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三大派閥誕生編① 太田とまもるとイチロー

湊が入学する前、今の3年が2年のときの話

三人の男が話している。


「昨日ガチャガチャで欲しいのが出なかったからよ。殴ってやったら全部もらえたぜ」

そう言って豪快に笑ったのは太田だった。


厚い胸板に太い腕。使い込まれた革の鎧を身につけ、背には大剣を背負っている。

「すげーな! それ裏技じゃん!」

剣と盾を持ったまもるが感心したようにうなずく。

全身を覆うステンレスアーマーは見るからに頑丈そうで、太田とは対照的に装備にも隙がない。


「そんな技あるんだな」

イチローは感心した。

髪はきっちり固めたリーゼント。足元近くまで伸びた長ランという、昔ながらの不良そのものの格好をしている。

拳で語るタイプだ。

そして、拳でなんでも解決できると心から信じていた。


「なんのガチャやったんだよ」

まもるが聞いた。

「デカかわだよ」

「あれ、かっけーからな」

「男子高生に今大人気だよな」

イチローは少しうらやましい顔をする。


この三人はいつもつるんでいた。

一年のときにも様々ないざこざがあったが、三人に勝てる者はいなかった。一人一人の実良くもあるが三人そろうととんでもないことになる。実質この学年のトップと言っていいだろう。


太田が昨日のことを思い出して言った。

「おめーら、昨日の騎獣-1グランプリ見たか?」

「おう、あれ見ねーでどうするんだ」

「見たに決まってるだろ」

まもるは当然だろという顔で答えた。


騎獣-1グランプリとは騎獣に乗って速さを競う世界最高峰のレースだ。

毎年世界を回ってレースを行っている。


太田は続けた。

「やっぱすげーよな!」

「ユニコーンと疾走トカゲの最後の抜き合いは激熱だった!」

まもるが興奮したように言った。

「歴史に残る戦いだったな。ああいうの乗ってみてーよなー」

イチローも興奮していた。



太田はふと思いついた。

「この魔獣学園二年で一番速いのはどいつだと思う?」

イチローはすぐ答えた。

「鈴木のチーターだろ!あの爆発力を考えたら最速に決まってんだろ」

まもるは腕を組んで考えている。

太田は笑いながら言った。

「全然わかってねーな。田中のワニだろ。あいつの改造はやべーからな」

「は? チーターの爆発力、おめー知らねーからな」

まもるが言った。

「いや。佐藤のダチョウだろ。安定感がそいつらより全然ある」

「ダチョウはねーだろ。改造ワニのすごさわかってねーな」

太田は大笑いした。

イチローも呆れた顔をする。

「ダチョウなんかチーターと比べたら鈍足だよ」

まもるは少しだけ熱くなった。

「ワニの足の長さ見ろよ。あの短さ。ダチョウが負けるわけねー」

「ワニのすごさ分かってねーんだよ。おめーらばかだから」

「は? チーターなめんな。バカはおめーだ」

三人は熱くなってきた。

まもるは言う。

「他の人に聞けばみんな佐藤のダチョウだっていうよ」


三人は他の人の意見を聞くことにした。


まずは三年のトップである堂安と松本に聞きに少し離れたマンホールに向かった。

マンホールを降り、暗い下水の中を進んでいくと扉があった。

太田は扉をノックする。

「ちわーっす」

「おう、入れ」

扉を開けると中には大きな空間があった。

広さはだいたいコンビニくらいの大きさだ。

そこにはいくつかのソファーやテレビなどが並べてあった。


その空間には二人の男がいた。

一人はソファーに座っていて、もう一人は別のソファーで横になっていた。


ソファーの男が話しかける。

「どーした、太田」

「堂安さん、聞いてくださいよ」

「どーした?」

「こいつらがワニより、チーターとダチョウの方が早いって言うんですよ」

「チーターですよね?」

「いやダチョウですよね?」

「……」

堂安は興味がない顔で言った。

「興味ねー」

ソファーで寝てた男も起き上がってくだらねーこと言ってんなって顔で言った。

「くだらねー」

「松本さんも興味ないか……」


この二人は魔獣学園史上最強と言われていた。

噂を聞きつけた全国の猛者たちが勝負を挑んできたが、すべてこの二人の前に屈している。

あの福山も一目置く存在だ。

本気を出せば全国制覇も可能ではないかと言われている二人だが、そういったことには興味がなかった。


そして、二人は全国制覇だけではなく、速さにも興味がなかったみたいだ。


堂安が言った。

「俺は就職活動で忙しいんだ。けーれ、けーれ」

そう言ってテレビをつけて見始めた。


三人は諦めてマンホールを後にした。


太田は教室に戻り、一人の男に話しかけた。

「井上、一年の神山と戸田を呼んできてくれ」

「呼んでくるから俺も話聞かせてもらうよ」

「おういいぜ」


井上という男は情報を集めるのが好きだった。

だいたい何でも知っているので、みんな重宝していた。

特に恋愛事情は他校のことまで知っているという噂だ。


「呼んできました」

「何ですかー、太田さん。天気いいから校庭で寝たいのに」

戸田は眠そうな顔で言った。

「おう、ダチョウとチーターとワニだと、どれが速いと思う」

「……」

戸田は徒歩なので、騎獣についてあまり興味がないという顔をしながら言った。

「徒歩なので、騎獣については興味がないからわかんねー」

「じゃあ神山はどう思う?」

「改造ワニが一番強えーんじゃないっすかね?」

「速さはどっちだと思う?」

神山は強さ以外は興味がないので分からないといった顔をしながら言った。

「強さ以外は興味がないのでわかんないっす」

「二人ともありがとな。参考にさせてもらうわ」

「ういーっす」

そう言って二人は出ていった。

井上は「太田、まもる、イチロー騎獣の速さで揉める」とメモしていた。


イチローは真剣な顔をする。

「意見は完全にわれてんな。三年にも一年にも聞いて決まらねーとは」

「……」

三人は無言になった。

まもるが沈黙を破る。

「日本は民主主義だから二年全員集めて決めるしかねーな」

「そうだな」

太田が同意する。

「井上、放課後二年全員体育館に集まるように連絡網で回してくれ」



魔獣学園の体育館は、かなり広かった。

床にはところどころ傷やへこみがあり、壁にも何かがぶつかった跡が残っている。

天井は高く、端には使われていない跳び箱やマットが雑に積まれていた。

二階部分には狭い観覧スペースがあり、そこから体育館全体を見下ろせるようになっている。

正面には大きなステージがあり、その上には少し色あせた校旗が飾られていた。

普段は体育の授業や集会に使われているが、生徒同士の揉め事で使われることも多い。

放課後、二年生たちがそこに次々と集まってきていた。

各々、何かあるんだろうと不思議そうな顔をしていた。


「おい、あの三人から二年全員集合って、これはなんかあんな」

「ついにキマイラ高校と戦争じゃねーのか?」

「それはあるかもしれねーな」

「今日、三人ともなんかピリピリしてたかんな」

「これからなにか起きる。そんな気がするぜ!」

そんな生徒たちを横目に井上だけが理由を知っていた。

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