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マヤの理想郷のつくり方  作者: 蒼井スカイ
第1章
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51.大魔法士の弟子(二)

本日、第1章の最終話2本目です。

「マヤ、チスイはよくやっていたかい?」

「えっ、あっ、はい! 魔法士の見習いとは思えない位、立派だと思います」

「おぅ、そうか、そうか。チスイ、マヤはお前を随分と高く評価しているみたいだぞ?」

「…………」




 チスイとの会話後、チスイが発動した魔法陣で大魔法士のいる小屋まで戻ってきた。小屋に入ると、大魔法士が2人を待ち構えており、円卓に2人揃って座らされたところである。


 大魔法士はにっこり笑顔で、今朝焼いたという自慢の焼き菓子と、お気に入りの紅茶でもてなしてくれた。


「マヤ、さぁ、焼き菓子も遠慮なく食べなさい」

「はいっ、い、いただきま~す」

「…………」


 3人だけでは広すぎる円卓に気まずい空気が流れる中、その空気に()(たま)れなくなり、目の前の焼き菓子を味わうことに集中した。大魔法士はにっこり笑顔でマヤが焼き菓子を頬張る姿を確認すると、口を開いた。


「2人が共に行動をするようになって1週間が経ったな。それで、どうだ? 何か変わったことや思うことはないのか?」


 大魔法士はチスイに視線を向けているが、チスイは円卓の上に肘をついて(あご)を乗せたままの姿勢でそっぽを向いている。


――チスイさん、私たちには普通に接しているのに、どうして大魔法士様にだけ素っ気ないんだろう?


 マヤはそんなことを考えながらも、手に持った焼き菓子を口に入れて味を堪能している。だが、大魔法士はいつになく、チスイに対してしつこく話しかけている気がしてならない。


 


「チスイ、マヤといて何も感じることはなかったのか?」

「――――別に」

「ほぅ、その顔は何か気付きがあったのだな、そうか、そうか」

「ちっ」


――チスイさんは「別に」と言っただけなのに、大魔法士様には全てお見通しなのかな。私にはチスイさんの表情から分かることは何もないけど……。そこはやっぱり大魔法士様だから分かるのかも。


「それならば良い。お前たちはきっといい相棒になれると思っていたからね」


 大魔法士はそう言うと、お気に入りの紅茶を静かに味わった。


――相棒? 私とチスイさんが? 大魔法士様は何を考えてるんだろう? 私は魔法も使えないし、特別な力もないのに。


「マヤ、何か言いたそうだね」

「へっ?」


 大魔法士は人の顔色を読むのが得意なのだろうか、マヤは心の内を見透かされたようで焦った。咄嗟(とっさ)に思ったことを口にしていた。


「大魔法士様は私にチスイさんの任務のお手伝いをするように言われましたけど、チスイさんは1人でも立派に務めを果たされています。正直、私の出る幕はありそうに思えません。どうして私をチスイさんのお手伝いにしようと思ったんですか?」

「あぁ、そうだったね、マヤにその理由を説明していなかったね。チスイ、あの話をしても構わないだろうか?」

「――――勝手にすればいい、俺は森へ行く」


 チスイはそう答えると、小屋を出て行った。


「さて、マヤの質問に答える前に、君に話しておかなければならないことがある。本人の承諾も得たことだしね」

「……」


 大魔法士はマヤのティーカップにお代わりの紅茶を淹れると、マヤの正面に座り静かに話を始めた。


「今から10年ほど前、僕がまだ魔法士の見習いだった頃の話だ。僕はね、見習いの頃から優秀でね、早いうちから大魔法士になるための修行をしていたんだよ」


 マヤは反射的に、また自慢話でも始める気か、とげんなりしたが、当の本人は至って通常運転である。いろいろツッコミたいことはあるが、今は黙って話を聞くことにした。


「マヤは口減らしという言葉を聞いたことがあるかい?」

「口減らし? いいえ、知りません」

「うむ、そうだろう。君がいた世界は大いなる豊かさで(あふ)れている世界だからね」

「……そうでしょうか」

「まぁ、表面的には、ね」


 大魔法士はマヤの記憶を(のぞ)いた時に元いた世界のことも知ったのだろう。

 確かに、元いた世界は物で溢れる世界だった。だが、物が豊かだからといって心まで豊かであるとは言い難かった。


「口減らしは、貧しい暮らしをする者が(やしな)えきれない子どもを捨てたり、他人に売り渡したりする行為を言う。恐らくマヤが暮らしていた国ではそのようなことはないかもしれぬが」

「子どもを捨てたり、売ったり……」

「僕が訪れたある集落でも、そういう風習が残っていてね。そこで口減らしで親から捨てられた子どもが身を寄せて暮らす場所があったんだよ。僕がその場所を訪れた時にはたった1人だけが生き延びていた。

 その子どもは随分衰弱していた。何故か息を引き取った子どもよりも()せ細っていたんだ。僕は不思議に思った、何故その子どもはこんなにも痩せていたのに生き延びることができたのか、とね」


――衰弱していた子が生き延びた。つまり、他の子どもたちは大魔法士様が行った時には既に……。大魔法士様は何故こんな話を私にするの……。


「僕はその子どもが何故生き延びられたのかを知りたくてね、師匠の元に連れ帰ることにしたんだ」


――いや、そこはその子が(あわ)れでとか、助けたくてとか、そういう言葉が出てくるのでは?


 マヤはしんみりと浸っていたところに、ぶっ飛んだ自論を述べる大魔法士に内心でツッコミを入れた。


「師匠も面白い人でね、何も言わずに受け入れてくれたんだよ」

「――――」

「で、まぁ、僕は魔法士の見習いとしての修業の片手間に、その子どもの観察記録を取ることにしたんだ」

「…………」


――んっ? 子どもの観察記録? まるで夏休みの宿題にあった、朝顔の観察記録みたいなノリで言ってない? 


 マヤは大魔法士に初めて会った日からずっと変わった人だと感じていたが、今日改めて感じるものがあった。


――この人、やっぱりサイコパスっ!!


「その子どもを観察し続けると、いろいろ見えてくるものがある。例えば、自分がすること、言うことに自信を持てなかったり、何かや誰かに強い依存をしたり、その一方で他人と交わることを嫌ったり、ね。過剰に認められたい、愛されたいと思うようになることもある。

 その子どもは師匠にかなり執着が強くてね、師匠の弟子である僕に随分と噛みついてきたのだよ。僕らは大して年齢も変わらなかったからね。きっと何事も完璧にこなす僕のことが(うらや)ましくて仕方なかったのだろうね」


――大魔法士様って超ポジティブ思考っ!! ちょっとその子どもに同情したくなってきた……。


「師匠が亡くなった時、それはそれは大変だったよ。彼は僕の言うことを何も聞いてくれなくてね。僕はこの通り、感情が抜け落ちているから君たちのように喧嘩してやれなかった。だからかな、彼は感情をどう処理していいのか分からず内に溜め込んでしまうんだよ」


――これって何だか、誰の話をしているのか分かってきた気がする。えっ、でもそうすると、大魔法士様の年齢って……。


「まぁ、彼は僕ほどではないにしても優れた魔法士の素質がある。今でも十分にやってくれているから支障はないのだけれどね」

「大魔法士様は私に何を求めているんですか? 私には取り柄もありませんし、むしろ皆に迷惑ばかりかけています。私が、してあげられることなんてないと思うのですが――」

「それだよっ!」

「へっ?」


 マヤは大魔法士が自分の言葉のどこに共感したのか、さっぱり分からなかった。困惑していると、大魔法士が説明しだした。


「マヤ、君の言っていることには2つ間違いがある」


 大魔法士はマヤを肯定したり、否定したりで、マヤは内心で「どっちやねんっ!!」とツッコミを入れた。


「君は自分に取り柄はない、と言うが、君には天から恵まれた能力があるだろう? 他者の心の内を読み取る能力は相手が自分の敵か味方かが分かるだけでなく、使いようによっては自分の思うように操ることだってできるからね。まぁ、君は(はな)からそんなつもりは更々ないと言うだろうが――。

 そして、君は仲間に迷惑ばかりかけている、と言ったが、それは自ら率先して迷惑を被ってもいいと思うほど君を助けたいという者がそばにいるということだ。

 僕が知る限り、そこまで他者の興味関心を引きつけ続けられる者に出会ったことがない。君を置いて、ね。それだけ君には他者を引きつける魅力があるということだよ」


――そんな風に考えたことがなかった。私はずっとリビトや皆に助けられてばかりで、お荷物以上の何者でもないと思っていた。

 でも、そうか、大魔法士様が言うように、皆は私のことを守りたい、助けになりたい、と言ってくれていた。視点を変えると、それって強い絆で結ばれているってことよね。どうして私は今までそんな大切なことが分からなかったんだろう。


 マヤは正面に視線を移すと、大魔法士が紅茶を片手にやさしい微笑みを返してきた。


「大魔法士様がおっしゃりたいことが少し分かった気がします」

「そのようだね」

「でも、まだ分からないことがあります。私は確かに恵まれていると思います。誰にもない能力を持ち、私を心から信頼してくれる仲間がいます。だけど、私には誰かを救う力なんかないんです。きっと大魔法士様が私に期待されているようなことはできないかと……」


 大魔法士はティーカップを円卓に置くと、静かに言った。


「今はそれでもいい。彼のそばにいてくれるだけでね。これはきっと彼の課題だからね」

「課題、ですか?」

「あぁ、課題はこの世に生を受けたもの全てにある。もちろん課題の内容は各個人で異なるがね。その課題は必ず己で解決しなければならない。

 1人で課題に取り組むのは不可能ではないが、少々困難な道を選ぶということ。その時に誰かそばにいてくれれば心強いというものだろう。そうではないか?」


 マヤはようやく大魔法士の言いたいことを理解した。大魔法士は最初からマヤに何かすることを期待していた訳ではない、と。ただ、1人で悩むチスイのそばにいてやってほしいと願っているのだと。


「分かりました。私、チスイさんのそばで見守ります」

「あぁ、きっと彼も心強いと感じるだろう」



 ******



「チスイさん、チスイさんの夢や目標は何ですか?」

「――――」


 マヤとチスイは今日もマグスの森との境界に近い村や集落を回り、結界を張る任務をこなしていた。実際は、マヤにできることはなく、ただチスイの後で静かに控えているだけだった。

 それでも数日前に大魔法士から言われたのをきっかけに、マヤはチスイのそばにいるだけでいいのだと分かり、肩の荷が下りた気がした。同時に、何も力になれていない自分を徐々に受け入れ始めていた。


 今日の任務を終え、いつものようにチスイの転移魔法で大魔法士のいる森へ戻るため、人気の少ない森の中を2人で歩いていた。


 マヤはふいにチスイのことを知りたくなり、夢や目標はあるか、と聞いたのだった。


 チスイはマヤからの質問が想定外の内容だったのか、足を止めて後ろを歩くマヤへ振り返った。(しばら)く沈黙が続いたが、マヤはチスイから視線を逸らすことなく見つめている。


「――――俺は、師匠を超える偉業を残したい……! ち、違うぞっ、俺が言っている師匠というのはあいつではない。あいつと俺を育ててくれた師匠のことだ」

「私、分からないんだけど、魔法士にとって尊敬する師匠を超える偉業ってどんなことをすればいいの?」

「――それは……まだ分からない」

「そっか、チスイさんは今それを探しているところなのねっ」

「――マヤは何故そこまで他者のために何かを成し遂げようとするんだ? 俺には到底理解できない」


 いつもならマヤが質問し、チスイが回答して会話はそこで終わる。だが、今日は珍しくチスイの方からマヤへ質問してきた。

 マヤは内心で、チスイが自分にも興味や関心を向けてくれ始めているのだと感じ、うれしくなった。


「う~ん、確かに、私が思い描いているような世界になったら、マグスも人間も皆幸せに暮らせるようになると思う。でも、一番はそうなったら、私がうれしいから、かな?

 私はいつもマグスの皆に助けられているし、自分は人間だからか、人間に対してもそこまで嫌いにはなれないんだよね。だから、敵とか味方とかなしにして、皆で仲良く食事をしたり、お茶をしたり、時には痴話喧嘩(ちわげんか)なんかもして楽しく過ごすことができたら、私はそれだけで幸せな気持ちになれる。

 なぁ~んて、結局誰かのためというより、自分のために行動しているのかもね。なので、大層な夢を語っているけど、実際は自分のためになることだから、っていうのが答えかなっ」

「――――そうか……」

「あっ!」


 チスイがそう言って前を向き直ろうとした時、マヤに何か(ひらめ)きのようなものが舞い降りた。思わず、大きな声を上げていた。

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