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PROTOPIA ─地球人最後の少女─  作者: 叶あたる
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9話 巨人

 巨人──そう形容するしかないほどの巨体を持った生物が、爆音のような咆哮を発しながらそこに鎮座している……。


 角度や遠近にもよるが20メートルは優に超える巨体は、しゃがんでいるのか埋まっているのか下半身はよく見えず、それを踏まえた上でも上半身がほとんどを占めるように見える(いびつ)さをしており、直立した胴体から生えている頭部や両腕のシルエットは人のそれに酷似して正に巨人といった様相だ。


 ただ、異質と言える部分も多い。

 まず皮膚、正確に言えば全身の皮膚と呼べる部分は無く、酷く(ただ)れて(ふく)れ上がったピンク色の筋組織が剥き出しの状態になっており、それがいくつも層のようになってる様はまるで固まった溶岩のような波状になっている。

 顔も目や鼻や口が同様に爛れており、目は(くぼ)んで鼻にいたっては原型がなく歯は剥き出しと、控えめに言ってもその姿は痛々しく、剥き出しになった筋組織が外気にさらされての痛みで叫んでいるのではないかと思ってしまうほどだ。


 ……意思疎通はできるだろうか? 正直、あまり賢そうには見えない。

 瓦解した建物の端々に着いているピンクの肉片は、おそらくこいつの一部と見てよさそうだ。

 だとすれば、かなり荒々しい気質を持っていると思うのが普通──。


「……ん? ちょッ!」


 そう考えをまとめようとした瞬間、巨人の顔がこちらへと向いたのが見えた。

 げ、マズイ……。

 すぐに何かをしてくるとは思えないが、ロボットの件もある。ここはいったん距離を取って、せめてこの子だけでも遠くに避難させたい。

 今回はこちらも気づいている。意識が向いているこの状態なら、何かあったとしても、この子を連れて跳ぶことぐらいはでき──。


「……へ?」


 少女のほうを向き直し、抱えようとしゃがみ込んだ瞬間、自分と少女を黒い影が覆っていくのに気付き振り向く。


「なッ!」


 振り向いた先では、一軒家の天井ぐらいの大きさはある巨人の手のひらが、こちら目がけてとてつもない速度で振り下ろされていた。

 速いッ──!

 間に合わないと悟り、受け止めようと両腕を真上に伸ばす。


「ぐ、うぅおぉぉッ!」


 びきびきと鈍い音を立てて足元から床が突き抜けるも、目測数百キロはあろう巨人の手のひらをなんとか受け止めながら、腰を入れて持ち上げていく。

 振り下ろされた風圧で少女が吹き飛びそうになるのが見えたが、受け止めたことが功を成してか、少し離れた程度ですんだようだ。


「ふぅ……」


 さて、無事なのはよかったけど、どうする……この躰の強靭さに疑いはないが、さすがにこうやって潰れないように支えているので手一杯。

 なんだかんだいってきつい、というか重い……。

 数百キロと目測を立てたが、それはなんの力も入れずに乗せてきた場合の話で、実際は勢いよく振り下ろされて力も入っているわけだから実質負荷は数十倍にもなるはず。


 ……ていうかなんだ、さっきのスピードは?

 こんな巨体が動くには、前動作やら予備動作で物理法則的にかなりのラグというか、少なくともあんな速度で動けるもんじゃないはず──。

 しかも、ほんの一瞬だけ視線を外した隙に、だぞ。

 まあ、現在進行形でこんなことをしている俺が言えたこじゃないが……とにかく、運動エネルギーとか物理法則とかそういうのを鼻で笑ってしまうような、そんな現象が起きているってことなんだろう。

 そういうことだとすれば、なるほど納得だ。理解した……それで──?


「どうするよ、俺」


 それが分かったところで状況が変わるわけじゃない、んなことたぁわかってる。

 考え事をするのがクセだなんだといったところで、泣き言を感じている場合じゃない。

 把握と考察はここまで──ここからは腐った脳をフル回転させる時間だってね!


 

 ──さあ、どうする。このまま耐え続けるか? ぷるぷると躰は震えてはいるが、それでも疲れが蓄積するような感覚はまったくない。

 その気になれば、数時間でも数日でもこうしていられる自信はある。

 持久戦に持ち込むのは望むところだが、しかし、それで解決するというビジョンが浮かばない……。


 見れば体重による質量の差はあるが、こうやって持ちこたえられている以上はパワーは互角……ならば真っ向勝負、その状態に持ち込めればあるいは──。


「……ッ!」


 そんな考えをまるで砕かんと、巨人の左腕がこちらへと向かって振り抜かれようとするのが見えた。


「くッ、そォッ──!」


 もはや考えている余裕はない、こうなったら一か八か──!

 支えていた巨人の右腕を手放し、瞬時に倒れている少女を包み込むように抱きしめる。

 俺の肘と膝を支えにして抱きしめれば、右腕に潰されても肘と膝が地面にめり込むだけで済ませられるかもしれない。

 左腕に弾き飛ばされたとしてもそれならそれでいい、考えようによっては、そのまま少女をかばいながら一緒に吹き飛ばされるのもアリだ。

 やぶれかぶれな行動にも思えるが、この躰を最大限利用した俺の中で一番成功確率の高い行動といえる。


「……ッ!」


 なら後は結果を受け止めるしかない、この行動による結果を──。



「…………」



 刹那──空を切る激しい音が二振り聞こえてきたのと同時、地響きのような衝撃音が響く。



 ……おかしい、なんの衝撃のようなものを感じない──。

 数秒も経っていないとはいえど、振り下ろされた腕と振り抜こうとしてきた腕、その両腕のどちらかによって、俺の躰を潰そうとするなり弾き飛ばそうとするなりしてもいいころのはず。

 もしかしたら、何も感じれられないほどの衝撃で、すでに俺は絶命しているのか……?

 可能性はあるが、この躰のスペック的に何も感じる間もなくやられたというのは、ちょっと考えにくい。

 それじゃ、さっきの風切り音と衝撃はいったい……。


「ゴォォォォォッッ!」

「なっ……」


 続いて響き渡ったのは、巨人の咆哮。

 なんだ? 何が起こっている。

 訳がわからないまま、俺は巨人のほうへと視線を向けようと振り向くと──。


「大丈夫かい?」

「……ッ!」


 突然、掛けられた声に反射的に身構えながら声の主を見つめる。

 そこには、長い金髪と白いマントを大きくたなびかせた白い騎士が、中性的な笑みを浮かべて立っていた──。

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