三大派閥誕生編③ 佐藤派VS鈴木派
翌日。
魔獣学園の校庭では、二つの集団が向かい合っていた。
片方は佐藤派。
その先頭には、全身をステンレス製の鎧で覆い、剣と盾を持ったまもる。
その少し後ろには、緑色のローブを着た佐藤が立っている。
反対側には鈴木派。
前に立っているのは、長いリーゼントに長ラン姿のイチローだった。
肝心の鈴木は、その少し後ろにいる。
佐藤は杖を持ったまま、黙ってイチローたちを見ていた。
イチローが一歩前へ出た。
「さっそく、民の意思ってやつを決めようじゃねえか」
まもるも前へ出る。
「望むところだ。はっきりさせよう」
誰の騎獣が一番速いのかという、民の意思を決める戦いは始まろうとしていた。
それと同時に他のところでも、すでに言い争いが始まっている。
「どう考えてもチーターだろ!」
「ダチョウなめんなよ!」
「チーターより速いわけねえだろ!」
「お前、佐藤のダチョウが走ってるところ見たことあんのかよ!」
「ねえよ!」
「じゃあなんで言い切ってんだよ!」
「見なくてもわかんだよ!」
「こっちもわかんだよ!」
声はどんどん大きくなっていく。
鈴木は、その様子を不安そうに眺めていた。
「民主主義よりレースで……」
誰にも聞こえない。
その時だった。
「うるせえんだよ!」
鈴木派の一人が、近くにいた佐藤派の男を殴った。
男が地面に倒れる。
一瞬だけ、校庭が静かになった。
全員が倒れた男を見る。
「やりやがったな!」
誰かが叫んだ。
次の瞬間、両陣営が一斉にぶつかった。
拳が飛ぶ。
蹴りが飛ぶ。
剣が振り下ろされる。
鎖を振り回す男がいれば、校舎から持ってきた椅子を武器にしている男もいる。
一人が蹴り飛ばされ、後ろの二人を巻き込んで転がった。
「おめぇ気合い入れろ、民意を示せ!」
「あたりめぇだ!」
殴られながら別の男を殴っている者もいる。
「殴られた分、こいつに返してやんよ」
鈴木派の男が、隣にいた男の顔を殴る。
「いてえ! 俺も鈴木派だ!」
「紛らわしいんだよ!」
「制服一緒なんだから当たり前だろ!」
その真ん中で、イチローが声を張り上げた。
「俺たちの意思、見せてやれ!」
「おおおおおお!」
鈴木派から歓声が上がる。
イチローがまもるに話しかける。
「そういやよ」
まもるもイチローを見る。
「なんだ?」
「おめぇとちゃんとやんの、初めてだな」
「そうかもしれねぇな」
イチローが拳を握った。
次の瞬間。
地面を蹴った。
ドンッ!
足元の土が爆ぜる。
一瞬で、まもるとの距離が消えた。
拳が振り抜かれる。
まもるは盾を構えた。
直撃。
ズガーン!
――轟音。
盾と拳がぶつかったとは思えない音が、校庭中に響いた。
まもるの身体が浮く。
「うおっ!」
そのまま後方へ吹き飛んだ。
地面に一度落ち、また跳ねる。
さらに転がり、最後は校舎近くまで吹っ飛んでいった。
乱戦中だった生徒たちも思わず手を止める。
「まもるが吹っ飛んだ!」
イチローは拳を振りながら笑う。
「こんなもんかよ」
土煙の向こうで、何かが動いた。
まもるは普通に立ち上がった。
盾にはイチローの拳の跡がうっすら残っている。
まもるは盾を見た。
「なるほど」
イチローが眉を上げる。
まもるは言った。
「見てるのとやられるのは全然違うな」
イチローの口元が大きく上がった。
「もう一回見せてやんよ」
その時。
場の空気が変わったのを全員が感じた。
異様な空気を感じる方にイチローは顔を向けた。
佐藤が杖を上げていた。
佐藤の足元に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「なんだ……あれ」
さらに、その外側。
もう一つ魔法陣が現れる。
さらにもう一つ。
三重の魔法陣が校庭へ広がっていく。
風が巻き起こった。
砂埃が舞う。
佐藤のローブが大きく揺れる。
「なんだこれ……」
「なんか、やばくねえか?」
佐藤は無言のまま、杖を振り下ろした。
その瞬間、校庭の一角が爆発した。
「うわああああああ!」
爆風が走る。
土が舞い上がり、人が吹き飛ぶ。
鈴木派の半分近くが、一撃で倒れている。
イチローのこめかみに青筋が浮かぶ。
「てめえ……!」
佐藤へ向かって走った。
一気に距離を詰める。
拳を振りかぶる。
だが。
ガァン!
拳の前にまもるの盾が割り込んだ。
まもるの足元が地面へ沈む。
その後ろの土が大きくえぐれた。
イチローが反対の手で横から拳を振りぬく。
ガキン。
それをまもるは剣で防いだ。
「お前、やっぱり硬えな」
「お前の拳もなかなかだ」
二人が笑う。
まもるの背後で光が灯った。
イチローが見る。
佐藤の杖の前に、魔法陣が浮かんでいた。
まもるが横へ飛ぶ。
次の瞬間。
光の塊がイチローへ直撃した。
ドカーン!
爆風で、近くに残っていた生徒たちまで吹き飛ばされる。
イチローの身体も大きく宙を舞った。
何度も地面を転がり、止まる。
「イチロー!」
鈴木派から声が上がった。
「イチローも大したこたねぇな?」
誰かの声が聞こえた。
その瞬間、イチローの指が動いた。
「誰が、たいしたことないって?」
ゆっくり身体を起こす。
長ランはボロボロだった。
額から血も流れている。
それでも。
イチローは笑った。
佐藤を見る。
「やるじゃねえか」
その時だった。
ドドドドドドド――。
遠くから何かが近づいてくる音が聞こえてきた。
戦っていた者たちが一斉にそちらを見る。
巨大なワニ型騎獣。
土煙を上げながら、ものすごい勢いで校庭へ向かってくる。
その背中に一人の男が乗っていた。
田中だった。
「田中……」
まもるが呟く。
ワニはそのまま迫ってきた。
近くまで来ると田中は騎獣に乗ったまま話しかけてきた。
「何やってんだぁ、てめえら?」
イチローが顔をしかめる。
「今いいところなんだよ。引っ込んでろ」
「ふーん。俺も混ぜてくれ」
田中が言った。
次の瞬間。
ワニが大きく口を開く。
炎が噴き出した。
ゴオォオオオオ。
巨大な炎が生徒たちに向かって行く。
まもるは即座に盾を構え炎に対応する。
佐藤の周囲には半透明の魔法障壁が展開する。
イチローは気合いを入れた。
「おらああああああ!」
三人は、それぞれの方法で炎を防いだ。
だが、三人以外は防ぎきれなかった。
「熱ちいいいい!」
「助けてえええ!」
「誰か消してえええ!」
炎を食らった生徒たちは燃えていた。
地面を転げ回る者。
服を脱ぎ始める者。
両膝をついて叫んでいる者。
田中はそれを見て豪快に笑った。
「ぎゃははははは!」
そして。
そのまま走り去っていった。
「……」
遠くなっていくワニ型騎獣。
まもるが盾についた煤を払う。
「……今日は余計な邪魔が入ったな」
イチローも服についた土を払った。
「なんだか熱が冷めちまったな」
イチローは周りを見渡す。
「仕切り直しだ」
「それがいいな」
まもるは答えた。
イチローは少し笑って言った。
「でもよ」
「なんだ」
「初めておめぇとまともにやったが、熱くなったぜ」
まもるも少し熱の入った声で答えた。
「お前もな。思った以上に重かったよ」
二人は笑った。
佐藤は、地面をのたうち回っている生徒たちを黙って眺めていた。
そして鈴木は戦いが始まる前と、ほとんど同じ場所に立っていた。
燃えている仲間。
穴だらけになった校庭。
倒れている大量の生徒。
遠ざかっていく田中のワニ。
その全部を見渡して。
鈴木は呟いた。
「……民主主義反対」




