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三大派閥誕生編④ 田中派VSイチロー

あれから数日が過ぎ、それぞれのグループは自然と決まった場所に溜まるようになっていた。


田中や太田たちが使っているのは、旧校舎の二階にある一室だった。

かつては教室だったらしいが、今では机も椅子もまともに並んでいない。

誰かが持ち込んだであろう、教室に似つかわしくないソファーも四つほどあった。

何枚かの窓ガラスは割れたままで、風が吹くたびに古いカーテンが揺れている。


最初に使い始めた頃は床に埃が積もっていたが掃除して奇麗にしていた。

その日は十人ほどの生徒がソファーに座ったり、机に腰掛けたり、床で寝そべったりして好き勝手に過ごしている。


そんな教室で田中が大剣をぶんぶん振り回していた。

「おい、太田ぁ。バッティングセンター行かねぇーかぁ?」

「ホームランか?」

太田が聞く。

田中は大剣を肩に担いだ。

「今日はデッドボールバッティングセンターの方に決まってんだろ?」

「さては昨日、WBBC見たな?」

モジャモジャが会話に入り込んできた。

「ワールド冒険者ベースボールカップ、最高だよね」


モジャモジャは革の鎧を身につけ、腰には銅の剣。

そして何より目立つのが、好き放題に伸びたもじゃもじゃの髪だった。

「おうよ。あれ見て、なんだか熱くなっちまってよぉ」

「決まりだな。行くぞ」

その時、横から声がした。


「おいらも連れてってよ」

学ラン姿の細身の男だった。

身長は普通。

身体つきは細いが、立ち上がった動きには妙な軽さがある。

腰の後ろには、丸められた一本の鞭。

鞭使いだった。


「おいらも見てたら、やりたくなったからさ」

「おう。鞭使いも一緒に行くぞ」

太田たち四人が立ち上がった。

その時だった。


ガラガラ。


後ろの扉が開く。

全員が音をした方を向く。

そこに立っていたのは、長いリーゼントに長ラン姿の男。

イチローだった。

「こないだは世話になったな」

田中が首を傾げる。

「おめぇになんかしたかぁ?」

「たいしたことじゃねぇよ。ただお前に一発は入れときたいなと思って」

「一人で来るとは、いい度胸じゃねーか」

太田が笑った。


大剣を肩へ担ぐ。

「おらぁ!」

太田が踏み込んだ。

大剣が振り下ろされる。

イチローは横へ躱す。

ブォン!

刃が体の横を通り過ぎる。

床板が大きな音を立てて砕けた。


その横から、別の男が剣を振り下ろした。

「もらった!」

イチローが横を向く。

ガンッ!

「おらぁ!」

イチローの拳が、剣ごと男の顔へ叩き込まれた。

「ぐえっ!」

剣が横へ弾け、男の身体が机を巻き込みながら吹き飛ぶ。


「おらぁぁぁ!」

今度は田中だった。

両手で大剣を握り、頭上から叩きつける。

イチローは左腕を上げた。

鉄の小手と大剣が触れる直前。

腕を斜めに滑らせる。

ガギィン!

刃が横へ逸れた。

「なっ――」

空いた田中の顔面へ拳が入る。

ドゴッ!

「ぐおっ!」

田中の巨体が吹き飛び、机が二つ壊れた。


「……やるじゃねぇか」

壊れた机の中から、田中がすぐに立ち上がる。

「タフだな、お前」

イチローが笑った。


「よそ見してんじゃねえ!」

太田の大剣が横薙ぎに迫る。

イチローは軽くステップして体を後ろに引く。

イチローの前を巨大な刃が通過する。


ヒュン!

何かが飛んできた。

「っ!」

鞭だった。


イチローの右手首へ巻きつく。

「捕まえた!」

イチローの身体がわずかに傾く。

「遠くにいないで、こっち来いよ」

「え?」

イチローが鞭を引いた。

「うわっ!」

鞭使いの身体が宙を飛ぶ。

そのまま引き寄せ――。

ドゴッ!

拳が腹へ突き刺さった。

「おごっ……!」

鞭使いが床へ沈む。


「もらったぁ!」

太田の横薙ぎの大剣が、イチローをとらえる。

ドガァン!

「ぐっ!」

イチローがまともに食らい、教室の端まで吹き飛んだ。

壁へ激突する。


そこへ。

「おらぁぁぁぁ!」

田中が跳んでいた。

大剣を両手で握り、上空から振り下ろす。

イチローは床を転がった。

ズドン!

田中の大剣が床へ突き刺さる。

木片が飛び散った。

イチローはすぐに起き上がる。

腹のあたりから血が滲んでいた。


それを見た男たちが一斉に襲いかかった。

「囲め!」

「やっちまえ!」

イチローが踏み込む。

モジャモジャの顔面を殴る。

ドンッ!

モジャモジャが後ろへ吹き飛ぶ。

「ぐえっ!」

その背中が、続いてきた二人をまとめて巻き込んだ。

「ぐわっ!」

三人まとめて後ろへ飛んでいく。

ガシャァァン!

割れていた窓の残りのガラスを吹き飛ばし、そのまま外へ消えた。


ドサドサドサッ!

外から音がした。


「調子ぶっこいてんじゃねえ!」

太田が大剣を振り下ろした。

イチローが太田の方に体の向きを変え、一歩踏み込む。

「おらぁ!」

拳を握る。

大剣へ真正面から叩き込んだ。

ガァン!

金属音。

さらに。

バキン!

太田の目が見開かれた。

大剣が、真ん中から折れていた。


「死んどけ!」

田中は大剣を頭上へ掲げる。

「スキル――」

「超兜割り!」

振り下ろされた一撃。

イチローが両腕を上げる。

ガァァン!

鉄の小手で受け止める。

バキッ!

左手の小手が砕ける。

「っ!」

破片が飛び、イチローの手から血が流れた。

「効いたろぉ!」

田中が笑う。

イチローは右拳を握った。

「調子乗んな!」

拳を振る。


だが田中は一歩大きく後ろへ跳び、射程から逃れた。


「今だ!」

残っていた五人が一斉に飛びかかる。

イチローは少し気合いを溜める。

「旋風脚!」

身体を捻った。


イチローの蹴りが横一文字に走った。

ドガガガガッ!

五人まとめて壁まで吹っ飛び気絶した。


立っているのは三人。

折れた大剣を持つ太田。

大剣を構える田中。

そして、壊れた小手から血を流しているイチロー。


イチローが二人を見る。

太田が折れた大剣を構え直す。


イチローは自分の左手を見て、結構痛いなと思った。

「……一発入れたし、今日は帰るかな」

そのまま割れた窓へ向かって走った。

「じゃあな!」

窓枠を蹴り、一気に外へ飛び出す。

イチローは着地し、そのまま走り去っていった。


田中が笑う。

「ぎゃはははは! なかなかやるじゃねぇか!」

太田は折れた大剣を見る。

「……思った以上だった」

そう太田はつぶやいた。

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