7話 重ねた決意
両手を広げたことによって、こちらへと発砲を続ける存在に対し完全に無防備な状態をさらけ出す。
そうだ、これでいい──。
迎え撃つのが最大の目的ではない、今はこの少女を守ること、それが最優先。
なら、この態勢がいい──出来うる限り、少女をすっぽりと包むように構えられるこの態勢が。
「ふッ!」
貫かれてはならない、貫かせてはならない。
──腕、足、首、髪の毛一本にいたるまでのすべてに、力という名の命令を肉体に発令させる。
そうして瞬時、躰は異質を超越するほどの結果を俺にもたらしてくれた。
「…………」
発砲音と共に放たれたはずの無数の弾丸は、まるで芯を出していないシャーペンの先でぐりぐりと押し付けられたような感触だ。
だが、なるほどその程度。俺の皮膚を貫くどころか裂くことすらできず、めり込んでこようと回転している銃弾の一発を視界の端で捉える。
──形はライフル弾に酷似しているが、真鍮独特の鈍い黄色とは異なり白く、粉煙を上げている様は、さながら弾丸の形をしたチョークみたいだ。
ほのかに臭うガスに似た臭いが鼻腔をくすぐり、回転力と推進力を失った弾丸は、地面に落ちるか落ちないかのタイミングで霧散していくのが見えた。
「ガスの、弾丸……?」
まるで気化していくような様と残る臭いから、何かガスのようなもので作られた弾丸だと推測したが、そんなものが実戦レベルで作られたなんて話は聞いたことがない。
チョークのようにも見えるが、ライフル弾のように尖った先と、きゅるきゅると音を立てながら回転してめり込んでくるのを見て、殺傷力が無いとは言えないだろう。
──つまり、ライフル銃に匹敵する銃弾を受けているということになる。
それをかなりの連射力で撃ち出してくるのだから、暴徒鎮圧とかそんな生易しいものじゃない、明確な殺意を持って開発された兵器。
ロボットのことも合わせると、相当の技術が使われているのだと否応がなく思わせてくる。
だが──。
もうかれこれ数百発は撃たれているはず──だというのに、この躰は依然無傷のまま。
対照的に、周りの壁や机は跳弾や流れ弾によって穴だらけになっていき、中には崩れていっているものもあるというのに、だ。
見たこともない技術が使われているが、この躰は、それすらも圧倒的に上回っている。
規格外としか言いようがない。
「────」
時おり電子音を発しながら発砲を続けるロボットを見据えて、ふと思う。
なら、なんのためにこんなロボットがあるんだ?
兵器……と、自分の躰をそう称するのは抵抗があるけど、俺みたいなのが一人でもいれば、この施設の警備は事足りるはず。
警備に使うには、いくらなんでも過剰すぎるからか? ……ありえない話じゃない。
どう考えても、この躰のスペックは、俺が知る限りにおいて警備というには強すぎる。特殊部隊や軍隊を雑居ビルの警備員に任命するようなもんだ。
だが、想定する必要はあるんじゃないか?
いくら過剰とはいえ、現にこの躰のような力が存在するのなら、警戒のためにこの力を持った警備員がいてもいいはず。
国にもよるが、銃が脅威となるのならば、やはり銃をもって防衛を行おうとする流れは、決しておかしい話じゃない。
それが成り立たないのは、よっぽど治安が良いか、そもそも数が少なくて配備できないかのどちらかになる。
──どちらの考えも、決して的外れとは思えない。
数が少ないという事実は、少女以外に誰も見なかったことからも、なんとなく察せる。
だから、この躰みたいな力を持つ奴がいなくて、このロボットみたいなのが代わりに警備をしているのはおかしくない。
おかしいのは──。
「どうして、俺だけなんだ……?」
少なからず感じていた疑問だ。この施設が、俺みたいなのを作るための場所だというのは、もう確定していいだろう。
見かけた肉の塊のようなものは、いわば〝種〟みたいなもので、それがこの躰のように育っていくんだろうさ。
なら、ならなぜ──。
「っ──!」
そんな考察をしていると、背後から音が鳴ったことに気づき、意識がそちらにすべて持っていかれた。
振り向けば、カプセルには亀裂が走っており、そこからぴきぴきと氷が発するような音が鳴っている。
「マズイッ!」
口に出すのと同時、カプセルが激しい音を立てながら砕け散り、中の少女が溶液と一緒に放出されていく。
──急げッ──!
意識したのが先か、行動に移ったのが先か──どちらにしろ、俺は放出された少女を抱き止め、体を丸めるように少女を包み込んでいた。
「くッ……」
馬鹿だ……何を悠長にしていたんだ俺はッ──。
周りが破壊されていく様が見えたじゃないか……だったら、この子が入っているカプセルだって、流れ弾かなんかで破壊されてもおかしくないはずだ。
──自分の出生や過去がそんなに気になるか? 誰に求められたわけでもなければ、今すぐ追求する必要があるものじゃない、だったら、そんなのは俺にとって自己満足にすらならない。
力からくる余裕で考えが浅くなってしまった? そんな理屈が言い訳になるかッ……。
少なくとも、この子を守ろうと、そうしようと決めてたんだろう?
なら意識だけは持っておかなければいけなかったはずなんだ。
それなのに俺は──。
止まらない自虐……自棄になっているわけでもなく、それでも止めることのできない俺の脳裏に、さらに言葉がよぎった。
──〝また〟なのか。
また──? またとはどういうことなんだ?
これと同じような、もしくは似たような失敗を俺は過去にしたのか?
分からない、覚えていない……だけど、俺の心の底から湧き出てくる考えは、過去の詮索ではなくこうだった。
〝それで悩むために、ここまで来たわけじゃない〟──。
自嘲、自罰、自虐。そうじゃないだろう? それを償うために、それを払拭するために、こうしてここまで来たわけではないはずだろう、と。
──記憶は無いはず、しかも自分のことなのに、まるで誰かに言われたような、そんな言葉。
「ああ、そうだな……」
脳裏によぎったその言葉に応えるように、俺は自然と呟いていた、
「そんなのはイヤだ。それでは変われないんだ、ってな」
だから考えるんだ。自分のことじゃない、されど自分のために。
『この子を守る』──ただそれだけを──!




