86/157
精神疾患
『報告』ヘルト帝国精神医療センター 第三病棟
イゴール・トレチャコフ、十九歳。三年前より原因不明の精神疾患を患っており、記憶障害、言語障害を併発したまま現在に至るまで改善の兆し見えず。トレチャコフ公爵家より秘密厳守を命じられている為、外部機関の協力は未だ得られぬ状態にあり。
彼は時折、未来を予測したるが如き言説をうわ言のように発することがある。特にアナスタシア第四皇女に関する言及が非常に多く、また彼の予測はその多くが的中するらしい。一例として、ユトダイン王国におけるアナスタシア暗殺計画と、該計画に加担せし帝国政府閣僚の存在を、イゴールは発覚以前より繰り返し呟いていたとの報告あり。
イゴールの発病はアナスタシア第四皇女の結婚と同時期であり、その為当初は思い人の結婚に強烈なる衝撃を受けたるが故、神経に異常を来したるものと判断されていた。然しながら記憶障害も言語障害もその程度は重症にして、また三年と長きにわたり回復せぬ現状を鑑みるに、何か別の原因が存在すると判断するに至れり。




