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PROTOPIA ─地球人最後の少女─  作者: 叶あたる
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2話 容れ物 ─カラダ─

 異様、異質、奇怪。そうとしか言いようがない。

 しかし、そんなことは知ったこっちゃない、俺は脊髄(せきずい)と心臓を拾いあげると、脳髄(のうずい)の時と同じ要領で近づけていく。

 心臓を左胸へ脊髄は背中に、それぞれがあるべきはずの場所へと─。


「ぐっ……」


 すると沈み込むように二つの器官が体内にみるみると入っていき、さながら俺が吸収しているようだ。

 まあ、実際に取り込んでいるわけだから、別に間違いというわけじゃないんだけど……。


 しかし、そんな一連の様子を見ても、やはりというかなんというか動揺のようなものは感じない。

 いや、まったくないかと追求すればそんなことはないのだが、俺の知っている感性からすれば、それで許されるような感覚じゃないだろう。


 それでも──。


「力が……(めぐ)る!」


 脊髄から作り出される血液という名の燃料が、心臓というポンプによって身体中を巡っていくのが伝わってくる。

 強く脈打つ鼓動──さっきの萎んでいた心臓からは考えられないほどに、ドクンドクンと体を通して響き循環と燃焼のサイクルが、俺に力を生み出させようと激しく活性化していく。


「…………」


 屈んでいた体に喝を入れるために、俺は一度目を瞑り、そして──。


「ふッ!」


 足腰を中心に全身へ力を込めて立ち上がる。


「ッ……!」


 予想だにしていなかったことが起きた──。

 なんと気合いを入れて立ち上がっただけだというのに、床が(へこ)み、軸足を中心に直径50cmほどの小さなクレーターができていたのだ。


 どう見てもコンクリートや材木とかじゃない、金属製と思える材質の床をこれだけ凹ませたという。

 しかも、ちょっと気合いを入れただけであり、本気とは程遠い力みでこれなのだから、いったい本気で力を入れたらどれだけの力が出せるんだ?

 この数倍の大きさのクレーターができる? それとも床が抜けるか?


「いや──」


 ああ、分かる。分かっている。そんなものではない、それで済むわけがない。

 少なくとも自分の知りうる限り、人間どころか生物としての範疇を超えた結果が出る。

 そう確信しながら、そんな力がこの身にあることに対して戸惑いや恐怖よりも、高揚感(こうようかん)のほうを感じずにはいられない。

 とはいえ無闇に力を振るうのは趣味じゃない、力のコントロールはできるようにならないとな。


「ふっ……」


 あまりの受け入れっぷりに、思わず自分へ向けて呆れと自嘲(じちょう)を込めた笑いが漏れてしまった。

 ……きっと異端と言えるのだろう、こんな考えや感性を覚えるのは。

 得体の知れない躰、制御できるかも分からない力、順当に考えれば気味が悪い不安定なもの。


 だが、俺が感じたのはそうじゃなかった。


 好みからかこの躰を気に入り、なぜか制御できるというどこから湧いたのか知れたものではない自信を持っている。

 非現実性からくるある種の逃避的(とうひてき)な考えとも取れるが、それならそれでいい。これは良いとか悪いとかそういう話ではなく、俺という人間がどういう奴なのかという話なのだから。


「〝好きこそものの上手なれ〟ってね」


 ──人間も、所詮は肉の詰まった袋だという言い分をたまに聞く……。


 その言葉の真意は正直よくは分からないが、少なくとも皮肉的な意味で肯定的な意味ではないだろう。

 が、なるほど……今の自分に対しては言い得て妙すぎる。

 脳や脊髄や心臓が無くても生きてて、あっさりとそれらを補充してしまったこの躰は、正にただの容れ物(いれもの)に過ぎないと言って差し支えない。


 ──だけど、それがどうした。


 肉の詰まった袋? なってみれば、案外悪くはないじゃないか。

 さすがにこういう状態を指すわけではないというのは、まあ察せるけど、開き直ってしまえばどっちも似たようなものだ。


「いいじゃあないか、こういうので」


 この躰を気に入った、ならば使いこなしてやる。それだけのこと。

 異端だろうが肉の袋だろうが問題ない。その上での俺の考えは、俺の意志が確かにここにあるという事実、それだけで充分。


 ならこの躰は俺のだ。俺の好きなように使わせてもらう。

 仮に、この躰が俺の意志とは無関係なものだったとしても、それでいいさ。

 それならそれとしても、俺はこの躰と一緒にやっていく気はもう決めてしまっているからな。


 さあ、行こうぜ、俺の相棒(からだ)──。


 俺は自分の躰にそう告げると、立ち上がった躰の歩を進めてこの部屋を後にした。

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