三大派閥誕生編⑥ 三つ巴最終決戦
朝。
「今日もいい天気だなぁ」
鈴木は空を見上げた。
雲は少なく、風も弱い。
騎獣を走らせるにはちょうどいい天気だった。
鈴木はチーター型の騎獣の手綱を引き、ゆっくり歩かせていた。
今日は決戦らしい。
田中派。
佐藤派。
そして自分たち鈴木派。
三つのグループが校庭に集まり、ついに誰の騎獣が一番速いのかを決めるという。
鈴木はチーターの首を軽く撫でた。
「……」
速い。
自分の騎獣がかなり速いことは知っている。
操作にも自信はある。
「一番速いかって言われると、わかんないんだよなぁ」
田中のワニも見たことがある。
佐藤のダチョウも見たことがある。
どちらも速そうだった。
少なくとも、自分のチーターが絶対に一番だとは思っていない。
鈴木は少し考えた。
さすがに今日は参加した方がいいのだろうか。
「でも、一番速いと思ってないんだよなぁ」
「民の意思を決めるって言ってたよな。なら参加する理由ないなぁ」
鈴木は騎獣置き場にチーターを停めると、校庭へ向かった。
すでに大勢の生徒が集まっている。
田中派。
佐藤派。
鈴木派。
三つの集団が少し距離を空けながら睨み合っていた。
鈴木はその中に長いリーゼントを見つけた。
「イチロー」
イチローが振り返る。
「おう、鈴木。来たか」
「俺、戦わなくてもいいかな?」
イチローの眉が動いた。
「あ? どういうことだ?」
「俺、自分の騎獣が一番速いって思ってないんだよ」
「そうなのか!? おめぇ戦ったら、民主主義の原則から外れるじゃねぇか!」
「そうなんだよ」
「しっかり、おめーの意思を通さねぇとな。誰が速えーと思ってんだ」
「わかんないなぁ」
「じゃあ、中立だな。校舎から誰が速いかしっかり見とけ!」
鈴木にはよくわからなかった。
「そうするよ。でもレースをすればいいと思うけど……」
だがイチローはすでに前を向いていて、聞こえてないようだった。
その先では言い争いが始まっていた。
「ワニが一番に決まってんだろ!」
「ダチョウだ!」
「チーターだろうが!」
「だったら今日わからせてやる!」
「やってみろ!」
一人が相手に胸をぶつけるように詰め寄った。
押された相手も胸を張って、そのまま押し返す。
押し返された男は勢いよく相手を弾き飛ばした。
次の瞬間。
拳が飛んだ。
「やりやがったな!」
その声を合図に三つの集団が一斉に動いた。
怒号が校庭に響く。
イチローは笑った。
「始まったな」
そのまま前へ歩き出した。
正面から佐藤派の男が三人向かってくる。
一人目の拳を避ける。
腹へ一発。
「ぐえっ!」
二人目の顔を裏拳で殴る。
身体が横へぶっ飛ぶ。
三人目が剣を振ってかかってきた。
イチローは腕で逸らし、そのまま膝を腹へ叩き込んだ。
男が地面を転がる。
「邪魔だ!」
さらに二人。
一人。
三人。
向かってくる者を次々と倒しながら、イチローは校庭の中央へ進んでいった。
「イチロー!」
太い声が響いた。
イチローが横を向く。
田中が大剣を振りかぶっていた。
「おらぁぁぁ!」
大剣が振り下ろされる。
イチローは横へ跳んだ。
ズガァン!
刃が地面へ食い込む。
土が大きく弾けた。
「相変わらず物騒だな、お前」
「ぎゃははは! 避けんなよぉ!」
田中が大剣を抜く。
そのまま横薙ぎ。
イチローは身体を反らした。
刃が胸の前を通過する。
そこへ踏み込む。
拳。
田中は大剣の腹で受けた。
ガンッ!
田中の身体が後ろへ滑る。
「いてぇなぁ!」
「まだだ!」
イチローが追う。
右。
左。
連続で拳を打ち込む。
田中は大剣を盾のように使いながら防ぐ。
ガン!
ガン!
ガァン!
一発ごとに巨大な剣が揺れる。
田中の足が少しずつ地面を削っていく。
「おらぁ!」
田中が強引に大剣を振った。
イチローは後ろへ跳ぶ。
だが田中は止まらない。
大剣を一回転させ、その勢いのままもう一度振る。
イチローは腕を上げた。
鉄の小手に刃が当たる。
ガギィン!
「ぐっ!」
腕が弾かれる。
田中が笑う。
「今度は吹っ飛べぇ!」
蹴り。
イチローの腹へ田中の足が入る。
ドンッ!
イチローが数メートル後ろへ飛ぶ。
地面に着地する。
靴が土を削る。
「やるじゃねえか」
「てめぇもなぁ!」
今度はイチローから走る。
田中も大剣を構える。
距離が一気に縮まる。
田中の大剣。
イチローの拳。
真正面からぶつかった。
ガァァン!
鈍い衝撃音が響く。
周囲にいた生徒たちが思わず振り返った。
田中は歯を食いしばる。
イチローも拳を押し込む。
互いに一歩も引かない。
「おらぁぁ!」
「うおおお!」
力と力がぶつかる。
先に動いたのは田中だった。
剣を少し引き、すぐに角度を変えて斬り上げる。
イチローは横へ避ける。
制服の裾が切れた。
「ちっ!」
田中の顔へ拳。
ドゴッ!
田中の顔が横を向く。
だが倒れない。
逆に頭突き。
ゴンッ!
「ぐっ!」
イチローが一歩下がる。
田中が笑う。
イチローも笑った。
「やっぱお前、タフだな」
「てめぇもな!」
再び二人がぶつかった。
一方。
佐藤は少し離れた場所に立っていた。
周囲では三派閥の生徒たちが入り乱れている。
佐藤は無言で杖を上げた。
目の前に三人。
右から二人。
さらに後ろから一人。
佐藤の足元に魔法陣が浮かぶ。
杖が振られる。
突風が爆発した。
「うわああ!」
六人まとめて宙へ舞う。
身体が何度も回転し、そのまま地面へ落ちた。
別の男が背後から剣を振り上げる。
足元に小さな魔法陣。
地面から土の柱が突き上がった。
「ぐおっ!」
男が真上へ吹き飛ぶ。
少し離れたところでは、熊の毛皮を羽織った木こりが斧を振り回していた。
「ぬぅ!」
斧が一人の剣を弾く。
返す勢いでもう一人を柄で殴る。
「ぐえっ!」
さらに横から三人をまとめて押し返す。
「山の喧嘩に比べれば――」
その言葉の途中。
佐藤の雷が木こりの横に落ちた。
ズガァン!
木こりの周囲にいた敵がまとめて吹き飛ぶ。
木こりは煙の向こうを見た。
「……容赦ねぇな」
佐藤は少し離れた場所で、激しくぶつかり合う二人を見つけた。
太田とまもるだった。
少し前。
「邪魔だぁ!」
太田の大剣が振り下ろされる。
まもるは盾で受けた。
ガァン!
重い。
まもるの腕に衝撃が走る。
だが足は止まっている。
「相変わらず力だけはあるな」
「だけとはなんだぁ!」
太田が剣を引く。
すぐに横薙ぎ。
まもるは盾を傾ける。
ギィン!
刃を滑らせる。
空いた太田の胴へ剣を突く。
太田は身体を捻ってかわした。
そのまま肩からぶつかる。
ドンッ!
まもるが一歩後ろへ下がった。
「どうした!」
太田が追う。
大剣を上から。
横から。
斜めから。
休む暇なく振る。
ガン!
ガン!
ガァン!
まもるはすべて盾と剣で受ける。
一撃ごとに地面が削られる。
盾には少しずつ傷が増えていく。
太田が笑った。
「いつまで守ってんだ!」
「お前を倒すつもりだよ」
「ふざけんな!」
太田が大きく踏み込んだ。
大剣を両手で握る。
「おらぁぁぁ!」
真上からの一撃。
まもるは盾を構える。
ズガァン!
まもるの足が地面へ沈んだ。
膝が少し曲がる。
「ぐっ……!」
太田が押す。
「どうしたぁ!」
「まだだ!」
まもるが盾を押し返す。
太田の大剣が上へ弾かれた。
その瞬間。
まもるが踏み込む。
盾で太田の胸を殴った。
ドンッ!
「ぐおっ!」
太田が後ろへよろける。
まもるは追う。
剣を横へ振る。
太田が大剣で受ける。
ガキィン!
今度はまもるが押す。
「ぬぅ!」
太田の足が滑る。
「守るだけじゃねぇだろ」
「昔からそうだったな」
太田は腕に力を入れた。
大剣を強引に押し返す。
二人が距離を取る。
息は上がっている。
だが、どちらも笑っていた。
太田が肩を回す。
「やっぱ、おめぇとの力比べは面白ぇな」
まもるも盾を構え直す。
「なんか熱くなるな!」
「やっぱり気が合うな!」
太田がまた走る。
まもるも前へ出た。
再び剣と盾が激突する。
太田はまもるの後ろで何か光っていることに気が付いた。
「ん?」
佐藤だった。
杖の先に魔法陣が浮かんでいる。
その瞬間、魔法陣から大きな光が打ち出された。
まもるは即座に横へ飛んだ。
まるで打ち合わせをしていたかのように。
青白い光が太田を直撃した。
ドカァン!
太田の身体が吹き飛ぶ。
地面を転がり、数メートル先で止まった。
「ぐっ……」
革鎧の一部が焦げている。
血も流れていた。
佐藤は無言で杖を下ろした。
「佐藤!」
怒鳴り声。
田中だった。
イチローとの戦いから一瞬離れ、こちらを見ていた。
倒れている太田。
その前に立つ佐藤。
田中の顔が変わる。
「てめぇ!」
大剣を持って走る。
佐藤へ一直線。
まもるが間に入った。
「行かせねぇよ」
「どけ!」
田中が大剣を振る。
まもるが盾で受けた。
ガァン!
「邪魔すんなぁ!」
「佐藤には近寄らせねぇ!」
田中がさらに押し込む。
まもるも踏ん張る。
「俺も混ぜろぉ!」
横から声がした。
二人が顔を向ける。
イチローだった。
拳を大きく振りかぶる。
「まとめて死んどけ!」
ドゴォン!
拳が二人まとめて直撃した。
「ぐおっ!」
「うわっ!」
二人は左右へ地面を転がりながら、大きく吹き飛んだ。
イチローが笑う。
「ごちゃごちゃしてんじゃねえ!」
その瞬間。
空が光った。
イチローが顔を上げる。
佐藤が杖を向けている。
「またお前かよ」
轟音。
ズガガガァン!
雷がイチローへ直撃した。
全身を青白い光が包む。
地面が爆ぜる。
煙が上がった。
「……」
佐藤は煙の向こうを見ていた。
やがて、人影が浮かび上がる。
「……てめぇ」
イチローは既に立ち上がっていた。
服は焦げている。
髪からも煙が出ている。
顔には怒りが浮かんでいた。
「遠くからうぜぇんだよ!」
佐藤へ向かって走る。
「佐藤!」
まもるが起き上がり、追おうとする。
その横。
「どこ行くんだぁ!」
太田が立ち上がっていた。
大剣を振る。
まもるが振り返る。
間に合わない。
ドガァン!
大剣の腹が鎧へ叩き込まれた。
まもるの身体が横へ吹き飛ぶ。
「ぐっ!」
その間にイチローが佐藤へ到達した。
「おらぁ!」
拳。
佐藤は魔法障壁を出す。
だが。
バキィン!
一撃で障壁が砕けた。
「……!」
初めて佐藤の表情が少し動いた。
イチローがもう一度拳を振る。
その拳が佐藤を捉える。
ドゴッ!
佐藤が吹き飛ぶ。
「佐藤!」
その直後。
「よそ見してんな!」
太田だった。
イチローの横から拳を振る。
ドンッ!
イチローの顔面に直撃。
「ぐっ!」
イチローがよろける。
そこへ田中も戻ってくる。
まもるも立ち上がる。
佐藤も杖を支えに起き上がる。
太田は大剣を構える。
イチローは血を拭う。
五人がほぼ同じ場所に集まっていた。
誰も引かない。
次の瞬間にも全員が動こうとした。
その時。
「大変だぁぁぁぁぁ!」
遠くから叫び声が聞こえた。
全員が止まる。
一人の男が、校庭へ向かって全力で走ってくる。
井上だった。
息を切らしながら、それでも叫ぶ。
「急報! 急報!」
田中が大剣を肩へ担ぐ。
「なんだぁ?」
イチローも拳を下ろした。
まもるが井上を見る。
「どうした?」
井上は五人の前まで来ると、膝に手をついた。
息を整える暇もなく顔を上げた。




