ミハエル
「おいゴリラ。つんつん。バッティングセンター行くぞ」
放課後。
俺は騎獣置き場へ向かいながら、たけしに声をかけた。
「獅子神はいいのか?」
「あっさり一年取っちまっても、つまんねーだろ」
俺は肩を回す。
「今日は打ちに行くぞ」
横を歩いていたつんつんが笑った。
「いいね。バンバン打つよ」
騎獣置き場へ着く。
俺の愛車、グレードボア。
たけしのサル型騎獣。
そしてつんつんの騎獣は、大きなワニ型だった。
「お前のワニ型、竹やりマフラーイカしてんな」
「でしょ」
つんつんが少し得意そうに笑った。
「バイトで貯めて付けたんだよ」
たけしが腕を組んで頷く。
「やっぱ音が違うね」
「分かる?」
「分かる、分かる」
俺はグレードボアへ跨がる。
「駅前のホームランまで競争な」
二人を見る。
「負けたやつが一回分持ちな」
「負けねーよ」
「サル型なめんなよ」
三頭の騎獣が一斉に飛び出した。
「やっぱ俺のボアちゃん最高だな」
俺が一番だった。
「ゴリラ、ごちな」
「しゃーねーなー」
たけしが財布を確認しながらため息をつく。
「教会室のツケもあるんだけどな」
「知らねーよ」
三人で駅前を歩く。
バッティングセンターまでは、もうすぐだ。
その時だった。
「ファイヤーボール!」
女の声が響いた。
「ん?」
横を向いた瞬間。
ドォン!
巨大な火の玉が、つんつんへ直撃した。
「ぎゃあああああ!」
つんつんが全身炎に包まれ、その場を転げ回る。
「熱い! 熱い! 熱い!」
「つんつん!」
俺は声のした方を見る。
そこには三人の女子生徒が立っていた。
紺色のブレザー。
白いシャツに赤いリボン。
膝丈のチェック柄スカート。
磨かれた革靴。
髪もきれいに整えられ、制服にも汚れ一つない。
俺たち魔獣学園とは、見るからに違う。
そのうちの一人が、つんつんを見て鼻で笑った。
「今どき革の鎧なんて着てる人、この街にふさわしくないわ」
聖女学園。
この街で一、二を争うお嬢様学校だ。
「なんだてめーら!」
俺が叫ぶ。
少女は俺を見る。
「この街にゴミがいたので、掃除しているだけです」
「ふざけんな!」
俺は剣を抜いた。
地面を蹴る。
一気に間合いを詰め――。
右にいた女が声を上げた。
「ウインドカッター」
鋭い風が飛んできた。
「うおっ!」
剣で受ける。
だが風は完全には防げない。
頬。
腕。
手の甲。
細かな傷が一気に走った。
「ちっ!」
俺は足を止める。
「ここはお前らのもんじゃねーだろ!」
俺は女子三人を睨む。
「公共の場だぞ!」
「あなたたちのようなクズは、燃やすものだと教わっています」
「なんだとぉ!」
再び踏み込む。
左の女が叫ぶ。
「アイスニードル」
今度は無数の氷の槍が飛んできた。
「ぐわっ!」
俺は横へ転がる。
地面に氷の槍が次々突き刺さった。
「ちくしょう! 近づけねえ!」
「どけ、湊!」
たけしが大剣を振り上げた。
「俺が行く!」
その瞬間。
三人の真ん中にいた女子が静かに手を上げた。
「土葬」
たけしの足元の地面が沈んだ。
ズボッ!
一瞬で身体が地面へ吸い込まれる。
「うおおおおお!」
頭まで埋まった。
女子生徒が満足そうに頷く。
「ゴリラは埋めるに限りますね」
「さすがマリア様。素敵ですわぁ」
「くそっ……」
俺は三人を見る。
近づけない。
魔法は遠くから飛んでくる。
ゴリラは埋まった。
つんつんはまだ燃えている。
「熱いよー! 熱いよー!」
「まさか、こんなお嬢様に俺が負ける……?」
近づくことすらできず、どうしようもない状態だった。
「そこまでです」
後ろから男の声がした。
振り返る。
一人の男子生徒が立っていた。
濃紺のブレザー。
白いシャツ。
胸元には金色の学園章。
細身の黒いズボンには皺一つなく、革靴まで磨き上げられている。
腰には銀色の装飾が入った細身の剣。
髪まできっちり整っていた。
男は俺たちを見て、それから女子三人へ笑顔を向ける。
「お嬢さん方、こいつらに何かされたんですか?」
「このクズたちが突然歩いてたんです」
マリアが言った。
「ほう、それは怖かったでしょう」
剣へ手を添える。
「クズどもは私が片づけます」
「きゃー!」
「ミハエル様―!」
「素敵―!」
三人が黄色い声を上げる。
「なんだてめぇ」
俺はミハエルを睨んだ。
「邪魔すんな」
ミハエルはため息をつく。
「女性に手を上げるなんて」
剣を抜いた。
「やはりクズですね」
「てめぇ!」
ミハエルが踏み込んでくる。
速い。
キィン!
俺は剣で受けた。
「ほう」
ミハエルが少し笑う。
「クズのくせにやりますね」
「言ってろ」
俺は剣で押し返す。
そこから。
何度も。
何度も。
剣がぶつかった。
キィン!
ガァン!
キンッ!
気づけば五分近く打ち合っていた。
「ミハエル様がんばってー」
「ゴミを生ごみにして―」
黄色い声援は絶えず聞こえてきていた。
「はぁ……はぁ……」
ミハエルも肩で息をしている。
俺も腕が重い。
俺は残った力を全部剣へ込めた。
「これで死んどけ!」
渾身の一撃。
ミハエルは剣で受けるが、俺の一撃を防ぎきることはできなかった。
「ぐはっ!」
ミハエルの肩に、俺の剣が深く食い込んでいた。
「ぐっ……!」
ミハエルが倒れる。
「お前もなかなかや……」
「ファイヤーボール」
「ぎゃー」
熱い。俺はどうやら燃えているようだ。
「きゃー!」
女子三人が駆け寄ってくる。
「ミハエル様が大変だわ!」
「救急獣を呼びましょう!」
マリアが首を振った。
「それより三人で運んだ方が早いわ」
「さすがマリア様!」
三人はミハエルを抱え上げる。
「ミハエル様、しっかり!」
「すぐ治療してもらいますわ!」
そのままミハエルを担いで走っていった。
「あちー、本気あちー」
俺は火だるまになり、のたうちまわった。
そして黒焦げになり動けなくなった。
一時間後。
ボコッ。
近くの地面から手が出た。
「うおおおおお!」
土まみれのたけしが這い出してきた。
「やっと出れた……」
たけしは周囲を見る。
燃え尽きて黒くなって転がっている俺とつんつん。
「…………」
たけしは大きくため息をついた。
「しょうがねーなー」
そう言って、ゴリラはつんつんと俺を担いだ。
そして、最寄りの教会まで俺たちを運んだ。




