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PROTOPIA ─地球人最後の少女─  作者: 叶あたる
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12話 約束



 開閉された扉が閉まるのを確認してから、船内を軽く見回す。


「なん、にもないな……」


 ドーム状にくり抜かれた空洞と言っても差し支えないレベルで、船内には物らしい物が見事に無い。

 いや、物どころか機器の類すら見当たらないってどういうことだ。

 船は船でも宇宙船と思っていいんだろ? なのに電子パネルどころか操縦桿(そうじゅうかん)の一つもないって……どうやって動かすんだ?


「うーん……」


 まあ、あくまでこの子を避難させるのが目的であって、この船を使って何かをしろという話じゃなかったわけだし、動かせないのはこの際いいのか。

 なら、これがあいつの宇宙船としては正しい内装ということになるんだろう。

 ……なんだか化かされたような気分ではあるが。


「とはいえ、ここなら安全か」


 コートに包んだまま少女を壁に寄らせるように下ろしていく。

 変わらず少女は虚ろな表情をしており、ここまで変わらないとかえってその様子に安心感を覚えてしまう。


 ──あいつの言葉を信じるなら、ひとまずここに居れば安全ということになる。

 できれば武器の一つでも見つけておきたかったが、現状では船内設備の使い方が分からない以上、無い物ねだりをしても仕方がない。

 この子の安全を確保できただけでも十分、これ以上を求めるのは趣味じゃないってね。



 さて──。



「……んっ?」


 ある考えを実行に移すために立ち上がろうとしたとき、ズボンの裾を引っ張られ動きを止めてしまう。


「あっ……」


 裾の先へと視線を向けると、先ほどまで微動だにしていなかったはずの少女の手が握られていた。

 意識が回復したのか、それともなんらかの無意識化による行動なのか……。

 その反応に少なからず喜びを感じながら同時に申し訳ない気持ちも抱きながらも、少女の前に屈んでからそっと手を握りしめ返す。


「わりぃ、少しだけ……少しの間だけ、ここで待っていてくれ」


 握りしめた少女の手は本当に小さく、力を入れてしまえば壊れてしまいそうなほどに繊細だった。

 何を知ったかと自分で突っ込みたくなるが、子供を預けようとしているときの親は、もしかしたらこんな心境なのかもしれないと勝手に想像する。


 本当は側に居てあげたい、だけどやるべきことがあって、そのためにさみしい思いをさせなければならない後ろめたさ。

 いいや、ただのわがままだ。やるべきことだなんて使命感を付与していいもんじゃない。


 ここで待っていれば、おそらくは最低限の安全は確保できる。なら、この子と一緒にあいつが戻ってくるのを待てばいい──。

 確かにその通り、それが利口だと言える。

 けど……。


「俺は、あいつを助けに行きたい。俺たちを逃すために俺を信用してくれたあいつを」


 義理とか恩に報いるとか、そういう立派な心意気なもんじゃない。


 もしも、もしもあいつがやられてしまったら?

 この船を飛び立たせることができなくなるし、あの巨人が船までやってくるかもしれない。

 そういう保身的で保障的な考え。


 ──を理由にした、至極わがままな理屈。

 助けたい? いいや、あいつに助けなんて必要ない、あいつから一人でもやれるっていう余裕を感じた。

 俺が今考えているのはそんな比較的まっとうなもんじゃない。


 あいつと一緒に戦ってみたい──。


 我ながら好戦的なのかもしれない。

 この躰とあいつの力、それを合わせればどんな戦いを繰り広げられるのか。

 それを見て実際に体験してみたい──好奇心と好戦的が合わさった物の考えだ。

 けど、だからって死ぬ気はないしそれで君を独りになんてしない。


「約束する。必ず戻ってくる。あいつと一緒に、ちゃんと帰ってくるから」


 裾を握っていた少女の手が解けていく。

 何も覚えていない自分……そもそもこの子とは本来なんの関わりもないし、お互いの名前すら知らない程度の関係性だ。

 家族でも見知った仲ですらない、そんな奴が交わす約束にどれほどの価値があるのかわかったものではない。


「だから、ここで俺たちが帰ってくるのを待っていてほしい……」


 だけど、だからこそ俺にとっては大きな分岐点になるんだと感じる。

 ここでやり遂げられなければ、なんていうか……自分の生き方を信じてやっていけなくなるような、そんな直感的な意志のようなものが魂をよぎっているんだ。

 ここで戦え、戦って勝ってこの子のところに戻ってこいってな。

 オカルトとかスピリチュアルとかそういう未知的で曖昧じゃなくて、確固たる導きのような意志の動きが俺には見えてるんだ──。


 小さな手を少女の膝にそっと重ねていき、ゆっくりと立ち上がる。

 こちらの意志を汲んでくれたのか、もう裾を握ってくる様子は見られない。


「ありがとう……」


 カードキーを壁にかざすと入ってきた時と同じように開閉されていく。

 船を出る前に一度振り返り、変わらぬ姿でたたずむ少女を一瞥(いちべつ)する。

 焦点は合っていないが、こころなしかこちらのほうを見て送り出してくれているように感じた。


「行ってくるよ」


 それだけをひとりごちてから船と少女を後にし、俺は眼前に広がる荒野へと再び駆け出していった──。

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