飼育係②
今日もいい天気だ。
飼育係が決まって、二週間がたった。
俺は教室でゴリラと話していた。
「おう、ゴリラ。飼育係どうよ」
「大変だよ。油断してると餌係になっちまう」
「餌係はいんのか?」
「今んとこ、どのクラスも揉めてるみたいでよ。まだいねーな」
「ふーん」
さすがに俺も、餌として人を出すのはためらいそうだ。
「さすがになー」
俺も丸くなったもんだ。
「ちなみに去年はいたのか?」
「去年の飼育係に聞いたらよぉ、顔青くしてブルブル震えだしてよぉ」
「そんで?」
「守秘義務? 結んでるらしくて、話してくれねーんだよ」
「それじゃあ全く分かんねーな」
「ああ」
「ところで、魔獣って何だったんだ?」
「あー、ケルベロスだよ」
ガタン。
俺は立ち上がった。
「ケルベロス!?」
「どーした、湊?」
「死ぬまでにやりたい兆のことの一つに、ケルベロスに乗るってのがあんだよ」
「それ早く言えよ!? それじゃあ乗るしかねーな」
俺の胸の鼓動が高まった。
「今日、俺が餌やる当番だから一緒に来るか?」
「行くに決まってんだろ。購買で手綱買うか。金ねーから一つしか買えねーけど」
「顔三つあんぞ?」
「気合いでなんとかなるだろ」
「確かにそうだな」
放課後。
俺はゴリラと一緒に魔獣がいる建物に向かった。
魔獣舎は校舎の裏手に建っていた。
石造りの大きな建物で、窓は少なく、分厚い鉄の扉がついている。
「この魔獣舎の中にいんだよ」
そう言ってゴリラは鍵を開け、扉を開いた。
中へ入ると、獣臭い空気が鼻についた。
床は石でできていて、奥には太い鉄格子で囲われた区画がある。
壁や鉄格子には、何度も何かがぶつかったような傷が残っていた。
普通の騎獣を入れる場所じゃねーことくらい、俺にも分かった。
「ガオー!」
「グルルルル……」
目の前にケルベロスがいた。
でかい。
頭が三つある。
黒い毛に覆われた体は、普通の騎獣より一回りも二回りも大きい。
四本の脚も太く、爪は石の床に食い込みそうなくらい鋭かった。
三つの頭がそれぞれ別の方向を向いている。
一つは俺たちを睨み、一つは唸り、もう一つは大きく口を開けていた。
口から見える牙もでけぇ。
あれに噛まれたら、腕一本くらい簡単になくなりそうだ。
それでも俺は怖いより先に、乗ってみてぇと思った。
俺の鼓動は高まるばかりだ。
ゴリラが言った。
「もし、おめーこれ乗ったら、他の騎獣じゃ物足りなくなんじゃねーの」
「俺のボアちゃんへの愛舐めんな」
「ほんとかぁ?」
「それにしても迫力スゲーな! 早速乗ってみるわ」
俺は鉄格子の鍵をゴリラに開けてもらい、中に入った。
ケルベロスが三つの頭を一斉にこっちへ向ける。
「グルルルル……」
俺は気にせず近づいた。
「グワァ」
一つの首が俺を食おうとした。
ひょい。
軽く右にかわす。
もう一つの首も俺に向かってきた。
ひょい。
さらに俺は右に動きケルベロスの首をかわした。
そして高くジャンプする。
上手くケルベロスの首元へ飛び乗る。
太い毛を掴みながら体勢を整え、買ってきた手綱を真ん中の首に掛けた。
「よし、よし」
ケルベロスは暴れだした。
俺は気を手綱に流し込む。
するとケルベロスは徐々に大人しくなっていった。
「おー、一本でも意外と言うこと聞くぞ!」
「イヌ科だからな」
「ちょっと外走ってくるわ」
俺は興奮していた。
「おう、気をつけてな」
ゴリラは特に何も思っていないようだ。
期待とともに俺はケルベロスに乗って外へ出た。
手綱でケルベロスに少しスピードを上げるように伝える。
ぐんぐんスピードが上がっていく。
今までにない風を感じる。
速い。
グレードボアとは全然違う。
俺はそのまま校庭を走り回った。
「ひゃっはー!」
ケルベロスと一体化したような気分になり最高だった。
その時。
昼寝していた男の腹を、ケルベロスが踏んだ。
「いてー!」
男が叫ぶ。
そして、ものすごい勢いで立ち上がった。
「何しやがる!」
男は刀を抜く。
「はあぁぁぁぁ、秘剣、全力斬り!」
スパッ。
「キャン!」
ケルベロスの首が一つ飛んだ。
「え?」
どどーん。
ケルベロスは崩れるように倒れた。
一瞬の出来事だった。
校舎の窓から外を見ていたつんつんが叫ぶ。
「そいつ、二年の戸田です! 二番目に大きいグループの頭です!」
こいつが戸田か。覚えておこう。
そんなことを考えていたら、ゴリラが走ってきた。
「やべー! こいつ死んだら俺、殺される!」
すごい形相だ。
「とりあえず聖女加藤に来てもらえば大丈夫だろ」
俺はしょうがないのでアドバイスをくれてやった。
「呼んでくる!」
そう言って、ゴリラは教会室へ走っていった。
数分後。
ゴリラは聖女加藤を連れて戻ってきた。
加藤は倒れているケルベロスを見た。
「これは相当お布施が必要だけど。ゴリラ君、キミ払えるの?」
ゴリラは財布を取り出し、中身を全部出した。
ゴリラは祈るような顔をしている。
加藤はゴリラが出した中身を見る。
「全然足りないから、今度奉仕活動してもらうしかないか」
「あー、例の祈るやつね」
俺はあの時のことを思い出していた。
「ゴリラ君だと、私がご奉仕している感じになりますから、違う奉仕活動になります」
「そんなことも見て分かんのかよ?」
「たくさんの方を見てきたので分かります」
加藤は富士山がある方をみてそう言った。
俺はゴリラを見る。
そして想像する。
片膝を立てて祈っているゴリラを。
びゅん。
ばちん!
「何だこの感覚!?」
びゅん。
ばちん!
「うほっ!?」
びゅん。
ばちん!
「バナナァァァ!!」
なんとなく容易に想像できた。
そんな想像をしている俺をゴリラは不思議そうに見ていた。
「目覚めさせないほうがいいね」
「はい。邪念の塊になりますから」




