11話 船へ ─力の自覚─
──白騎士の姿を見送ってから数十秒ほど走り続ける。
施設から離れれば殺風景な光景が広がっていき、さっきの施設以外の人工物は今のところ見かけない。
あるとすれば精々舗装された平らな道路ぐらいで、それも一部は破損してひび割れている。
倒壊したビルとかでも立ち並んでいれば、いわゆるポストアポカリプス的な荒廃した雰囲気でも感じるだろうな。
「…………」
背負った少女越しに、自分が走ってきた道を振り返る──。
殺風景なおかげで小さくぽつんと見える建物が、さっきまで居た施設だというのはすぐに分かった。
どうやらほんの数十秒だというのに、あっという間に数キロは余裕で走ったらしい。
「速いな……」
正面に向き直して、ある考察を巡らせていく。
──人間の理論上の最高速度は時速60キロ、分速にして1キロになり、秒速に直せば約16メートルぐらいが限界だと聞いたことがある気がする。
これは筋肉の収縮速度と負荷に耐えられる限界を見た場合の理論上の速度であり、それ以上の筋肉の収縮速度と負荷に耐えられるのなら、理屈としてはそれ以上の速度を出すことも可能という。
そう、例えばこの躰のように、走る──というよりかは翔ける──高く跳ぶのではなく、低空ぎりぎりのラインを滑るように駆け抜ける跳躍をすることで、人間の限界速度を超える速度を出せている。
「時速100……いや、そんなもんじゃない」
施設の縮尺具合と俺の体内時計の勘から適当な数値をあてがって、約50秒ほど走り続けて6キロと仮定したら──時速約430キロという解が導き出せる……うん、ざっくりとしても頭の悪すぎる数値だ、自分で答えを出しておきながら苦笑が出てくる。
なにせ高速新幹線を超える速度を人間が叩き出しているのだ、そんなのはもはやびっくり人間とかいう次元じゃない。
けど、流れている風の動きと空気の圧迫感には少なからず覚えがあった。
これは電車からうっかり顔を出したときに感じた、あの風の感触に似ており、それを数倍に強くしたものだと考えれば、今の速度計算がまったくの的外れではないと思える。
「やべぇよ……」
無数の銃弾を受けての無傷、数トンはあろう衝撃を平然と受け止める怪力、そしてこの速度──。
この躰が特殊だったしても、およそ人間と遜色ない姿で行っていいようなことじゃねえよ。
小刻みな震えが止まらない。
ぞわぞわと込み上げてくる昂りが抑えきれない。
なあ、次は──?
「次は、何を見せてくれるんだ」
なんとなく分かる。この躰の力、これだけじゃねえよな。
自分で自分に問いかけてしまいたくなるほどの高揚感が俺の魂を満たす。
まだあるんだろう? 見たいぜ、どこまでのことがどれだけできるのかを。
──ああ、分かっているさ、最優先はそっちじゃない。この子を守る、その初志を違える気はないし変える気だってさらさらない。
それを踏まえた上での好奇心だ、止められねえし、止める気なんてかけらも湧かねえよ。
……覚えていないのにそういうのはしっかりと分かっている、つくづく都合がいいもんだな。
だけどそれでいい、それの何が悪い。
──この子を守る、力も知りたいし、守るために利用だってする。何もおかしなことはない。
そして──。
「っ……」
そういった考えを巡らせていると、視線の先で何かを発見し、目の前で足を止めてから見上げていく。
「これが、船……」
真ん中が膨らんだホットケーキという形容が出てくる、ちょっとした簡易住居ぐらいのサイズの円盤状の形をした船が、発着場と思える場所に停泊していた。
こいつがレフレンタールの言っていた船だとすれば、こいつで中に入ることができるはず……
左手をズボンのポケットに入れ、レフレンタールから渡されたカードキーを取り出して船の表層を調べていく。
「不思議な材質だな……」
金属とも粘土とも違う質感を持った材質。
鏡のような反射を映すが、手を這わせればざらざらとした手触りが伝わり、曲面ではあるが摩擦係数はかなり高そうだ。
かすかに力を込めれば凹みができるほどの弾力があり、どことなく有機的にも思えるその材質は、施設で見たロボットを彷彿とさせる。
「……どこが入り口だ?」
シルエットは良くも悪くもシンメトリーで、船から見てどっちが前方でどっちが後方かすら分からん。
何か意図的なものがあるのだとは思うが、今の俺の心境的にはそのデザイン性に煩わしさしか感じない。
「ん?」
流行る気持ちをなんとか抑えながらひたすら探していくと、突然、握っていたカードキーが反応した気がした。
「今、もしかして光ったか?」
反応したと思われる箇所を重点的に調べると、気のせいではなく、確かにカードキーが反応する場所があることに気づく。
滑らすように、しかしわずかな隙間すらも見逃さないようにくまなく小刻みに調べていき、ようやく。
「……ここか!」
特に反応が強いところに視線を向けると、紋様にも配線のようにも見える薄緑色の光が浮かび上がっている。
おそらくスキャナーの類だろう、カードキーを光の上にかざしていく。
「おっ──」
すると、俺から見て右手側の箇所が、まるでパズルのピースが抜けていくかのように消失していき、船への入り口が現れた。
「よし!」
カードキーをポケットに入れていき、レフレンタールの船へと入っていく。
さながら気分は、未知の文明へ一歩足を踏み込んだ最初の人類、そんな気分だった──。




