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PROTOPIA ─地球人最後の少女─  作者: 叶あたる
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3話 歩き続けた先で見た物

 ──部屋を出てから特に当てもなく廊下を進む。



 時々突き当たりに差し掛かっては、迷わないように右側を優先して進むようにしていた。

 右を選んでいるのに深い理由はないが、右か左かと聞かれたら特に理由がなければ利き腕である右側を選ぶ、そんなクセがどうやらあるらしい。


 そんなわけで律儀に右側通行をしながら、この施設内の探索をしている、わけだが……。


「なーんで臓物は平気だったのに、こういうのは気になるんかね……」


 相当の年月の期間を放置されていたのか、空調などの機能は見受けられずかなり埃っぽい。

 それでも清潔感を感じさせるこの建物の造りは、なんらかの研究施設かあるいは医療施設の類と思える。

 無機質な白い壁と妙に明滅する青白い電灯が相まって、気味が悪い……というかぶっちゃけ怖い。


 ──記憶は無い。それでも去来(きょらい)する想いのようなものはあり、それが俺の意志とは無関係に恐怖心を(あお)ってくる。

 元からそういうものなのかは知るよしもないが、はっきりいって失った記憶にあまり関心はない。


「記憶、か」


 もしも、無くした記憶に価値をつけるというのならば、それは俺自身じゃなく、俺のことを知っている人たちが居て初めて成り立つのだと俺は思う。


 思い出、体験、知識、様々なものが記憶として残ったとしても、それが俺一人で完結しているものなら、俺が死んだ瞬間に、それを知る奴がいなければそれが消えるということ。

 気になる記憶があるとすれば、それは誰かとの思い出やそれに準じた何か。

 だから、俺を知っている奴に出会わない限りは、俺自身は自分の記憶に強い関心を持てない、そういう考えなわけだ。


 ──いや、違うな……理屈を並べただけの、ただの強がり。

 直感的に分かる。


「もう、誰も居ないんだろうな……」


 俺の記憶も含めた、俺自身のことを知る人は、きっとどこにも居ないんだろうと……。

 なら、記憶を失ったというのはむしろ必要なことだったのかもしれない、って。


「…………」


 思うところはあれど上手く考えの整理ができず、壁に手を着いて歩みを止めてしまう。


「ま、記憶(これ)に関しては後回し……ん?」


 そう呟いてから再び歩き出そうとすると、壁に手を着いた箇所が薄く発光していることに気付く。


「……やっぱり、電源は生きているみたいだ」


 手を退()けて壁を眺めると、薄い緑色のラインのようなものが流れるように発光してるのが見え、電力か何かのエネルギーを流しているのだと推測できる。


「そういうものなのか?」


 埃っぽさや形跡からするに、かなりの長い年月が経っているのは明白、それでもこれだけの設備があるのだから、とても性能のいい予備電源の類があっても不思議ではない。

 だから電源が生きていること自体は、まあ納得できる。


 しかし、それは重要な場所、統括しているコンピューターとか非常用の設備が設けられているような、そういう箇所に限られるのではないか?

 いざという時の事態を想定するならば、廊下や使われていない部屋の電気まで稼働し続けるのは、少々理には適ってない気がする。


 何か緊急性の事態が起きて、ここを放棄したというならありえなくもないが、そういう損傷や置き去られた物品のようなのは見当たらない。


 となると、もう答えは一つ──。


「誰かが電源を入れた」


 理由も何もなく、不要な電源まで勝手に入ったということは考えづらい。これだけの設備と技術があるのならなおさら。

 なら、ここの関係者か、はたまた部外者か、いずれにしろ誰かが電源を復旧させたと考えるのが無難。

 もしかしたら、俺があのカプセルから出てきたのもそれが関係しているのかもしれないしな。

 ただまあ、推測は推測、それ以上の考えはなーんにもないんだけど。


「ま、会ったら挨拶の一つでもしてやろうかね」


 そいつに敵意が無いという保障はないが、だからといって無闇に警戒した結果、こっちこそ敵意を持ってしまったらつまらん。

 ここは気持ち軽めに、されど油断はしない心持ちをってね。

 そうやって割り切ってから引き続き探索を続ける。

 

 ──のだが。


「見事になんにもないな」


 道中誰と会うこともなく、かれこれ数十ほどか、部屋を見つけては中を調べるを繰り返すが、これといったものは特に見つからなかった。


 てっきり自分と同じような感じで、カプセルから出てきた奴が居るかとも思ったが、今のところ入った部屋には似たようなカプセルはあっても、ほとんどが空だった。

 何か入っているものがあったとしても、およそ人とは言えない肉の塊のようなものばかりで、とても中から出そうとは思いたくないものばかり。

 おまけに散乱とまでは言わないまでも、臓物の類が棚や机の上に大量に置いてあるというね。


 唯一の成果といえば、せいぜい道中で見かけた見取り図ぐらいで、それすらもかなりぼろぼろで、なんとか出口までの道が分かる程度──探索の当てにできるものじゃない。


「俺だけ、なのかね……」


 独りということに慣れているのか、記憶が無いことが幸いしてか孤独感はあまりない。

 ただ、少なからずの出会いを期待していたのは事実で、今のところの結果には正直ちょっとがっかりではある。


 とはいえ、いつまでも延々と調べ続けるのもなんだか不毛に感じてきたな……。

 自分の中でいったんの区切りを決め、扉の前で足を止める。


「ここを調べたら、外に出てみるか」


 ここを最後──ここを調べ終えたら、見取り図にしたがって施設の出口へと向かおう。

 そう自分に言い聞かせ、俺は目の前の扉を開き最後の部屋の捜索を始めた。


「ふむ……」


 どこの部屋でもそうだったが、扉が開くのとほぼ同時に明かりが点き部屋内が照らされる。

 もっとも省エネなのかなんらかの効能を期待してなのか、灯り自体は微妙に青白くて薄暗く、文字の書き読みとかには正直都合が悪そうだ。


「ん?」


 同じような部屋の様相に飽きたのもあって、ついつい、ながら思考で部屋を見渡していたのだが、これまでの部屋とは決定的に違うところを見つけ、自分の意志とは関係なく視線が釘付けになってしまった。


「女の子、か?」


 そこには自分が入っていたのと同じ形のカプセルがあり、溶液で満たされた中で、一糸纏わない少女の姿が眠るように浮かんでいる。


 ──まるで永い永い時の中で、ずっと独りで眠り続けていたかのように、ガラス張りの向こうの少女は静かにたたずんでいた。

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