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PROTOPIA ─地球人最後の少女─  作者: 叶あたる
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5話 侵入者。止まった世界

 自分よりも一回り小さい。頭部に当たる部分は小型カメラのような形をし、レンズのようなものがこちらを観察するように見つめてきている。

 直立して安定した歩行を行うためか、足元は鳥の脚のような形をしており、手に当たる部分には指のような突起物が三本見えた。


「ここの監視か何かか?」


 関節の隙間からは金属の部品が露出して見え、ボディは金属特有のメタリックな光沢を発しながらも、どこか団子の生地を思わせるような弾力がありそうな有機的で、全体的に流線型のフォルムだ。


 良く言えば親しみやすい──悪く言えばレトロな、そんな雰囲気のロボットに俺はわずかに警戒を解く。


 会話はできるだろうか? 軽い応答ぐらいできれば、色々と助かるんだが……。


「なあ──」


 一歩踏み出してロボットに近づこうとする。その時──。


「対象ノ該当IDヲ未確認、侵入者ト認識、排除シマス──」

「なッ──!」


 機械音混じりの物騒な音声が聞こえたのと同時、ロボットの両手が引っ込んでいくのが見え、代わりに何かが飛び出してきたのが見えた。


 銃──!

 知っている限り、それは無数の銃口が備え付けられた兵器──ガトリングだった。

 小型ではあるが間違いない、違ったとしてもぶっちゃけ関係ない。あんなもので撃たれればひとたまりもない!


「くッ!」


 その物体を見た瞬間、脳から危険信号が鳴り響き、咄嗟(とっさ)に腕を顔の前で交差させ防御の構えを取った──。

 ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン──危険信号に呼応し、様々な神経伝達物質が一瞬で脳内に溢れ出すのが分かる。


 興奮状態──危険な状態に対抗するために、脳が自ら特定の物質を分泌することで痛みや恐怖に耐えようとする状態を作り上げるという。


 だが、それはあくまで恐怖を感じにくくしたり、痛みをいくばくか誤魔化す程度のもの……さらに言うなら、直接的に実感できるような変化などは起こりえない、はず──。


「なら……」


 今、俺の目の前で起きていることはなんだ?

 思考に費やした時間は、体感で少なく見積もっても数十秒かもう少しの時間がすでに経過しているはず。

 なのに──。


 なのにどうして、俺はいまだに〝撃たれて〟いない?

 ──銃を構えてから撃つ。その動作にこれほどの時間が掛かるのか?

 交差した腕を少しずつ解き、開けていく隙間から様子をうかがう。


「……どう、なっている?」


 隙間からは、銃弾を撃っているどころか、まだ銃をこちらに構えてすらいないロボットの姿が見えた。

 その姿はまるで止まっているようで、銃を両手から飛び出した姿勢のまま硬直している様子は、どこかおかしくすら思えてしまう。


「止まっている……? いや、〝()えている〟のか」


 よく見れば止まっているわけではない、本当にゆっくりだがコマ送りのスロー再生みたいに、かすかにだが動いているように〝視えた〟。


 ──熟練の武術家やスポーツマンは、この神経伝達物質を効率的に分泌させることで、適切な興奮状態を作り出すことが自然とできるようになるという。

 そうすることで瞬間的な脱力と硬直を制御し体感速度を引き上げ、より疾く、より勇ましく戦えるのだと。


 本人の体感では10秒でも周りからすれば1秒も経っていない、いわゆる極度の集中状態、これを保ち続けること、それが極めた者たちの強さの実態というわけだ。


 ──人の範疇(はんちゅう)の話だが──。


 一般の範疇の限界──その技術を駆使したからといって、銃弾レベルの速度で動けたり本当に銃弾が見えたりするわけじゃない。

 なら、これはどういうんだ?

 思考の洪水とも呼べる状態が起き、脳がそれを処理できることによって、体感速度が引き上がっているのが原理なのは分かる。


「限界を超えているということか」


 すべては神経伝達物質による、いわば脳へのドーピングによって成し得ているのが今の状態だ。

 このドーピングは、増やせば増やすほど脳の体感速度は高まっていき、理論上は数百倍にも数千倍にも引き上げられるはず。


 しかし、本来の意味でのドーピングがそうであるように、この神経伝達物質もまた劇薬(げきやく)、やればやるほど脳や肉体への負荷が高まり最悪廃人になり命を落とす危険性がある。

 だからこそ修行や精神鍛錬を行い、訓練によって負荷に耐え、自然と調節できるようになる必要があるのだ。


 だが、この躰は違う──。

 そういう理屈が、そういう常識が、この躰には一切適用されていない。

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