表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心を無くした伯爵令嬢は、新たな土地で本当の自分を取り戻す  作者: 陽ノ下 咲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/28

第六話 最初の一歩①

 自分を変えたいと、そう心に決めた翌朝のことだった。


 朝食を終えたクラリスは、父から「執務室へ来なさい」と声を掛けられた。

 扉を開けると、室内には紙とインクの匂いが静かに漂っている。大きな机の上には帳簿や地図が何冊も広げられ、いつも以上に仕事部屋らしい雰囲気が漂っていた。


「失礼いたします」


 声を掛けて中へ入ると、父は穏やかに頷く。


「来たか。クラリス、そこへ座りなさい」

「はい」


 勧められるまま机を挟んで向かいへ腰を下ろすと、父はしばらく娘の顔を見つめてから、静かに口を開いた。



「昨日、お前は、今後何をしたいのか分からないと言っていただろう」


 クラリスは静かに頷いた。


「だったら一つ、私から提案があるんだが……」


 父は椅子へ深く腰掛け直し、ゆっくりと言葉を続けた。


「クラリス、今日から領地の仕事を勉強してみないか」


 穏やかな問いかけだった。


「これまで私は、お前に侯爵家へ嫁ぐための教育しか受けさせてこなかった。礼儀作法も教養も、すべて侯爵夫人になることを前提にしたものだったな」


 その言葉に、クラリスも静かに頷く。

 それが当たり前だと思っていたし、疑問を抱いたことなど、一度もなく生きてきた。


「だが、お前は、我がエーデルベルク伯爵家の令嬢だ」


 父は机の上の地図へ手を添えた。


「伯爵令嬢であれば、本来なら、領地を治めるための知識も身につけておくべきだった」


 クラリスは目を瞬かせた。

 そんなことを、自分が学ぶ日が来るとは思ってもみなかった。

 押しつけるような口調ではなく、穏やかに父が続ける。


「もちろん、それがすべてではない。学ぶうちにお前が本当にやりたいことを見つけたのなら、そちらを選んでも構わない」


 そう言って優しく微笑んだ。


「これからは、お前自身の人生だ。誰かのためではなく、自分で選んで生きていけばいい」


 その言葉は、静かにクラリスの胸へ染み渡った。

 これまで一度も言われたことのない言葉だった。


 自分で選び、自由に生きていい。

 その響きが胸の奥へじんわりと広がり、思わず目頭が熱くなる。


「……はい」


 小さく返事をすると、父は満足そうに頷いた。


「では、さっそく今から始めようか」

「今から、ですか?」


 少し驚いて尋ねると、父は穏やかに笑う。


「ああ。思い立った日が、一番始めるのにいい日だからな」


 そう言うと、父は机の上へ一枚の地図を広げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ