小野
死神――よしき。
あの野郎は、いつかぶっ殺してやる。
教会室でくっつけてもらった手を見ながら、俺は騎獣置き場で愛車のグレードボアから降りようとしていた。
「おう!」
後ろから声がした。
振り返る。
サル型の騎獣に乗った、でかい男がこっちへ向かってきていた。
昨日、俺に右腕を斬り落とされた立花たけしだ。
斬り落とした右腕はもうくっついていた。
「おう、ゴリラ。イカした騎獣に乗ってんじゃねえかよ」
「おめーのボアも悪くねえな」
たけしがサル型騎獣から降りる。
「それにしても、死神のやつムカつくよな」
たけしは少し声を荒げた。
「いや。俺はおめーの方にムカついてるよ」
「は?」
意味が分からない。
「お前の上の俺が負けたんだぞ。ちったぁ悔しがれよ。教会室にいきなりツケできちまったじゃねーか」
「やられるやつがわりーんだろ」
「それ言われると何にも言えねぇ」
「死神とは今日もやるのか?」
「あいつは最後のお楽しみだ」
俺は校舎を見上げる。
「まずは一年のてっぺんを取る」
「おめーにできんのかね?」
「なんだと?」
たけしが指を一本立てた。
「まず、トラ中の獅子神」
「誰だそいつ」
「あいつの鉄の爪はやべーぞ」
たけしが真剣な顔をする。
「スイカなんて一瞬で食べやすいサイズに切れるらしい」
「それくらいじゃ、びびんねーよ」
「しかも獣人って噂もある」
「そんなの関係ねぇよ」
たけしが二本目の指を立てる。
「それと、ワニ中の小野。でかい斧を振り回す」
「それがどーした?」
「大型の象車も一発らしいぞ」
「そんなの大したことねーよ」
俺はたけしを見る。
「お前、ビビってんのかよ」
「ビビってねーよ!」
「めんどくせーから二人とも呼び出して、まとめて斬ってやるか」
「まとめて?」
「ゴリラ。お前ちょっと呼び出してこい」
「なんで俺が」
「おめーは俺の下だろ」
俺は当然のように言った。
「そう決めたじゃねーか」
「そうだな。訓練場の裏に、昼休み来るように言っといてやるよ」
「おう。頼んだ」
俺たちは教室へ向かった。
昼休み。
俺は訓練場の裏で待っていた。
だが、たけしが来ない。
獅子神も小野も来ない。
「遅せーな」
そこへ、一人の生徒が走ってきた。
「おい! ゴリラが教会室に運び込まれたらしいぞ!」
「なんだって? よえーからなあいつ」
「また手をやられたみたいだ!」
しょうがねえ。
俺は教会室へ向かった。
「どうした、ゴリラ」
ベッドの上にたけしがいた。
また右手がなかった。
「めんどくせーから行かねえって言われてよ」
「それで?」
「小野にやられた」
「ちったぁ、気合い見せろよ」
「うるせえ」
俺は立ち上がった。
「今から仇取ってやるぜ」
「気をつけろよ」
小野のクラスまで行く。
俺は教室の扉を勢いよく開けた。
バァン!
「おい!」
教室中の視線が集まる。
「小野はどいつだ!」
奥の席から、一人の男が立ち上がった。
でかい。
その横には、さらにでかい斧が立てかけてある。
「俺だけど。何か用か?」
「お前も俺の下につけ」
「嫌だけど」
「そうか」
俺は剣を抜いた。
「斬って分からせてやる」
そのまま剣を振り下ろす。
その瞬間、小野は横にいた男を掴んだ。
そして盾にした。
ガキィン!
俺の剣が男の鎧に当たる。
「ぐわっ!」
盾にされた男が叫んだ。
「なんで小野さん……!」
小野が首をかしげる。
「あれ?」
自分の横を見る。
斧がある。
手を見る。
仲間がいる。
「斧と間違えちゃった」
「ごめんね、まこと」
小野は言った。
「お詫びにこいつ教会室送りにするから」
今度は斧を掴んだ。
そして俺へ飛びかかってくる。
「うおおおお!」
「おせーよ」
横へかわす。
斧が床を叩いた。
ドガァン!
床板が砕ける。
俺は小野の右腕を狙った。
昨日と同じだ。
腕を落として圧勝だ。
と思った瞬間。
「おらぁ!」
小野が斧の重さを利用して、そのまま身体を前へ回転させた。
ぐるん。
「なに!?」
そのまま一回転。
さらに一回転。
さらに回る。
「出た!」
教室の誰かが叫んだ。
「小野さんのスキル――ぐるぐるアタックだ!」
ブォン!
斧が目の前を通り過ぎる。
俺は慌てて下がった。
「くっ、隙がねえ!」
小野は止まらない。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
斧を振り回しながら、こっちへ近づいてくる。
しかも、あまり前が見えていないらしい。
ガシャァン!
机が吹っ飛ぶ。
バキィ!
椅子が砕ける。
「うわっ!」
「逃げろ!」
「巻き込まれるぞ!」
クラスの連中が一斉に教室の端へ逃げていく。
小野だけが回り続けている。
「どうするか……」
俺は考えた。
その辺の机を持ち上げる。
「これでも食らえ!」
投げた。
バキィン!
机は一瞬で粉々になった。
「ダメか」
ぐるぐるアタックが迫ってくる。
「…………」
俺は横を見る。
そこに、まことが転がっていた。
「これはどうだ」
俺はまことを掴んで投げた。
まことが飛んでいく。
「まこと!?」
小野の回転が止まった。
一瞬だけ隙が生まれた。
「そこだ!」
俺は踏み込んで、小野の背後へ回る。
そして背中へ剣を振り下ろした。
「ぐわっ!」
小野が倒れる。
斧が床を転がった。
教室が静まり返る。
俺は剣を肩に乗せた。
「大したことねーな」
俺は教室を見回す。
「おめーらも、今日から俺の下だ」
一年締めるには後一人だ。
そう、あいつ。
「……名前が出てこねー」
まあいい。
「一年はあと一人だな」




