14話 預ける命
──数合に渡る激しい一撃がいく数も飛び交っていく。
巨人へと突っ込んでは相手の攻撃を誘ってはかわす、そんな囮としての動きで相手の気を散らしていく。
結果だけを見れば実に簡素、やっていることだけを上げればそれ以上のことをしていないのも事実。
だがそれは能力が拮抗し、力もスピードも同じ領域にあるからこそ言える物の見方──。
実際としては素通りするだけで地面を抉るほどの巨人の振り払い、自身が駆けた後に残る、巻き上がりすぎた砂埃と摩擦によって赤熱した地面を生じさせる戦い方は、陳腐ながら超人と言える領域の所業。
さながら巨人の攻撃をかわすのは、突っ込んでくるジェット機を正面から捉え、しかもそれを自分から突っ込んでから引きつけてかわすような芸当をしているようなもので。
そんな狂気の沙汰というのも可愛く思えるようなことをやってのけてもなお、まだまだ余裕がある。
やはり思った通り、本気でやり合えば質量の差はあれど、巨人との力関係はほぼ互角。
大きさに反比例した規格外のスピードを有してはいるが、それでも根っこのスペックが同等なら、小回りが効くこちらが機動力では上になる。
それで回避に専念すれば、巨人の大振りの攻撃をかわすのは難しいことじゃないってこった。
そうして俺が注意を引きつけている間にフレンが特大の剣で腕や胴体へと剣撃を繰り出す。即席のチームワークにしては悪くない連携と言っていいだろう。
しかし──。
「埋まってたのか……」
ただ思案の隙間を埋めるために深い意味のない呟きをしながら、施設があった場所へと視線を向ける。
もはや施設は衝撃の余波によって瓦礫の山と化していて原型が残っていない。
あっという間に跡地と化したおかげで、施設に隠れていた巨人の全体像が露出していく。
縮尺的に異様にアンバランスだと思っていた上半身は、それもそのはずで下半身がそもそも無く、埋まっているというよりかは根を張っているかのように、地面から上半身だけが生えているような異様な立ち姿をしていた。
なんでこんな姿を取っているのかは見当もつかないが、こうでなければならない不都合かなんらかのメリットでもあってなっているのだろう。
とはいえ、外見の構造上の弱点はいくらか把握できる。
「なあ、どうする?」
「どうしよっか」
一度巨人から大きく距離を取りフレンと合流する。
今度は背中合わせではなく、同じ方向を向いて巨人の様子を観察していく。
「やっぱ、あの位置からは動けないみたいだな。そうなると、あれの射程は腕の長さ分というわけか」
「口からビームとか撃ってくるかもしれないよ?」
冗談みたいなフレンの返答だが、本当に撃ってきてもおかしくない様相だから困る。
「で、どうする? いっそ逃げるか?」
今のところビームとかそういうのを撃ってきそうな気配はない、いっそのことこのまま巨人を無視して船に逃げるのも手ではあるが……。
「いや、船の脱出中を狙われる可能性もある。それは最後の手段にして、こいつはここで仕留めておきたいんだ」
「だな、やっぱ」
まあ、そうなるよな。
本当にビームを撃ってくるかは置いておくとしても、何をしでかしてくるかわからないのを放置するのは、現状ではいい考えとは思えない。
「でも、怖いんだったらボク一人でやるけど? 今からでも、キミは船に戻って待っていてもいいんだよ」
「へ、冗談。その程度の気概なら最初から来てねえよ」
「かなりの好戦的だね。そういうの、ボクは結構キライじゃないよ」
褒められているのか微妙な評価に苦笑を漏らしながら、巨人への視線を外さないよう警戒しながら本題を口にする。
「火力を持たない囮の俺が言うのもなんだが……埒があかねぇよな、このままじゃ」
「だねぇ、このペースだと、下手したらこっちがジリ貧になるかも……」
力に大きな差があるわけではない、そもそもこっちは二人がかりだ。単純な総合戦闘力ではこちらが優位にある。
ただ、この巨人を倒すには圧倒的に足りていない。
「決定打不足、だな?」
「そ、攻撃は当たってるし、なんなら何度か頭や心臓も破壊してるんだけどね。アレの再生力は異常だよ……」
そう、フレンの言う通り決して急所への攻撃を行わなかったわけじゃない、むしろ頭を切り落としたり心臓を貫いたりを数回は行っている。
だが、切ったり貫いたり叩き潰したりしている端から即座に再生が始まり、下手したら切り落とされた部位が自立行動をしたり元の躰に取り込まれに行ったりしている始末だ。
現に今も大きさ相応に時間はかかっているがみるみると再生しており、しかも嫌らしいことに腕などには時間がかかっているくせに、重要な器官だと思われる脳や心臓の再生は馬鹿みたいに早く一瞬で治りやがる。
まあ、逆に言えば、そこが重要な場所だっていう証明でもあるわけなんだが……。
「ボクが知っているのと同じなら、基本的にあのボディの再生力のほとんどを占めているのは心臓のはず……だけど、大きすぎるのか何か変異を起こしているのか、普通に心臓を潰すだけじゃ、あの再生力は止められない……」
「もっと強力な火力か、もしくは心臓だけじゃなく他のところも一気に破壊しなくちゃいけないってことか?」
「見当はついてる、けど……」
言いよどむフレン。これまでの飄々とした雰囲気とは違い、いくらか余裕がないように思える。
おそらく確信がないんだろう、あの巨人を倒すための当てはあっても、それが絶対であるという確信が。
「失敗すればボクだけじゃなく、キミやあの子も無事じゃすまないと思う……」
つまり失敗が許されないということで、失敗すれば自分の命だけでなく他人の命まで危険にさらしてしまう。フレンは今、そういう心境に立たされているんだ。
言葉にすればあっけない言い分ではあるが、実際にそれを言葉にして自覚をすることが如何に重いか……。
「いいぜ、失敗したら一緒に死んでやるよ」
「えっ?」
「俺の心配なんかしてんなよ、元々そういう話だったろ? どっちにしろ、ここで上手くいかなければ、俺もおまえもあの子も助かる方法なんかないんだしな」
なら、今のこいつに必要なのは後押しだ。やってもいいと、実行に移しても問題ないという発破をかけての太鼓判。
「それに死んでやるとは言ったけど、死ぬ気なんかないっての、そこんとこ勘違いしてんじゃねえよ」
と、ついでに混ぜる俺の言い分。
「要は信用してやるって言ってんだよ。その作戦に乗ってやるから、おまえはうだうだ考えてねぇで、俺に指示して成功させることに集中しやがれ」
「どうして……」
ほんのわずかに視線を向けたことでフレンと目が合う、その表情からは疑問とも困惑とも取れる複雑な顔をしており、これから言う言葉のことを考えてしまうと自然と目をそらしてしまう。
「そこまで信用できるのか、ってか? ……いいか? 一回しか言わないからよーく聞いておけよ」
「う、うん」
正直、あまりかしこまって聞いてほしくはないんだが、ここは流れに任せて一気に言わせてもらう。
「俺はおまえが気に入ってるんだ、確約とか根拠とか理屈とか知ったことか、気に入った奴を信じて何が悪い! 分かったか? 分かったんだったら呆けてないで、とっととおっ始めんぞ、フレン!」
「あっ……ふふ、分かったよ」
それでいい、その自信と余裕を含んだ口ぶりだ。それが聞ければ後は任させてもらうぞ。
「ボクの作戦のために、キミの命を貸してもらうよ。いいね?」
「使え使え、それで勝てるっていうんなら好きなだけ利用しろ」
調子が戻った様子のフレンの声に自然と笑みがこぼれる。あまり知らないタイプの高揚感だが、気分はいい。
見れば巨人の再生もほぼ終わりかけ、こちらをじっと見すえている。
「感じ取ったみたいだね。ボクらの気の変わりようを……」
全力も全力、次で決着をつけるという意志を見て取ったってか。
「なら、あえて言わせてもらうぜ──」
死ぬ気も負ける気も退く気もない、そんな気概を抱いたなら言うことは一つしかないよな。
「勝つのは、俺たちだッ!」
決着を決める戦いの火蓋が今、切って落とされた──。




