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マヤの理想郷のつくり方  作者: 蒼井スカイ
第1章
49/63

43.首都クレアシオン(後)

「兄上、少しお話が」

「あぁ」


 リビトはジオの真剣な表情を見て、マヤたちから少し距離をとり、収集した情報について共有し合った。マヤとテリスのそばにはすでに合流していたサーティスとフィデリスが控えている。


「それで?」

「えぇ、元カラスという男の噂を耳にしました」

「――!」

「兄上もすでにご存知だったのですね?」

「あぁ、俺も情報が欲しくて酒場に入り浸っていたことがあったからな」

「兄上がですか?」

「それも任務のうちだ。そんなことはいい、分かったことを教えてくれ」

「えぇ、その元カラスという若い男が、それはそれは素晴らしい美貌(びぼう)の持ち主である妖精を逃がしたという話をわざわざ私たちの耳に入るように噂を流しているようです」


 リビトは無言のまま目を細め、疑うような眼差しをジオに向けた。


「何ですっ? 美しいのは嘘ではないでしょう?」

「お前は――まぁ、そんなことはいい。わざと噂を流してるということは俺たちが首都にいることを知っているということか?」

「確信はありませんが、その可能性も捨てきれませんね」

「お前たちはその話をしていた男に接触したのか?」

「兄上、私を(あなど)ってもらっては困りますよ。それくらいのこと、重々承知しています」

「あぁ、そうだな。フィデリスもいるし、安易に接触はしないよな」

「兄上、何故そこでフィデリスの名が出るのです?」

「お前よりもフィデリスの方が冷静に物事を判断できるだろう?」


 ジオは両頬を膨らませて、リビトに無言でアピールしているが、リビトは(あき)れた表情を見せるばかり。


「――次は俺から。少し前にサーティスと合流し、ギルド会長の情報をいくつか聞いた」

「さすが、サーティスですね。私の配下の中で最も優秀な者ですからね。諜報はもちろん、護衛、暗殺、身の回りの世話、何をやらしても彼女の右に出る者はおりません」

「あぁ、本当に驚いた。あの短時間でこれほどの情報を集めたとは……」

「欲しいと言ってもあげませんよ」

「言う訳がないだろう。――それより、会長とやらは貴族とかなり親密な付き合いをしているようだ。そのせいもあってか、随分と贅沢三昧な暮らしをしているらしい。だが、表向きでは孤児院に寄付をし、どんな田舎の平民からの要望でも無下(むげ)にせず、討伐隊を送るそうだ」

「表向きは――」

「あぁ、だがその裏で密かに噂されていることがある。それは王の地位を狙っているのではないか、と」

「王だと? ギルド会長と言えども所詮は平民の出、その平民が王に取って代わろうと目論(もくろ)んでいると言うのですか?」

「あくまでもそういう噂を聞いたという話だ。実際はどうか分からない」

「……」


 ジオは平民が王の地位を脅かそうとしているという話に自分のこれまでの不幸を重ねていたのだろう、リビトはジオの表情からそう感じ取っていた。


 リビトは妖精の森を出発する前日に、王から2つ願いを(たく)されていた。1つは妖精王の妻であるクララステラの生存確認だ。リビトはジオウとの関係がギクシャクする前に妖精王からクララステラ襲撃事件の一部始終を聞かされていた。

 はじまりの森に戻ってからも時折、妖精王の依頼でクララステラの情報収集をしていたこともあった。マヤと旅を続ける中でクララステラに関する情報があれば、すぐに妖精王へ知らせることを約束した。


 もう1つはジオウのことだ。妖精王は「ジオウのことだ、きっとリビトたちと旅に出ると言い出すに違いない」と言っていた。妖精王の言っていた通り、出発当日に突然ジオウは旅に出ると言い出した。

 妖精王の願いはジオウが旅に加わる場合、何とか守って欲しいと言われたのだ。もちろんリビト1人でマヤとジオウの2人を守るのは難しい。そのため、ジオウにフィデリスを、マヤにサーティスを護衛につけると約束してくれたのだった。


――ジオウはクララステラ様のことを密かに探るつもりだろう。フィデリスも妖精王から十分言い聞かされているだろうから、1人で危険に飛び込ませるようなことはないだろうが、しっかり見張っていないとな。

 全く、こっちはマヤだけでも手一杯だというのに、妖精王も自分の子が可愛いということか。まぁ、今に始まったことではないのだが。全てが片付いたら、十分に褒美をもらうとしよう。それでなければ割に合わない。


「ジオ、まだ話は残ってる」

「あぁ、兄上、ごめん。それで話って?」

「冒険者ギルドの会長と面会するには信用の高い人物の紹介状が必要らしい」

「紹介状?」

「あぁ、つまり、俺たちのように高い地位の人間とコネのない者が、簡単に会える人物ではないってことだ」

「高々、冒険者ギルドの会長程度が?」


 ジオの表情は冷たく凍り付いているようだ。こめかみに青筋が立っている。すると、すぐににっこり笑顔に変わった。


――感情はすぐ顔に出るが、前よりも心を落ち着けるのがうまくなってきたな。まぁ、まだまだだがな。会長が目の前にいたら、飛びかかるんじゃないだろうな。


「兄上、それでどうするつもりなの?」

「あぁ、そのことなら考えがある」

「考えって?」

「まぁ、会えば分かるさ」

「私に教えないつもり?」

「お前は口が軽いからな。安易に作戦を()らされたくない」

「えぇー、兄上それはあんまりじゃないかぁ」

「とにかく、会長とは俺が話すから、お前は絶対に口を開くなよ、いいな!」


 ジオは再び両頬を膨らませている。リビトは大きく溜息をつき、「ほら、宿へ向かうぞ」




 翌朝、リビトたちは冒険者ギルド本部を訪れた。


 冒険者ギルドは首都の西エリアにその本部が建てられている。ヴェネートルにあった北部拠点とは比べものにならないくらい建物が豪華で立派である。北部拠点の建物は木造総2階建てで、外観も内装も質素な造りだった。それに比べて、本部はレンガ造りの総4階建てで屋根は深緑で統一されている。ドアや窓は木材が使われているが、窓には色付きガラスが用いられていることが外から見ても分かる。

 首都の景観に合わせて外観にもそれなりの金をかけているのだろうが、冒険者ギルドにしては建物が豪華すぎる、とリビトは内心で感じていた。


――これが、冒険者ギルド本部。随分派手な建物だな。冒険者ギルド本部は今の会長の代になってから新しく建て替えられたとサーティスが言っていたな。

 なるほどな、会長とやらは随分と金回りがいいようだ。贅沢三昧(ぜいたくざんまい)な暮らし、貴族とのコネクション、玉座か。噂も満更、嘘でもなさそうだな。

 だとすれば、面会を断られた時、あの件を持ち出せば食いついてくるかもしれないな。もしも、奴隷商人とどこぞやの貴族が結託していることが分かれば、奴はそれをネタに貴族をその手中に収めようとするだろうからな。


「リビト? どうしたの?」

「いや、何でもない」


 マヤは心配そうな表情でリビトを見つめていた。リビトはマヤの顔を見て、思案する。


――ギルド会長の素性は分からないことが多い。まだ俺が知らない裏の顔があるかもしれない。そんな男にマヤを引き合わせるのは危険すぎないだろうか? だが、マヤはきっと行くと言うはずだ。それに、万が一の時はサーティスにマヤを連れ出してもらえば大丈夫か。


 リビトはマヤからジオへと視線を移した。


――それよりも心配なのはジオウだな。ギルド会長がどんな奴か分からない状態で引き合わせ、万が一クララステラ様と(つな)がる話でも出れば、ジオウはきっと感情を制御できなくなるだろう。そうなれば全員が危険になる。

 やはり、ジオウとフィデリスは置いていった方がいいか……。だが、ジオウが大人しく俺の言うことに従うかが問題だ。


 リビトは護衛の相談という名目で、フィデリスとサーティスを呼んだ。その間、ジオにはマヤとテリスの護衛役としてそばにいてもらった。


「それでジオのことだが――」

「ジオ様は私が他に目を逸らすよう仕向けます」

「えぇ、そうですね。それなら、私からフィデリスに奴隷商人に関する噂をリビト殿に内緒で話したことにしましょう」

「やはり、お前たちもそうするのが良いと思うか?」

「えぇ、主の性格を考えれば、そうでしょうね」

「はい、主を(だま)すのは気が引けますが、皆様の安全のためには必要なことだと思います。マヤ様は私が身を(てい)してでもお守りしますので、どうぞご安心ください」

「俺の気持ちを察してくれる優秀な人材がいてくれて助かるよ」

「リビト殿、お気持ちよぉーく分かりますよ」

「フィデリス! リビト殿に何て言葉遣いですかっ」

「いや、構わない。お前たちも随分ジオには苦労をかけられただろう。それに今は旅仲間同士だ。そう(かしこ)まらなくてもいいぞ、サーティス」

「はい、リビト殿の寛大な御心に感謝申し上げます」


 リビトは頑なに身分の差を弁えた姿勢を崩さないサーティスの姿に苦笑した。


「ほら、サーティス。お前は真面目過ぎるのだ。そんなんではこの先、やっていけないぞ」

「私は王の命に従って、然るべき相手に分を(わきま)えた対応をしているだけです。ですが、フィデリスはリビト殿の寛大な御心に甘え過ぎです。もっと自分の立場をしっかりと理解すべきです」

「リビト殿、この通りサーティスはクソ真面目な奴ですから、あまり気になさらないでくださいね」

「あ、あぁ、理解した。それじゃあ、さっそくフィデリス、ジオのことを頼んだぞ」

「くれぐれも嘘だとバレないように気を付けてくださいね」

「分かっているさ、嘘がバレて怒られるのは俺なんだから」

「ちなみに、東エリアのいい匂いのする場所で情報収集をするといいですよ」

「いい匂いのする場所? 他にもっと分かりやすい特徴はないのか?」

「行けば分かります。きっとジオ様を長く足止めするのにぴったりな場所ですから」

「…………」


 フィデリスはサーティスが言う場所がどのような所であるのかは分からなかった。だが、主を足止めするのにぴったりな場所と言われれば、一先ずそこに連れ出せば問題ないと考えていた。


 リビトはサーティスが言う場所に心当たりがあった。それは首都に入ったばかりの時、風魔法を使って周囲の人間たちの会話をこっそり聞いていたからだ。その時耳にしたのが東エリアのことだった。


 首都は王族が住む王宮と貴族の別邸がある中央エリアを中心に、北エリア、南エリア、西エリア、東エリアの5つに分かれている。

 北エリアは職人街で、職人ギルドや薬師(くすし)ギルドがあり、農家が居を構えている。南エリアは商人街で、商業ギルドや服飾ギルドがあり、多くの商人が個人の店を持っている。


 冒険者ギルド本部があるのは西エリアのギルド街だ。ギルド街と呼ばれているのは元は西エリアの辺りに全てのギルドがあった名残からである。昔は今のように5つのエリアに分かれておらず、ギルドは西にまとまって建てられていた。

 だが、冒険者ギルドの会長が今の代に代わってから、次々と上位貴族と懇意になって巨額な投資を受け、本部を豪華な建物に改装した。

 首都の再開発の話が出たタイミングで、利便性を考えて各ギルドは西エリアを出ていく形となったのだ。実際のところは冒険者ギルドと関わりたくない者が多かったのだろう。


 そして、東エリアは繁華街で、飲食店や酒場が軒を連ねており、裏通りには花街がある。日中は女性客やカップルのデート場所として人気の東エリアだが、夕方になるとガラッと雰囲気が変わる。平民はもちろん貴族の男たちが繁華街の裏通りに足(しげ)く通うのだ。


 フィデリスが5人姉弟の末っ子で4人の姉がおり、姉たちの恋愛事情や女性の裏の顔を知って恋愛恐怖症になったことは、リビトもサーティスも知っていた。

 リビトはサーティスがフィデリスに「いい匂いがする場所」と言った時、その場所が花街を意味するとピンときていたのだ。


――フィデリス、お前は姉たちに何を学んできたんだ。サーティスを怒らせなければ、お前があれほど嫌う女たちがいる場所に足を踏み入れずに済んだものを。


 まぁ、自業自得というやつだな。ここはジオを足止めしてもらうためにも黙っておくことにしよう。


「さて、冒険者ギルドの会長とやらに面会を申し込みに行くぞ」

「あの、兄上」

「ジオ、何だ?」

「高々冒険者ギルドの会長との面会を申し込むのに、全員で行く必要はないよね?」

「まぁ、そうだが……」

「それなら、私とフィデリスは追加の情報がないか調べてくるよ」

「あぁ、別に構わないが、絶対に危険な真似はするなよ」

「もちろん、分かってるよ。じゃあ、また宿で!」

「あぁ、無理はするなよ」

「兄上は心配性だなぁ。大丈夫だって、それじゃあまた後でね」


 ジオはにっこり笑顔で東エリアのある方角へ歩き出している。

 リビトはフィデリスと視線を交わし、コクリと(うなず)くと、フィデリスも同じように頷いて応えた。


「さて、行くとするか」

「うん、行こう」


 リビトとマヤ、サーティス、テリスの4人は冒険者ギルド本部の中へ歩みを進めた。

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