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009話 依頼を終えて

「さすがは金ランクの冒険者だ」


 魔法で敵を倒したルクレツィアを見て、ノルンは称賛する。

 事実、魔法の腕前は見事なもので、威力、発動速度、制御力のどれを取っても群を抜いている。

 余裕そうな表情から、おそらくまだ全力を出していないと思われる。

 ルクレツィアの魔法の行使による余波で痛む胸を我慢し、ノルンはそう予想する。


「これくらい当然だし、ほかの冒険者もこれくらい出来るべき」


 ルクレツィアは気恥ずかしさを無表情で覆い隠しながらも言う。

 そしてノルンに向き直り、真剣な顔で尋ねた。


「胸、痛い?」


「──なんでそう思ったの?」


 確かにルクレツィアの魔法の行使で痛みが走った。

 だが、それを悟らせるような動きはしなかったはずだ。

 不思議に思ったノルンは理由を確認した。


「だって、そこに起点があるから」


「何か、分かるの?」


「さあ?」


「詳しく知りたいな」


 どうやらルクレツィアはノルンの呪いに気付いているようだった。

 起点、とは何のことだろうか。

 詳しく聞こうとしたが、教えない、とそっぽを向いてはぐらかされてしまった。

 どうやら好感度-100の状態から仲良くなる必要がありそうだ。

 これ以上深追いしても何も聞き出せないかな、とノルンが考えていたところ、──でも、とルクレツィアが言葉を続ける。


「ノルンに何かあったら、私が殺してあげる」


「それは助かる。君みたいな美人は大歓迎だ」


 底冷えのする声と裏腹、ルクレツィアは慈愛の籠った眼差しでノルンにそう告げる。

 彼女には何が見えているのだろうか、ノルンには軽口を叩くのが精いっぱいだった。



 * * *



 倒した魔物を放っておくわけにもいかず、ノルンとルクレツィアは素材の剥ぎ取りを行っていた。

 依頼外とはいえ、多少の稼ぎにはなるからだ。

 剥ぎ取り終わった魔物は周りに燃え移らないよう焼却処分する。

 放置しておくと血の匂いにつられてほかの魔物が寄ってくるからだ。


 よし、と手をはたいて依頼人への報告に向かおうとする。

 ルクレツィアにも声をかけようとしたが、彼女は森の中を見ているようだった。


「何かあるの?」


 そう問いかけた直後、森の中を動く人影を見つけた。


「駆け出し一人に中堅二人」


 人影の詳細をノルンは呟く。

 一人は駆け出し冒険者のような少年で、新品の剣を自慢げに振り回している。

 中堅の冒険者は男性二人で、いずれも使い古された装備をしており、頼りがいがありそうだ。

 ただ、少年の高揚や気勢を制御しきれておらず、困った顔をしている。

 それを見てルクレツィアは言葉を漏らす。


「問題はないと思うけど、駆け出しの子が少し興奮気味」


「声かける?」


「やめとく」


 たしかに、声をかけた程度で少年の興奮は収まるわけがないし、中堅冒険者二人のメンツを潰すことになるかもしれない。

 冒険者の中にはメンツを何よりも重要視する者がいるため、こういったことはトラブルの種になる。

 一抹の不安は残ったが、いらぬトラブルを起こさないよう、二人はその場を後にするのだった。



 * * *



 依頼人に薬草を渡し、署名をもらう。

 依頼人が薬師だったこともあって、ノルンは情報交換を目的とした雑談を行った。

 もちろん秘伝のレシピなど教えてもらえるわけもない。

 だが、調薬のコツや需要がある薬などを教えてもらうことができ、ノルンにとってはいい収穫だったといえる。


「冒険者というより、貴族みたいな取り入り方」


 ルクレツィアがジト目でノルンを見つめてくる。

 そんな冷たい視線は今のノルンには効果がない。

 寮に帰って新しい調薬方法を試したくて仕方がないといったところだ。


 冒険者ギルドに到着した二人は受付嬢に依頼完了の報告をする。


「初めての依頼達成、おめでとうございます」


 ノルンは受付嬢からの祝福を受ける。

 大した仕事ではなかったが、やはりこういうものは嬉しく感じる。

 後ろで退屈そうに立っているルクレツィアに受付嬢は質問する。


「ノルンさんの仕事ぶりはどうでしたか?」


 ルクレツィアは少し考え、それから話し始める。


「問題ない。そこらの駆け出しよりは上」


 意外と高評価をもらえたことにノルンは驚いた。

 受付嬢も思わぬ高評価に、終始にこやかだった。


「だから、もう引率はいらないと思う」


 高評価は撒き餌で、こっちが本命なのだろう。

 ルクレツィアは引率の仕事から降りようとしていた。

 だが、それを許すような受付嬢ではない。


「それとこれとは話が別です。引率期間は最低一ヶ月です」


「いや、でも……」


「規則ですので」


 結局、規則を盾に押し切られてしまうルクレツィアであった。

 意外と押しに弱いのかもしれない。


「あ、採取中に魔物の討伐も行ったのですが、買取はどちらですか?」


「それでしたらギルドの外に解体場がありますので、そちらの窓口でお願いします」


 受付嬢に感謝を告げ、その場を去ろうとした。

 落ち込むルクレツィアを無視しようかとも考えたが、一応声をかけて、ノルンは一人で解体場に向かった。



 * * *



 ノルンが去ったことを確認し、受付嬢はルクレツィアに質問する。


「それで、実際のところ新人のノルンさんはどんな感じ?」


「そこらの中堅冒険者よりも優秀。知識があって剣の腕も立ち、突然のことでも冷静に対処してる。物腰も柔らかいから依頼人との衝突も考えにくい」


「あなたの嫌いな三要素が揃ってるのに、ずいぶんと高評価じゃない」


 受付嬢がルクレツィアをからかう。

 ルクレツィアは端正な顔をゆがませて、不満の意を示す。


「ただ、なにか変なものを身体に宿してるみたい」


「あなたの『眼』で見たの?」


 ルクレツィアは不思議な力を持っている。

 死の起点──、致命傷が発生しそうな空間を予知できるもの、とルクレツィアは考えている。

 この力が原因で気味悪がられた過去があるため、あまり他人に自分の力を話すことはなかった。


「魔法に反応してその起点が大きくなった。私みたいな魔法職とは組ませないほうがいい」


「一応頭に入れておくけど、それでも引率の仕事はしっかりしてね?」


「うぇ……」


 そう言って、ルクレツィアと受付嬢は会話を終えるのであった。



 * * *



 素材や魔石の買取を終え、ノルンはルクレツィアのいるギルドカウンターに戻ってきた。

 場所を併設された酒場に移し、自己紹介の時と同様、向かい合って座る。

 報酬の分配だ。


「僕が7で君が3。君の内訳は、引率が2で中型討伐が1。これで大丈夫?」


 まず口火を切ったのはノルンだ。

 それに対してルクレツィアは自分の正当性を切り出す。


「私が中型討伐できなければ、依頼自体が完遂できなかった。君が4で私が6」


「あのくらいの敵なら問題なく対処できた。それにメインの薬草採取は僕が全部やったし、小型討伐も全部僕だ。だから、僕が7で君が3。これは譲れない」


 そう二人で睨み合った。

 そんなやり取りをしているうちに、ルクレツィアは微笑みながら言った。


「ふふ。君が7、私が3で問題ない。交渉はどうかと思ったけど、なかなか強か」


 ルクレツィアから試されたのだろう。

 こうして報酬の分配交渉が成立した。


 依頼に関するすべてのことが完了したため、ノルンは席を立とうとした。

 そこに、一人の冒険者が千鳥足で近づいてきた。


「よう、ルクレツィア。いたんなら声かけろよ」


 鼻につくアルコール臭。

 ああ、ルクレツィアはこういうのにいっぱい絡まれてきたんだな、とノルンは気の毒に思った。

「うわ、あいつまたやってるよ」という周囲からの声が聞こえる。

 無視をするルクレツィアに、男はなおも声をかける。


「こんなヒョロヒョロのクソガキじゃなくて、俺と一緒に飲もうぜ」


 ここまでテンプレなやりとりをされると笑ってしまう。

 男はルクレツィアの肩に手を置きながら口説き始める。

 その瞬間、ルクレツィアの目つきが変わる。


「触らないで」


 ルクレツィアは肩に置かれた男の手を持つと、そのまま壁に向かって叩きつけた。

 酒場に静寂が訪れるなか、ルクレツィアは席を立ち、ノルンに一言かける。


「それじゃあ、また来週」


 そう言ってルクレツィアは美しい銀髪を翻し、ギルドを出ていくのであった。

 どうやら金ランクなのは魔法の腕前だけじゃないようだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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