 「しらねぇ」

 「すいません」

 「知らないわ」


 3人とも否定で返す。

 やばいな。具体的な能力が分からないとやりづらい。


 「距離をとるぞ。警戒しろ。」


 一斉に5mほど後ろに下がる。

 オーガに動きはない。

 装備は粗末な金属製の籠手を着けている。

 接近戦タイプのはずだ。


 アイラに『付与魔法』をかけようと近づいているときに、オーガに動きがあった。

 

 すでに拳を突き終えている。何をやって……


 「ごあ!」


 なんだ!?

 顔に痛みが走っている。意味が分からない。


 オーガを見ると2度3度とその場で、誰かを殴るように拳を繰り出す。

 そのたびに体に衝撃が走り、ダメージを負っている。


 「ネクロ!」


 アイビスが突風のような速さで近づいて、俺を突き飛ばす。

 後ろで木の幹が音をあげて、へこんでいる。


 なるほど。


 「何かしら飛ばしているな。スキルの名前から空気の可能性が高い。」


 カッコつけた解説をしているが、受けたダメージはでかい。

 スキルの攻撃を食らって、生きているだけマシだ。『生命力』によるところが大きい。

 このままでは『火炎魔法』も『付与魔法』も使えない。痛みで集中できない。


 「……一旦撤退する。アイラ威嚇射撃しろ。」


 「了解」


 アイラは8本連続で矢を射る。だが、オーガも拳を連続で突き出し、矢を叩き落としている。

 あんなこともできるのか。今回はアイラの攻撃力が十全に発揮できない。


 アイラが射撃している間に、俺たちは駆け出し、オーガから距離をとる。

 アイラも後ろから追いつき、並走する。


 後ろを振り返ると、ゆっくりとだがこちらに向けて歩を進めている。

 見逃す気はないが、急いで殺す気もないか。

 その油断が命取りにならなければいいな。



 オーガの姿が見えなくなる場所まで引き返す。


 「あのオーガは今どこだ?」


 「具体的な距離は分かりませんが、確実に近づいています。

 あちらも位置を掴んでいるみたいです。」


 「どれ位かかりそうだ?」


 「……1分は行けます。」


 それだけあれば十分だ。


 「作戦だ。聞いてくれ。」


 「「「了解」」」


 「今回アイラの矢は力が発揮できない。周りも木が多くて射線も確保しづらい。

 俺、ノール、アイビスでケリを付ける。」


 3人ともうなづく。

 次だ。

 ここからが本筋だ。


 「――、――――――――――――――――。――――――――――――――――――――。――――――――、――――――――――――――――――――――――――――。

 ――――――――――、――――――――――――。――――――――――――――――――――。」


 「「「了解」」」


 作戦開始だ。





 宣告通り1分でオーガが姿を現した。

 遠距離戦をするつもりはない。『空撃』は中・遠距離のスキルだ。


 「行くぞノール。密着して離れるな。」


 声をかけノールとオーガを攻撃する。


 ノールには『付与魔法』をかけている。1分程度の持続力だ。

 この間ならノールはほぼ無敵だ。

 

 オーガが近づくノールに対し、『空撃』を仕掛けるが今のノールには当たらない。

 前に『土石魔法』を避けまくった実績がある。


 ノールに意識している間に、横合いから体を切ろうとするが奴の籠手に阻まれる。

 奴は反対側の腕で攻撃してくるが、サイドステップで回避。

 アイラの援護が来る。


 「ゴア!?」


 オーガの左肩に深く矢が突き刺さる。ノールは一瞬の硬直を見逃さず、左太腿を連続で斬り、裏拳が来たところでしゃがみこみ、立ち上がりざまに2刀で腹を突き刺す。


 「ガアアぁああああ!!」


 森に絶叫が響き渡り、怒りの形相でノールに掴みかかるが、スピードの上がっているノールを捉えられない。


 さらに、俺の剣とアイラの矢が猛襲し息つく間もなく攻撃する。

 矢の本数は残り20。ゆっくりはできない。


 アイビスとアイコンタクトを交わし、作戦を実行に移す。


 「ノール、アイラ」


 「「了解!!」」


 俺はオーガから離れ、二人に相手を任せる。

 ある程度離れたところで息を整える。『生命力』のおかげで痛みは引いている。

 これなら魔法が使える。


 

 オーガの標的は完全にノールに集中していた。

 すでに『付与魔法』の効果は切れているが、『双剣術』の技量の前に完全に弄ばれている。

 だが押し切れていない。筋肉だるまのオーガ相手では決定打に欠ける。

 そのための作戦だ。



 アイラが叫ぶ。

 

 「ノール!いいわよ!」


 完璧なタイミングだ。


 「わかった!」


 ノールはすぐさま飛びのいて、俺たちの方向へ戻る。

 オーガがそれを追おうとしたときに、ようやく俺の『火炎魔法』に気付いた。


 『火炎魔法』(エクスプロージョン)!!


 オーガは腰を落とし今までとは威力の違う『空隙』をもって、『火炎魔法』を迎撃する。


 作戦通り!!!



 オーガの手前5mで『火炎魔法』を『空撃』が衝突し、土煙が上がる。


 視界の端から黒い死神が姿を現したと同時に、オーガが土煙を吹き飛ばし姿を見せた。


 熱さと屈辱からかこちらを憎らしげに睨み付け、大声を上げている。

 もはや、そんな姿は滑稽に映る。



 アイビスが木の上から落下し、オーガに鎌を振り下ろす。

 刃は脳天から股間まで貫通し、生死を確認する必要もない。


 「カッ……!」


 アイビスが鎌を引き抜き、反射なのかオーガから最後の声が発せられ地面に倒れ伏せた。

 

 時間が止まっているようだ。この瞬間世界はアイビスを中心に動いている。

 

 アイビスの姿に全員見惚れている。

 生物を殺したというのに、その破壊的な印象が薄らぐほどの美しさと畏れを内包していた。



 皆でアイビスの元に駆け寄り、作戦成功を喜んだ。


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