13話 決戦 ─白騎士との共闘─
目まぐるしく変わる光景を尻目に、高速で荒野を駆けていく。
この速度ならば、レフレンタールと合流するのは数十秒もあればいけるだろう。
「近いな……」
遠くで響いていた戦闘音と思われる衝撃音に段々と近づいていくのがわかる。
レフレンタールと別れてから長く見積もっても数分程度しか経っていない、いくらあいつに自信があったといっても、さすがに数分で終わらせられる相手とは思えない。
「お、っと」
そうこう考えているうちに音の震源地に到着し、近くにあった瓦礫に身を潜めるように滑り込み周囲を見渡す。
瓦礫越しに聞こえてくる数度に及ぶ鈍い風切り音と、爆発音のような轟音と共に伝わってくる振動が事の激しさを感じさせてくる。
「よし、間に合った」
その音の発生源の一人、鈍い風切り音を発しながら巨大な剣を振り回すレフレンタールの姿を瓦礫越しに見つけた。
気持ち引き締まっているようだが、別れた時と変わらない涼しい表情を浮かべながら、振り下ろされていく巨人の腕を難なく切り払い、時には切り落としていく。
切り落とされた巨人の腕は地面に落ちて間を置いてから出血が発生していき、そのあり様は無骨で分厚い刀身でありながらすさまじい速度と切れ味を誇る証拠である。
こちらへの反応や挙動から薄々と感じてはいたが、あいつも自分に勝るとも劣らない規格外の身体能力を有していたみたいだ。
まあ、そうでなければ足止めなんか引き受けないだろうし、こっちの力を把握なんかできるわけもないから想定内といえば想定内。
しかし、それはそれとして──。
「なんだ……この違和感は?」
確かにレフレンタールの斬撃は破格、身長を超える剣をしなる鞭のように振り回せているだけで、その膂力が人間をやめていると思わせるには十分すぎるものだ。
だけど、それにしても何かが足りないような気がする。
──そう〝足りない〟んだ──あれだけのバカでかい得物を小枝ぐらいの軽さで振り回しているというのに、それにふさわしい〝音〟が伝わってこない。
現に、巨人の拳が地面にめり込んだときには、周りをぐらつかせるほどの衝撃と炸裂音を発している。
極端な話、レフレンタールの斬撃は巨人の一撃に匹敵するか超えるぐらいの破壊力を持っているはず。だというのに、爆発音とは程遠い鈍い風切り音しかしない。
場所が場所だ。もしかしたらそういう処置をしているかもしれないが、それならそれで巨人側の説明がつかないためこれはないだろう。
となれば……。
「そういう戦い方をしている?」
衝撃をできる限り起こさずに戦う手段──被害が出ないようにする以外のメリットが思い浮かばないが、そういう闘い方があって、あいつはそれで戦っているとしたら?
もしそうならなんだか凄そうだな、これが片付いたら教えてもらおう。
などと打算的なことをうっかり考えていると、レフレンタールの背後に近づこうとする塊に気づく。
それは何本と切り落とされた巨人の腕のうちの一本であり、周りの腕にまぎれながら触手状に伸ばして先を尖らせた指で、レフレンタールの背中を貫かんと真っ直ぐに勢いよく伸ばしていた──。
──気付いていない!
そう思ったのと同時に、躰が弾けたように反射的に飛び出していき、気づけばレフレンタールの背の前で触手に胸部を貫かれていた。
「ぐッ……!」
「キミは!」
「いッ……てぇッッ!」
胸部の中心だったことが幸いし、心臓への直撃はなんとかまぬがれた。この躰のことだから、直撃を受けたところで死にはしないだろうが、それでも潰されて愉快なことは起きないだろう。
「はッ!」
身をひるがえしながら触手を切り落としたレフレンタールと背中合わせにして構えていく。
恐ろしいぐらいに動悸の乱れを感じさせない息遣いに、本当に余裕でやり合っていたんだなと認識させられる。
「背中ががら空きだったぜ」
「串刺しにされてたのによく言うよ」
「一応、助けたつもりなんだが?」
背中合わせになり死角が無くなったからか、巨人に警戒の色が見え軽口を叩く余裕が少し生まれた。
もっとも、後数回の言葉を交わすのが限界だとは思うが。
「あれぐらいが助けにならないのは、キミの躰でよく分かってるんじゃない?」
「ごもっともで」
まあ、そうだろうなとは思う。仮に不意打ちが決まっていたとしても致命傷になるとは思えないし、平然とそのまま戦闘を継続しそうだし、逆の立場だったら俺もそうしただろう。
すでに貫かれた胸が服と共に再生を終えているのが正にその証左。
「……あの子は?」
「船で待ってる。あそこなら安全なんだろう?」
「そう、それでボクのところに……」
背中越しなのもあって表情は見えないが、わずかに曇ったトーンに聞こえた声からは心配の意が汲み取れる。
驚きではなくどちらかというと困惑寄りにも聞こえることから、やはりあの船に居れば安全なのは間違いないようで、こいつを信用したのは正解だったと改めて思わせてくれた。
「てっきりあの子と一緒に居ると思ったけど、案外人情家なのかな?」
「そんなんじゃねえよ」
「ならなんで……」
よほど想定外だったんだろうな、俺が来るのは。
大きくはないが焦りが見える。さっきまで見せていた飄々としたこいつの態度から考えれば、この焦りは一般的に考えるのよりも大きいということだ。
「まあ、言いたいことはあるんだろうけどよ……俺が今聞きたいのはひとつだけ、俺は足手まといになりそうか?」
「随分と強引だね……囮ぐらいにだったら、それなりに役に立つんじゃない?」
「ならよし、それで十分だ」
もう少し軽口を叩き合ってもよかったんだが、そろそろお相手さんの巨人が痺れを切らしそうなんでな、それが聞ければ後は勝手にやらせてもらうってね。
「というわけでよろしく頼むわ。レフレンタール」
「なんだかなぁ……フレンでいいよ」
「おっ? へへ、よろしくな、フレン」
呆れか諦めか、小さなため息を漏らしてから聞かされた相方の愛称は、なんとなく一緒に戦うことに対して乗り気になってくれたという感じだ。
いいね。こういうの嫌いじゃない、むしろ燃えるってやつだぜ。
「……恩には着ないよ?」
「上等ッ!」
その言葉を聞きたかった。一方的に恩を感じたままなのは癪なんでね。
それが合図とばかりに、背中合わせから飛び出していき、巨人の左右から攻めるように俺とフレンは駆け出していった──。




