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PROTOPIA ─地球人最後の少女─  作者: 叶あたる
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4話 ガラスの中の少女

「…………」

 想像していなかった遭遇に、カプセルの中でゆらゆらと浮かぶ少女の顔を見つめてしまう。


 幼さが強く残る少女の顔立ちは、笑顔になればとても愛らしそうに思える。

 背は140半ばやや下ぐらいだろうか、カプセルに浮かんでいるから目線の高さ自体は俺とそう変わらないが、目測でも分かる程度の小柄で、控えめな成長がうかがえる体つきも相まり、まだ10代前半の子供ぐらいに見えた。

 溶液の色でよくは分からないが、黒系統に映える髪はうなじ辺りで揃えられた長さに見え、なんとなく素朴な雰囲気を感じる。


 時々、口元から気泡(きほう)が出てくるのも見え、どういう原理かは分からないがこの溶液の中ではちゃんと呼吸ができているようだ。


「この子も俺と同じ……なのか?」


 同じカプセルに入っているのだから、当然そうだろうと思いたいところだが──。


「違う、この子は……」


 そう、この子は俺と違う。この子からは小さいが鼓動を感じる。

 俺のように、脳や脊髄(せきずい)や心臓が無いなんて状態じゃなくちゃんと残っている、至極健全と言える状態だと感じた。


 それに──。


「なんで、俺は服を着ているんだ?」


 言葉にするとどうにも変な風に聞こえそうだが、冷静に考えてみるとこんな奇妙なことがあるのか?

 カプセルの中の少女は衣服などはまとっておらず、一糸纏わない格好でむしろそれが自然。


 異様なのは俺のほうで、目覚めた時のことを思い出すと、衣服を着たたまま溶液の入ったカプセルに入っていたことになる。

 普通、服を着せたまま入れるだろうか?


 絶対にそんなことはないとは言い切れないが、現に目の前の少女はいわゆる裸だ。

 ならば、この施設が特別そういうわけじゃなく、俺の中にあるイメージ通り衣服を脱がして処置をすると考えていいのではないか。


 もしくは──。


「この子のほうが、特別?」


 自分の異様な(からだ)に意識がいくが、俺に施された処置が実は平常運転で、この少女のほうが特例の処置を受けているのでは?


 ……根拠なく出た考えというわけじゃない。

 俺が目覚めた部屋やこれまでの部屋には、例外なく臓物の類が置かれていたが、この部屋にはそれらが一切見当たらない。


「あの臓物は、俺みたいに空になっている躰に入れるために用意されたもので、それがこの部屋以外で確認されたということは……」


 ──この施設にとって、俺みたいなのはありふれていてこの少女こそが本命なのでは?

 それならば俺の扱いがぞんざいで、この部屋だけは妙にきれいになっているのも納得というわけだ……なんか釈然としない気もするが。


「……起きてる、のか?」


 一見すると眠っているようにしか見えないが、施設が施設だ。そう思っていて、実は起きているということも十分にありえる。


「…………」


 ゆっくりとカプセルに近づいてみたが、特に反応らしい反応を見せない。

 まあ、もし眠っていたとしても自分がこうやって活動しているわけだから、しばらくしたら目覚めるかもしれないが。


「なら、起きるまでここで待って……ん?」


 近くの机に向かおうと足を動かすのと同時に、少女の姿に動きが見えた。


 あ、目が……!

 溶液とガラス張りのカプセル越しに、こちらの姿が認識できているのかはわからない。

 しかし、ずっと瞑っていた少女の目がかすかに開き、お互いの目が合ったのを確かに感じる。



 そうして、そのまま見つめ合っていると──。


「はっ──」


 背後から、金属がこすれて(きし)むような音が聞こえた気がした。


「……気のせいか?」


 咄嗟(とっさ)に後ろを振り返ってはみたが、ぱっと見ではなにも見当たらない。


「いや、そうは思えない──」


 これだけ静まり返った部屋だ、物音がすればよく響くはず。

 音の聞き間違いはあったとしても、音が鳴ったこと自体の勘違いなんてするだろうか?

 

「どこだ……どこからした?」


 少女の入ったカプセルを背にしながら、その場から動かずに室内を見渡す。

 音の響き方からして、廊下側ではなく室内から聞こえたのは間違いない。

 何か物が落ちただけなのか、それとも──。


「……ん?」


 視線の先で、赤く発光する小さいライトのようなものが見えた。

 まるでじっと見つめるように、光はこちらを捉え続け、時々まばたきのような明滅をしている。


 不自然にゆらめくシルエットが光の先から見え、その光は部屋に取り付けられたものではなく、棚やロッカーの影になっていてよくは見えないが、何かから発せられているもののようだ。


「…………」


 しばらく膠着(こうちゃく)していると、しびれを切らしたのか、光の発生源から金属の軋む音と駆動音のようなものが聞こえ、こちらへと近づいてくる。


「なんだ……?」


 棚の影から姿を現したのは、自立で動く機械……すなわちロボットだった。

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