第13話 ★(挿絵有り)
「エストさん、こんにちは。あのエストさんのファンのお客さん俺が来るたびにいつも居ますね」
俺が店主のエストに挨拶をすると、エストは舌で軽快な音を鳴らしてから指を弾く。
「ッス」
「今日は彼女の防具を買いに来ました。防具見させてもらいますね」
「ッス」
そう言って俺は店内に飾ってある防具を物色し始める。この店の防具はエストが元デザイナーでもあるので、一般的な防具よりも装飾などが凝っていることが多い。
リビアは店内に飾ってあるデザイン性と機能性が高い防具を興味深そうに眺め、少ししてから頷いていた。
「確かにこのお店は大丈夫そう」
「あはは、そういえばリビアはそもそも戦ったことはあるの?」
「……実家で少し対人訓練はしてた。種族特有のスピードを生かして、ヒットアンドアウェイで戦えって教わってた」
「そうなると…重いフルプレート系よりも、俺と同じで要所だけ守る防具の方が良いかな」
「ん、テイトとお揃い」
「……お揃いといえば魔獣の毛皮で、俺の防具を一新しようと思ってたんだけど、リビアの分も一緒に作っちゃおうか」
「そんな、悪いよ」
「一人分だけ作っても毛皮は余ると思うから先行投資と思って」
「ん……そういう事なら制作代金は私が出す。いっぱいお金持ってきたから」
そう言ってリビアはショルダーから札束を取り出した。ヒノモトは治安がいいとはいえ、現ナマをほいほい取り出すんじゃあない。
「え、ちょっとしまってしまって! てかそれこそ悪いからいいよ!」
「ダメ、これ以上は譲れない」
しばらくこの問答が続いたが結局俺が折れ、制作代金はリビアに出してもらうことになった。
その後二人で店内に飾ってある防具の中から、気に入ったデザインの物を選んでそれを参考に防具の制作を依頼した。
頼んだ防具ができるまでは、俺のお下がりの防具をリビアに使用してもらう事になった。
「アス。大体一週間」
「わかりました、一週間後受け取りに行きますね。それじゃあよろしくお願いします。」
「ん、お願い」
こうして俺達は「ハイエスト」を後にしたのだった。
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防具の次はリビアの武器を買っていこうという話になり、いつも利用している武器屋にやってきていた。
「ハゲルさん、こんにちは」
ハゲルはドワーフなので小柄ながらかなり筋肉質な身体をしている。そして頭は完全なスキンヘッドになっていて、端的に換言すればハゲだ。
ちなみに本人は結構髪を気にしているらしく、髪についての話題を彼の前ではしてはいけない。
「テイトじゃねぇか。今日はどうした?」
「こちらの彼女、リビアの武器を買うか作っていただこうと思って」
「ん、リビア。よろしく」
「おう、よろしくな!」
「リビアは何の武器が得意なの?」
「基本的に剣を使っていたけれど、私の速さを生かせるように短剣を使うこともあったかな」
「ふむ、ならお嬢ちゃんの体格的に……こいつとかどうだ?」
そういってハゲルは店内に提示してあった剣と短剣から、一本ずつ選んで持ってきた。
「外で軽く振ってみてくれてもいいからよ」
「ん、振ってくる」
そうしてリビアは外に出ると腰を落とし、剣を右後ろに構えた。
「――シッ」
リビアは一言呟くと前の方へ駆けだし、少し進んだところで左足を軸にして反時計回りに急ターン、こちらに正面を向けた状態で切り上げを行う。
その後は連続で剣を振り回したり、ヒットアンドアウェイの動きを繰り返していた。
そしていつの間にか剣を地面に置いて、短剣を逆手にもって突きなどを繰り出している。
「……それにしても速い」
「あぁ、獣人固有の身体能力の高さを生かしているいい動きだ。お嬢ちゃんやるな」
魂の契約覚醒後の俺の身体強化発動時の速さよりは少し劣るが、それに近しい速度が出ているようにみえる。
正直リビアと力を合わせていれば、魔獣を討伐出来ていたのではないかと思うほどだ。
まぁあの時は彼女に貸せる武器が無かったので、たらればの話なのだけれども。
そんなことを考えていると一通り振り終えたのか、リビアが気づくとこちらに向かって歩いて来ていた。
「振り心地はどうだった?」
「ん、剣はもう少し短いといいかな。短剣は長さはいいけどもう少し重さが欲しい」
「あいよ!ちょっと待ってな」
リビアが要望を伝えるとハゲルはリビアから剣を受け取って、店内に戻り別の剣と短剣を持って来てくれた。
それを再度同じようにリビアが振り回す。
「ん、いい感じ。これにする」
「毎度あり! 腰に帯剣するためのベルトはオマケしとくぜ」
「ん……ありがとう」
「そういえばハゲルさん。ひとつきたいことがあるんですが、魔獣石を使用して魔法剣を作ることできますか?」
「あん? なんだ、お前さん魔獣石手に入れたってのか」
「えぇまぁ色々あって」
「作ることは可能だがちょっと特殊な材料が必要でよ、今は在庫切らしているうえに仕入れも時間かかりそうなんだわ。最近は魔獣の発見数と討伐数が増えて物流が滞っているからなぁ」
「そうなんですね……。ちなみにどのくらい時間かかりそうですか?」
「あぁ~、ざっくりとしか答えられんが一、二ヵ月はかかると思っててくれ」
結構時間かかるな……ならその間にエンゲージリングで強化される身体能力に慣れて、それに合わせた武器を後で作ってもらうことにするかな。
リビアの戦力強化を兼ねて、彼女の武器を作る方がいいかもしれないし。まぁそれも待ち時間に考えればいいか。
「分かりました、とりあえず材料の確保だけお願いしてもいいですか?」
「おう、いいぜ! 材料手に入ったら電話すっから待っててくれ」
「ありがとうございます。それじゃ俺達はこれで失礼しますね」
「またね」
そういって俺達はハゲルの武器屋を後にしたのだった。
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その後俺達はちょうどよい時間だったこともあり、少しカフェにて休憩しつつ今後のことを話し合う事にした。
俺はコーヒーを、リビアはアールグレイとジャムのセットに加えてケーキを五個頼んでいた。
「念のため明日もう一日休んでから、冒険者としてリビアと行動しようと思う」
「ん、わかった」
「ハゲルさんの武器屋で動きを見た感じ、最初から弱い魔物しかでない初心者用ダンジョンじゃなくて、中級になりたての冒険者が行くダンジョンでも大丈夫そうかな」
「頑張る!」
「初めは低階層の弱めの魔物で鳴らして行くつもりだから、そんなに気張らなくて大丈夫だよ」
「でもテイトと初めての共同作業だから」
初めての共同作業って言われると、結婚式のケーキ入刀思い浮かぶからなんか恥ずかしいな……。
ちょっとリビアのウェディングドレス姿を思い浮かべてしまった……。うん、似合いそう。
「はっ……。いや、そこは共同戦線と言って欲しいな。とりあえずダンジョンについての念の為の説明と、明日のダンジョンダイブについて話そうか」
「んっ」
「ダンジョンって言うのは百五十年くらい前に突如出現した、常に魔素が満ちていて魔物が出てくる構造物・場所を指すんだけど、魔物を倒すと魔物の本体は光となって消える。その魔物の魔石と素材がドロップするんだ」
「魔物はたくさん出てくるの?」
「基本的にそんなことはないかな。魔物は一定時間毎にダンジョンのランダムな位置にポップするんだけど、冒険者がダンジョンダイブして倒してるから間引かれているしね。だけど例外が三つある。それは湧き部屋、隠しダンジョン、高難度ダンジョンだね」
「他は何となく分かるけど……湧き部屋?」
「そこに少しでも踏み入ると魔物が一斉に発生する区画・部屋の事で、よくダンジョン隅にあるような部屋が湧き部屋になることが多いね。通説では魔素が滞りやすい場所に外部からの刺激が加わることで、魔素が一気に集まって魔物が発生するらしい。部屋って付いているけれど、部屋が魔素が集まりやすい条件を満たしやすいからそう言われているだけで、ごく稀に通路などでも魔物が湧く事はあるらしい」
「すごく危なそう……」
「危ないね。ただ湧き部屋に挑戦するメリットもあって、出てくる魔物を全て倒せると宝箱が出現するんだ。宝箱からは貴金属だったり貴重なポーション類、聖剣や魔剣といった特別な力を持つ刀剣類や、特殊なエンチャントが付与された防具・装飾品などが手に入る」
「なるほど、じゃあ湧き部屋ばかり行けばがっぽがぽ?」
そういうリビアは目を輝かせてこちらに身を乗り出してきた。
「短期間に何度も挑戦できるなら稼げるね。ただ湧き部屋は一度区間内の魔素をすべて使って魔物を発生させるから、魔素がまた充填されないと魔物は出てこないんだ」
「残念……世の中そんなに甘くない……」
俺の言葉を聞き露骨にしょんぼりとするリビア。なんとなく頭を撫でてあげたくなるのを堪えて話を続ける。
「ははっ、まぁリビアが言っていたように湧き部屋への挑戦は、さすがに二人だと入念な準備をしても危険だし、俺達が挑戦するのはまだまだ先の事だよ」
「ん、強くなったら挑戦しよ?」
「そうだね、あとはパーティー人数増えたら挑戦してもいいかも。ほかに沢山魔物が出てくるのは隠しダンジョンと高難度ダンジョンなんだけど、これはどっちもダンジョンダイブする冒険者がいない、または少ないからダンジョン内のモンスターが間引かれないから魔物が沢山いる」
「高難度ダンジョンはそのままの意味だよね?」
「そうそう、強い魔物しか出てこないから高難度ダンジョン。それとダンジョンは各階層の一番奥、つまり次の層に繋がる通路の前の部屋に階層ボスと呼ばれる魔物が出るんだけど、高難度に指定されるダンジョンは高確率で魔獣が待ち構えてるっていう特徴があるね」
「わかった。じゃあ隠しダンジョンって要するにずっと未発見だったダンジョン……って事?」
「そうだな……ずっと未発見というより新しくダンジョンが発生して、それがまだ誰にも見つかってなかったダンジョンを指すね」
「ん……ダンジョンって新しくできるの?」
「数年に一個とかのレベルだけどね。だけど未発見期間が長いとダンジョン内の魔物が異常に多くなって危険で、そのまま放置するとダンジョンから魔物が溢れて街を津波の様に襲うことがあるから、それを防ぐため年に一回は冒険者に任意参加の隠しダンジョンを探すクエストが街から出されるんだ」
「テイトは参加したことある?」
「二年前に一度だけ。Dランクの俺にとってはかなり割のいい仕事だからね」
「でも今はCランクだよ? 次からは参加しない?」
「そうだな……受けるかな。暫く今と受けるクエストの難度は上げずに、エンゲージリングの身体能力上昇に感覚を慣らしたいのと、身体強化の持続発動と、スムーズな発動の練習をしたいからね」
「ん、わかった」
「あとはダンジョンにはトラップがあったりするんだけど……それは実際にダンジョンダイブしながら説明するよ」
「明後日から頑張る」
「無理せず少しずつダンジョンダイブ慣れていこう。今日は後はゆっくりしようか」
「じゃあ……今日の残りの時間と明日でこの街を案内して?」
「いいよ、どこか見てみたい店とかある?」
「美味しいもの食べられるお店!」
「……マジ? お昼の後に今ケーキも食べたのに、その細い身体によくそんなに入るなぁ」
「甘いものと美味しいものは別腹、任せて」
リビアはどや顔をしつつ、こちらを期待に満ちた目で見てくる。
耳も感情に合わせてなのだろう、ピコピコと動いていて可愛い。
「分かったよ、それじゃあ俺のおすすめの店回ろうか」
「ん!」




