マリア再び
「おい、ゴリラ、つんつん。バッティングセンター行くぞ」
「ホームランか?」
ゴリラが聞いた。
「違う。今日はデッドボールの方だ!」
「さては昨日、WBBC見たな?」
つんつんも続く。
「ワールド冒険者ベースボールカップ、最高だよね」
反応を見る限り、二人とも見ていたようだ。
「おうよ。あれ見て、なんだか熱くなっちまってよ」
「決まりだな。行くぞ」
「おいらも連れてってよ」
横から声がした。
弓使いだ。
弓使いは、学ランを着ていて、背中には矢筒を背負っている。
身長は俺と同じくらい。
体つきは少し細身で、いかにも素早そうな見た目をしていた。
「おいらも見てたら、やりたくなったからさ」
「おう。弓使いも一緒に行くぞ」
俺たちは教室を出た。
「それにしても、こないだホームラン行った時は最悪だったな」
「何かあったの?」
弓使いが聞いた。
「聖女学園のやつらに絡まれてよ」
「あー。あそこの子たち、プライド高いからね」
「最悪だったよな」
「ああ」
ゴリラも頷く。
つんつんが胸を張った。
「僕なんて革の鎧、錬金術屋に持ってって炎耐性+3付けてもらった」
「すげーじゃねーか」
「バイト代すっからかんだよ」
確かに鎧の色が少し変わっている。
ゴリラも得意げに言った。
「俺は土の魔法からの逃げ方研究しといた」
「どうやるんだ?」
「地面が柔らかくなった瞬間、横に逃げれば避けられる」
「なるほどな」
「まあ、そうそう会うこともねーと思うけどな」
「そういえば、おいら騎獣ないんだけど」
弓使いが言った。
「問題ねーよ。俺のボアでタンデムすりゃいい」
「ありがとう」
騎獣置き場に着き、弓使いを後ろに乗せる。
「それと、今日もビリが一回分な」
「今回は負けねー」
「今日は俺が勝つ」
つんつんもやる気のようだ。
「よーい。どん!」
俺の掛け声で、一斉に魔獣学園から飛び出した。
俺たちは駅前の騎獣置き場に騎獣を停めて、デッドボールへ向かって歩いていた。
「湊、一回分ごちな」
「ふざけんな。なんで俺が負けんだよ」
「腕が落ちたんじゃねーの」
二位のくせに、笑いながらゴリラが言う。
「負けた理由が全然わかんねー」
つんつんは嬉しそうな顔をして言った。
「俺たちが速くなったのかも」
その時だった。
「インフェルノ」
横から声がした。
ゴォォォォォ!
「ぎゃあああああ!」
つんつんが炎に包まれた。
その場で転げ回る。
「熱い! 熱い!」
「つんつん!」
声を掛けながら炎が飛んできた先を見る。
そこには、またあの聖女学園の三人が立っていた。
「なんでこんなところにいるのかしら」
真ん中に立っていたマリアが不思議そうな顔をしている。
「もしかしたら、マリア様のストーカーかもしれませんわ」
「まあ、怖い」
二人が口元に手を当てる。
マリアがつんつんを見る。
「それにしてもゴミのくせに、生意気に革の鎧+3なんて着て」
「おかげでインフェルノを使う羽目になってしまいましたね」
「ゴミにはもったいなすぎますわ」
「ふざけんな!」
俺はとっさに剣を抜き、襲いかかった。
右にいる女が叫んだ。
「ウインドカッター」
鋭い風が飛んでくる。
「くそっ!」
剣で弾く。
「やっぱり近づけねぇ!」
「俺に任せとけ!」
ゴリラが大剣を構えて突っ込んでいく。
マリアが静かに手を上げた。
「土葬」
足元の地面が柔らかくなる。
「食らうかよ!」
ゴリラが横へ飛ぼうとした。
「うおっ!?」
柔らかくなった地面に足を取られた。
うまく飛べない。
そのまま身体が沈んでいく。
「ぐわぁぁぁぁ!」
ズボッ!
ゴリラは地面へ飲み込まれた。
「ゴリラは埋めるに限りますわ」
「さすがマリア様」
「ったく」
俺はため息をつく。
「二人とも成長しねーな」
次の瞬間今度は左の女が叫んだ。
「アイスニードル」
無数の氷が飛んできた。
「っと!」
俺は剣で払いのける。
「と言っても」
剣を構え直す。
「お前らも成長してねーな」
「はぁぁぁぁ!」
剣へ気合いを集中する。
そして振り下ろした。
「スキル、みなとブレード!」
ブォン!
剣圧がマリアへ飛んでいく。
「マジックバリア」
ガキン!
薄く光った膜のようなものに弾かれた。
「なんだと!?」
もう一度、気合いを溜めて剣を振る。
「みなとブレード!」
カン!
また弾かれた。
マリアの左にいた少女が笑う。
「そういった魔法みたいなものは、マリア様には届きませんよ」
「バカには分かりませんことよ。おほほほ」
マリアは笑いながら返事をしていた。
「誰がバカだ!」
その時。
後ろで弓使いが弓を構えていた。
「物理的なおいらの弓は防げないだろ」
矢をつがえる。
「謝るなら今のうちだぞ」
マリアが首を傾げた。
「ゴミに何を謝罪しろと?」
「後悔するなよ」
弓使いが矢を放った。
ひゅん!
矢が一直線にマリアへ向かう。
くいっ。
突然、矢が不自然な方向へ曲がった。
そのまま明後日の方向へ飛んでいく。
「なに!?」
マリアが微笑む。
「シルフさん、ありがとう」
「なんだ? シルフって?」
「バカは知らなくていいですのよ」
マリアが手を向ける。
「ファイヤーボール」
巨大な火の玉が弓使いへ飛んだ。
ドォン!
「ぎゃああああ!」
弓使いも炎に包まれ、その場を転げ回る。
「熱い! 熱い!」
俺は周りを見る。
つんつんと弓使いは燃えている。
ゴリラは埋まっている。
「くそっ。どうしたらいい?」
俺は突破口を考える。
その時。
「お嬢さんたち、どうしました?」
聞き覚えのある声がした。
いつの間にか、マリアたちの横にミハエルが立っていた。
「ミハエル様!」
「マリア様がストーカーされているみたいで。助けてください」
ミハエルが俺を見る。
「なるほど」
少し考える。
「確かにモテなそうな顔をしていますね」
「なんだと!」
「私がきっちり教えておきます」
そう言って、ミハエルはニヤッと笑った。
「冒険者ベースボールバッティングで勝負をつけましょう」
「いいぜ。俺も昨日からうずいていたからな」
俺は剣をしまった。
そして、動けるやつらだけでデッドボールへ向かった。
「勝負は簡単です」
ミハエルが鉄のこん棒を持つ。
「どちらが多く点を取れるか。それだけです」
「望むところだ」
冒険者ベースボール。
飛んでくる鉄球を鉄のこん棒で打ち返し、相手選手にぶつけて倒す競技だ。
これを攻守交代しながら七回繰り返す。そのあと、応援合戦を行い、その点数も追加する。
そして、冒険者ベースボールバッティングは、その打撃練習用のものだ。
人の代わりに、大きさや重さの違う的が並べられている。
一人二十球ほど打ち、倒した的の点数を合計する。
今回は、この冒険者ベースボールバッティングの合計点で勝負する。
「では、まず私から行きましょう」
ミハエルが打席へ入る。
次々と飛んでくる鉄球を打ち返していく。
カキン!
ガン!
ドォン!
次々と的が倒れていった。
結果。
二十五点。
「君に越えられるかな?」
どや顔でミハエルは言った。
「さすがミハエル様!」
「素敵ですわ!」
黄色い声援が飛ぶ。
「次は俺だ」
俺は鉄のこん棒を持って打席へ入った。
カキン!
ガァン!
バキン!
順調に点数を重ねていく。
最後の一球を残して二十四点。
あと一つ、どの的でもいいから当てれば俺の勝ちだ。
「もらったぜ、この勝負」
鉄の球が飛んでくる。
その時、誰かの声が聞こえた。
「スリップ」
「え?」
つるっ。
突然、足が滑った。
体勢を崩す。
ほぼ同時に違う声が聞こえた。
「ウィンドムーブ」
頭と体が押される。
「うおっ!?」
そこへ。
ゴンッ!
鉄の球が頭へ直撃した。
「ぐわっ!」
そのまま俺の意識は消えていった。
「お客さん。もう閉店だから帰ってくれ」
「ん……?」
目を覚ますと、店長が俺の肩を揺らしていた。
「閉店?」
頭がフラフラする。
辺りを見る。
もう誰もいない。
ミハエルたちはいなくなっていた。
外に出てゴリラたちを探す。
何かが土から這い出した跡があった。
「ゴリラ出られたか」
二人を担いで教会にでも行ったか。
俺は潰すノートにミハエルとマリア、それとビアンカとアンナの名前を書き足した。




