担任福山
「速報! 速報!」
騒ぎながら、つんつんが教室へ飛び込んできた。
「D組の獅子神が、三年の佐藤に締められたみたいだ!」
俺は顔を上げた。
「それは本当か?」
「全治三か月の教会送りだって」
「俺の獲物、取りやがって」
そこへゴリラが入ってくる。
「三か月って、ほぼ死んでるな」
「あー、確かに」
三か月の入院って相当やらないとありえない。いつも俺の腕の治療はすぐ終わることを思い出す。
俺は腕を組んだ。
「佐藤ってやつ、よっぽどやべーな」
つんつんが頷く。
「そうなんだよ」
「そいつは三年で一番やべーのか?」
「一番というか、今三年には、三つの派閥があるんだ」
「よく知ってんな。聞かせてくれ」
つんつんが指を一本立てた。
「一つは、今回出てきた佐藤一派」
二本目の指を立てる。
「もう一つは鈴木一派」
三本目の指を立てる。
「最後は田中一派だ」
「じゃあ今、この学校のてっぺんは誰なんだ?」
「今は三つ巴で膠着状態だから、トップはいないんだ」
「なるほどな」
三人いるのはめんどせーがトップ取るためにはしょうがないか。
俺は立ち上がった。
「じゃあ俺がそいつら、ぶっ倒してやる」
その時だった。
ガラガラ。バーン。
教室の扉が勢いよく開き、知らん親父がいきなり教室へ入ってくる。
そいつは黒いジャージを着て、茶色のサングラスをかけていた。
ジャージの袖には、金色のラインが入っている。
髪はパンチパーマ。足元はサンダル。
筋肉質で、無駄なぜい肉はほとんどなさそうだ。
そして、右手には木刀を持っていた。
そいつはいきなり変なことを言ってきた。
「よーし! 授業始めるぞー!」
モヒカン1が立ち上がった。
モヒカン1は、トゲのついたボロボロの黒い袖なし革ジャンを着ている。
髪は赤。当然モヒカンだ。
モヒカン2は青。
モヒカン3は黄色。
三人とも髪型は同じだが、色で見分けることができる。
顔は覚える価値がないから覚えてねー。
「なんだてめー。いきなり来て、喧嘩売ってんのか?」
机を蹴り飛ばし、その男の前へ歩いていく。
モヒカン1がその男に近づいた瞬間。
バキン!
「ぐわっ!」
モヒカン1は木刀で殴られた。
頭から血が飛び散る。
男は木刀を肩に乗せた。
「俺はおめーらの担任の福山だ!」
そして、血のついた壁を見る。
「おめーのせいで壁が汚れたじゃねーか」
「まあ今日は俺が拭いてやるよ」
そう言って、男はモヒカン1の頭を掴んだ。
そのまま顔を壁へ叩きつける。
ガン!
壁が少し崩れた。
「ぐえっ!」
さらに男は、モヒカン1の顔を壁へ押しつけたまま、ごしごし擦り始める。
「ほら、落ちろ落ちろ」
ごしごし。
「…………」
男は壁を見る。
「これじゃあ、落ちねぇかぁ」
もう一度擦る。
「今日ならいけるかと思ったが、やっぱ無理か」
「お前のせいだから、後できれいにしておけ」
モヒカン1は壁と手の間で何度も頷いていた。
つんつんが小声で言った。
「担任、いたのか……」
その顔から血の気は引いていた。
そして、男はモヒカン1を床へ放り投げる。
「よーし。ホームルーム始めるぞー」
木刀を持ったまま教室を見回した。
「お前」
木刀の先がモヒカン2へ向く。
「校則知ってるか?」
「あ? 知らねーよ」
「おいおい」
先生がため息をつく。
「入学したら校則くらい全部暗記しとくだろ」
先生の木刀が、今度はモヒカン3へ向いた。
「じゃあ、お前は分かるか?」
モヒカン3が睨み返す。
「ふざけんのは、お前の顔だけにし――」
その瞬間。
先生が消えた。
「え?」
気づいた時には、モヒカン3の目の前に立っていた。
バキッ!
木刀が頭へ振り下ろされる。
モヒカン3は、そのまま床へ倒れた。
「先生の質問には、しっかり答えましょう」
先生は気絶したモヒカン3を見下ろす。
「おい」
木刀で頭を小突く。
「聞いてる?」
反応はない。
「…………」
もう一回小突く。
「まあいいや」
先生は教卓へ戻った。
「今日中に校則全文、しっかり覚えて帰れ」
教室中を見回す。
「覚えるまで帰さねーからな」
そう言って、プリントを机の上へ置いた。
「プリントコピーしてやったから、しっかり頭に叩き込んでおけ!」
配られたプリントには、でかい文字でこう書かれていた。
『窓を割るな!』
『壁に血を付けるな!』
『とどめを刺すな!』
「まぁ。おめーら守らねーと思うけどな」
「100回違反したら退学だからな。毎年数名退学してるから気をつけろ」
「今日の授業はここまでだ。また、来週くらい見に来るから感謝しろよ」
バン。
教室の扉を勢いよく閉めて出て行った。
「この学校って授業あんのか?」
俺はつんつんに聞いた。
「高校だからあると思うけど」
「まぁいっか。やりたいことやるのが高校生だからな」
少し考えて、俺は続けた。
「獅子神いなくなったから、今日から一年のトップは俺だな」
「よしきはどうする?」
ゴリラは聞いた。
「よしきー? 誰だそれ?」
「おめーの手を落としたやつだよ」
「あーあいつか、忘れてた。あいつぼこしてやるか」
そう言ってよしきの方を見た。
よしきは何かぶつぶつ言っていた。
「窓を割るな」
「壁に血を付けるな」
「とどめを刺すな」
俺は席を立ち、よしきの前に立った。
「おう。よしきタイマン張るぞ」
「やっぱり、君の下に付くことにするよ」
「俺にびびったか?」
「それ以上に君が面白そうだからね」
「面白い? ばかにしてんのか!?」
「興味を持ったってことだよ」
「なら、いいか。よし一年で俺に逆らうやつはいなくなったな。がははは」
こうして俺は一年のトップに立った。




