三大派閥誕生編⑤ 佐藤派VS田中派
佐藤たちのグループは、旧校舎の屋上をたまり場にしていた。
昼休みや放課後になると、二十人ほどが勝手に集まり、地面に座ったり、フェンスにもたれたりして時間を潰している。
その中で、まもるが空を見上げた。
「今日は風あるなぁ」
「ちょっと雨も降りそうだよな」
近くの男が答える。
少し離れたところでは、斧を持った男がフェンスの横に座っていた。
背はそこまで高くない。
だが、腕も足も太く、身体はずんぐりしている。
肩には熊の毛皮を羽織り、足元には大きな斧。
どう見ても木こりだった。
木こりは遠くの方を見た。
「お前の言う通り今日は雨が降る」
近くのやつは疑問に思ったようだ。
「お前そんなのわかるのかよ?」
「なんとなくな」
木こりは当然だと言わんばかりだった。
まもるも遠くの方を見た。
「あっちの方雨雲あるし、降るかもしれねぇな」
佐藤は壁際に座り、黙って本を読んでいた。
「……」
一時間後。
ぽつ。
まもるの頬に水滴が落ちた。
「ん?」
ぽつ、ぽつ。
次の瞬間。
ザーッ。
「雨だ!」
「やっぱ降りやがった!」
「だりぃ!」
全員が一斉に立ち上がる。
佐藤も本を閉じた。
「……」
全員慌てて階段へ走った。
「ここは雨降るとつれぇなぁ」
「でも、他にいいとこねぇし」
「今日はけぇるか」
「だな」
その日は、そのまま解散した。
数日後。
いつものように佐藤たちは屋上に集まっていた。
「この前の雨、最悪だったな」
「帰る時には靴までびしょびしょだったぞ」
「雨くらいで騒ぎすぎだろ」
木こりが腕を組む。
まもるは答えた。
「雨はつらいだろ。佐藤もそう思うよな?」
「……」
まもるは笑った。
「ほんと、佐藤はしゃべんねーんだな」
ふと、木こりは空を見上げた。
「今日の天気は大丈夫そうだな」
「そんなこと分かんのかよ」
「なんとなくな」
一時間後。
ゴロゴロゴロ。
全員が空を見上げた。
「あ?」
ぽつ。
「……」
ザーッ。
「またかよ!」
「たくよぉ!」
「最近雨多すぎだろ!」
また全員で階段へ走った。
佐藤も無言で後ろからついていった。
木こりも無言だった。
さらに数日後。
いつものように佐藤たちは屋上に集まっていた。
その日は天気がよかった。
木こりが立ち上がった。
「屋根を作ろう」
全員が木こりを見る。
「屋根?」
「ああ。屋根があれば雨でも集まれる」
「いいじゃん」
「……」
佐藤も頷いた。
まもるが聞いた。
「で、木は?」
木こりが屋上を見回した。
当然、木などない。
少し考える。
「……旧校舎からもらおう」
「おー、ナイスアイデアだ」
まもるも同意した。
それから旧校舎と屋上を何度も往復した。
古い壁板。
使われていない机。
棚。
床板。
木こりを中心に、少しずつ木材が屋上へ運び込まれた。
「だいぶ揃ったな」
まもるが積まれた木を見る。
木こりが頷く。
「これなら屋根は作れる」
「予備も取っとくか?」
「あるなら欲しい」
まもると佐藤、木こりたち数人がまた階段を降りていった。
旧校舎の一室。
バキッ。
木こりが斧で古い棚を丁寧に壊した。
「これ使えるな」
「持ってくぞ」
その時。
上の階から足音が聞こえた。
ドスン。
ドスン。
「なんだぁ?」
田中が階段を下りてきた。
その後ろには太田。
田中が壊された棚を見る。
さらに壁を見る。
床を見る。
「さっきからうるせぇと思ったら……」
太田も部屋の中を見回す。
「お前ら、何やってんだ?」
まもるが木材を担いだまま答えた。
「屋根を作る」
「屋根ぇ?」
「雨が降ると困るからな」
田中がしばらく黙る。
「ここの二階、俺たちのたまり場なんだけどよぉ」
太田が大剣を抜いた。
木こりも斧を構える。
「俺たちが雨に濡れてもいいのかよ」
「ここが壊れる方が困るんだよ!」
太田が踏み込んだ。
大剣を横に振る。
ブォン!
木こりは斧の柄を両手で持ち、正面から受けた。
ガァン!
身体が後ろへ滑る。
太田がもう一度振りかぶる。
「おらっ!」
横から、まもるが割って入り盾で防いだ。
ドンッ!
「やるじゃねぇか」
さらに田中が大剣を振り上げた。
まもるが盾を構える。
ズガァン!
大剣が盾へ叩き込まれた。
まもるの足元の床板が割れる。
「ぐっ!」
「どうした、まもるぅ!」
田中がさらに押し込む。
木こりが横から斧を振った。
田中が身体を引く。
ブォン!
斧が目の前を通過した。
「危ねぇな!」
木こりが斧を上げて斬りかかる。
そこへ太田も大剣で斬りつける。
大剣と斧がぶつかる。
ガキィン!
「おらぁ!」
「ぬぅ!」
木こりの斧は弾き飛ばされた。
「ぐぬぅ」
田中は斧を手放した木こりに斬りかかる。
まもるが盾で大剣を弾く。
その間、太田は気を溜めていた。
そして太田はスキルを発動した。
「横一線範囲斬り」
大剣を横薙ぎに振ると、幅広い鋭い光が飛び出した。
まもるはスキルを発動した。
「エリアガード」
佐藤グループの生徒に薄い膜ができる。
全員、窓や壁を突き抜けて旧校舎の外へ吹き飛ばされた。
まもるのスキルのおかげで大きな怪我はなかった。
太田と田中はゆっくり窓があった場所から出てきた。
歩きながら太田は言った。
「まもるのスキル、相手にするとうざいな」
「お前のスキルも大概だがな」
突然、空から田中めがけて雷が落ちた。
ズガガーン!
田中に直撃する。
「ぐぐぐぐ」
佐藤の魔法だ。
太田は佐藤の方に走り出す。
「いかせねぇよ」
まもるが走っている太田の前に立ちふさがった。
「ほんと、おめーは邪魔だな」
太田は何度も大剣を振るうがまもるの盾と剣ですべて防がれていた。
佐藤はまた詠唱を開始した。
杖の前に青白い魔法陣が浮かび上がる。
そのとき佐藤に大剣が飛んできた。
佐藤はかわすことができず、大剣は右肩に突き刺さった。
それと同時に魔法陣もなくなった。
「ざまぁ、見やがれ」
そう言うと大剣を投げた田中も倒れた。
まもるは叫んだ。
「大丈夫か佐藤!?」
「……」
佐藤は答えない。
右肩から大量の血が流れている。
「今、教会室に連れてってやる」
「行かせると思うか」
太田がすごむ。
「田中を見てみろ。あいつも急がねぇと危ねぇかもしれねぇぞ」
まもるが言った。
太田は田中を見た。
「あー、確かにこれはやべーな」
「一時休戦だな」
「しゃーねーな」
佐藤と田中は教会室に運びこまれた。
翌日。
佐藤派は屋上に集合していた。
全員ケガはすっかり治っていた。
木こりは屋上に運び込まれた木材を見渡した。
「よし。これだけあれば作れるな」
「よーし、屋根つくるぞー」
まもるもやる気だった。
屋上には、旧校舎から運んできた木材が山のように積まれていた。
木こりがその前に立つ。
「まず材料作るぞ」
木材に両手を向けた。
「スキル、木材作成!」
積んであった何本かの木材が光り出す。
光が収まると、そこには同じ太さに整えられた四本の柱が並んでいた。
「おおー」
誰かが声を上げる。
木こりは続けて別の木材に手を向けた。
「木材作成!」
今度は長い横木が何本も出来上がる。
「まだ作んのか」
まもるが聞いた。
「屋根の分もいるからな」
木こりはさらにスキルを使った。
短い木材。
長い木材。
屋根に使う平たい板。
組み合わせるために先端が細くなった木材。
反対に、そこを差し込めるよう穴の開いた木材。
必要な部材が次々と出来上がっていく。
「よし。これで全部だ」
木こりは屋上を見渡した。
「次、床に穴開けるぞ」
佐藤派の連中が四隅に散らばった。
斧や大剣を使って、木こりが指定した場所の床を壊していく。
ガン!
ガン!
四か所に、柱が一本ずつ入るくらいの穴が開いた。
木こりが言う。
「佐藤頼む」
佐藤は頷き魔法を唱える。
「……」
佐藤が杖を振った瞬間、掘っていた穴が、柱がすっぽり入るきれいな円になった。
「さすが佐藤」
木こりは続けて言った。
「柱持ってこい!」
数人ずつで四本の柱を運ぶ。
「せーの!」
一本目の柱を立て、そのまま床の穴へ差し込んだ。
ドン!
「もう少し深く入るぞ!」
「おお!」
数人で柱を押し込む。
グググッ。
柱がさらに沈んだ。
柱は床の穴にしっかりはまり、自力で立っていた。
同じように残り三本も立てていく。
「結構でけぇな」
まもるが柱を見上げる。
四本の柱が立つと、木こりが次の指示を出した。
「長いの持ってこい! 柱の上につなぐぞ!」
数人で長い木材を持ち上げる。
柱の上には、あらかじめ木こりが作っておいた出っ張りがあった。
長い木材の端には、それと合う形の穴が開いている。
「そこ、そのままはまるように下ろせ!」
ガコン。
木材が柱の上にはまった。
「おお、入った」
誰かが言った。
「反対もやるぞ!」
木こりの指示で、次々と横木をはめ込んでいく。
ガコン。
ガコン。
四本の柱が横木でつながり、大きな四角い骨組みが出来上がった。
「なんか家建てるみてぇになってきたな」
まもるが少し楽しそうに言う。
木こりは屋根用に作った木材を指さした。
「そっち二本持ってこい!」
木こりの指示通り、斜めになるよう木材を組み合わせて骨組みを作っていく。
それぞれの木材には、最初から差し込む部分と穴が作られていた。
向きを合わせて押し込むだけで、ぴったりとはまる。
「子供のとき遊んだおもちゃを思い出す」
「確かに似てんな」
木こりの指示で、佐藤派の全員が動く。
作業は順調に進んでいった。
「あとは屋根だ!」
一枚。
また一枚。
次々と屋根が埋まっていく。
しばらくすると、屋根が完成した。
四本の太い柱。
その上に組まれた立派な骨組み。
屋根もきれいに板が並び、雨が流れるよう少し傾いている。
二十人以上は余裕で入れそうだった。
「思ってたよりちゃんとしてんな」
誰かが屋根を見上げる。
木こりは満足そうに腕を組んだ。
「これなら雨降っても大丈夫だ」
「部材あったら次は壁も作りてーな」
まもるは満足そうに言った。




