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皇女

 「アナスタシア! トレチャコフ公がいらしたわよ! ご挨拶して頂戴!」


 母の呼び声に、私は胸を躍らせながら子供部屋を後にします。トレチャコフ公爵は父上と昔からのお友達で、いつも宮殿を訪れる度にいろいろなお土産を買ってきてくれるのです。


 「お久しぶりです、アナスタシア大公女。また一段とお美しくなられましたな。遅ればせながら、十四歳の誕生祝いにございます」


 そう言ってトレチャコフ公爵は、懐から綺麗に包装された小箱を取り出しました。


 「まあ、これは……。もしかしてサルデーニャ王国のお土産かしら?」


 「左様にございます。どうぞ、開けてみて下さい」


 包みを剥がし箱を開けると、美しい髪飾りが姿を現します。いつも儀礼で身に着ける、宝石の散りばめられた豪奢なそれとはまるで違う。とてもシンプルなティアラですが、タッセルの葉をあしらったクリスタルの装飾がとても可愛らしくて、私は一目で気に入ってしまいました。


 「とっても素敵! トレチャコフさん、ありがとう」


 「いえいえ、高級品とは程遠いものですが。サルデーニャの一流デザイナーと、腕利きの職人による一点物にございます。ちなみに、選んだのは息子のイゴールです。必ずアナスタシア様のお気に召すと断言するものですから」


 公爵の隣で小さくなるのは、幼馴染のイゴール・トレチャコフ。彼は一つ下のお友達で、幼いころは毎日のように二人で遊んだものでした。ですが二年前、トレチャコフ公はご家族を連れてサルデーニャ王国へと旅立ったのです。父から外交のお仕事を任されていたそうですが、私はその時、初めて父上に反抗してしまったことを覚えています。イゴールと離れるのが本当に嫌だったのでしょう。私は泣きながら、トレチャコフ公のサルデーニャ行きを取り下げるよう訴えたのでした。


 「イゴール! あなたが選んでくれたのね!」


 「……ああ、アナスタシア。こういうの好きだったろ?」


 「うん! 大好き!」


 イゴールは照れ臭そうに頭をかいています。二年の間に、彼の身長は随分と高くなっていました。それに顔つきもどこか精悍になったように見えるのです。異国の地で二年も過ごすなんて、私にはとても考えられません。何だか彼が、一足先に大人びてしまったような気がして、私は少し悲しいような、悔しいような気持になるのでした。


 「トレチャコフ、部屋で話そう。サルデーニャ政府の動向を詳しく聞かせてくれ」


 「ええ、皇帝陛下。報告書に載せきれなかった情報も山ほどありますゆえ……」


 父上とトレチャコフ公爵は、お二人でどこかへ行ってしまわれました。私も嬉々としてイゴールの手を取って、彼をお部屋へ連れ込みます。


 「ねえ、サルデーニャの暮らしはどうだったの?」


 「へへ、結構楽しかったぜ。何より芸術がすごいんだ。絵画から彫刻まで、街全体が芸術に溢れてるんだぜ? ヘルトじゃ考えられない光景だよ」


 「……ヘルトだって、著名な芸術家はたくさんいるわ」


 「そりゃそうなんだけど。なんつーかな、うちの国は宮殿とかお城とか、俺たちみたいな上流階級しか芸術を味わえないだろ? でもサルデーニャは違うんだ。宮殿だけじゃない、庶民にまで芸術が広まってる。労働者が通う教会ですら文化財になってるんだぜ?」


 「そんなに凄いんだ! そういえばルネスタンも芸術の国なんて言われてるけど、サルデーニャとどう違うんだろう?」


 「種類が違うんじゃないか? ルネスタンは比較的新しい芸術って聞いたことがある。対してサルデーニャ芸術は伝統的なんだと。そうだ、俺たくさん写真撮ってきたからさ。次会うとき一緒に見ようぜ?」

 

 「いいの? とっても見たい!」

 

 その後も私たちは話し続けました。二年ぶりの再会というのに、まるで空白の期間など無かったかのように、会話は途切れることなく続いてゆくのです。むしろ二年間の空白を埋めるかのように、私たちはお互いのことを全部話そうとしていたのかもしれません。


 「いつか二人で旅行したいな。別にサルデーニャじゃなくてもさ、まったく違う世界を一緒に見て、色々語りたくないか?」


 「うん、それ絶対楽しいよ! でも二人で旅行は難しそう。結婚でもしないと無理じゃないかしら?」


 「ま、まあ、そうだよな……。そういや先月、ユトダインの王太子がこっちに来てたとか……」


 「ええ、ジェームス王太子ね。とても優しそうな方だったわ」


 「……もしかして、縁談の話でも出たりしたのか?」


 「ふふふ、そんなわけないでしょ。私まだ十四歳よ? それにジェームス王太子には恋人がいるらしいの。ユトダイン筆頭貴族ダンバース家のご令嬢、マーガレットさんってお方。とーっても美しいお方なんだって。きっと私なんて眼中に無いわよ」


 「……そうか、ユトダインの男は見る目が無いようだな。所詮は途上国の貧乏王族といったところか」


 「またそんなこと言って」


 「……アナスタシアは、誰かを好きになったことはあるか?」


 「うーん、まだ良くわからないかも。イゴールは?」


 「俺も……まだ……無いかもな……」

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