第26話 ★(挿絵有り)
俺とレインはいつもの料理屋ではなく、ランチを提供しているカフェでご飯を食べる事にした。
俺はふわふわ卵のオムライスを、レインは濃厚さを売りにしていたカルボナーラをそれぞれ注文した。
オムライスは口に含むと卵が綿あめのように溶けたと錯覚するほど柔らく、チキンライスも卵本来の味を壊さない程度の主張の味付けで、お互いの味を引き立てあって非常に美味しかった。
お互い食べ終わってから食後にドリンクを注文し、午後に買いに行く店について聞いていた。
「それで……レインさんが買いたい物って何? 向かう店を決めたいから教えてほしい」
「えっとね……ロキに新しいローブを用意してあげたかったから、おすすめの防具屋があれば連れて行って欲しいかな!」
ローブか……。ちょうどエストさんに頼んでいた俺とリビアの魔獣製の防具が出来上がった頃だから、「ハイエスト」へいく事にしよう。
「わかった。後自分のローブはいいの? レインさんへのお礼が目的だったから、出来たら何か自分のローブも選んでほしいかな」
「二人で旅をしていた時ロキが何回かレインを魔物から庇ってくれて、その度にロキの修繕はしてたんだけど流石にボロボロになってきてて……。レインのローブはお陰様でほぼ無傷だからまだ大丈夫!」
「そっか。ならロキさんの為にいい物選ばないとな」
「うんっ!」
「ゆっくりでいいからドリンク飲み終わったら、さっそく俺の利用している店に向かおうか。店主がちょっと独特だからちょっと覚悟してて」
「えっ、どゆことどゆこと!? 気になるから今教えてよー!」
結局俺はレインを驚かせるために、エストさんの事は説明せず店に向かうことにした。
その為移動中はずっとレインが、どんな店主なのか予想していたので非常に賑やかな道中となった。
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「あはは! 確かにテイトさんの言ってた通り、独特な店主さんだね! だけどお店の品ぞろえは豊富だし、質も良さそうだからテイトさんが利用しているのも分かるなー!」
リビアが初めて訪れた時と全く同じ反応をレインも見せた後、俺達は店内でロキのローブを選んでいた。
レインからロキの好みを聞き、男目線での意見が欲しいという事で色々と悩んだ結果、シンプルな紺色のローブを選ぶことになった。
そうして会計の為にレジへ向かおうとする時、レインが一点を見つめていることに気付いた。
「あのローブ可愛くていいなぁ……」
そういうレインの視線の先には今着ているゴスロリ風のローブに近いローブが飾られていた。
ふむ、あんな感じのローブが好きなんだろうな。気に入って欲しいんだろうから、ロキのローブを買う際にこっそり買ってしまおう。
ただサイズが合うか分からないからなぁ。
……いや待てよ。レインに試着だけって事で着用してもらい、問題無いこと確認すればいいか。
そう思い至った俺は、今だ物欲しげな顔をローブに向けていたレインに試着の提案をする。
「試着するくらいならいいんじゃない? 他に一着買うんだからそのくらい許してくれるよ。それにレインさんに似合いそうだから着ている所見てみたいな」
「そ、そうかな……それじゃあちょっとだけ……」
そう言ってレインはいそいそと目当てのローブを持って、試着室へと向かったので俺も試着室近くで品物を眺めて時間を潰した。
――シャー
数分後試着室のカーテンが開く音がしたので振り向くと、ローブを来たレインが居た。
「ど、どう? 似合ってるかな?」
「おぉー……」
ローブはレインの華奢な身体に丁度いいサイズで、俺の思った通り彼女によく似合っていた。
「えぇっと……あんまりジッとと見られるのは、ちょっと恥ずかしいなぁーって思ったり?」
そういうレインはいつもの元気な姿からは余り想像の出来ない、恥じらいの表情を浮かべている。
むぅ……見慣れない格好と普段の言動によるギャップのせいか、普段から可愛い彼女がもっと可愛く見えてきた。
「確かにそうだな。というか凄く似合ってるし、気に入ったならロキさんの分と一緒に買うよ?」
「うーん……いや、いい! 流石にそれは悪いから、お金貯めて自分で買いに来るよ!」
「そっか、分かった」
そうして少し名残惜し気なレインがまた試着室で元の服に着替え、出てきたところで俺が戻すという体でローブを受け取った。
そのままロキの分のローブを購入してくると言って、どちらもレジに持っていき購入した。
ロキの方は袋に入れてもらって、レインのローブはストレージリングへと収納する。
レインへのローブは後で彼女を驚かせるため、レインがロキへローブを贈った時に合わせて俺から贈る事にする。
そして会計の時に俺とリビアの魔獣防具が出来上がっているとの事だったので、それも受け取って俺達は店を後にした。
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俺達街の少し外れにある大きな公園内のベンチで、近くに居た屋台で購入した飲み物を飲みつつ一息ついていた。
「テイトさん、ほんとにありがとう!」
「助けてくれた事へのお礼だからね。こちらこそ新ためてダンジョンでは助けてくれてありがとう」
「お礼をしてくれた事もそうなんだけど、私がブレイダーって知った後も、ちゃんと一人の人間として扱ってくれたことに対してのお礼!」
「それは……普通のことじゃないか?」
「ううん、そんなことはない。明らかな態度を取る人は少ないけどレイン達ブレイダーの事、無意識に人間じゃなくて物扱いしている人もたくさんいるよ?」
レインは飲み物を一口飲み、喉を潤してから続ける。
「今まで組んできた臨時パーティーたちはみんなそうだった。私がブレイダーだって分かると、言動の節々からそういう意図を感じるようになるんだ」
「……君たちブレイダーは生きているじゃないか。こうして言葉を交わすこともできるし、寝食だって共にすることもできる」
「うん、そうなんだけどね……。冒険者は自分の装備に拘ることが多いから、もしかしたら冒険者特有の事なのかも」
そこでレインは正面に向けていた顔を、こちらに向け笑顔を見せた。
「今まで私が力を使って助けたパーティーの人達は、テイトさんみたいにお礼をしてくれた事はなかった。だからレイン本当に嬉しかったんだよっ?」
「……そっか。喜んでくれたならお礼してよかった」
「うんっ! それでね……そんなテイトさんだから、レインが旅をしている理由聞いてほしいんだけど、聞いてくれないかな?」
冒険者が旅をする理由はさまざまだ。それを話してくれるということは、よほどこちらを信用してくれていることの証左に他ならない。
それに今後正式にパーティーを組む事だし、パーティーメンバーの事情は話してくれる時に、ある程度把握しておくに越したことはないと思う。
「……わかった。聞かせてほしい」
そうして俺は彼女がお母さんの仇をとり、更にその仇からお父さんを取り戻す為、自分の契約者となる人物を探し出すため、旅に出ていたことをきいた。
「でもね、旅はもうおしまいにしようと思ってるんだ」
「えっ……?」
「仇は凄く強くてね、レインが自分の力を完璧に制御できる事と、契約者になってくれる人がを見つける事が最低条件なんだ。だけどどっちもぜーんぜん上手くいかなくて……今アイツと戦っても、きっとレインは何もできずに殺されちゃう」
「レインさんの炎でも全く歯が立たないの?」
「……うん。レインと同じように炎の力を使えて、完璧に力を制御できてたお父さんが敗けたから勝てないって断言できちゃう」
「それは……」
恐らく冒険者で言うと、Aランク以上の強さがあるんじゃないかと思う。
レインの火力はかなり高かった。だから制御が難しいのも頷けるし、制御出来た場合の強さもとんでもない事になるだろう。
そんなブレイダー相手に互角以上に渡り合ったその人物なら、仇討ちを諦めた方が賢明かもしれない。
「それにね、お父さんがレインに向けて言ったの『自由に生きて』って。今レインはロキと、テイトさん、リビアちゃんが一緒の冒険がすごく楽しいの! ずーっとこの日常が続けばいいって思ってる!」
「そっか、そう言ってくれると俺も嬉しいよ」
「うん! だからね、ロキに相談しないとだけど旅はもうやめて、敵討ちもアイツが目の前にでも現れない限り――」
その時レインが突然表情をこわばらせ、一点を凝視し固まった。
「レインさん?」
「――あの髪色とあの剣は……まさかそんな……このタイミングで……?」
彼女の視線の先を追うと、腰の左右に剣を一振りずつ差した、長身でガタイのいい灰色の短髪の男が立っていた。
「あの男が一体どうし――」
「燃えちゃえ!!」
そう言うなりレインは立ち上がり男にむかって数歩駆け寄ると、突然手加減無しの炎を放った。
炎は男との間にあるベンチなど、障害物を根こそぎ焼き払いながら男に向かって直進する。
炎に気付いた男が腰の左側に差していた剣を右手で抜くと剣に炎が生じ、その炎をレインの炎にぶつける事で対消滅させた。
「なんだァ? てめェ……」




